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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第三章:アミナス教国編

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37話:スーヤ教の巫女レイア

〜前回のあらすじ〜

エルフ族により治められる始まり国────アミナス教国。

大国に連れて来られた勇者アルス一行は、大陸最強と名高いスーヤ騎士団からこれまでの戦いに関する事情聴取を受けた後……これまでの戦いの疲れを癒すべく各々自由に活動する。

そんな風に久しぶりの平和な日々を過ごしていたある日、アルスの下に一通の手紙が届く。

「……まだ来てないようだな」

流石(さすが)に早く来すぎたかもね〜」

「でも……ほんとに(すご)く立派な建物です……!」


 ────アルス達が宗教国家(しゅうきょうこっか)アミナス教国へ来てから数日……一行は()()()()に呼び出され、入国初日にも訪れた白を基調(きちょう)としたお城を彷彿(ほうふつ)とさせる建物の前に集まっていた。


 "ヤーラ大聖堂(だいせいどう)"

 この国の首都(しゅと)ヤーラに位置するスーヤ教の本部にして、その象徴(しょうちょう)たる巫女(みこ)()まう城の役割も兼ねているという巨大な建築物(けんちくぶつ)

 降臨祭(こうりんさい)等の特別な行事(ぎょうじ)を除き、スーヤ教の司祭(しさい)以上の聖職者やスーヤ騎士団員以外の立ち切りは基本的に禁じられている。



「グラシア様……一体何の用なのかしら?」

「遂に伯爵(はくしゃく)の野郎をとっ捕まえたんじゃねえか?」

流石(さすが)に来国してくるにはまだ早すぎると思うが……」

「あ、待って!来たみたい!」


 そんなわけで仲間達と話しながら待機していると、不意に大きく(ひび)いたのはレヴィンの声。

 その視線の先には────アルス達を呼び出した(くだん)の人物……グラシアの姿があった。


 大陸最強のスーヤ騎士団の筆頭格(ひっとうかく)にして、一角獣(ユニコーン)に認められたエルフ……

 その肩書きと此方(こちら)を見下ろす長身、そして冷たい色の(ひとみ)により対面すると思わず威圧感(いあつかん)と緊張を覚えがちだが、実際には物腰(ものごし)の柔らかい人物であることを短い関わりながらアルスは知っている。


 そんなアルスの思い浮かべた印象の通り、彼女は「すまない、待たせたか?」と気遣(きづか)いを見せる。

 その問いにアルスが首を横に振ると、エルフの騎士は「そうか……では、このまま私に付いてきてくれ」と後ろに一纏(ひとまと)めにした金髪を(なび)かせながら大聖堂の方へと足を向けた。



「えっ……もしかして大聖堂の中に……?」

「聖職者の(はし)くれとしては夢みたいですが……いいんでしょうか?」


 本来であれば司祭でもスーヤ騎士団員でもないアルス達はまだ入ることは許されない(はず)────当然のように上がるレヴィンとフィルビーの疑問の声に、グラシアは「大丈夫だ」と返し、更に言葉を続ける。


「……()()()()が君達に直接会いたいと(おっしゃ)っている」


 レイア────初めてこの地に訪れた日、今から(まね)かれる建物(ヤーラ大聖堂)の一室から姿を(のぞ)かせていた少女の名。

 大陸中で信仰(しんこう)を集めるスーヤ教の最高指導者(トップ)にして、この世界で唯一(ゆいいつ)女神の啓示(けいじ)を受ける事が出来る巫女だという。



 ……そのような存在が一介(いっかい)の魔王討伐隊である自分達に会いたがっているという話に、アルスは当然首を(かし)げる。


「巫女が直接……?」

「疑問を抱くのも当然だろうが、会えば分かる……お優しい方だが、一応言葉(づか)いに気をつけて貰えると有り難いな?」

「なんで俺を見んだよ……」


 そんなアルスの疑問を余所(よそ)に、突如(とつじょ)向けられたグラシアとレヴィンの視線にウォルフは気まずそうに顔を()らしていた。



 ……だが、これから会う相手が大国アミナス教国における実質的な王であることを踏まえれば、二人の懸念(けねん)は最もなものと言えるだろう。

 それどころか大陸中央諸国(しょこく)を支配下に置いているこの国の最高権力者は、大陸タルシスカにおける皇帝(こうてい)と言っても過言(かごん)ではない。

 エルフ族であれば容姿と実際の年齢に乖離(かいり)はあるのだろうが、肩書きの重さに似つかわしくないあの(うるわ)しい少女は一体何を考えているのか、どんな人物なのか……



