1-33 聡明な少女
この日からセザールも1週間仕事を休んで、サフィニアの教育にあたることになった。
文字の読み書きから、数の計算。
それと並行してお茶の入れ方や飲み方のマナー。食事の時間はテーブルマナーや言葉遣いの練習を学ぶ。
全て貴族として最低限出来なければならないことばかりだったのだが、サフィニアは飲み込みが早かった。
教えるセザールが優秀と言うこともあったが、やはりサフィニアは非常に聡明な少女だったのだ。
学び始めて3日目には、簡単な歴史の本迄読めるようになっていたのだった——
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そして4日目——
朝食の席でポルトスはサフィニアが食事をする様子を見つめていた。
今や、サフィニアが食事をする仕草は同年代の子息令嬢と比べても見劣りしないまでに成長していた。
(この御様子なら、万一公爵家の方々と食事をすることになったとしても、恥をかかれることはないだろう)
ポルトスはサフィニアの成長がとても嬉しかった。残るのは……。
「ところでサフィニア様」
食事を終えたばかりのサフィニアにポルトスは声をかけた。
「はい、何でしょうか?」
背筋を正してサフィニアは返事をする。
「怪我の具合はいかがですかな?」
その質問を耳にしたセザールは焦った。
(まさか、お祖父様はサフィニア様をメイド寮に戻すつもりなのだろうか? 期日まで、まだ3日は残っているのに!)
せめて当初の予定通り、1週間は仕事を休ませて必要最低限な教育をしてあげたいと
セザールは考えていたのだった。
「あの、お祖父様! サフィニア様はまだ怪我の具合は万全ではありません! なので、寮に戻すのはまだ早いと思います!」
「え? セザール?」
一方のサフィニアはセザールの話に驚いていた。
怪我の方はかなり良くなり、今では殆ど痛むこともない。その話は昨日、セザールに話していたからだ。
するとポルトスは苦笑した。
「落ち着きなさい。セザール。まだサフィニア様を寮に戻すつもりはないので安心しなさい。私が聞きたかったのはそういう意味では無いのだ。もし怪我の具合が良いのなら、今日からピアノの練習をしてみてはどうかと思ったのだよ。セザール、お前はピアノも得意だろう?」
「はい、そうですが……」
すると、サフィニアは目を見開いた。
「え!? 私、ピアノを習えるの!?」
「ええ。ピアノが弾けるのも貴族令嬢の嗜みですからね。一番基礎の基礎である練習曲だけでも弾けるようになるだけで、周囲の見る目が変わりますよ? いかがでしょうか?」
「習う……習いたいです!」
サフィニアは興奮気味に頷く。
この居住空間にはリビングにピアノが置かれており、一度でも良いから鍵盤に触れてみたいと思っていたのだ。
今まで口にこそしなかったが、サフィニアはピアノにとても憧れを抱いていたのだった。
「では、サフィニア様。早速今日からピアノのレッスンをいたしましょうね?」
「うん!」
セザールの言葉にサフィニアは頷き、朝食後早速ピアノのレッスンが始まった。
ピアノの分野においてもサフィニアは才能を発揮し……たった1日で簡単な練習曲なら弾けるようになっていたのだった。
こうして残り期間、勉強とピアノのレッスンに励んだ。
そしてついに7日目を迎え、サフィニアはメイドの仕事に戻っていった――




