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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第二章:城塞都市クヴィスリング編

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28/59

23話:漆黒の悪魔との死闘

〜前回までのあらすじ〜

城塞都市で本格的に開幕した二体の上級魔族との戦い……

敵将の片割れである黒い鎧のような外殻を纏った魔物ザヴォートの強さに苦しめられつつも、聖職者の少女フィルビーと戦士の男ウォルフの二人は遂に攻略の糸口を見つける。

しかし希望が見えた矢先、ザヴォートは真の姿を晒し全力で二人に襲い掛かる……!

「さァ……処刑(しょけい)の時間だ……!!」


 漆黒(しっこく)(よろい)を思わせる外殻(がいかく)が特徴的だった上級魔族ザヴォート……

 ───その正体は、薄黒(うすぐろ)い筋繊維が()き出しになった様な(おぞ)ましい姿の魔物だった。



「【不全なる器(パラライズ)】!!」


 その異形(いぎょう)の姿に一瞬気圧(けお)されそうになるも、逆に好機(チャンス)だと即座(そくざ)に立て直しフィルビーは呪文(じゅもん)(とな)える。

 高密度の魔力で生成(せいせい)された漆黒の鎧の守りがない今、自身の麻痺の魔法は十分に効く(はず)……


無駄(むだ)だ」

「!?」

 ───そう考え魔法を放った瞬間、嘲笑(あざわら)うような声と共に異形の魔物(ザヴォート)の姿はフィルビーの視界から()()()


「速い…!」


 (いな)……有り得ない速さ(スピード)で回避したのだ。

 雷魔法の一種である麻痺の魔法(パラライズ)容易(たやす)(かわ)し、目の前から消えたと錯覚(さっかく)させる常識外れの速度にフィルビーは驚愕(きょうがく)した。


「当てりゃ殺せるってことだろ!?」

 そんな怪物に対し、ウォルフは一切(おく)した様子なく双剣を手に突っ込む。

 恐らく大剣では今の異形の魔物(ザヴォート)相手に当てるのは難しいという判断だろう。



「【地獄の鋼禍(デヴォル・ジリエーザ)】……【魔弩(ウロボクス)】……ッ!!」


 刹那(せつな)異形の魔物(ザヴォート)は全身から漆黒の矢を生やし一斉(いっせい)()き放った。

 山形(やまなり)に発射された矢の嵐の標的(ひょうてき)は─────フィルビーだ。


「ダメ!避けてッ!!」

 一瞬だけ此方(こちら)を振り向いたウォルフ……その隙を突くように後方から(すさ)まじい勢いで(せま)る巨大な槍を構えた異形の魔物(ザヴォート)の姿がフィルビーの目には見えていた。


『バキャァッ…』

 その叫びを聞いたウォルフは咄嗟(とっさ)に回避行動を取るも、時(すで)に遅く旋回(せんかい)する巨槍によって鎧の胸部装甲(前面)(くだ)()る。

 ───直撃していれば身体ごと貫通していただろう破壊力にフィルビーは背筋(せすじ)(こお)らせた。



「【武装解除(ギア・リベレ)】!!【魔剣(ダイン・スレイヴ)】!!」


 追い討ちを掛けるようにウォルフに向け巨槍を破裂させつつ、同時に両腕から漆黒の剣を生み出し突っ込む異形の魔物(ザヴォート)

 それに対応するように壊れた鎧を脱ぎ捨てたウォルフは双剣で黒い破片(はへん)を打ち落とし、そのまま異形の魔物(ザヴォート)に向かって走り出した。



「ウォルフさん!くっ…!」


 助けに向かおうとしたところで、降り注がれた大量の矢の雨がフィルビーの()く手を(はば)む。

 加えて先程異形の魔物(ザヴォート)が放った鎧を破裂させる攻撃(ギア・リベレ)により負傷(ふしょう)した足……すぐに援護(えんご)に向かうのは難しそうだ。



 ───そうしてる間にウォルフと異形の魔物(ザヴォート)壮絶(そうぜつ)な斬り合いが始まった。


『ガキィッ!!』『キィンッ!』『ガキンッ!』


 激しい金属音と共に火花が散っていく。

 一つ一つの斬撃で風が(うね)り、空気をも斬り裂く勢いの攻防はとても目で追い切れない。


「チッ!んだこの動きは…!」


 ……しかし、どうやら押されているのはウォルフの方だ。

 漆黒の外殻を()ぎ去ったことにより向上した素早さ(スピード)勿論(もちろん)、その巨躯(きょく)からは想像出来ない程の柔軟(じゅうなん)な動きにウォルフは翻弄(ほんろう)されていた。


