40話:トゥローノ姉妹の決闘
〜前回のあらすじ〜
これまでの冒険での上級魔族討伐実績から、スーヤ騎士団への勧誘を受けた魔王討伐隊・アルス一行。
話し合いを経て勇者アルスは当初の目的通り、親友である勇者カリヴァの行方を追うべく話を辞退し、他の仲間達もそれに続いていく事となった。
そんな風に一行の絆がより深まった時、仲間の一人である貴族の少女レヴィン・トゥローノは自身の姉───レーニス・トゥローノとアミナス教国での望まぬ再会を果たす。
自身の仲間を侮辱した事を許さないと啖呵を切るレヴィンに対し、レーニスは決闘でシロクロ付けることを提案し……レヴィンが負けた場合、彼女が隊から抜けることを迫るのだった。
"魔法使い同士の決闘"
それは大陸タルシスカにおいて昔からある慣習の一つで、二人以上の魔法使いが魔法のみを用いて戦闘する行為を指す。
古くは貴族同士の争い事の解決や名誉回復を目的として行われてきたらしいが、現代においては一種の競技として受け入れられ、魔法学校等でも行われているらしい。
「……これより双方の合意のもと、魔王討伐隊・アルス隊の中級魔導士レヴィン・トゥローノとアミナス兵団の中級魔導士レーニス・トゥローノの決闘を執り行う」
────そんな古から続く様式が今正に、アルス達の目の前で行われようとしていた。
外壁に取り囲まれた広場の中、対峙するのはたった今立会人にその名を呼ばれた二人の魔法使い……トゥローノ姉妹。
「立会人はスーヤ騎士団の騎士が一人……グラシアが務める」
どうしてこんなことになったのか……
周囲のアミナス兵団の兵士達が沸く中、勇者アルスは目の前の光景をぼんやりと見つめながら昨日の出来事を思い返す──────
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「負けたら隊を抜ける……!?」
昨日、スーヤ騎士団に親友である勇者カリヴァの捜索依頼を出した後、合流した仲間達から聞かされたレヴィンと彼女の姉の決闘の話にアルスは動揺を隠せなかった。
「駄目だ……!そんな馬鹿げた賭けは認められない」
「ごめんアルス、今回だけは私の我儘通させてほしい……!」
「……レヴィン、君の気持ちは嬉しいがこの話はリスクが大きすぎる……理解ってくれ」
「アルス……」
姉に連れて行かれたレヴィンの事を任せた仲間────フィルビー・ウォルフの二名から聞いた話に寄れば、レヴィンは自分達のために怒ってくれた事で決闘を受ける流れになったそうだが……そんな事情はアルスには関係ない。
レヴィンの力を信じていないわけではないが、完全な攻撃魔法を会得していない現状では確実に勝てると断言は出来ない。
仲間の中で最も魔力量の多い有望な魔法使いである彼女を失いかねない危険な賭け……
彼等を率いる勇者として、その話を許容する事など出来る筈もなかった。
「とにかくこの件は俺が何とかする……決闘の日時は?」
「それは……場所を用意するから少し待ってろって……」
「────聞いたぞアルス殿……そちらの隊員が此方の兵士と決闘するそうじゃないか?」
早く何とかしないと……等と考えながら対処のためにレヴィンを問い詰めた時、不意に後方から聞き覚えのある声に呼び掛けられた。
「グラシア殿か……どこでその話を?」
「先程私の部下……レーニスが訓練場の使用許可願を提出してきてな……理由を聞いたところ、素直に話してくれたよ」
「丁度良い……グラシア、貴方からレーニスに言ってこの決闘を取り止めにさせてほしい」
「ふむ、残念だがそれは難しいな……既に使用許可を出してしまった後だ」
振り向いた先にはいたのは、何かと関わる機会が多いスーヤ騎士団所属のエルフ────グラシア。
事情を知っているならば話が早い……と決闘の中止を申し出たところ、彼女は首を横に振って懐から一枚の紙を取り出した。
そこに書かれている内容にレヴィンは「嘘……」と動揺の声を上げる。
「アミナス兵団の訓練場……明日の朝!?」
「お互い万全な状態で行うのが望ましいだろうと思ってな……訓練開始時刻よりも前に設定させてもらった」
「そんな……」
「ちなみに、二人の決闘の話は既に兵団中に広まっている……当日は多くの見物人が集まるだろうな」
「え!?」
「何のつもりだ……!」
アルスは怒りを覚えた。
微笑を浮かべながら淡々と話を進めるグラシアに。
いくらなんでも話が広まるのが早すぎる。
ここまで大事にされては決闘の話を受け入れないわけにはいかない。
