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おとつーのそれから その3 ザビーネの恋

ざまぁが終わっても、読んで下さる方が多いので、凄く感謝!

今回、キャラや人間関係をかなりがんばりました。

おとつー達が成長し、大団円を迎えるまで、お付き合いください。


読んで、後味が悪くないモノをめざしています!

「あれは、フィッセルのお茶会の夜だったわ。


私、時々、下町の酒場にいってたの。馴染みの転生者がやってる店で、マスターとは話が合うし。

やっぱり時々、前世の話がしたくなるのよね。


んで、カウンターの奥で、ちびちびやってたら、何か茶髪と紫と緑の頭の男たちが来てね。


(おう、美人のねえちゃん、一緒に呑まねえか)

と、お決まりのセリフで肩に触るから、

(お客さん。その女の子は男爵令嬢です。困った事になりますよ)

と、マスターが牽制してくれたんだけど、しつこくて。


やれ見かけない肌だの髪だの、こんな格好で場末にいるご令嬢なんか、訳ありに決まってるよなあー、とか。

全部当たってるよねー。

出来ちゃった婚約破棄シュラバで傷んでたからねえ。


黙ってたら、OKと思ったのか、抱きついてきたから、そのまま投げたの。大外刈り。

あ、中学の時、柔道部の兄がねえ。

護身術だって、技をあれこれ。


そしたら逆上しちゃって、刃物出してきて、うおーやばー!って思ってたら、

ドタドタ倒されて。そいつら」


「それで、助けてくれたのが、伯爵だったって?」


みんながマルグリット邸へ押し寄せたせいで、今宵もマルグリット家貴賓室でのパジャマパーティーと相成った。みんなして、借り物の寝着は、可愛いレースで色とりどり。

酔いの醒めたザビーネは、ただ今絶賛詰問中である。


ザビーネは続ける。


「うん。

嘘みたい漫画みたいでしょ?

夜会で挨拶したマルグリット伯爵が、たまたま下町の酒場に来て、たまたま私が男に絡まれて、たまたまそれを見た伯爵が助けてくれるなんて。


……そうよ。たまたまじゃなかったのね。

私がふらふら歩いているのを下町に来た伯爵がね、見つけたんだって。それで予定変更して尾行したんだって!

(シャロンの友達なら、未成年もいいとこだ。こんな所うろついて、何かあったらシャロンが悲しむからね)


説明する伯爵は、淡々としてて、説教臭くなくて、有難かったわ。


(伯爵、私、中身は当年29なんですよ?酒もかなり強いんです)

(旦那さん、この子うわばみですよ。お気をつけ下さい)

(マスター、褒めないでよー)

(褒めてないっしょ。またあんな奴ら来たら、庇えませんからね、今日はお帰りなさい)


それで、帰ることになったら、伯爵が

(おう。馬車を出す。送ろう。えっと)

(ザビーネです。伯爵)

(ザビーネ、さんか。……馬車がくるまで、……呑むか?)

(うおっ、分かってるうー!)」



「で、そのままなし崩しに、2人でドンチャカ呑んで大騒ぎ、したと」

「……えへへ。伯爵、強いんだもん」

「えへへじゃない!寮に帰らないで、酒呑んでるなんて知れたら、あんた退学もんじゃないの!」

「だってー、何でもない時に、ふっとケイトとエンツォの顔が浮かんじゃうんだもん。

さすがのザビーネ様も、あのシュラバはトラウマなのよー。呑んで忘れたい日もあるわよー」


そんな私の状況をね、聞いてくれたの。

(そうかそうか。呑め呑め)

