31話:修羅場の訳
〜前回のあらすじ〜
かつての仲間────シオンと再開した矢先、バラバラだった状態から復活を果たした敵……全能のフォルリア。
シオンと二人で応戦するも、次第に追い詰められ……後がなくなった時、一人の騎士が助けに入った。
一角獣の騎士────グラシア。
彼女の登場によりフォルリアは撤退し、絶体絶命の危機をアルス達は乗り越えたのだった……。
強大な上級魔族────"全能のフォルリア"が去った後……勇者アルスはシオンと共に、一人の騎士に誘導されて戦いの場から移動していた。
スーヤ騎士団の一角獣の騎士……グラシアと名乗る女性に。
後ろで一つに纏めた長い白金の髪を靡かせるその後ろ姿はアルスよりもやや大きいもので、女性でありながら頼もしさが感じられる。
その背中を追っていくと……待っていたのは彼女の仲間と思われる修道服や甲冑を身に付けた者達が、一般市民や兵士等の多くの人々を治療している光景。
────思わず呆けていると、不意に群衆の中から「アルス!!」と自身を呼ぶ声が聞こえた。
「レヴィン!無事だったか」
「うんっ!危なかったけど、スーヤ騎士団の人達が助けてくれて……」
「俺達と同じか…… それで、フィルビーとウォルフは?」
「ウォルフは怪我した人達と一緒に治療を受けてるわ……フィルもそれを手伝ってるの」
「……そうか」
「あのさ……ところでその子は?」
再会した仲間である……明るい金色の髪を持つ少女レヴィンに気になっていた事を確認した後、彼女が遠慮がちに言及してきたのはアルスの隣にいたシオンの存在。
「あぁ、彼女は……」
「……アルス殿」
答えようとしたところ、不意に間に挟まる女性の声────その主は、いつの間にか何処かへと姿を消していたスーヤ騎士団の騎士……グラシアだった。
改めて近くで観察すると……その端整な顔立ち、冷たい印象を受けるやや鋭い目つき、そして異種族であるエルフ特有の尖った耳が目を引く。
……そんな彼女とその後ろに立つ一角獣の姿を見て、レヴィンは「えっ…!?」と驚きの声を上げる。
「グラシア様……!?それに一角獣まで……すごい、初めて見た……」
「……知ってるのか?」
「う、うん……スーヤ騎士団の中でも一角獣に選ばれた筆頭格の騎士様よ」
「なるほどな、通りで……」
"スーヤ騎士団"
大陸中央に位置する大国アミナス教国が擁する大陸最強と謳われる騎士団。
グラシアと同じ……エルフ族を中心に構成された少数精鋭の組織で、その強さと成り立ちから大陸において強い権威を有しているらしい。
そんな騎士団の筆頭格……先程の上級魔族との戦いぶりを見れば、その事に疑いの余地はない。
────レヴィンの説明にアルスが納得を示す一方、グラシアは「大袈裟だ……」と軽く咳払いをして口を開く。
「それよりアルス殿……報告を受けた盗賊の件についてだが、此方の方で身柄を拘束させてもらった……処遇については我が国での審問の上、決めさせてもらう」
「助かる……礼を言わせてほしい」
「結構、当然の事をしたまで……それより君も怪我人だ……長話もいいが、早く治療を受けてくるといい」
「あ、あぁ……」
話の途中だったものの、有無を言わさぬグラシアの迫力に押され……促されるままにアルスは群衆の方へと向かって行った。
・・・
「アルスさん……っ」
騎士団員からの治療を受けた後、不意に後ろから聞こえたのは聞き覚えのある女性の声。
振り向かなくても、その声の主が誰かアルスには分かる。
大陸南部のヴァイゼン村で会った聖職者の少女……フィルビー。
彼女は今にも泣きそうな表情でゆっくりと此方に近づき……
「……ぇ」
「フィル!?」
────ただ優しく、抱擁してきた。
「よかった……!私、もしかしたら……もう会えないかと……!」
「……」
余りに予想外かつ突然の行動に思考が停止するアルス……そんな彼に、彼女から掛けられたのは自身の身を案じる言葉。
その今にも消え入りそうな声色からは、先程別れた時と同様……仲間を失う事への恐れが垣間見えた。
「心配を掛けてすまない……ところでその、近い……」
「あ……ごめんなさいっ!」
不安にさせてしまった事を謝りつつ、距離が近すぎる事をドギマギして指摘すると、フィルビーは顔を赤らめて身を離す。
「あなた……」
「え?」
────そんな彼女に対し、何を思ったのかシオンは近づき……まじまじと顔を見つめていた。
「……シオン?」
「え?あーごめん!なんでもない」
徒ならぬ様子に思わず声を掛けると、ハッとした表情をしてフィルビーから距離を取るシオン。
そこにレヴィンが「あ!」と声を上げて彼女の事を指差した。
「そういえばアルス!結局その子とどういう関係なの?」
「えっと、彼女は……」
先程グラシアによって遮られた質問……その答えを口にしようとしたところ、シオンはアルスな腕に絡み付くように胸を当て、満面の笑みを浮かべながら言い放った。
「アルスのお嫁さんでーす♪」
────瞬間、場の空気が一気に凍り付く。
「えええええええええええッ!?!?」
直後、それを破ったのは響き渡るようなレヴィンの絶叫。
……当然、周囲の視線は一気に集まってしまう。
「えっと……それは……お、おめでとうございます……?」
「き、聞いてないわよそんな話!!」
「いや、シオン……変なこと言うのやめてくれないか……」
