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お腹が空いた女の話

作者: 月森香苗

いつもとは作風を少し変えた感じ。

恋愛なのかなーって感じだけど一応恋愛。

 お腹が空いた。

 加奈はぎゅるりと鳴った腹をそっと撫でながらベッドに転がり天井を見上げていた。

 働いていた会社をやめて貯金を崩して生活していた。心が疲弊しきって次の働き先を見つけられないまま半年。金が底を尽き、電気が停められた。

 水道はまだ生きているけれど、電気が停められると温水が出ないので風呂に入れない。

 IHコンロも電子レンジも使えないので料理が出来ない。

 冷蔵庫の中のものは食べ尽くし、腹を下すかどうかの賭けでパスタを水で戻して加熱せずに食べた。美味しくないし、腹はくださなかったけど心は死んだ。

 水だけで何とか持ちこたえようとしたけれど耐えられない。腹は相変わらずなっている。

 部屋は暗いし夜になると真っ暗で、懐中電灯が無ければ歩けもしない。トイレが暗いのは辛いし、目がおかしくなりそう。

 お腹が空いて仕方ない。



 そう思いながら天井を見上げていたら、ふっと背中に当たっていた布団の感触が消えて、落下していた。意味がわからない。

 その後、背中から水の中に落ちて溺死しかけた。

 部屋着のロングTシャツに短パン。しかもノーブラ。そんな人前に出ない事を想定した格好で溺死とかありえないと水中で藻掻いていたら誰かに掴まれたので動きを止める。

 水中に落ちた時は暴れるな、という事を教え込まれた子供時代。スパルタの父のお陰で咄嗟に体が動きを止めた。

 誰か知らないけれど腕を脇下に通して泳いでくれてありがとう。だけど胸を鷲掴みにしないで欲しかった。痛い。


 水から引き上げられた加奈はゲホゲホと噎せながら地面に蹲っていた。苦しい。


「大丈夫か?」

「っ、ごほ、だい、じょぶ」


 やけにいい声にぜぇぜぇしながらお礼を言おうとして硬直した。何だこの金髪碧眼の外国人。日本語上手いな?と呆然としていたら、人がわらわらと出てきた。

 全員イケメンの外国人。だけどコスプレしてる?ここ、コスプレ会場?

 加奈は完全に混乱していた。ゲームで見た事のあるような格好をした男達。ずぶ濡れの加奈は酷い格好を晒してるのに。


「っくしゅっ」


 ずぶ濡れになったところに風が吹いて寒気にくしゃみをすれば、誰かからストールみたいなのを掛けられた。温かくはないけどないよりマシ。


「殿下、一先ず彼女を湯に」

「そうだな。ダレン、運んでやれ」

「はっ」


 加奈を助けてくれた男があまりにもあっさりと横抱きにしたのでひょえ、と変な声が出たら小さく笑われた。

 濡れてる女を濡れてる男が抱き抱えるのはまあ、仕方ないだろう。他に被害を増やさない意味で。

 さっきこの男は煌びやかな男を「でんか」と呼んだ。殿下?


