表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/119

第2話、風邪②

 この年始はユキの体調が治るように尽くしてあげなければ。何を買うかもスマホでメモしておいたし、急いで買ってユキの元に戻らなければ。そう思って駆け足でスーパーに辿り着いた後、俺は大急ぎで買い物カゴの中に商品を入れていった。


「あれ、雛倉くん。どうしたの?」


 聞き覚えのある声に顔を上げる。

 その先にいたのは生徒会長だった。彼女も買い物カゴを片手に立っていた。


「生徒会長……? どうしてここに?」

「私も買い物よ。このスーパーが家に一番近いから、今日は色々と買っておこうと思って」


「もしかして生徒会長も一人暮らしなんですか?」

「そうよ。生徒会長も、って事は雛倉くんもそうなのね」

「え、ええ……マンションを借りてもらって、親から離れて暮らしてますね」


 正確にはユキと二人で住んでいるので一人暮らしではないのだが、それを説明するとややこしくなりそうなので止めておく。


「お互い大変ね。それにしても買っているのはスポーツドリンクと……おでこの冷却シート? 具合が悪いの?」

「俺じゃなくユキの具合が悪いみたいで。看病しないといけないのでそれでスーパーに来たんです」


「ユキさんの看病を雛倉くんが? この前も生徒会室でお話した時、とても仲良さそうにしてたわよね。でも看病をするくらいの仲だなんてびっくりした。やっぱり二人は特別な関係なのね」

「そうですね。俺にとってユキは特別な存在です、そんなユキが具合を悪くしているので何とかしてあげないとって……」


 ユキは俺にとって特別な存在だ。

 同じ屋根の下に暮らして、常に一緒に居るような関係。そして小学生の頃からの長い付き合い、ずっと一緒にいようと誓いあった絆。だから今もユキの為に必死になっている。


「最近は特に寒いから、それで体調を崩してしまったのかもしれないわね。雛倉くんも気を付けるのよ、最近の風邪はたちが悪いから」

「ありがとうございます、生徒会長。俺も気を付けます」


「ユキさんにもよろしく言っておいて。早く良くなるようにって」

「はい、伝えておきます。それでは失礼しますね」


 俺は生徒会長に頭を下げて買い物を再開する。彼女も手を振った後に別のコーナーへと歩いていった。

 

 足早に必要なものを買い物カゴへと入れてレジを済ませ、駆け足でマンションへと向かう。今きっと具合が悪いなか一人で寂しい思いをしているだろうと、ユキの事を心配しながらとにかく急いだ。


 静かなマンション。買い物袋を下げたままユキの部屋を再び訪れる。ベッドの上にはスーパーに行く前と変わらない様子でユキが横になっていて、とりあえずおでこに冷却シートを貼っておく。それからスポーツドリンクを袋から取り出してコップに注いだ。


「ほらユキ、飲んでくれ」

「うん……ありがとう、はるくん……」


 熱が出て事でユキは汗をかいている。

 喉が乾いていたのだろう。ゆっくりと体を起こしてユキはスポーツドリンクを飲み干した。ごくごくと喉が鳴る音が聞こえて、空になったコップを俺へと手渡す。


「夕食はお粥でいいか? 栄養補給用のゼリー飲料とかも買ってきたんだけど」

「はるくんのおかゆがたべたい……」

「そうか。じゃあ待っててくれ、今作ってくるから」

 

 ユキは小さく頷いた。

 彼女の容態を心配に思いながら、離れる前にもう一度ユキの頭を撫でた。


「すぐ治るから。今は良い子にして寝てるんだぞ」

「うん……いいこにしてる」


 よしよしと頭を撫でるとユキは安心したのか目を閉じた。このまま一人にするのは心苦しいけれどそうも言っていられない。お粥を作るために俺はキッチンへと向かった。

 

 お米を研ぐところから始める。冷たい水に手を浸して米を研ぐ。そして水を流して何度も繰り返す。それから炊飯器のスイッチを入れると鍋で湯を沸かした。お粥だけでなくお味噌汁も用意しようと思っていた。いつもユキがやっているように鰹節から茹でて出汁を取り、味噌を溶かしていく。


 文化祭の準備中にやっていた自炊のおかげで、料理はある程度こなせるようになっている。ユキの風邪が良くなるのを祈って俺は調理を続けた。


 炊いたお米を茹でて卵粥を作る。味付けは塩だけのシンプルなものだけど、少しだけ入れた出汁が良い感じに効いたようで、味見をしてみるとなかなか美味しかった。これならきっとユキも満足してくれるだろうとお椀に盛り付けていく。

 

 そして卵粥と味噌汁のシンプルな夕食をユキのいる部屋へと持っていく。火照った顔のユキがベッドの上で静かに俺が来るのを待っていた。ベッドに近付いてテーブルに食器トレーを置く。