「あはははっ!ごめんごめん!冗談だよ!」
「その揶揄い癖は相変わらずだな……」
「結局どういう関係なのよ!?」
場を引っ掻き回すシオンの言動に顳顬を抑えながらも、慌てた様子の二人への誤解を解くため、アルスは改めて口を開く。
「幼馴染で……昔一緒の討伐隊にいた仲間だ」
「あ、あぁ〜……前にお話した時に出てきた……」
「それなら最初からそう言いなさいよ……もう」
その説明に空気が幾分か柔らかくなったところで、畳み掛けるようにアルスは今回の戦いにおける彼女の功績を伝えていく。
「今回俺が助かったのは、スーヤ騎士団のグラシア殿と……彼女の協力のおかげだ」
「そうだったんですね……あの、アルスさんを助けてくださってありがとうございます……!私、フィルビーと申します!よろしくお願いします」
「……私はレヴィン……その、よろしく」
「いや〜揶揄っちゃってごめんね!改めて、私はアルスの幼馴染のシオンって言うの!よろしくね〜」
……その結果、レヴィンはまだ少し警戒しているようだが、一先ず場の空気は良くなったのだった。
「……痴話喧嘩の最中のところ、失礼するぞ?」
なんとか丸く収まってくれたか……と少し安堵したところで、皮肉交じりに掛けられた言葉は────再び現れたスーヤ騎士団のグラシアから発されたもの。
「そんなんじゃない……要件は?」
「市民や兵士達に軽く聞いて回ってきたのだが……アルス殿の報告と照らし合わせた結果、悪い事実が判明した……それを伝えに来た」
「なに……?」
悪い事実……その言葉に眉を顰めるアルスに対し、エルフの騎士は淡々とその内容を伝え始める。
「此度の事件……どうやら南側の砦が襲撃を受けたのが発端らしい」
「……」
「南の砦が襲撃され、その救援に戦力を割いてる内に北の砦が魔王軍に襲撃され、その結果戦線が維持出来なくなった……というのが大まかな流れのようだ」
「そうだったのか……」
「北側の砦を襲撃したのはアルス殿から報告を受けた魔龍族や黒い魔族の群れで間違いなさそうだが……南側の砦はたった一体の敵によって落とされたらしい」
「……その敵は?」
明かされた城塞都市クヴィスリング襲撃事件の詳細……それはとても興味深いものだったが、その中で沸いた疑問に対する騎士の答えにアルスの目は見開いた。
「血のような、赤黒い布を纏った騎士……目撃者はそう言っている」
────赤黒い、布……?
その言葉に、アルスが思い出したのはクヴィスリングに足を踏み入れる直前に発見した三人の男女の遺体。
損壊が激しく直視出来なかったが、バラバラに斬り刻まれたその手には……確かに目撃者の証言に合致する物が握られていた筈だ。
「……何か思い当たる事でも?」
「実は……」
顔に手を当てて考え込むアルスの態度を訝しんだのか、冷たい瞳で刺すように問い質すグラシア。
そんな彼女にたった今思い起こした正体不明の敵に繋がる手掛かりを伝えると、「なるほど……後で部下を現場に向かわせよう」と言葉を返された。
「その騎士って……魔物ではないんですか?もしかして……人型の魔物なんじゃ……」
その後、横から挟まれたのは謎の敵に関するレヴィンの考察。
それに対してグラシアは感心したように顎に手を当てる。
「一時期噂になったやつか……遠すぎて鎧の中身までは見えなかったそうだが、その可能性は高いかもしれんな……もしくはフォルリアが化けた姿か……」
「フォルリア……?」
「先程までアルス殿が交戦していた魔物の名だ……"全能のフォルリア"……ここ数年、我々が追っている魔王の側近と思われる個体……実際にこの目で見たのは初めてだったが」
「そんな奴が……」
フォルリア────その名を聞かされ奴と対峙した時、凄まじい怖気が走ったがそこまでの奴だったとは……
そう考えてる内に二人の会話は終わり、「とにかく……」とグラシアは切り出した。
「騎士のような何者か……そのような敵の討伐報告は受けていない」
「つまり……取り逃した大物はもう一体いたわけか」
「……そういうことだ」
グラシアの言いたい事を理解し補足するアルス────瞬間、場に緊張が走る。
逃亡した魔王の側近フォルリアと、南砦を単騎で陥落させた正体不明の騎士……戦いが終わったとはいえ、残された不安は余りにも大きいものだった。
「いずれにせよ……君達討伐隊からはもう少し詳しく話を聞かせてもらう必要がある」
「え……?」
「先程使者を出した……しばらく経てば迎えが来るだろう」
「えっと……それって……」
不穏な空気が漂う中……払うように切り出されたエルフの騎士の言葉に困惑の色を見せるレヴィン。
そんな話を呑み込めてない様子の彼女に対し、グラシアは向き直り……その意味を口にする。
「共に我が国まで来てもらうぞ……討伐隊の諸君」
こうして一行は、城塞都市クヴィスリングでの激戦が終わったのも束の間……大陸で最も信仰されているスーヤ教発祥の地────宗教国家"アミナス教国"へと赴く事となった。
お疲れ様です、ここまでお読み頂きありがとうございました。
第二章"城塞都市クヴィスリング編"はこの話にて完結です(後に番外編を差し込むかもしれませんが)。
第三章"アミナス教国編"は1週空けて9/5(金)から投稿開始する予定です。
来週(8/29)は番外編でも投稿出来たらと思います。
それでは次回からまたよろしくお願いします。




