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どちらかと言うと悪い魔法使いです  作者: 花音小坂
第4章 リアナ=ハイム編
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共食い


 まるで天空に音楽を奏でるように、テスラは細くしなやかな手を動かす。その柔らかな指先は、彼女の柔和な性質とは裏腹に、荒々しく、激しかった。そこから無数の光が上空を舞い、やがて大聖女は詠唱を唱える。


 <<聖なる御心よ 天啓をまといて 我に力を示さん>> 


 瞬間、上空に六芒星が拡がり、光とともに巨大な天使が舞い降りる。鷲のように雄大な羽と共に、力強く、隆々とした肉体をもつ人型の天使。

 テスラが召喚したのは、力天使カサレオン。戦天使(主天使)リプラリュランに次ぐ強さを持つと言われている攻撃特化型の天使である。


「ぐおおおおおおおおおおお――――――――!」


 豪快な咆哮が、サン・リザベス大聖堂中に木霊する。


「ククク……さすがに、絶景だ」


 余裕をもって笑うアシュに、リリーは思わず戦慄した。誰をもが震撼するほどのプレッシャーを持つ中位天使を目の当たりにしながら、さも当然かのように闇魔法使いは受け入れる。


 それが、この戦いの最低ライン。


 この戦いにおいては、聖闇魔法ですら、脇役に過ぎない。その堂々としたたたずまいに、リリーはいつの間にか、彼の方をずっと見つめる。

 いや、彼女だけではなく、この場にいる全員が、この絶大な力にどう対抗するかを見守る。


 ……が、当の本人である闇魔法使いは、まったく別次元の思考を回していた。


「面白いね……鋼鉄すら一瞬にして消滅させるほどの剣を持ち、幾千の闇すら阻む盾を持っていても、これに刺されれば容易に死んでしまう」


 黒の道化は、一本のナイフを取り出した。


 それは、なんの変哲もない、ナイフ。


「なにを言っている? 貴様も中位悪魔を召喚しないと、消滅の憂き目に遭うぞ」


 ランスロットがつぶやく。それは、余裕でなく焦り。彼の算段だと、二人が死力を尽くしてこそ勝機が生まれる。


「君こそ、いつまで傍観者を気取るつもりかね? そのポジションは、あの忌々しいライオールだけで十分なんだがね」

「……なにを考えている?」


 初めて、ランスロットの表情に焦燥が生まれた。テスラが力天使を召喚した今、一秒でも早く同等の悪魔を召喚しなければ終わりだ。それにも関わらず、当の本人はランスロットに向けて不敵な笑みを浮かべている。


 ……アシュは、ワザとテスラに負けようとしている?


 当初からの目的はシスの保護。アシュが悪者を演じて、シスとリリーを保護させ、ランスロットに立ち向かわせようとしているとすれば。


 テスラが勝ち、無傷の彼女がランスロットと対峙したとすれば。

 彼はグルリと周囲を見渡す。彼の周りには、大司教である自分に懐疑的な眼差しを向ける側近たちがいた。先ほどまでのすがるような視線とは違う。


 闇と光。その存在は宿命的に相反し、衝突し合う運命だ。しかし、闇が抵抗せずに消滅すれば……残った光同士が競い合う。どちらの光が本物なのかのかを《《互いに喰らい合う》》。ならば、生き残るのは……


「ククク……偽物の君とは違って、本物であるテスラ君が来たからね」

「……っ」


 途端にランスロットの背中から滝のような汗が噴き出す。以前の信者たちは当然のように大司教側についた。実質的な大聖女の権限は、大司教に大きく劣るからだ。


 大司教の権限は、それだけ絶対で絶大なものだ。


 だとすれば。アシュによって心を暴かれた側近たちはどう行動するのか。事実として、ランスロットを軽蔑し侮蔑し卑怯者呼ばわりした者たちは、どう行動するのか。


「はっ……くっ……」

「気づいたかな?」


ランスロットは緊張で胸を抑えて、アシュは歪んだ笑みを浮かべた。テスラが勝利した場合、周囲にいる側近たちは全員大聖女側につくだろう。

 そして、大聖女の信念の元に、新たなる大司教を立てるに違いない。それが、もしかしたら聖櫃であるシスなのかもしれない。


 傷つくことなど怖くない。死ぬことなど厭わない。しかし、目的を達成できぬまま……いや、むしろ逆の結末をもたらしてしまう未来が見えることは恐怖以外の何物でもなかった。


「……アリスト教守護騎士にテ、テスラを攻撃させろ」


 ランスロットは声を震わせながら、側近に指示する。


「はっ?」

「うるさい! 早くしろ! 早くあの女を攻撃して消滅させろ!」


 感情的になった声がサン・リザベス大聖堂中に木霊する。途端に、アリスト教守護騎士も、13使徒も、戦う者全てが動きを止めた。


「あーあ、言っちゃったね」







 


 


 闇魔法使いは、呆れたように笑った。


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― 新着の感想 ―
[一言] やってしまいましたなあ( ˘ω˘ )
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