 ────そんなことを考えている内に、間も無く謁見(えっけん)の時はやってきた。



「レイア様……件の勇者一行(いっこう)を連れて参りました」


 大聖堂の奥へと進み、『ギッ……』と重い音を立てて(とびら)が開かれた先……

 目の前には、あの時の美しい少女が静かに(たたず)んでいた。


 サファイアの宝石(ほうせき)を思わせる綺麗(きれい)(ひとみ)(あざ)やかな空色の長髪、一見(はかな)げながらも慈愛(じあい)に満ちた表情……

 それらに一瞬また目を奪われかけたが、先頭に立つグラシアが胸に手を当ててお辞儀をしたのに(なら)い、アルスも仲間と共にお辞儀をして名乗る。



「……お顔を上げて、楽になさってください」


 (わず)かな空白の後……聞こえてきたのは()き通るような声。

 通常であれば国の権力者に同じようなことを言われても緊張は()けないであろうが、その優しい声色のおかげか不思議と少し気が楽になった感覚をアルスは覚える。


「ぅーん…?」

「……!?」


 ────そうしたのも(つか)()、レイアと呼ばれた少女は突如(とつじょ)として驚くべき行動を取る。



挿絵(By みてみん)



「……あの、何か……?」

「ん?あぁ、ごめんなさい……良い顔をしてるなぁ、と思いまして……」


 悠然(ゆうぜん)此方(こちら)に歩み寄ってきたかと思えば、なんとそのままアルスに密着してしまいそうな距離まで近づき……まじまじと顔を見つめてきたのだ。

 余りの不意打ちに結局緊張してしまい思わず顔を逸らすと、美しい少女は申し訳なさそうに距離を取りながらも胸に手を当て……改めて口を開く。



「初めまして、私の名はレイア……スーヤ教の巫女を務めております」


 ……直後、訪れたのは静寂(せいじゃく)の間。

 分かってはいた事とはいえ、改めてその名を名乗られると大陸に住む者としては身体を強張(こわば)らせざるを得ない。


「そんなに(かしこ)まらないでください……今日はあなた方を(たた)えるために呼ばせて頂いたのですから」


 そんなアルス達の思いを察してか、レイアは口元を隠して笑うと……軽く息を吸って続きの言葉を(つむ)ぎ出す。


「"魔王軍の参謀(さんぼう)シルク"、"(あか)竜巻(たつまき)フラスト"、そして"黒鉄(くろがね)のザヴォート"……三体もの上級魔族を()った功績(こうせき)を認め、アルス・フェルシングとシオン・フェルシングの二名には上級魔導士(まどうし)の資格を、レヴィン・トゥローノ、ウォルフ・ソリダン、フィルビー・マーガレットの三名には中級魔導士の資格を与えます」


 ────その内容は、アルス達の昇格を意味するものであった。


 魔法使いは魔族と同様に下級・中級・上級に分けられており、中級魔導士から一人前として認められる。

 階級が上がればその分高難度の任務を受けられるようになり、達成した時の報酬(ほうしゅう)も大きいものになるという制度だ。



「ウォルフさんとフィルビーさんについては正式な魔王討伐隊の隊員ではなかったとの事なので、今回我が国で新たに隊員として登録させて頂きました」


 アルスとシオンの二人は以前から魔王討伐隊として活動して実績を積み上げることで中級魔導士となっていたが、レヴィンは学生の見習い魔法使いという立場から、ウォルフとフィルビーは孤児(こじ)だったことから三人は下級魔導士のままだったのであろう。

 つまり、今回の上級魔族討伐の件で一行は魔法使いとしての階級(ランク)が一段階上がったことになる。


 ……そんな風に考えていると、話を続けていた巫女は今度フィルビーの方に顔を向ける。


「そしてフィルビーさん……貴方(あなた)には司祭の(にん)を与えたいと思います」

「わ、私が…ですか……?」

「……マーガレット司祭は素晴らしい御方(おかた)でした」

「え……もしかして先生の事を……?」

「えぇ、今回の訃報(ふほう)は大変残念に思います……フィルビーさん、どうか彼の意志を()いで人々を救ってください……!」

「は、はい……!私、頑張ります……!」

「ありがとうございます……貴方の選択が希望に(つな)がるよう、私も(いの)ってます」


 話を聞くに、どうやらフィルビーは聖職者としての階級も上がったらしい。

 彼女の答えに対し満足げに(うなず)くと、レイアは改めてアルスを見つめ「さて…ここからが本題なのですが、アルス隊の皆さん……」と真剣な面持(おもも)ちで言葉を続ける。