 お風呂場はゴージャスだった。メイド服を着た綺麗なお姉さん達に全身洗われて、呆然としていた加奈は彼女達に好きにされた。マッサージされ、磨かれて。

 そしで大きな音を立ててお腹がなった。


「お腹空いた…」


 空腹時に風呂に入るのは危険だった事を思い出して、くらくらし始めた加奈は意識を飛ばした。



 目が覚めたら自分の部屋ではなかった。ふかふかのベッドに天蓋。いや、本当にここどこよ、と加奈は混乱しながら起き上がろうとして胃の痛みに唸り声を上げた。


「お目覚めですか?こちらをお飲みください」


 女性の声に涙目になりながら差し出されたコップを手にとって口にする。レモンのようでなんか違う柑橘系の味がする水。水分が足りなかったのだろう、とても美味しい。


「すぐに食事にしましょう。パン粥ですが」

「何でもいいです。お腹、すいた」


 胃に優しいものがいい。間違いなく空腹が行き過ぎて胃酸で痛めつけられている。

 程なくしてトレイに載せられたパン粥が運ばれて加奈は泣きながら食べた。空腹は最高の調味料。お腹が満たされるって幸せ。

 やけにふわふわでフリフリのネグリジェを着せられてるけれど、真っ裸で意識を失ったはずだから服を着せてくれるだけありがたい。

 お腹が満たされ眠気に襲われた加奈がウトウトしていると、緑髪の美人が寝て大丈夫ですよ、と言うからそれに甘えつつ、ふんわりと思った。


 ここ、コスプレ会場じゃなくて、異世界かな。ベッドで寝てたら落下して水場に落ちるなんてありえないでしょ。

 眠い。やっぱ眠いから寝よう。眠いってことは起きてた訳だから、夢じゃなかったんだなぁ。

 そして加奈は睡魔に身を委ねて寝た。

 なんと二日間爆睡した。電気止められてお腹すいて、働く気力が無くて、心が疲れていたのだ。

 ブラックな会社ではなかったけれど人間関係で拗れた。自己主張が苦手で頼まれたら断りきれなくて、押し付けられる仕事。残業しないと終わらなくて押し付けた先輩は定時上がり。手伝ってくれた男の先輩がご飯奢ってくれて感謝してたら、押し付けてきた先輩がキレた。そしていびられまくった。

 明らかに業務範囲外の仕事を押し付けられて、上司に叱られて、男の先輩が庇ってくれて押し付けた女の先輩がキレ散らかして、限界に来てその場でぶっ倒れた。

 メンタルやられて胃もやられて死にたくないと会社辞める事にしたら男の先輩に告白されたけど、気持ちに余裕が無くて逃げ出した。

 状況見ろよ、こっちは瀕死ぞ、と泣きながら吐いて寝て寝て寝まくって回復しなかった。

 ベッドに横になってスマホを手に働いてる時は出来なかった小説や漫画をひたすら読み漁った。眠くなったら寝て、起きたら怠惰に生きていた。

 ざまぁ系の転生ヒドイン見てると女の先輩思い出して吐きそうになりながらざまぁされろ、と思ったし、BL漫画見ては男の先輩思い出して受けになってしまえと思っていた。メンタル本当にやられてた。

 最近やっと回復してきたところで、でも働くの怖いなぁと思ってたところに電気停められて生きてるの辛いって泣いて、今なんか幸せを少し感じてる。


「夢じゃなかった」


 柔らかいベッド、可愛いネグリジェ。綺麗なメイドさん。

 赤い髪が綺麗で、あー異世界なのかなーとか変に受け入れた。あまりにも現実味が無さすぎて一周してこれは現実なんだなぁと頭が整合性を重視して心を守ってくれたように思う。


「君は休息が必要だ」

「あい」


 加奈自身のことを聞かれて支離滅裂に説明した相手は、水場から助けてくれた上にお姫様抱っこしてくれた金髪イケメン。頭を撫でられて子供扱いされてる気がする。日本人は童顔に見えるって言うけど本当なのかな。


「子供扱いしないでください」

「ん?」

「これでも24歳です」

「嘘だろう?」

「本当だもん。24歳です。24歳なのに自分のことも満足に出来なくてごめんなさいやだぁもう生きてるの辛いなんで私にばっか押し付けたの先輩のこと好きなら言えばよかったじゃん逆恨みじゃんくそばばあ人がメンタル死んでる時に告んじゃねぇよワンチャン狙いかよもげろうわぁぁん」


 情緒不安定で怒って泣いてたら布団に押し込まれて頭を撫でられた。大きな手が温かくて、ウトウトしだした加奈は寝なさい、と言われて「はぁい」と返事をしてすぅ、と寝た。

 名前聞き忘れたなぁと思ったのは起きた時で、丸一日寝ていた。


「あの、金髪の筋肉のすごいかっこいい人の名前、なんて言うんですか?」


 灰色の髪の毛の可愛いメイドさんが今日の担当だったのか、にこにこ笑いながら佳奈のご飯の支度をしてくれる。全部お任せしてごめんなさい、と謝った後に聞いたら「筋肉…」と呟いて笑った。加奈からすれば筋肉ムキムキのイケメンの印象が強い。


「近衛騎士のダレン卿ですね」

「ダレンさん。近衛騎士って、王様の騎士?」

「ええ。カナ様が王城の池に落ちられた時は休憩に入られたところで、偶然通りかかって一部始終を見ていたそうですよ」

「休憩潰しちゃったの。申し訳ないよ。やすみを潰すのは駄目なんだよ。なんで私は迷惑しか掛けられないんだろう」

「カナ様、ケーキですよ」

「あーん」


 メイドさんはみんな優しい。いい年した大人の加奈に態々口まで運んでくれる。優しくて好き。突然泣き出す加奈の涙を拭いてくれて、寝物語を聞かせてくれて、加奈は甘やかされていた。

