26話:一致団結
〜前回までのあらすじ〜
城塞都市クヴィスリングで始まった二度目の大きな戦い。
勇者アルス一行は遂に、死闘の末に敵将である二体の上級魔族の撃破に成功する。
壮絶な戦いを制した後、一行は……
大陸中央にある城塞都市クヴィスリング。
炎と黒煙が上がる街並み……その上に先刻まで雲を切り裂くような鋭い風の音と共に、大空を舞っていた魔龍族の姿はもうない。
「はぁ…はぁ……」
────都市の中に住んでいた市民や兵士達を殺戮したであろう魔龍族は今や……破壊され尽くした広場の中、石畳の地面の上で屍の山を築いていた。
「……ふぅ」
その中でも一際目を引く、他の魔龍の遺骸に比べて大型の紅い龍を見てアルスは物思いに耽る。
上級魔族……紅い竜巻フラスト────思い返して尚、恐ろしい相手だった。
魔龍族の中でも卓越した炎と風の自然魔法を操る技量に加え、制空権を得てる優位性を活かした戦術を合理的に実行できる頭脳・判断力。
黒い魔物ではなく奴が指揮を取っていたら、戦いの結果は全く違うものになっていたかもしれない。
「アルス!!」
────そうしていると、不意に聞こえてきた仲間の声。
振り向いた先には少し涙ぐんでるレヴィンがいた。
「よかった…無事で……!」
「あぁ…ところでウォルフはまだ……?」
「うん、まだ治療中……でもフィルが命に別状はないって!」
「そうか……よかった」
そんな彼女からの報告を聞いて、アルスは思わず笑みを零す。
早く仲間達の元へ戻ろう……そんな思いと共に歩み出すと、後ろから再びレヴィンの声が聞こえた。
「ところでさ、水の防御魔法を張ってたからよく見えなかったんだけど……アルスがどうにかしてくれたの?あの紅い龍の最後の攻撃……」
「いや……それが俺にも分からないんだ」
「え?そ、そうなの……?」
「あぁ……それより早くフィルビーの元へ戻ろう」
「う、うん……」
その疑問に対する返事にレヴィンは一度煮え切らない反応を見せたが、それ以上追及してくる様子はない。
……が納得したわけではないらしく、後ろからは彼女がブツブツと呟く声が聞こえていた。
「アルスの話し声が聞こえてきたの、気のせいだったかな……?何かの詠唱かと思ったんだけど……」
・・・
フィルビーの元に戻りウォルフの様子を確認したところ、命に別状がないのは確かだった。
……が、もう戦える状態ではなく絶対安静との事らしい。
まだ残っているかもしれない要救助者を探そうにも、一先ず満身創痍な仲間を安全な場所まで送り届けたい。
それにはこの都市の兵団の人達と合流するのが一番だが……当然と言うべきか、先程市民を連れて避難した兵士達の姿は見える範囲にはいない。
「アルスさん!あそこ!!」
───代わりにフィルビーが指差した先に、上空へとよろめきながら飛んでいく魔龍の姿があった。
「まだ生き残りがいたか……」
「今度こそ私の魔法で……!」
「よせレヴィン、魔力の無駄だ」
しかし一度後退する以上、また会敵した時のためになるべく魔力は温存しておきたい。
それに飛んでる魔龍を見るに、恐らくは奴も満身創痍……放っておいても問題はないだろう。
「今の俺達に奴を追う余力はない……敵将も倒したし、ここは一旦退くぞ」
そう判断し、気を失ってるウォルフを連れて行こうと肩に手を回した……その時だった。
「なに……?」
「ひっ!」
「あ……」
────周囲に倒れていた敵の一部が突如として起き上がり出した。
魔族達に外傷はない……どうやらフィルビーの魔法により眠らされていた魔族のようだ。
「ごめんなさい……私のせいです」
「気にするな、この程度の数なら……」
……とはいえ目覚めたのは数体。
些細なものだ、と思いつつ今一度駆除するためアルスは再び剣を抜く。
『『『メキメキ……ッ』』』
────しかし次の瞬間、目の前の眼球に触手が生えた姿の魔物が音を上げながら分裂し……その数を倍以上に増やした。
「チッ……忘れてた」
"眼球の魔物"
分裂能力を持ち、剣による斬撃が実質的に効かない……戦いで疲弊して魔力も残り少ない今の状態では絶対に相手したくない厄介な敵だ。
目の前の絶望的な光景を見て、即座で炎魔法で消滅させなかった事を心の底からアルスは後悔した。
「ここは俺が喰い止める……レヴィンとフィルビーはウォルフを連れて、なんとか逃げてくれ」
……だが、後悔したところで敵は待ってはくれない。
今戦えるのは自分しかいない────そんな覚悟を胸に秘めながら、アルスは仲間に指示を出し……自身は剣を構える。
「「「「【大地の捕食】!!!」」」」
────そうした矢先、不意に詠唱が聞こえると同時に地面に大きな亀裂が走り……眼前の魔族の群れを呑み込んでいった。
「君達は……」
驚くべき事に、詠唱が聞こえた先にいたのは先程避難した筈の兵士達。
「クヴィスリングの兵団が一人、ライル・シュミットであります!他部隊から応援を呼んで来ました!!」
そしてライルと名乗った青年の言葉通り、その後ろにも数々の兵士達が控え……名乗りを上げていた。
「応援は有難いが……良いのか?」
「勿論、あなた方のお陰で無事に市民を避難させる事が出来ました!数は多くないですが、これより我々も加勢させてください!!」
「ありがとう……恩に切る」
「それは此方の台詞ですよ!隊長達の、仲間達の仇を討ってくれて本当にありがとうございます…!これで少しは皆浮かばれる筈です!」
不意に青年から伝えられたのは……本来、立場の低い魔王討伐隊である自分達が受ける筈のない純粋な感謝の言葉。
ヴァイゼン村で村人を救えなかった時や、それ以前からずっと無力感に苛まれていたアルスはそこでほんの少し救われた気持ちになった。
「オ…アア、アァ……!!」
「イ、イイイイイイ……タタタタタタ……」
「ダ…カ……ケテ……」
「モ……ヤ………シテ……」
────眼前では、裂けた地面の中から不気味な呻き声を発しながら眼球の魔族が膨張し、這い上がってきたが……今はもう、負ける気がしない。
「全く、無駄に数が多いな……邪魔だ」
今ならどんな困難だって、乗り越えられる気がする。
そんな希望を胸にアルスは剣を構え、後ろの兵士達もそれに続く。
「ゆくぞ!今こそ恩に報いる時!!」
「「「オオオオオオオオオオオォッッッ!!!」」」
そこには立場の差などない……目の前の脅威に対し、一致団結する人類の正しい姿があった。




