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孤独な公女~私は死んだことにしてください  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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4-27 セザールとの別れ

 社交界からの誘いが途絶えたのは、あのお茶会の翌日からだった。


サフィニアのもとに届くはずの招待状は、まるで誰かが手を止めたかのように、ぱたりと消えてしまったのだ。


「失礼します、サフィニア様。本日もお手紙が何も届いていませんでした」


ヘスティアはため息をつきながらサフィニアの部屋に入って来た。


「そう……」


窓辺に座って本を読んでいたサフィニアは顔を上げた。


「昨日も、一昨日もです。もう今日で10日になりますよ?」


隣に座ると唇を尖らせるヘスティア。

サフィニアは視線を窓に向けると春の陽射しが白い薔薇の蕾を優しく照らしている様子を見つめた。


「こんなことになったのは絶対にセイラ様のせいですよ。あのお茶会で、あんなことを言うから……」


ヘスティアは悔しそうに唇をかみしめた。


「セイラ様の言ったことは事実だから仕方ないわ。だって私は本物の貴族じゃないから。誘いが途絶えるのは当然よ」


「サフィニア様……」


その言葉に、ヘスティアは他に言葉が見つからなかった。

サフィニアの少し寂し気な微笑みはヘスティアの心に突き刺さった。


その時、使用人が部屋に現れた。


「失礼いたします、サフィニア様。セザール様がお見えです」


サフィニアは一瞬だけ目を見開き、すぐに笑顔になった。


「応接室へご案内して。私から会いに行くから」


「あの、私も御一緒して良いですか?」


ヘスティアの問いにサフィニアは笑顔で頷く。


「もちろんよ。一緒に行きましょう?」



****



 応接室の扉を開けるとセザールはソファに座っていたが、サフィニアを見ると笑顔で立ち上がった。


「お久しぶりです、サフィニア様」


「こんにちは、セザール。来てくれて嬉しいわ」


サフィニアは笑顔でセザールに挨拶する。


「こんにちは、セザール様」


ヘスティアも挨拶をすると、すぐに使用人がお茶のセットが乗ったトレーを持って現れた。

サフィニアはトレーを受け取るとセザールに声をかけた。


「紅茶を淹れるわね」



サフィニアは慣れた手つきで茶葉を選び、湯を注ぐ。

その一連の動作を、セザールは黙って見つめていた。


「……本当にお上手になられましたね」


サフィニアがカップを差し出すと、セザールは微笑んだ。


「そう? ありがとう」


するとヘスティアが言った。


「はい。それはもうサフィニア様は紅茶を入れるのがお上手なのですよ」


セザールは紅茶を一口飲むと、顔を上げた。


「とても美味しいです。もう僕が教えることは何もないですね」


「そんなこと……」


サフィニアは少しだけ頬を染めて、視線を伏せた。その様子をじっと見つめるヘスティア。


「……」


セザールはカップを手にしたまま、しばらく黙っていた。

その沈黙が、何かを告げようとしているようで、サフィニアは少しだけ不安な気持ちになってきた。


「……セザール。もしかして……何かあった?」


するとセザールはカップを置き、静かに口を開いた。


「実はセイラ様が外国へ留学されることになりました」


その声は、いつもより低い。


「そして僕はその従者として同行し、同じ学園に入学することが決定しました」


「そんな!」


ヘスティアが息を呑み、サフィニアはゆっくりと彼を見つめた。


「その話……本当……なの?」


サフィニアの声は、震えていた。


「突然の話でした。ポルトス様から話を聞かされ、僕自身も驚いています。でも旦那様の御命令ですから背くわけにはまいりません」


「セザール様は、それでいいのですか?」


ヘスティアが尋ねた。

その声には、怒りと悲しみが混じっていた。


するとセザールは寂しげに笑った。


「本当のことを言えば、僕はサフィニア様にお仕えしたかったです。でも僕の立場では……言える立場ではありません」


サフィニアは、胸の奥が締めつけられそうになった。6歳の時からずっと自分の傍にいてくれたセザール。彼のお陰で、自分は今までどれ程救われてきたか計り知れない。


セザールに言いたいことは山ほどあった。


どこにも行かないで。

私の傍にいて。

寂しい……セザールがいないと心細い。


――けれど、そのどれも口にすることは出来なかった。


「次に……いつ戻ってこられるかは分かりません」


セザールの話は続く。


「どうか立派なレディーになってください。遠く離れてしまっても、セイラ様の従者になろうとも……僕はいつまでもサフィニア様の幸せを祈っています」


「……セザール。だけど……私は本物の貴族じゃないのよ? それに……立派なレディーになれるかどうかも分からない……」


今にも涙がこぼれそうなのを必死に耐えるサフィニア。


「いいえ。サフィニア様なら必ず立派なレディーになります。僕は、そう信じています。……願わくば、サフィニア様の成長するお姿を近くで……見届けていたかったです」


セザールは真っすぐにサフィニアを見つめている。その瞳を見て、サフィニアは思った。


(ここで我儘を言って、セザールを困らせては駄目だわ)


そこで無理に微笑んだ。


「セザール。元気でね」


「はい。サフィニア様も、どうぞお元気で。それではそろそろお暇させていただきます。留学を前に最近のセイラ様は情緒不安定になり気味なので、あまり長く傍を離れるわけにはいかないので」


セザールは立ち上がった。


「待って。セザール。せめて……お見送りさせて」


「私も御一緒します」


サフィニアに続き、ヘスティアも立ち上がった。



****



 セザールは馬車に乗り込むと、見送りに来たサフィニアとヘスティアに会釈した。


そしてゆっくり走りだす馬車。

セザールを乗せた馬車が遠ざかっていく様子を2人の少女はじっと見つめていた。


やがてヘスティアがポツリと呟いた。


「セザール様……行ってしまいましたね」


「そうね」


小さくうなずくサフィニア。


(セザール……さよなら)


心の中でサフィニアはそっと別れを告げた。



翌日、セザールはセイラと供に遠い外国へ旅立って行った。


そして……8年の歳月が流れる――




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