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下種共が流刑地にて狂い咲き  作者: 氷純
最終章 下種の花咲く

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第六話 神をも下す下剋上

 パッガスは五歳の頃に娼婦の母にGの兄弟へと売られた。

 男娼候補として育てられたが、七歳で最初の客を刺殺して逃亡。逃げた先でエルナダ先住民の集落に保護される。

 十二歳まで育てられたパッガスは集落を出て街に戻り、孤児たちを集めてそのリーダーに収まった。集落での経験でエルナダ先住民の言葉も話すことができ、多種族の集まりとなった孤児グループの維持は大変だったが、それでもどうにか纏め続けた。

 しかし、Gの兄弟に目を付けられ、靴磨きや煙突掃除の仕事からはじき出されて食い詰める。

 エルナダ先住民の集落で聞き知った森の奥の遺跡に一か八か村を作ろうと考えていたところでエイルと出会い、ここまで来た。

 来てしまった。


(なんでこうなった……)


 青空の下、いくつもの敷物が敷かれた作りかけの村の中央広場、その上座に座るパッガスは頭を掻きむしりたい衝動を抑えて笑みを作る。

 右にはエイル、リピレイ、マルハス、レフゥ、そして仲間の孤児たち。孤児たちは読み書き計算に加えて土魔法や封印術を修め、そこらの大人顔負けの技能保持者たちとなっている。

 エイルとマルハスの教育もあったが、それ以上に孤児たちのモチベーションの高さが生んだ結果だろう。仲間としてパッガスも誇らしい気分だ。

 だが、左に居並ぶ面子は酷い物だった。

 ミチューはまだいい。だが、続くのは農業の邪神ラフトック、薬の邪神ムガジダ、さらにエルナダの民の代表者たる古老が三名。


「では、リニューカント執政軍に対する大同盟について、会議を執り行います」


 宣言した会議進行役のエイルがエルナダの民側の進行役を務める古老を見る。


「まずは盟主ですが、パッガス様で本当によろしいですね?」

「うむ。こちらにおわす二柱に盟主となる意思がない以上、我らエルナダの民が盟主になど恐れ多い。なれば、そちらの擁立するパッガス殿こそがふさわしい」


 古老の言葉に、邪神二柱も腕を組んで頷く。


「国家の運営なんぞ、封印される前で懲りた故な。リニューカント執政軍を追い出した暁には植物園を作ってくれるというのだから、我がでしゃばる事は無かろう」

「同じく。我が酒を造り販売することも許してくれるというのだ。国家の運営などという面倒な事をする暇はない」


 邪神たちはパッガスの下に付く事に同意している。

 晴れて邪神二柱を従えることになり、さらにはエルナダの民までまとめ上げる形になっていた。


(なんで、こんなことに!)


 邪神やエルナダ先住民との共闘は確かにパッガスの望むところだったのだが、いつの間にかパッガス自身が盟主としてリニューカント執政軍を追い払った後の実権を握ることを前提として話がまとまっている。

 確実にエルナダ大陸覇者への道を歩んでいた。しかも、引き返すわけにもいかない。

 パッガスはこの道の先に仲間と安らかに暮らせる日々が待っていると信じるしかないのだ。


「彼我の戦力差をどうなっているのかね?」


 マルハスが訊ねると、エイルが答えた。


「この大同盟が総戦力二万三千、対するリニューカント執政軍がダックワイズ冒険隊等を含めて四万七千といった所でしょう」

「いまだに大差を付けられているのだな」


 ラフトックが腕を組んで唸る。


「はい。邪神二柱がいても、正面からぶつかって勝ち目はありません。現在、ダックワイズ冒険隊とサウズバロウ開拓団に引き抜き工作を計っており、味方に引き込めないまでも中立を明言した開拓村もいくつかありますが、それを踏まえてもなかなか厳しい戦いになるかと。リピレイ、作戦の説明を」


 エイルに水を向けられたリピレイが話を引き取る。


「計画の要は奇襲と強襲による敵の分断と各個撃破です。分断工作を図る精鋭部隊と、各個撃破を迅速に行う即応部隊が必要です。また、劣勢になった途端にリニューカント執政軍から離反する可能性が高い開拓村も一覧にしておきました。護衛付きの交渉役として私が出向く事になります」

「徐々に削るか。各街を拠点として守らねばならないリニューカント執政軍が戦力を分散せざるを得ない点を考えれば悪くないが、こちらが落とした拠点に籠城しては逆包囲を受けかねない。分断が要だな。おそらく、我らが奇襲で落とすべき街は――」


