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気を晴らしましょう!

ザビーネがあまりにわんわん泣くので、キャロラインとシャロンは、もうどうして良いか、お手上げになった。



「……先方で酷い事言われたんですかね」

「男爵は、ビックリして寝込んだそうよ。で、ザビーネは、単身エンツォ・ヘラルドの実家へ乗り込んで、手紙を証拠に、破棄を迫ったらしいの。

勿論、ご両親は平謝り。

でも、ザビーネは、仲人である領地の伯爵から認可された、破談の書類をばん!と出して、

慰謝料は頂きますからね!

と、啖呵切って、帰ったそうよ」


「全部一人で片付けたんですね……」


片付けたとは、言い得て妙だわ、と、キャロラインは可笑しくなった。


「あのクソ男!

妊婦に旅なんかさせやがって!

自分でケリをつける勇気もないポンコツと婚約してたなんてぇ〜〜

グーで殴りたい!

跡がつくほど、ヒールで踏んでやりたい!

なんで卒業パーティーで、

断罪できなかったのお!

なんで寮なのお!

なんでなんで、わあ〜〜ん!」


「なんか、願望も含まれているわね……」

「でも、本当に酷いです。

自分の責任なのに、お相手に向き合わないなんて」


シャロンもプリプリする。

「ザビーネ、忘れましょう!

男なんて、いくらでも居ます。

ザビーネくらい、美人の変人なら、求婚者がいっぱいです!」


それは、どうだろう。

キャロラインは考える。

どんなに美人で、学園に親衛隊ができるほどの人気者でも、しがない地方の男爵の娘である。

婚約破棄して、傷がついた娘に付加価値はうすい。婚約はこの世界では、結婚に準ずる。それだけ〈色〉がついたと思われる。


(親衛隊は、遊び相手としてザビーネを迎えるでしょうけど、本命にはなり得ないわね)


シャロンの侍女、ユーナが温めたタオルと、アイスティーを運んできた。

「ライグラス様、さあ、目をお手当てされて下さい。お嬢様、ジュゼッペ様、お暑くなって参りましたから、テラスより室内へお戻り下さい。冷たいお飲み物を召し上がって」


おお、マリー。さずが元王宮の侍女。ユーナさんをよく鍛えたわね。

伯爵令嬢付きらしくなってきたじゃない。


ひっくひっく、泣きじゃくるザビーネをよしよししていると、

「おやおや、美人を泣かせたのは誰だ?娘、お前か?」


ゆるーいガウンで、頭をわしわししながら入って来たのは、マルグリット伯爵である。


「お父様!そんな格好で失礼です!」

「何時もの、だが?」

「友達が、い、いるのにっ!」


あわあわするシャロンと、寝ぐせ頭の伯爵。仲良しぶりが微笑ましい。

敬意の挨拶をして、迎える。


(どの勢力につくか、衆目の的の伯爵は、今のところ、のらりくらりしている)


「ジュゼッペ嬢。ザビーネさんは、なんで泣いてるんだ?」

(ん?ザビーネは名前呼び?)


「……婚約破棄」

「されたのか!」

「したんです。自分で」

「……したのか……」



成り行きで、伯爵も腰を下ろした。

給仕が伯爵のカップを置き、茶を入れる。

しばし、キャロラインのざっくりした説明があった。


「ふうむ。そいつは馬鹿だな」

ザビーネは、がばっとはね起きて、

「ですよね!

父なんて、初めは、何とか飲み込めば、丸く収まるのでは、なーんて言うんですよ!

あんな馬鹿に、人生委ねる方が馬鹿だっちゅうの!」


「これがシャロンの事なら、国境まで速駆けして、そいつのタマむしり取ってやるわい。……やるか?」

「やって下さい!」「ザビーネ!」

慌てて、キャロラインが入る。


「伯爵は何ら関わりがないでしょ?ご迷惑かけるんじゃないの!

それより、貴女、これからの事しっかり考えなさい」

「……頑張って男漁りするわよ」

「ザビーネ!」


カラカラと、伯爵が笑って

「我が娘の友人だ。話を聞いた以上は、何か援助できないか、かんがえよう。

とりあえずは、その気鬱を晴らす事だ。明日にでも、シャロンと私と同伴で、街に出かけないか?

考えて見れば、王都の街に出かけてもおらん。

シャロン、財布になってやるぞ。

好きな所に、お連れしなさい」


「うおう!伯爵太っ腹!」

「ザビーネ!」

「名案です!私も買いたい物がありますから。キャリーとザビーネなら、きっと良い品を見つけてくれるわ!

お父様、少し値が張っても?」


「おう。

王都じゅうに、マルグリットは娘を盲愛しておると、知らしめよう!」

「イエーイ、お買い物!」

「ザビーネ!」


キャロラインは、暫し伯爵を見つめ、ふう、とため息を吐いた。




次の日。

伯爵家の馬車が、商店街広場の馬車寄せにとまり、伯爵と3人の少女が下りてきた。


(うう、目立つ)


気楽なワンピースとつば広帽子、ポシェット、という出で立ちではあるが、町娘との違いは、歴然である。

そこに、いかつい伯爵と、護衛がいるのだから、

見ろ!

と、言わんばかりの一行である。


「さすがに国葬が終わって、人出もソコソコあるわね!」

ザビーネは、ルンルンである。

現金なこと、この上ない。


「シャロン、貴女、何を買いたいの?」

「え、と」

ぽっ、と、恥じらったシャロンが、小声でキャロラインに言う。


「……デビューのお祝いに、コール、様、から、髪飾りを頂いたの。何か、お礼の品を差し上げたくて」


(ほう。あの男、やっと動いたのね)


モジモジとするシャロンが可愛い。


「そうなのー。じゃあ、装飾品でもいいわねー。

……印章指輪なんて、どうかしら。名前のモノグラムなんて、粋じゃない?宝石を台座につけても豪華よ」


「わあ。お父様、宜しいですか?」

ニコニコして訊ねる愛娘に、

「おお、いいぞ!

お前が欲しい物は、何でも買ってやる!

ザビーネさん、ジュゼッペ嬢、あんたらも遠慮するな。田舎伯爵は、若い娘に甘いんだ」


伯爵は、デレデレを隠そうともせず、大きな声で応えた。


「ううーん、伯爵、好きっ!」

「ザビーネ!」


ざわざわと人の流れにそって、伯爵はザビーネの先導のもと、シャロンと腕を組んで歩く。

その後ろを護衛に挟まれて、キャロラインは進んだ。


(……何をお考えなのかしら)



北の伯爵が、ただの娘馬鹿であるはずがない。


何か、裏がある。



キャロラインは、伯爵の肩幅の広い背中を見つめた。



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