 手のかかる子供の面倒を見るように手とり足とりお世話してくれるのに恥ずかしさが消えていた。トイレだけは一人でしたけれど、お風呂もご飯も介助してもらっていたのは、体に力が入らなかったから。トイレだけは力が入っていたのは最後の一線だからだと思う。

 知ってる人の居ない場所で、生きてるのヤダ、と泣き出す女は怖いだろうに会う人みんな優しくて、後でなにか頼まれるのかなと不安になるけど、その前に寝ていた。


 およそ1ヶ月そんな生活をしていたら、王子が来て、あの筋肉ムキムキイケメン騎士が加奈を家に引き取ってくれると話した。王子の顔が良すぎて直視出来ない。


「なんで?」

「何で、とは?」

「私不審者。人知れず始末するのでは?」

「渡り人は保護するよ?殺さないよ?」

「渡り人?」


 渡り人とは異世界から突如現れた人間の事で、見知らぬ場所に来て孤独な人の事らしい。たまに現れるそうで現れ方は多種多様。いきなり何もない空間からひょいと歩いて出てくる事もあれば、いきなりベッドに寝てる状態で現れることもあるそうだ。

 加奈の場合は部屋が二階にあったからその高さから落ちたらしい。

 大抵は発見者が保護する事が多いようで、その慣例で金髪イケメンムキムキのダレンが保護者に名乗り出たらしい。ちなみにここは王宮の一室で心が弱りきってまともに動けなさそうということで移動はさせなかったようだ。


「異世界の知識を与えてくれる者もいるが、別にそれは必須では無い。頼れるものがいない状態で無知なまま命を落とされると後味が悪いだろう?」

「そうですね」


 見返りよりも人間としての罪悪感と言われた方が何となく気持ち的に楽だった。利己的な理由で助けるだけと言われる方が受け入れやすい。


「一ヶ月の間にダレンは貴方を迎え入れる準備をしていたから今日にでも行けるそうだけれど、貴方はどうしたい?」

「んー…私、今は働きたくないんですけど怒られます?」

「それはないかな。心配しなくてもいい」

「無駄飯ぐらいになりますよ?」

「ダレンが構わないと言っているから問題は無いだろう」

「じゃあお世話になります」


 王様や王子のいるような城にずっといる方が辛い。この部屋から出たことがないけれど、見知らぬ人に出会って挙動不審になるのは簡単に想像出来た。

 ここは至れり尽くせりで楽だったけど、メイドさん達だって仕事があるはずなのに邪魔して申し訳ないと、そんなことに気付いて落ち込んでいたら何故か王子に頭を撫でられた。


「子供じゃないです」

「ダレンから聞いているけれど、貴方はどうしても若く見えるからね」

「何歳に見えますか?」

「そうだね。15歳か16歳くらいかな?」


 うっそだーと言いたいけど、本気の目をしていて軽く絶望した。日本人、そんなに童顔に見えるのか。


「我が国は他国に比べて体格が良く、背も高い方だから、貴方のように小柄だとどうしてもね。それにしても、黒い髪に黒い目はやはり珍しいね」

「いないんですか?この色」

「渡り人とその子孫くらいかな。渡り人でも私達に似た色の者も居たらしいけれど」


 多分ヨーロッパとかアメリカあたりの人なのだろう。日本人オンリーとは限らないし。

 156センチの加奈で小さいのか、と思ったけれど、メイドさんは皆背が高かったから王子の言う通り子供に見えても仕方ないのかも。


 そうして加奈はダレンの家に引き取られることになった。

 騎士とは言えども勤め人。休みはきちんとあるようで、私服だというダレンは王宮に来るのにふさわしいキラキラした格好をしていて言葉が出なかった。

 立って会うのは初めてで、見上げるほどに大きい。

 加奈が着ているのはメイドが着せてくれた可愛いワンピース。足を出すのははしたないと言うことでくるぶしまで隠れているけれど、コルセットは漫画や映画のイメージで苦しそうで嫌だと言ったらつけずに済んだ。

 一応ブラみたいなものはあって、これはいつぞやの渡り人が作ったらしい。ゴムとか無いけどそれなりに使えるもの。加奈の胸を保護してくれている。


「お世話になります」

「気にしないでくれ。俺は実家から出ていないので家族も同じ屋敷に住んでいるが、事情は説明しているから今と変わらない生活をしてくれたらいい」

「はぁい」


 手を差し出されて首を傾げると、君は転びそうだからと支えてくれるらしい。まともに歩かない生活をしていたから足腰が弱っているのは間違いないし、こんな丈の長い服は着た事がないから転げるのは想像出来る。