「────スーヤ騎士団に入りませんか?」


「!?」

「えぇっ!?」

「は!?」


 ……それは、驚くべき提案だった。


 スーヤ騎士団────大陸最強と(うた)われ、兵役に()く全ての人間に(あこが)れられている騎士団。

 神の一族であるエルフ族か極一部の上級魔導士(エース)しか入団が許されない精鋭(せいえい)部隊に、一介の魔王討伐隊(ゲリラ部隊)を入れようというのだ。


 当然の(ごと)く動揺を見せるアルス達に対し、目の前の巫女は目を()せて「アルスさん、シオンさん、ウォルフさんの三名には特に(かな)しいお知らせだと思いますが……」と言葉を続ける。


「……現在、大陸北部は全て魔族の支配下になってしまいました」

「……!」


 ────その事実に、不思議と衝撃(ショック)は受けなかった。


 なんとなく……そんな気がしていたからだ。

 アルスが勇者カリヴァと共に戦っていた時……いや、それ以前からずっと大陸北部は度重(たびかさ)なる魔王軍との戦いにより疲弊(ひへい)窮地(きゅうち)(おちい)っている状況だった。



「近年、以前に比べて魔王軍の侵攻が激しくなり我々も苦戦を強いられています……皆さんの様な有望な魔導士が新たに入ってくだされば頼もしいのですが……特にアルスさんとシオンさんのお二人は()()()()()()()面々(めんめん)ですし」

「……知っていたのですか」

「最強の魔王討伐隊の勇名(ゆうめい)は私達エルフの耳にも届いておりましたから……実際にお会いするのは今回が初めてですが」

「お()めに預かり光栄(こうえい)です……一つだけ、失礼を承知(しょうち)でお(うかが)いしてもよろしいでしょうか?」


 ……だが、アルスとは裏腹にシオンとウォルフの二人は故郷(こきょう)を全て奪われてしまった事に苦い表情を浮かべていた。

 重い空気の中……巫女から差し伸べられた手を取る前に、アルスはふと沸いた疑問を(ほど)こうと口を開く。


「自分が知る限り、スーヤ騎士団は魔族との戦いにおいて常勝無敗(じょうしょうむはい)の最強の騎士団だったはず……それなのに何故、魔王軍の侵攻は一向に止まる気配を見せないのでしょうか?」

「常勝無敗……は少々誇張(こちょう)されていますが、この大陸での戦いで我々スーヤ騎士団が負けたことがないのは事実です……それでも大陸北部を制圧された理由は、ひとえに()()の存在にあります」


 その質問に対し、レイアは一呼吸置いて答えを口にする。



「"星の産声(ジェネシス・ノヴァ)"────あらゆる生命(いのち)を生み出す神に匹敵(ひってき)する力……それが魔王ハイルが操る魔法なんです」


 アルスは息を()んだ。そんな魔法など聞いたことがない。

 魔法で超常現象を起こすこの世界であってさえ、命を生み出す力というのはあまりにも現実離れしているように聞こえた。


「どんなに倒しても無尽蔵(むじんぞう)に増える戦力……魔王はその力で今の魔王軍を形成し、我々が一つの国を守る間に圧倒的な兵力で二つ、三つと国を滅ぼし今の盤面まで追い込んできたのです」


 そこまで聞いてアルスは()に落ちる。

 スーヤ騎士団は少数精鋭の騎士団。

 多方面に同時展開してくる魔王軍に対し、そもそもの兵力差が余りにも大きかったのだ。


(さいわ)い地理の優位から大陸中央はこれまで守れてこれましたが……防衛線の一つだったクヴィスリングが()とされた現在(いま)、いつ均衡(きんこう)が崩れてもおかしくありません」


 そのような状況下でもこれまで大陸中央への魔王軍の侵攻(しんこう)を防げたのは、彼女の言う通り大陸の中央と北部を(へだ)てている海域の影響が大きかったのだろう。


「これらの話は(おおやけ)にはしていません……下手に広めれば(たみ)に不安を与えかねませんから」


 無限に増える敵の戦力、奪われた大陸北部、大陸中央を守る(とりで)の一つの陥落(かんらく)……

 確かに、これらの要因が重なれば自軍の戦力を増強し早急に手を打たねばならないと考えるのが当然だろう。


 ────全てが明かされた後、スーヤ教の巫女……レイアは先程と同様の問いを改めてしてきた。



「改めてお聞きします……スーヤ騎士団に入り、私達と一緒に戦ってくれませんか?」

「……」


 場に再び静寂(せいじゃく)が訪れる。

 彼女からの話に、勇者アルスは目を閉じて長考(ちょうこう)し……やがてゆっくりと口を開くのだった。

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