本来であればこのような揉め事を止める立場であろう筈のグラシアもこの件にはどこか乗り気だ────何かがおかしい。
「面白いじゃないか?今話題の魔王討伐隊と我らが兵団の決闘……それも名門貴族の姉妹同士の対決なんて、お互いにとって良い刺激になりそうだとは思わないか?」
「思わないな……こんな決闘、どちらにとっても不利益のが大きい……貴方ならそのくらいの事は理解してる筈だ」
「ふふ、まぁいいじゃないか……それでは明日の朝、楽しみにしているよ」
此方が負ければ大切な仲間を一人失い、勝ったとしても魔王討伐隊に負けたという事実がアミナス兵団の面子を傷付けてしまう……とても利益があるとは思えない。
────そんなアルスの疑問にグラシアはすげなく返し、後ろに一纏めにした白金の髪を優雅に靡かせながらそのまま去って行ってしまった。
「……グラシアさんってあんなキャラだったっけ?」
「スーヤ騎士団に入る誘い、断った腹いせじゃねえだろうな……?」
「どうしましょう……アルスさん」
真意の分からないグラシアの行動……その後に残されたのは困惑の空気だけ。
仲間達も疑問を覚えたようだが、今その事に考えを巡らしている時間はアルス達にない。
「……とにかく、今考えるべきは明日のことだ」
決闘は明日……大事な仲間を失わないため、一刻も早く対応策を練ることが最優先事項だった─────
――――――――――――――――――――――――
「勝敗はどちらかの戦闘不能か降参……または戦闘の継続不可能と判断された時点で決するものとする……両者、宣誓の言葉を」
─────そして時間が経ち、現在の状況に至るのだった。
立会人に促され、レヴィンとレーニスの二人はお辞儀し……それぞれ誓いの言葉を口にし始める。
いよいよ決闘の開始も近い。
「勝敗は魔力量のみで決まらず……」
「魔法の相性のみで決まらず……」
あの後、仲間全員で決闘の対策を話し合い……その結果、三つの勝ち筋を見出すに至った。
……後に残されたのはただ、レヴィンのことを信じる事だけ。
「「ただ、結果のみが全て……!!」」
「決闘……開始!!」
────そして遂に、その時が来た。
グラシアが腕を振り上げるや否や、両者は同時に杖を構え出す。
「【散りゆく花火】!!」
最初に仕掛けたのはレヴィンの方。
散りゆく花火───アルスが教えた広範囲への雷撃が特徴の雷中級魔法だ。
まだ魔力制御が完璧でない彼女でも安定した命中が見込める攻撃魔法だが……
「思った通り開幕からの大技……大方マグレでもいいから当たれば……とでも考えたんでしょう?」
どうやら対戦相手には読み切られていたようだ。
風の防御魔法によりレヴィンは放った雷は軌道が逸れ、呆気なく外れてしまう。
魔力量の差を活かした開幕速攻での電撃作戦の失敗────これで一つ目の勝ち筋は潰えた。
「でも残念……これでお前のヘボみたいな魔法は絶対に当たらないわ……!」
そんなアルスの落胆を見透かしたようにレヴィンの姉はニヤリと笑い、長い杖を腰に携えて詠唱する。
「……【そよ風の妖精】」
刹那、防御魔法として展開されていた風の魔力が今度は彼女の周囲に纏わりつき……その身体を宙へと浮かせた。
風魔法による飛行────高度な魔力制御技術を要する上級魔法……それをレーニス・トゥローノは容易に操っているのだ。
思わず息を呑んでいると、杖に優雅に腰掛けるレーニスは「そしてこれは今のお返し……」と懐から小さな杖を取り出し上空へ向け、魔力を放出し出す。
「いきなりアレを使うのかよ!?」
直後、側にいた兵士が大きな声を上げた。
一瞬気を取られた後、視線を戻したアルスの前に広がっていたのは……先程までの景色とは異なる暗雲垂れ込める闇色の空。
やがて上空に形成された黒い雲は『ゴロゴロ……』と音を響かせ──────
「【雷神の怒り】!!!」
次の瞬間、激しい雷鳴と共に無数の雷がレヴィンへの降り注がれた。
「雷の上級魔法まで……!」
眼前の視界を奪う白い閃光に耐えながら、アルスは動揺を口にする。
各属性に変質させた魔力を飛ばすだけの単純な攻撃魔法とは異なる……複雑な事象を引き起こす"詠唱魔法"にはそれぞれ専用の呪文を要する。
一度でも正式な詠唱が行えれば、以降は短縮した詠唱での魔法の発動が可能だが……それらが記された魔導書は基本的に等級に応じたものしか読めない筈。
にも関わらずレヴィンの姉が上級魔法を連発しているのは、ひとえに彼女が貴族だからだろうか……?