『ドスッ!』『ガキィッ!!』


 ───それに加えて、隙があれば身体の至る部位から槍や矢のような武器を最早無詠唱(ノータイム)で生み出し攻撃を繰り出してくる。


 その予測不可能な猛攻(もうこう)にウォルフは固有(重力の方向を操る)魔法で体勢を変え、無理矢理に回避をし続けた……が、次第に追い付かなくなり地面に鮮血(せんけつ)が飛び散り始める。



「クソッ…!」


 いよいよ追い詰められて距離を取るように上空へ飛ぶウォルフ。

 それに対し異形の魔物(ザヴォート)は「今度は空中戦か?私も得意だぞ…!」と凶悪な笑みを浮かべながら身を(かが)め……


『ドンッ!!!!』

 次の瞬間、地が割れるような轟音(ごうおん)と共に姿を消した。


「チッ!どこだ!?」

「上です!!」

「!!」


 ───が、遠方にいるフィルビーの目は敵の動きを(とら)えられた。

 声掛けにより、振り下ろされた斬撃をウォルフは紙一重(かみひとえ)で躱す。


「空中で軌道(きどう)を自在に変えるとは…フラストの奴でもここまで緻密(ちみつ)調整(コントロール)は出来まい…!」


 異形の魔物(ザヴォート)心底(しんそこ)楽しそうだった。

 空中戦が得意───その言葉に(いつわ)りがないように建物の外壁を()って()()い、時には()い回るように高速で移動し縦横無尽(じゅうおうむじん)に攻め立て続け、戦いを楽しむ姿はまるで狂戦士(きょうせんし)(よう)……


「ゼェ…ッ…ハァッ…!」

「カカカッ!いいぞッ!!(もが)け踠けェーッ!!」


 ───いや、相手を(なぶ)行為(こうい)を楽しむその姿は正しく漆黒の悪魔そのものだ。


 (あら)ゆる方向から飛んでくる執拗(しつよう)な猛攻に防戦一方の中、いよいよウォルフは息を切らし始めていた……このままでは()られる。



「【不全なる器(パラライズ)】!!」


 そこで(ようや)く足を引き()りながら間合いに入ったフィルビーは呪文を唱え、ウォルフの周囲に麻痺の魔法を()(めぐ)らす。


「ガッ!?しまっ……」


 ───高速で動く異形の魔物(ザヴォート)の動きを完全に捉えられなくとも、その移動先を読むことは出来る。

 回避行動の取れない空中で、本体に麻痺の魔法(パラライズ)を当てられた異形の魔物(ザヴォート)は動きを止め、完全に無防備(むぼうび)な状態となった。


「うおおおおおおおおおおッ!!!」


 その決定的な隙にウォルフは咆哮(ほうこう)を上げながら双剣で斬り掛かる。

 鎧がない今、前のように身体から槍を数本生やして防御したところで此方(こちら)の攻撃を防ぎ切る事は出来ない筈……



下等種(かとうしゅ)分際(ぶんざい)で寄るな、(けが)らわしい……ッ!!」


 ───そう思った矢先、異形の魔物(ザヴォート)の全身から大量の槍が打ち出された。

 全方位への攻撃に、流石(さすが)のウォルフも近づくことが出来ない。


「そんな……」

 その結果にフィルビーは自身の認識(にんしき)が甘かった事を痛感(つうかん)する。


 奴を(おお)っていた黒い鎧……どうやらそれは奴への攻撃を防ぐ防御であると同時に、奴自身の攻撃をも(さえぎ)ってしまう(リミッター)にもなっていたようだ。

 魔法を主武装(メインウェポン)とする者には魔力耐性の高い鎧で無力化し、それを破る物理攻撃を持つ者には鎧を脱ぎ捨て向上した素早さ(スピード)で攻める二段構えの戦闘様式(スタイル)……

 何よりも鎧を捨てた後の尋常(じんじょう)じゃない攻撃の手数・範囲・量────これが上級魔族ザヴォートの全力……!



「チッ、楽しい狩りの時間に水を差しおって……(きょう)()めたわ」


 敵の強さに戦慄(せんりつ)していると、前方から(ひど)く冷めたような異形の魔物(ザヴォート)の声が場に響く。

 高所から落下した異形の魔物(ザヴォート)は、衝撃(しょうげき)粉々(こなごな)になった漆黒の槍を全身からボロボロと()がすように落としながらフィルビーへと顔を向け……


