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断罪の夜会5 王妃の断罪

前夜祭第2夜

今宵は、これ以上の衝撃と騒動はないものと思っていた。


まず伯爵令嬢の婚約破棄。

そして、破棄した子爵子息と、公爵令嬢との秘密の恋。

それらを暴く乙女通信。


さらに、第一王子の公爵令嬢への婚約破棄。


ここまで怒涛の如く扇情的な事柄が続くと、流石に人は感覚が麻痺してくる。


しかし。


「は、はい、ちゃく……」

「王室離脱……」


水音も漏らさない程、大広間は静まりかえった。


無理もない。

ダンブルグ公爵の失脚程度なら、ざまあ、とせせら笑って済ませる。まあ、しがみついていた者はその時点で真っ青なのだが。


しかし、王子が王子で無くなるとなると。

王位継承に関わる重大すぎる大事件となる。


「……畏れながら王妃殿下。

此度の件、決してエルンスト殿下に非があるとは。

エルンスト殿下は今、混乱していらっしゃる。

決してこのような重要な申し出、額面の通りに受け止めなさらず!」


先王の宰相、オージエ翁が進み出て、ゆっくりと進言する。


「オージエ」

「はっ」

「お前には、夫と共に、世話になった。しかしな、こればかりはお前の言い分は通らぬよ」

王妃は、穏やかながらも、きっぱりと告げる。


「今宵は、息子が王となり、新しい体制のもと諸侯・宮廷の貴族たちに王家の威信を示し、盟約と忠誠を誓う場である」


明日、国民と諸国に新王と新体制を見せつける。そのための契の夜会なのだ。それに泥を塗る真似をした者を私は許しはしない。


よって、私は国のため、王のため、最後の務めを果たすまで。

エルンスト」


錫の飾りがチリ、と鳴る。

王妃は一歩前に出た。


「はい。王妃殿下」

「王妃として命ずる。


廃嫡!


今後は、王位継承の権利は剥奪。王族としての任を解く。

……今まで御苦労であった。

爵位を授けるによって、臣下に降りよ」


おおおおぉぉぉ!


(ほ、本当に)(王太子はどうなるんだ!)(殿下だけの落ち度では無いのに、何故?)

(派閥の奴ら、どうする気かな)


「静粛に!」

オージエが張る。


再び静粛になった広間に、王妃の声が響く。


「エルンスト」

「はい」

「婆として、家族として、伝える。

王族から離脱しても、我らは血を分けた家族。

国のために働き、父を助け、

健やかに暮らせ」


その温かさに、跪いたエルンストは

「……勿体なき、お、こ、とば」

と、声を滲ませた。


王妃は一同を見渡し、

「今後、エルンストが子を成しても、王族に復帰する事はない!

また、エルンストを擁して何事かを画策する者が現れた場合、その一族郎党及びエルンストの家族の皆を処罰する!

皆の者、心して過ちを犯すでないぞ!」


それに応えて、オージエ翁は、


「臣下一同、これからもエラントが栄えるために尽力いたします」

と、告げ、

「エラントに、栄えあれ!」

「「「エラントに栄あれ!」」」

と、周りが唱和して跪いた。



エルンストは、ほう、と息をはき、立ち上がった。優しい笑顔でオージエを見つけ、共に握手を交わす。

「今までありがとう」

「これからも、共に精進しましょう」


どうやらオージエは、エルンストの策略を知っていたようだ。肩を抱いて、元王子をいたわった。


広間の空気が和らいで、エルンストにとって、これは望んだ処遇なのだと周囲は理解する。

キャロラインはザビーネたちとその姿を見、また声を上げずに涙していた。



皆が一件落着、と、気を抜いたその時、再びの声が張った。


「さて、まだ後仕舞いが残っておるな

ダンブルグ公爵!」


王妃の声は、往年の烈女と噂された頃を彷彿とさせる。


「こ、ここに」

公爵はまろび出て、跪く。


「お前、今宵は何を画策してマルグリットの娘を貶めんとした?

