2-3 セザールとの会話
サフィニアたちは庭でお茶の淹れ方とお茶菓子の出し方のマナーを、侍女長から教えてもらっていた。
「良いですか? まず初めに沸騰したお湯でティーポットとティーカップを温めるのです。これは絶対に怠ってはなりません。温めたポットに入れる茶葉はティースプーン1杯分が1人分になります。茶葉を入れたポットにお湯を注ぎ、2分待つのですよ……」
「は、はい!」
「茶葉は……スプーン1人1杯……」
普段、お茶など淹れたこともないカーラとジルは中々手順を覚えることが出来ない。2人が慌てふためく様子をサフィニアはじっと見つめていると侍女長が声をかけてきた。
「サフィニア、お湯を扱うのはまだ10才の貴女には危ないです。貴女はお客様にお菓子を出す仕事をしてもらいます。まずは、彼女たちにお茶の淹れ方の指導を行わなければならないので、貴女は厨房からお菓子を受取に行きなさい」
「分かりました。行ってきます」
サフィニアは会釈すると、厨房へ向かった。
厨房へ続く廊下を歩いていると、背後からこちらへ駆け寄ってくる足音が聞こえて名前を呼ばれた。
「サフィニア!」
振り向くと、セザールが息を切らせながらサフィニアの方へ駆けてくる。
「あ! セザール!」
サフィニアは足を止めると、セザールは駆け寄ってきた。
「クララさんから聞いたよ。セイラ様とお客様たちにお茶菓子を出す役目を仰せつかったっそうだね」
「もうその話が、セザールの耳にも届いていたの? 驚きだわ」
17歳になったセザールはすっかり背が高くなり、サフィニアは見上げた。
「えぇ。今回のお茶会では、良くない噂が広まっていますから……セイラ様が悪ふざけで、お茶会の用意を下級メイドに任せるのは、悪意があってのことらしいです」
セザールは身をかがめると、口調を変えて小声で説明する。
「え!? そうだったの? どうりでおかしな話だと思ったけど……どうしてなの?」
「はい。本日招かれた令嬢たちは、日頃からセイラ様を何かと馬鹿にしている方たちです。彼女たちの前で、お茶を淹れられないメイドを叱責して、罰を与えるのが目的だろうと使用人たちが話しておりました。理由は自分の権威を令嬢たちの前で見せつける為……と聞いています。でも、これはあくまで噂に過ぎませんが」
「そんなことのために……セイラお嬢様は、私達下級メイドを利用しようとしているのね?」
聡明なサフィニアは大人びた口を利く。
「はい、そうなのです。……ところで、サフィニア様はどちらへ向かっていたのですか?」
「お茶菓子を貰いに行くところなの。侍女長から命じられているのよ」
「え!? そうだったのですか? それはお引き止めして申し訳ございませんでした。お茶会、頑張って下さいね。それでは失礼いたします」
セザールは会釈すると、再び足早に去っていった。
「私も急がなくちゃ」
サフィニアは急ぎ足で厨房へ向かった――
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厨房へ辿り着くと、大勢の料理人たちが忙しそうに働いていた。
「お茶菓子は誰に尋ねればいいのかしら……?」
キョロキョロ辺りを見渡していると、チャドがサフィニアに気づいて近づいてきた。
「サフィニアじゃないか? セザールはどうしたんだ?」
「今日は私1人です。侍女長からの命令で、お茶会用のお茶とお菓子を取りに来ました」
「あぁ、それならあそこに用意してあるよ。持っていくといい」
チャドが指した先には白いワゴンに乗ったティーポットセットに、クッキーとケーキの盛り合わせがガラスフードに収められていた。
「ありがとう、チャド」
早速ワゴンを取りに行こうとすると、チャドが呼び止めた。
「ちょっと待つんだ。サフィニア」
「はい?」
「ほら、これをやるよ」
チャドが小さな包み紙を手渡してきた。
「これは何ですか?」
「クッキーだよ。俺が焼いたんだ。他の連中には内緒だぜ?」
「ありがとうございます!」
滅多におやつを食べられないサフィニアは満面の笑顔になった。普段は大人びたサフィニアだが、この時だけは子供らしい表情になる。
「それじゃ、またな」
チャドは手を振ると持ち場へ戻っていった。そこでサフィニアもワゴンを押すと足早に庭園へ向かった――