って、受け止めてくれるの。


なんて言うか。こんな人初めて出会ったって、思ったわ。サバサバしてるのに、あったかくって、ちゃんと私を大人扱いして。

貴族なのに全然気取りがなくて、雑っぽいけど、なんとも言えない品が備わってて。荒くれぽいのに清潔感が備わってて。

話を上手に聞くし、受けるし。



「楽しい酒だったの。で、思わず、次の約束しちゃった」

「伯爵は、OKしたのね」

「うん。にぱって笑って、シャロンには秘密だぞ、って」


多分。

私の気持ちが浮くまで、酒場の面倒はみるつもりだったのね。そんなふうに振る舞えるなんて、凄い優しいな、人間できてるな、って。


「前世のわたしも、今世の私も、惚れちゃったのね……彼に」

ザビーネは、レモン水をコクコクのんで、ポツンと言った。


「……忘れるつもりだったのよ。

身分違いもいいとこの、年の離れた立派な男性。しかもシャロンのお父さん……」


ザビーネはキャロラインの肩を抱いた。そう。キャロラインと同じ想いをザビーネも抱え込んでいたのだ。


「……忘れられなかったのは、お父様も同じだったのでしょうね」

シャロンが言う。今はグルグル眼鏡に三つ編みお下げ。ザビーネが遊んで編んだ。


「シャロン、貴女、その、……いいの?お父様の再婚…」

しかもザビーネ、というのは、言わずもがな。


「……?」


「ほら、継母って事でしょ?

亡くなられたお母様に、その、思い出が」

言いにくそうにキャロラインが聞く。

加えてビアンカも、

「そうよ。ザビーネ、シャロンのお母様のエイダ姫のこと、伯爵はとっても大事にしていたって聞くわ。

その後釜って、そんなプレッシャー……いいの?」

と、ザビーネに尋ねる。


シャロンとザビーネは、キングサイズのベッドの真ん中でちょこんと座って、顔を見合わせた。


「シャロン、いい、かしら?」

「いいんじゃないでしょうか。

ザビーネがあの父でいいって言うなら」


シャロンは続ける。

「マルグリット伯爵としての父と、これからの父は違う人物だと思うんです。

私を産んだ後、身体が弱かった母を領地に連れ去ってからは、父は領地経営にガムシャラでした。母が亡くなったら、もっとガムシャラになって。

今の父を私は大好きです。

王都の貴族の常識に囚われず、形ではない物事の芯を見極める凄い大人だと思います。その父を作り上げたのは、真剣勝負の半生だったのだと思います。

そんな父が、政治的判断だとしても爵位を下ろし引退したのです。今までよりずっと生活を大事に出来ると思うんです」


そこで、シャロンはザビーネの手を取って、


「ザビーネ。貴女は無条件に私を愛してくれました。回りがなんと言おうと、どんな私も、丸ごと認めてくれました。

その軸は、全然ブレることなかった。

裏表なく、誰にでも同じ物差しで付き合う貴女を変人と呼ぶのは、私は褒め言葉だと認識しています。

そして、斜め上の考え方や行動は、私にとってはじけるキャンディみたいに刺激的でした。

多分、いえきっと、父も同じだったのだと思います」


その言葉に、ザビーネは真っ赤になった。


「ザビーネ、私、貴女が大好きです。お父様を貴女の優しさで、沢山たくさん包んで下さい。

お父様の孤独を埋めるのは、私ではなく貴女だと思います。

婚姻は、残念ながら、ザビーネの成人……20歳を待つことになりますが、どうか、お願いします」


真剣で、そして、柔らかい表情で、握ったその手を持ち上げて、シャロンが両手で包んだ。


ザビーネは、崩れに崩れた顔で、

うわあああ〜〜ん!


と、大泣きした。


(シャロンのあの理詰めの説明、相変わらず、クるわね)

(あれ、父親譲りの人たらし理論よね)


キャロラインとビアンカは、顔を寄せてコソコソした。


しかし

「ザビーネ。爵位がないといっても、マルグリットの家令の妻ですからね。貴女もセリーナ様に淑女教育受けましょうね。

20歳まで、3年。

セリーナ様もまだ高等部です!

たっぷり教えを請いましょう!」


シャロンが、人差し指を立てて告げると、ぴた、と、泣き止んで、


「……いやーっ!軍曹怖いーっ」

と叫んだ。


鬼軍曹ダメ!諦めなさい!いやーっ!

という大騒ぎの中、ビアンカが、


「次は、貴女よ。

幸せ掴みましょ、キャリー」


と、優しくキャロラインの手を握った。

秋の貴賓室は、庭の虫の音がかすれる程の賑やかさ。

ザビーネが受け取った真紅の薔薇が窓辺のサイドボードを彩っていた。



シャロンっていい子だなあ。


さて、キャロライン。がんばれ

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