「チッ……いつの間にそんな防御魔法を……!」
────そんなことを考えている内に落雷は終わり……聞こえたきたのは悔しそうなレーニスの声。
そして漸く晴れた視界の先には、水の防御魔法を全面展開するレヴィンの姿があった。
瞬間、どっと周囲の見物人達が湧き上がる。
「上級魔法を防ぐなんて……凄い魔力だ!」
「やるなぁあの子……」
「初っ端から上級魔法連発かよ!飛ばしてんな!」
「どっちも俺より強えわ!」
「誰だよお前!」
「ってうわ!風が……」
────が、その喝采も不意に吹き荒れた一段と強い風によって掻き消されてしまう。
「フン……たった一撃防いだ程度で良い気にならないことね!」
その現象を起こしたレーニスは面白くなさそうに言うと、今度はレヴィンの周囲を高速で旋回し……断続的に雷魔法を撃ち始める。
対してレヴィンはひたすら防御魔法の展開に徹し続ける。
反撃を一切行わない守りの姿勢────その光景に周囲の兵士達は騒めき出した。
「防戦一方だな……」
「何で反撃しないんだ?」
「あの状態のレーニスに攻撃を当てるのは至難の業だからな……機会を見計らってるんだろう」
「にしてもあんな防御魔法を全面展開し続けたら魔力が保たないんじゃないか?」
「そういえばレーニスが言ってたような……あの子、魔力制御が苦手だとか」
「……それ、本当か?」
「事実なら、勝負あったかもな……」
「あの子、ちょっと可哀想だな……」
彼等の言う通り、防御魔法の全面展開には多大な魔力を要する。
……とはいえ周囲を高速移動されながら攻撃され続けている以上、不用意に解除するわけにもいかない。
このままいけば先に魔力が枯渇するのはレヴィンの方だろう。
「あの魔導士……レーニスは強いのか?」
ふとアルスの口から疑問が衝いて出る。
すると、隣にいた兵士が「ん?あぁ……」と反応した。
「アイツは兵団の中じゃ……間違いなく真ん中よりは上の実力だな」
「魔法の操作技術の高さがずば抜けてるよ……風魔法での高速移動に雷魔法での正確無比な攻撃……対応手段を持ってなきゃ、絶対に勝てない強力な魔法使いだ」
「正直言って、彼女ならいつか上級魔導士になってもおかしくはないと思うね」
どうやら兵士達の言葉を聞くに、レーニス・トゥローノはレヴィンとは正反対に魔力の制御技術に長けた魔法使いのようだ。
それに風魔法を用いた一方的な遠距離から攻撃する戦法は、城塞都市クヴィスリングで交戦した上級魔族の紅い龍───フラストを彷彿とさせる。
……だが、レヴィンはその紅龍を倒すのに大きく貢献した魔法使いだ。
このまま終わるはずはない。
「いつまで守っているつもり……?王手よ、さっさと降参なさい……!」
────そんなアルスの予想通り、次に聞こえてきたのはレーニスの苛立ち混じった声。
戦局は先程と変わらずレヴィンの防戦一方……一方的に攻撃し続けているレーニスに何とか粘り続けている劣勢状況に見えた。
……だが一つだけ、先程とは明らかに異なる点がある。
よくよく見れば、レヴィンは展開する防御魔法の範囲を縮小し始め、部分的・効率的に攻撃を防ぎ始めていた。
恐らくは相手の攻撃を見切り始めたのだろう。
「なぁんだ、全然魔力制御出来てるじゃない……最初の雷も普通に相手に向かって飛んでたし」
レヴィンの戦いぶりに感心したような声を出すシオン。
そんな幼馴染の反応に、アルスは思わず「ふっ……」と笑みを零す。
「そうか……シオン、君は知らないんだな」
「え?」
「最初の頃は全然狙った方向に魔法が飛ばなくて散々だったよ……今じゃ見違えるほど魔力制御が上手くなった」