「邪魔者は(すみ)やかに始末(しまつ)せねばな……!」

「ッ!?」


 ───その瞬間、(すさ)まじい殺気(さっき)がフィルビーの全身を貫いた。



『『ギィンッ!!』』

 反射的に構えた直後、頭部と杖に強い衝撃を受けてフィルビーの身体が吹っ飛ばされる。

 ……何が起きたのか分からない。


「う……ッ」

「ほぅ……虫ケラにしては良い反応だ」

「!?」


 クラクラする頭を(おさ)えてゆっくりと目を開くと……そこには此方を見下す異形の魔物(ザヴォート)の姿があった。

 あの距離から一瞬でここまで来たというのか。


「それに額当(ひたいあ)てか……なんとも運の良い奴だ」

 その両手には漆黒の剣が(にぎ)られていた。

 構えた杖といつも身に付けていた額当て……()()()()()()()()()()()()()がフィルビーを(かば)ってくれたようだ。


「だが……二度目はない!!」

 しかし…杖は真っ二つに折れ、額当ての存在も看破(かんぱ)された今、最早(もはや)フィルビーを守ってくれる物はない。

 そんな彼女に対し、異形の魔物(ザヴォート)容赦(ようしゃく)なくその手に握る凶刃(きょうじん)を振り下ろす─────





『ガキィッ!!』

 祈るように目を(つぶ)った直後、鈍い音が鳴り響いた。


「これ以上、(うば)わせねェ……ッ!!」

 ───目を開けた先に見えたのは、双剣で敵の攻撃を防ぐウォルフの姿。

 ……限界が近いのか、剣を(にぎ)る手は震えている。


「まだ足掻(あが)くか…これ程までに格の違いを見せつけたというのに……烏滸(おこ)がましいッ!!」

「ぐうぅぅゥ……ッ!!」


 そんな彼に対し異形の魔物(ザヴォート)は吐き捨てるように言って、両腕に力を込める。

 直後、鍔迫(つばぜ)()っている剣から『ミシミシ……ッ』と悲鳴のような音が立つと同時にウォルフの(うめ)く声が上がった。


「ウォルフさん!!」

 自分を守る(ため)に必死に身体を張る仲間……それを助けるためにフィルビーは恐怖で(すく)んでいた足を(ふる)い、なんとか立ち上がる。



『ゴオオオオオオオオオオオオォォォォ……ッッ!!』

 ───その時、少し離れた場所から()けるように熱い空気を振り()く炎の竜巻(たつまき)が勢いよく上がった。

 その(あか)い竜巻の中からフィルビーが感じたのは……二人の仲間(アルスとレヴィン)の魔力反応。


「おらァッ!」

「グッ…!」


 その竜巻に異形の魔物(ザヴォート)が一瞬気を取られたように動きを止めた(さい)、ウォルフは声を上げると共に鍔迫り合う漆黒の剣を二本とも(はじ)き飛ばした。


「チィッ!先を越されたか……!」

 それでも異形の魔物(ザヴォート)は一切(ひる)む事なく、新たに生成した漆黒の槍を手に再びウォルフに襲い掛かる。


「此方もそろそろ終わらせるとしよう!!」


 ────刹那、金属同士が激しく打ち合う音と共に二度目の一進一退(いっしんいったい)の攻防がフィルビーの目の前で()り広げられる。



「ハァ…ッ…ハァ…ッ!」


 向かってくる攻撃全てをウォルフはギリギリで(さば)く……しかし、これでは先程と同じ消耗戦(しょうもうせん)だ。

 明らかに疲弊(ひへい)している彼の身体にはもうほとんど魔力が残っていない。

 その上、今回はフィルビーを守りながら戦っている……このままでは……


「ウォルフさん!私のことはいいから自分の身を守って……」


 気付けば声が出ていた。

 魔法に指向性(しこうせい)を持たせる道具である杖を失った以上、これまでの様に敵だけを狙う的確な援護(サポート)は難しい。

 それならばウォルフが攻撃に集中してくれた方がまだ勝ちの目がある。


「出来るか!」

「でも!」

「んなことより()()を!!」


 そう考えた(すえ)のフィルビーの提案にウォルフは首を縦に振らず、代わりに片手を後ろに回し()()()を差し出してきた。


「……!」

「早くしろッ!!」


 ()()()()()()()()()……それに(こた)えてフィルビーはその物体に(おのれ)の魔力を込める。


「カカーッ!(もら)ったァ!!」


 その一瞬の隙を異形の魔物(ザヴォート)(のが)さなかった。

 漆黒の槍を手に、高速で此方に接近し……


『ドシュッ……』


挿絵(By みてみん)