 人気のない通路を通って外に出たら馬車があった。馬車。うっそだろ、と思ったけど嘘じゃなかった。まあ、馬に相乗りよりはマシか、と中に入って理解した。

 馬車は辛い。おしりが痛い。ダイレクトに振動が来て唸っていたら、ダレンの膝の上にあっさりと乗せられた。大きなダレンなので加奈はすっぽりと収まる。先程よりも振動が減って体温が高いからか眠気が来たら、寝ていいと言われたので遠慮なく寝る事にした。


 起こされて目を擦っていると屋敷に着いたと言われらぼんやりとしながら降りたけど覚醒した。何だこの大きなお屋敷は。いや待って、玄関前がロータリー的なもので、振り返ったら遠くに門が見える。

 見事な庭園があって加奈は混乱した。


「ダレンさん、お金持ちの人?」

「親がな。俺は跡取りではないからいずれこの家を出ることになるけれど」

「えーと、貴族?」

「そうだな。近衛騎士は貴族籍でなければなれない」

「爵位ってやつは?」

「公爵家だ」

「王宮と変わんないじゃん!」


 マナーも何も分からないど庶民の生活困窮者になりつつあって心が瀕死だった加奈は泣きかけたけど、それより前にダレンに抱き抱えられてぽかんとしてしまった。今回は子供を抱っこするような縦抱き。


「歩くのもしんどいだろう?」

「うん」


 慣れない服に初めての馬車。精神的なダメージも大きくて疲れていたことに気付かれたので、早々に諦めてお任せしていた。

 なお、このやり取りはロマンスグレーなおじ様の目の前で行われていた。あれは執事だ。ダレンの父親とは思えない。


「ダレン様、お帰りなさいませ。カナ様でいらっしゃいますね。私はカルディクス公爵家の家令を務めておりますヨゼフと申します」

「えっと、立花加奈です。あ、えっと、名前がカナで苗字、家名?がタチバナです。よろしくお願いします」


 立花は言いづらいだろうからカナと呼んでくださいといえばにこりと笑って頷いてくれたヨゼフ。家令って執事よりも職務範囲が広いのだっけ。漫画小説知識。

 ダレンに抱えられたまま、どこかに連れていかれた。どこかは分からないけれどゴージャスな部屋で、そこにはダレンにも劣らぬどころかダレンと同じくらいのイケメンと美女が揃っていて加奈の心へのダメージは増えた。


「まあまあまあ!なんて可愛らしいの!渡り人に会うのは初めてだけれど、こんなにも小柄でなんて可愛らしいのかしら!ダレン、こちらに連れて来て」

「母上、落ち着いてください」

「え!?お姉さんじゃないの?」


 とても綺麗な女の人がダンディな男の隣にいて、お姉さんだと思っていたのに違った。嘘やん、と呟く加奈に気を良くしたのか女性がささっと近付くとダレンの腕を叩いて加奈を下ろさせた。

 やはりこの人も背が高くて見上げた加奈の頬を手でそっと挟むと「ああ、なんて可愛らしいのかしら」と繰り返していた。

 あれだ、ぶちゃかわな犬を見て可愛いと言うのと似ている。顔の作りからして違う。日本人はのっぺり族だから彫り深族から見たらあっさりのはずだ。


「マリアーヌ、彼女の首が疲れてしまうよ。ようこそ、私がカルディクス公爵家当主のゼオンだ。そして妻のマリアーヌ。君を保護すると決めたのはダレンだが、我が家はそれを歓迎するよ」


 マリアーヌの手が離れて解放された加奈はダレンに促されて椅子に座る。この国の人に合わせているからか大きくて加奈はすっぽりと収まっていた。寧ろ埋もれていた。

 ゼオンから、王宮と変わらない生活をしていいとの事。加奈の心が疲弊していて体力も無くてよく眠ると聞いていたらしい。


「庭は何時でも散歩して構わないよ。夜でも外を騎士が巡回しているからね」

「ありがとうございます」


 無駄飯ぐらいを許してくれるなんて優しい。

 ゼオンの言葉通り、加奈は部屋からほとんど出ることがなくだらけていても許された。屋敷の一室を加奈に合わせて整えてくれたらしく、服も着やすさを優先したワンピースばかりだった。