 頬に深い傷のある古老がリピレイの計画を速やかに理解して、幾つかの街の名前を挙げる。どこも物資の集積地や交通の要衝だ。


「相手方も警戒していると思うが、何しろ腐敗組織だ。上意下達が上手くいっているとも思えん。最初の奇襲は成功の見込みが高い。どこを落とす?」

「港です」

「港? 分断を図る一手ではなく?」


 港は大陸の端に位置しているため、大陸内に展開するリニューカント執政軍の分断に貢献しない。戦略上はあまり価値があるとは思えない拠点だった。

 他の者も疑問に思ったようだが、リピレイは続きを説明する。


「本国とリニューカント執政軍の連携を断ちます。同時に、貿易を牛耳るリニューカント執政軍の財源を断つことで、取り返そうとするリニューカント執政軍の兵を誘引します。そうして手薄になった他の拠点を落としていけば、最終的に港を放棄してもおつりが来ますから」


 そう言って、リピレイは本国の新聞を開いて見せる。

 新聞記事を時計回りに回し読みしていけば、リピレイの計画への理解が広がった。


「リニューカント執政軍を危険視しつつもエルナダ大陸の産物が手放せない本国にしてみれば、貿易拠点である港をあっさりと奪われるリニューカント執政軍よりも我ら同盟軍を支援して恩を売った方が利益になるという事か」


 納得顔の古老だったが、ムガジダが疑問を口にした。


「支援も何も、本国とやらに状況が伝わらねば無意味であろう。我らが港を押さえて、いったい何者が連絡を取るというのだ。手紙を送りつけたとして、我らが検閲の上に都合のいい情報だけを流していると思われれば、本国とやらは静観を決め込むと思うがな?」


 もっともな意見だった。

 だが、リピレイの計画は当然のように本国が静観を決めた場合も想定してある。

 ノリノリで本国が静観した場合の計画を語ろうとしたリピレイを遮るように、新たな人影が会議の場に現れた。


「おや、もう始まっていましたか。遅れて申し訳ない」


 頭を下げながら胡散臭い笑みを浮かべて現れたティターはパッガスの左右から伸びる二列を眺めてどちらに座るか考えた後、結局は左右どちらの列にも加わらずにパッガスの対面に座った。音もなくンナチャヤがティターの横に座る。

 新たなメンバーに怪訝な顔をしたのは邪神二柱だけだった。

 古老の一人がティターを見る。


「ンナチャヤの旦那さん、遅かったね」

「準備に手間取ってしまいまして。おかげで、いい報告ができそうですよ。もう話しても構いませんか?」


 会議がどこまで進んでいるのか分からないティターが報告しようとするのを、ムガジダが止めた。


「待て、待て。貴様は誰だ?」

「そこに居並ぶ理解不能な海の外の人間どもと同じ臭いがする。信用できるのか?」


 ラフトックがエイル、リピレイ、ミチューを指差しながら問いかける。

 ティターは困り顔で頬を掻いた。


「自分では、信用してくださいとしか言えません。しかしながら、お二方を見て何も言わない時点でかなり深く関わっている事は察していただけるものと思います」

「ふむ、確かに」


 ムガジダが一応納得し、ティターの隣に座るンナチャヤにも同じ質問をしようとする。

 しかし、質問が飛ぶより早くンナチャヤが胸を張って答えた。


「妻」

「そうか。外の者との婚姻か。人間にはこういった繋がりも生まれるのだな」


 何故か感心するムガジダとラフトックを他所に、教え子だったリピレイとミチューが顔を見合わせる。


「先生ってそういう趣味だったんですか」

「まぁ、十かそこらの歳の差はない事もないですし」

「教え子たちの誤解は後で解くとして、話を続けてよろしいですか?」


 ティターが周りを見回すと頷きが返ってくる。


「では、ちょうど新聞を回し読みされているようですので話をさせてもらいます。実は皆さんが読まれたその新聞に情報を提供していたのは私でしてね」


 あっさりとばらしたティターは自作の絵画でも自慢するような笑みを浮かべる。

 本国へ情報を小出しにして送りつけることで形成した世論だ。本国政府への不信を醸成し、リニューカント執政軍への不満を焚きつけ、今の世論を作り出した。


「後は反乱軍が決起しその大義を私が本国の新聞各社に送りつければ、本国政府も重い腰を上げざるを得なくなり、リニューカント執政軍は半壊するでしょう」


 一組織の評判をどん底にまで貶めた事を誇らしそうに語るティターを見て、ラフトックとムガジダが肩を竦める。


「我が友よ、邪神と呼ばれる我らの方がよほど優しいとは思わんか?」

「しかり。我が友よ、あの盟主に胃薬でも献上してはどうだ? 我は気分が落ち着く香りの花でも贈ろうと思うが」

「良い案であるな」


 邪神たちの会話を盗み聞きして、パッガスはため息を堪える。


(どうしてこうなった)



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