これまでの旅の中での度重なる魔力制御の修練の結果、現在のレヴィンは防御魔法の制御に関してはほぼ完璧となり、攻撃魔法に関してもまだ荒さがあるとは言え……大分狙った方向へ飛ばせる程に魔力制御が出来るようになっていた。
それだけじゃない──────
「それに大分肝も据わったもんだ……初めて会った時は魔獣にビビって動けなかったくせによ」
ウォルフの言う通り、いくら防御魔法の制御が出来ていてもあの雷魔法を冷静に捌くのは相当な胆力がないと不可能だ。
それが可能になったのも幾多の死線を乗り越えてきた賜物なのだろう。
「そ、そうなんだ……」
「おうよ、そのくせクソ生意気で口だけは一丁前でな……けどな、それに見合うだけの努力はしてんだよアイツは」
「皆さんが寝てる時間も必死に練習を重ねてましたもんね……正直健康が心配になります」
─────そう、彼女は努力した。
その結果が今の状況だ。
「はぁ……はぁ……ッ」
気が付けば、先程まで優雅に空を待っていた姿が嘘のようにレーニス・トゥローノは息を切らし始めていた。
互いに膠着状態に陥った結果……防御魔法の部分展開で魔力を節約していたレヴィンを、一方的に攻撃していたレーニスの魔力消費量が上回ったのだろう。
これこそがアルス達が狙っていた今回の決闘における二つ目の勝ち筋────相手の魔力切れによる判定勝ちだ。
魔法使いにとって魔力が切れることはそれ以上の戦闘継続が不可能であることを意味する。
魔力量で姉に優るレヴィンにとって、これが最も現実的に勝率が高い戦法であった。
「この……ッいい加減にしろ……!これ以上粘ったところでお前に勝ち目はないわ!皆退屈なだけよ!!」
しかし、当のレーニスは自身が追い詰められていることにまだ気づいていないようだ。
声を荒げる彼女に対し、周囲の兵士達が再び騒めき出す。
「レーニスさん……なんだか口調がいつもより荒いですね」
「馬鹿お前、普段が猫被ってんだよ……腹ん中は真っ黒だぜあの女は」
「えぇ!?」
「おいおい、余り後輩の純情を弄んでやるなよ……」
────しかし直後、遂に膠着していた状況が動き出した。
「はぁはぁ……ッもういい……!」
痺れを切らしたのか……突如としてレーニスは高速移動を止め、レヴィンに向かって急接近を始めたのだ。
「こんな泥試合、これ以上続ける価値はないわ……!」
そしてレヴィンの少し手前で停止すると、改めて彼女に向けて杖を構える。
「一気に終わらせて……私の方が優れてるって証明してやる……ッ!」
口振りと行動から察するに、どうやらレヴィンの防御魔法の範囲外ギリギリから攻撃を仕掛けるつもりのようだ。
先程よりも近距離からの雷魔法の連射────今度こそ全面展開をしないと防御魔法の生成が間に合わないだろう。
そうなれば状況は逆転し……レヴィンの方が先に魔力切れを起こす。
レーニスの取った行動は、今の膠着状態を崩す手段としては恐らく最適解だ。
あることを見落としているという点を除けば……
「お姉様……」
レヴィン・トゥローノがゆっくりと口を開く。
決闘中……ほとんど沈黙していた相手からの呼び掛けに驚いたのか、攻撃を仕掛けようとするレーニスの動きが止まった。
そんな彼女を真っ直ぐに見据え、レヴィンは言葉を続ける。
「いつ……私が全力を出したと思ったの?」
「え……?」
「────"水の奇跡"」
次の瞬間、アルス達の目の前に巨大な水の塊が形成された。
レヴィンの全力の防御魔法───それは先程全面展開した防御魔法とは比べ物にならない程の大きさだ。
「……ッッッ!!!」
際限なく膨れ上がる水の球体に、レーニスは声を上げる間も無く呑み込まれてしまう。
