43話:異端審問会
〜前回のあらすじ〜
城塞都市クヴィスリングでの戦いの詳細をスーヤ騎士団へと報告するために訪れることになった大陸中央の大国────"宗教国家アミナス教国"
そこで勇者アルス一行は様々なことを知り、経験した。
・スーヤ教と世界の成り立ち
・魔族が数十年前から人々を攫う不穏な動きを見せていること
・スーヤ騎士団がいながら人類側が劣勢に立たされている原因────生命を想像する魔法を扱う魔王の存在
・妹であるシオンも知らない……未だ行方知れずのアルスの親友"勇者カリヴァ"
・レヴィンとレーニス、トゥローノの名を持つ二人の貴族姉妹の決闘
・かつてから在り方が変わってしまった魔導討伐隊の暗い歴史
そして降臨祭までの期間、一行は平和な日々を満喫する。
勇者になってから久しくなかった"生死を掛けた戦いの日々"から掛け離れた日常。
そんな日々を過ごし、降臨祭まで残り数日となったある日……勇者アルスの元に、かつてアルス達を陥れたある貴族の異端審問を行う報せが届いたのだった。
「静粛に!!」
一角獣の騎士────グラシアの厳格な言葉と共に『カァンッ!』と甲高い木槌の音が空間に響き渡る。
「「判決!!」」
同時に、呼応するように声が上がる……いよいよ判決の時は近いようだ。
周囲を複数のエルフ族に囲まれ、更に遠くからは数多くの傍聴人がいる事もあり……原告席に座るアルスにも緊張が走る。
きっと他の仲間達も同じだろう。
大陸中央に位置する宗教国家"アミナス教国"の首都ヤーラに建てられた純白の神殿の中……それは行われていた。
"異端審問会"
アルス達が生きる大陸タルシスカにおいて、多くの民に信仰され絶大な影響力を誇るスーヤ教────それによって定められし掟を破った者には、秩序を乱す不穏分子として"異端者"の疑いに掛けられる事になる。
その事実を確認する場がこの異端審問会で、異端者と認定された場合……その者には女神の名の下に裁きが下される。
その判決にはたとえ一国の王であっても逆らうことは許されない。
「魔王討伐隊の報酬制度に対する重大な違反行為、及び余罪の数々……これらは法を定めたスーヤ教、ひいては女神に対する背信行為として厳罰を持って臨む必要がある」
異端審問官のエルフが一人────グラシアが壇上にて、今回異端審問に掛けられた一人の老人に向かって淡々と言葉を告げる。
その装飾だらけの無駄に煌びやかな衣服を纏った姿に、アルスは見覚えがあった。
"クス伯爵"
大陸南部に位置するトーキテ王国の一領主にして、城塞都市クヴィスリングへ向かう馬車の手配を申し出ておきながらアルス達に暗殺者を嗾け、上級魔族討伐の手柄を横取りしようとした卑劣漢だ。
……そんな彼も神の一族たるエルフ族達を前にしては強気に出れないようで、現在は中央の証言台にて周囲から向けられる突き刺すような視線を浴びながらダラダラと冷や汗を流すばかり。
審問の最中必死に言い訳を並び立ててはいたが、今回の件が余程想定外だったのか……その内容は穴だらけ。
そこに被害者であるアルス達の証言やスーヤ騎士団に引き渡した暗殺者達の自白、加えて一角獣の騎士が読み取った伯爵自身の真っ黒な記憶が合わさった結果、完全に弁解の余地はなくなり……遂に判決が下されようとしていた。
「────よって真実なる統治者"スーヤ・レイア"の御名において異端者と認定!今生に救いはないものと見做し、その命をもって罪を贖うものとする」
「「異端者、認定!!」」
次の瞬間、アルス達を含めた多くの魔王討伐隊の隊員を苦しめてきた悪徳領主は力が抜けたように項垂れるのだった。
審問で明らかになった事実によると、彼は今回悪事が露見するキッカケとなったアルス達との一件よりも以前から同様の犯罪行為を繰り返し、多数の隊員達を殺害してきたらしい。
エルフの騎士────グラシアは先日の決闘を終えた後、こう言っていた。
魔王討伐隊が当初掲げていた理念はいつからか形骸化してしまったと。
今回の事件もその歪みの蓄積により起きてしまった事かもしれない。
────だが、そんな悲劇の連鎖が一つ……これで終わる。
「本日の異端審問に関して、これにて閉廷とする!」
一種の安堵を覚えつつ、エルフ達に連行される伯爵を見届け……アルス達は異端審問の会場である純白の神殿を後にした。
その翌日、ヴァイゼン村を滅ぼした上級魔族シルクを討伐した分の報酬が支払われた。
これによりアルス達は正式に三体もの上級魔族を倒した実績を得る事になる。
そして更に数日時が流れ……いよいよ聖地・アミナス教国における年一回の祭典────"降臨祭"が幕を開けるのだった。