 加奈がこの世界に落ちていた時に着ていた服は洗濯されて返してもらっている。ロングTシャツと短パンとパンツの三枚だけだったけど。

 部屋から出ないならこれ着たいな、とお世話してくれる侍女に聞いたら止められた。

 加奈はここに来て、王宮で世話してくれていたメイドだと思っていた女の人は侍女だと知った。

 侍女とメイドは仕事が違って、加奈の扱いは貴賓に近いので身の回りのお世話は侍女がするとの事。ど庶民にはキツイけれど、渡り人はそう扱われるそうだ。大事にされたらお返ししたくなるから気持ちはわかると内心で頷く。

 基本的に侍女さんにお世話されるのだけれど、ダレンがいる時は何故かダレンが付きっきりで加奈の面倒を見ていた。なんで?と思っていたけれど、答えはダレンの兄グランの妻であるセルティアから与えられた。

 セルティアもマリアーヌと似ていて加奈を可愛い可愛いと可愛がる男装の麗人で、ダレンがいない時に加奈が庭に行きたいなと思った時は付き合ってくれる良い人だ。

 そのセルティア曰く、ダレンは可愛いものが好きでとことん世話をしたがる重いタイプらしい。この国の女性は気が強く自立心が強いので、加奈のように世話される事に抵抗がなく身を委ねるタイプがどストライクだそうだ。

 何となくは分かっていた。ダレンが部屋に来た時に侍女は部屋から出ていくし、自分では何もしなくてもいい。

 最初は子供を見る目だったけど最近はやけに熱が籠っている。体に触れる時も、意識しているのがわかる。


 日本にいた時は恋愛沙汰に巻き込まれてしんどくて仕方なかったけど、ここで加奈が生きる上で誰かの庇護は必要だ。


「ダレンさんは私をどうしたいんですか?」


 今日も今日とてダレンの膝の上に横座りに乗せられて手に香りの良いオイルをつけた後マッサージをされていた加奈が見上げながら問えば、ダレンがほんのり頬を染めて、そしてイケメンな顔で器用にニィと笑うのがなんと言うか、オスで凄かった。


「俺の物にしたい」

「捨てたら泣き喚いてマリアーヌ様とセルティアさんに泣きつきますよ」

「捨てるわけないな。寧ろ閉じ込めてどこにも行けないようにして俺だけしか見れないようにしたい」

「今と余り変わりないですね」


 庭くらいまでしか出てなくて、ここに来てから敷地の外に出ていない。出るつもりもない。基本はこの部屋からも出ない。ご飯はここに運んでくれて、たまにお夕飯を一緒にどう?と聞かれた時に行くくらい。


 ゆっくりと心は回復しているけれど、とことん甘やかされている加奈はもうダレンから離れられないなぁと胸元に頭を預けた。

 ダレンは加奈より年下の21歳だけどどちらが年上か分からないほどに甘やかしてくる。依存だとわかっているけれど、依存しないと生きていける気がしなかったからそれに身を任せて、加奈はダレンのものになった。


 もうお腹が空くことは無い。

電気が停められたくだりは実話です。

ガス、電気、水道を停められた経験があります。

ガスは停められても何とかなる。湯を沸かせばいいんだよ、の、精神。停められたら、夕方までに入金しないと翌日になる。

何度かしでかした。


電気は部屋の暗さにメンタルやられるけど夜寝るのが早くなる。トイレの水は流せるから問題ないけど風呂に入れないから心が死ぬ。

連絡すれば割と直ぐに通電する。

冬にしでかす。夏に停ると生命に関わるけど冬は割と何とかなる。


水道は本気で死ぬ。人間は水が無ければ死ぬ。

一度しか経験ないから覚えていないけど多分ガスと同じ。


パスタ水戻しのまま食べたのも実話。美味いわけがない。

カセットコンロを何故買ってないと毎回思うけどその前に電気代支払えよ私、と思う。



これは豆知識ですが、期日までに支払いをしていない場合

ガス(期日までに支払わなければ即停めにくる)

→電気(何日までに支払ってねってあるけど一ヶ月くらいは待ってくれる)

→水道(そこそこ待ってくれるけどこれを支払えないのはまずい)


水道は市の管轄でガスと電気は民営だから違うのでしょうが、停められる順番はこう。水は本気で生命に直結するので待ってくれるけど、そもそも支払い忘れをしなければよいわけで。

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