……やがて、魔法が解除されて見えたのは───ずぶ濡れで倒れ伏すレーニスとそれを上から見下ろすレヴィンの姿。
「まだ……続ける?」
動けない自身の姉に、レヴィンはゆっくりと屈み……手に持っていた杖を差し向ける。
この距離であれば魔法の操作技術は関係ない────勝負ありだ。
「決まりだな……勝者、レヴィン・トゥローノ!!」
────次の瞬間、立会人の宣言と同時にこれまでで一番大きな歓声が上がった。
周囲が湧き上がり、思い思いに決闘の感想を言い合う中……アルスは目の前にいる二人の決闘者を見続ける。
「ゲホッ……あり得ない……!こんなの嘘よ……私が落ちこぼれに負けるなんて……認めない……ッ」
レーニス・トゥローノは信じられないようだった。
恐らく彼女の中で自分の妹は落ちこぼれのままだったのだろう。
彼女は知らない……魔王討伐隊に入ってから今までの短期間でレヴィン・トゥローノが魔法使いとしてどれだけ大きく成長したのか。
その認識の誤差を突く事こそ、この決闘における三つ目の勝ち筋だったのだ。
「お姉様……私は貴方のことが怖かった……昔は貴方に早く認められなきゃって思いで、勉強や魔法の修練に毎日打ち込んだわ」
決闘の結果を受け入れられない様子の姉をレヴィンは見下ろし、呟くように語り掛ける。
その言葉をレーニスは地面に背を付けたまま黙って聞いていた。
「でも……今はもう貴方に認めてほしいとは思わない」
「……ッ!」
「私は……もっと凄い人達に認められたから……!!」
しかし最後まで負けを認めず守ろうとしていたプライドも、次に妹から突きつけられた決別の言葉を前に動揺を隠せなくなり崩れ去ってしまう。
「決闘で私が勝った時、何でも一つ言うこと聞く……だっけ?それも別にいらない……じゃあね」
言葉を失う姉を最早見ることなく、レヴィンはアルス達の方に視線を向けゆっくりと歩き出した。
そんな彼女を迎え入れるよう、アルスも仲間達と共に駆け寄っていく。
「レヴィン!信じてました!」
「やるじゃねーかよ!スカッとしたぜ」
「おめでと〜!初めて戦ってるとこ見たけどアナタ強いのね!」
「お疲れレヴィン……けど、こんな無茶はもうしないでくれよ」
他の皆と同様に労いの言葉を掛けた後、アルスはふと頭の中に沸いた疑問を解消しようと言葉を続ける。
「……でもよかったのか?勝った時の権利を放棄してしまって」
「うん、別にあの人にしてもらいたいことなんてないもの……そういうのがあるとしたら……」
「……?なんだ?」
「その……勝手に決闘受けておいて申し訳ないんだけどさ、私決めてたんだよね……勝ったら一つ、アナタにお願いしようって」
すると彼女は返事をしながらもアルスのことをチラリと見て……やがて意を決したように、息を軽く吸ってから口を開いた。
「アルスさ……降臨祭の舞踏会……私と一緒に踊ってよ」
────その思いもしなかった言葉にアルスは目を見開く。
「ダメ……かな?」
しかし上目遣いで聞いてくる彼女を見て、アルスはゆっくりと首を横に振った。
自分達のために怒ってくれ、戦った彼女の願いを無下にすることは出来ない、と。
「一応言っとくが……踊りなんてやったことないぞ?」
「いいよ……それくらい、私が教えるから」
アルスの了承の意を込めた返事を聞くと、レヴィンの表情はパァッと明るいものへと変わる。
そして胸に手を当てて自信たっぷりな様子で言った。
「なんたって私は……名門貴族のレヴィン・トゥローノなんだから!」
その時の彼女の笑顔は────太陽のように眩しくアルスには思えた。