「お粥とお味噌汁を作ってきた。他に食べたい物があったら言ってくれ」

「ありがとう……いまは、おかゆとおみそしるで、いい……」

「自分で食べれそうには……ないな。俺が食べさせるから待ってろ」

「うん……」


 お粥をスプーンで取った後、俺は息を吹きかけて冷ましてからユキの口へと運ぶ。


「ほら、食べて」


 あーんと口を開けるユキにお粥を食べさせる。

 もぐもぐと頬張るユキのタイミングに合わせて、お粥やお味噌汁を食べさせる。それを美味しく味わう余裕はきっと今のユキにはない。けれど食べながら何度もありがとう、嬉しい、と笑顔を浮かべてくれるユキ。


 そんな彼女が愛おしくて抱きしめたくなってしまうが、必死に堪えて平静を保つように心掛けてユキの食事に集中した。そしてお粥の入ったお椀もお味噌汁も空になって、具合は悪いが食欲はある様子を見て安堵する。食器を片付けた後、ユキの着替えや背中を拭くタオルを用意してそれも彼女の元へ持っていく。


「ユキ、汗をかいてるよな。拭いてあげるから上着脱いで、それとほら着替え」

「うん……」


 ユキは頷くと着ている服に手を伸ばす。

 彼女も風邪で頭がぼーっとしているからあまり気にしていないようだけど、いくら看病とは言え彼女の裸をまじまじと見るのは悪い気がして俺は咄嗟に顔を逸らす。ベッドの上で服がはだける音が耳に響いた。

 

「はるくん……どうぞ」


 ユキはそう言いながら俺へと背を向けたようだった。

 ゆっくりと振り返って彼女の姿を確認する。上着を脱いで火照った白い肌が露わになって、薄い桜色の下着に目が集中してしまう。

 

「……?」

「いや、何でもないんだ。ふ、拭くからな」


 俺はタオルで汗ばんだユキの背中を拭き始める。白くて滑らかで柔らかいユキの背中を優しく拭いていく。そこから首筋や鎖骨に沿って肩の方へと向かっていき、そのまま引き締まったお腹に下りていった。


「ユキ、腕もあげて」

「は、はい……」


 腕を上げさせて腋の下まで丁寧に拭こうとするのだが、女の子の甘酸っぱい汗の匂いと彼女の腋の窪みにやたらと色気を感じてしまって、俺の顔は徐々に熱くなっていった。


 そして体を拭く度に小さく声を出して反応するユキ。これは彼女の看病で他意はないはずなのに、変な気分になってしまう。変な事を考えては駄目だと思っても、脳裏に浮かぶのは艶めかしいユキの姿ばかり。こんな時に何を考えているのかと自分で自分が嫌になって、そんな邪念を振り払おうと俺はわざとらしく咳払いをした。


 するとユキは体をびくりと震わせてこちらを振り返る。

 その顔が赤くなっていた。熱のせいだけではないと思う、彼女は確かに恥ずかしがっていて、そしてそれはユキだけじゃなく俺だって同じだった。俺の顔も真っ赤になっている。


 お互い顔を逸らして黙り込んでしまう。

 体を拭き終えると、ユキはベッドの上で着替えを始めた。


 一度も振り返る事は出来ず、ユキが着替え終わった後も、俺は顔を逸らしたまま。そしてしばらく気まずい時間が続いた後…… 沈黙を破ったのはユキの方だった。


「はるくん……あたし、今とってもしあわせだよ……」

「ユキ?」

「あたしが風邪をひいて……つらいってなったら傍にいてくれて、こうやって看病してくれる……それがとってもしあわせだよ」


 ユキは焦点のぶれた潤んだ青色の瞳が俺のいる方を見る。朦朧とした意識の中で微睡んだ瞳、小学生の頃の幼いユキを思い出させるようなゆったりとした柔らかな口調。まるで夢見心地のような表情で彼女は想いを口にする。


「はるくん……あたし、晴くんと……ずっといっしょにいたい」

「ユキ、ずっと一緒に居ような。早くユキの風邪が治るように俺も頑張るからさ」


 火照ったユキの体を優しく抱きしめる。ユキは安心してしまったのかもしれない。小さな寝息が聞こえてくる。すうすうと眠るユキにそっと毛布をかけてあげた。


 優しく静かな夜が流れる。

 俺はあどけなさの残るユキの寝顔を眺めながら、ずっとずっと傍に居続けようと誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 晴君!お粥は炊飯器の取説に作り方載ってるよ? 米と水を定量入れると炊飯モード お粥で簡単に作れるよ? 出来たら卵を割り入れておしまいね! 本当ならスーパーで鮭フレーク 買ってトッピングすれば…
[一言] 風邪の時、余りご飯とコンソメと玉葱ベーコン・牛乳でミルク粥も良いよ?結構喉に優しいので咳の酷い時に有効です!後熱で口が不味くなってるので、 業務スーパーで冷凍ベリーとレディーボーデンを買って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