マルグリットは独立が噂される程の国力をもつが、王宮では役職を持たない。お前とは、立ち位置が違う」


「……む、ムスメ可愛さでございました」


「それだけではあるまい。

このいく月かの勢力争い、見せて貰った。

お前、あわよくばマルグリットを排し、権勢を堅固にしたかった、そうであろう?」


「……」


「ダンブルグ公爵だけではない。

私の弟と孫たちを言い訳に、新体制で甘い汁を吸おうとする者、しかと見届けた。

私は隠居するが、我が息子が凡庸だとは、まさか誰も思わないであろうな?」


広間は緊張が走る。


誰が、外されるのか。

どんな人事となるのか。

〈外されるのは、自分ではないのか……〉


王妃は、少し笑う。目は怒ったままだが。

「まあ、よい。

明日以降は、息子が采配する。

今夜は今夜。

……ダンブルグ」


王妃の凄みが増す。


「娘のしでかした事、後世に残る王家への恥辱だ。まさか妃候補が売女であったとはな。

エルンストの処遇を考えれば、お前を軽くは出来まい。

娘を連れて、去れ!」


「王妃殿下!名門公爵家を切るおつもりか!」


王妃の言葉に思わず公爵は叫ぶ。

近衛がさっと動き、公爵の動きを封じた。


王妃は、シャロンとヴィルムの方向を向きながら、

「……お前が蔑み、お前の娘が辱めたマルグリットの娘は……先王の姪、エイダ姫の娘だ」

と、告げた。


これにはおとつーもびっくりだ。


(え、ええ?)

(シャロンのお母さん、王族?)


未だ意識が戻らず、ヴィルム王子が嬉しそうに抱いているシャロンに、周囲の目が集まる。


「王子。いつまで抱いとる。娘を起こすぞ」

「勿体ないなあ……シャロン、起きて、シャロン」

「……ん……」

そんな娘バカと初恋バカの会話は兎も角、王妃の話に皆は集中する。



「エイダ姫の母が夫の妹でな。

マルグリットに嫁ぐにあたり、アネット領を下賜した。よって、その娘は母の領を継いで、女の身であるが、アネット子爵である。

お前たちが辱めたのは、次の国王のいとこ姪じゃ!

王族ゆかりの姫を傷つけた罪は、エルンストを傷つけた罪に準ずる!」

「「「おお!」」」



(シャロンが……シャロンが王族の、姫?)


床からゆっくりと身体を上げたミリアが、その言葉に反応した。

そして、思わずシャロンへ目を動かす。


シャロンは、パチ、と目を開いた。

「……殿下?……私」

「よく頑張ったね。

君は潔白だ。今、お祖母様が断罪している」

「……王妃、様が……」

目覚めたシャロンの宝石眼が、ゆっくりと王座を見る。

その美しさ。可憐さ。



ミリアは、ほつれた髪が涙で頬に張り付き、まだ涙が溢れるのを感じながら、シャロンの姿を見つめた。



生まれながらの子爵。次王の従姉妹である息女から美貌と気品と譲り受けた姫。

だから妃は、だからヴィルム王子は、シャロンを……


ミリアは、笑った。涙を流しながら笑った。


「ふ、ふふふ……始めから敵わない相手だったんじゃない……

はっ!あはははは!」


……馬鹿だわ……




「連れて行け」

短い指示に近衛が公爵と令嬢を引き連れて退出する。

その間じゅう、ミリアは笑い声をけたけた上げ、公爵は、

「家はどうか、どうか!」

と懇願していた。






エイダ姫とジュディッド妃、マルグリット父ちゃん、そして王太子の恋模様は、大団円を迎えてから書こうと思います。


さあて、それぞれの恋も伏線回収しなくては。

もうちょい、続きます

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