 ───その勢いのまま、ウォルフの腹を貫いた。

 瞬間、鮮血がその場を()う。



「グッ…やっと(つか)まえたぜ……ッ!」

「チッ!」


 しかし、それと同時にウォルフは細身の剣で異形の魔物(ザヴォート)の腕を深々と突き刺し……

 そして、逃げられない敵に()()()()()()()()()()()()()()()()を突き刺した。



『ドゴォッ!!』

 直後、(するど)い衝撃音と共にウォルフの身体を(ちゅう)を舞い、派手に転げ回る。


最期(さいご)まで無駄な足掻(あが)きを……!」

 吹っ飛ばした張本人である異形の魔物(ザヴォート)不愉快(ふゆかい)そうに(つぶや)きながら刺さった剣を引き抜いていく。


「分かっているだろう?我らと貴様らでは生物としての格が違う……この程度の傷、何の痛手にもならん」

 ───捨てられた剣が『キィン…ッ』と音を鳴らす頃には、既に腕の出血は止まり……傷も(ふさ)がり始めていた。



 ……魔族は人間に比べて身体の治癒(ちゆ)・再生能力が高い。

 どんなに攻撃を与えたところで、致命傷(ちめいしょう)でなければ今の異形の魔物(ザヴォート)のように立ち所に治してしまう。

 それが現在の人類と魔族の戦争において、人類が劣勢(れっせい)に立たされている原因の一つだった。



「……だが、ここまで私を(いら)つかせた下等種は貴様らが初めてだ……!」

 傷を完全に塞いだ後、異形の魔物(ザヴォート)はそれまでウォルフに向けていた殺意をいよいよフィルビーに向け……片腕に漆黒の大剣を形成する。


「その礼を…今ここでしてやるッ!!」

()()……ッ!!」


 振り上げられた殺意の(かたまり)を前に、フィルビーは今は()恩師(おんし)(すが)るように手を合わせて必死に祈り続けた。








 ───しかし、それからしばらく()っても……大剣が振り下ろされることはなかった。


「な……ッこれは……ッ!?」


 目の前の異形の魔物(ザヴォート)は先程と同様、大剣を振り上げた姿勢のまま完全に動きが止まっていた。

 ……どうやら()()()()()ようだ。


「まさか……さっきの剣に……ッ!?」

 その事象(じしょう)困惑(こんわく)を見せていた敵もどうやら気が付いたようだ。


 先程ウォルフがフィルビーに向け()()()()()()()()……それは双剣の片割れである一本の細身の剣だった。

 フィルビーはその剣に、次いで出された彼からの指示通りに麻痺の魔法(パラライズ)()()()()()した。

 その剣を敵の本体に刺したことで、麻痺の魔法を身体の内部に(じか)に流し込んだ……その効果時間は今までで最大のものになる(はず)だ。



「勝つぞッ!!」

 完全に拘束(こうそく)された異形の魔物(ザヴォート)に対し、それまで倒れていたウォルフは立ち上がり……今度は大剣を手に真っ直ぐに突っ込む。


「馬鹿が!何度やっても同じだ!!」


 たった今蹴散(けち)らされたにも関わらず、何度も何度も立ち上がってくるその男に対し異形の魔物(ザヴォート)は完全に激昂(げきこう)し、その身に宿(やど)る魔力を(ふく)らませる────恐らくまた全身から槍を放つ気だ。


「へっ……!」


 そのまま近づけば、仮に異形の魔物(ザヴォート)を倒せたとしても反撃(カウンター)の槍でウォルフ自身も命を落とすだろう。

 ……にも関わらず、ウォルフは何の躊躇(ためら)いもなく飛び上がり、口角(こうかく)を上げると共に大剣を空に向かって(かか)げた。


「俺は、相討(あいう)上等(じょうとう)だぜ……!!」

「……ッ!!!」


 その一切の迷いがない(ひとみ)気迫(きはく)に、これまでその強大さを見せ付けてきた上級魔族ザヴォートが一瞬気圧(けお)されたようにフィルビーの目には(うつ)った。



「【完全武装(ギア・ソルテ)】!!!」


 ───直後、響き渡る詠唱と共に異形の魔物(ザヴォート)の漆黒の鎧が復活した。


『バキィ……ッッ!!』


 渾身(こんしん)一撃(いちげき)……その筈だったウォルフの大剣の一振りは、漆黒の鎧により打ち(くだ)かれてしまった。


「フン……!」

 粉々に砕け散った大剣を見て、黒い魔物(ザヴォート)はほくそ笑むように笑う。


 その判断自体は正しい。

 全身から槍を放っていれば、恐らくそれごと叩き斬られていただろう。

 ────だが、どの道もう終わりだ。


「貴様!!何を!?」


 鎧を復活させた黒い魔物(ザヴォート)……その巨体(きょたい)に向かってフィルビーは()んでしがみ付く。

 その突然の行動に狼狽(ろうばい)を見せる敵を余所(よそ)に、フィルビーは身体から魔力を放出させると同時に目一杯(めいっぱい)肺に空気を取り込んだ。



 これまでの戦いで一つ分かったことがある。

 目の前の敵……ザヴォートは武器や鎧を生成する際、常に身体から(じか)に生やすように生み出していた。

 ───つまり、恐らくは鎧の上から新たに武器を出す事は出来ない筈だ。


「〜♪」


 鎧の上に取り付いた今なら、反撃は出来ない筈……そう確信したフィルビーは黒い魔物(ザヴォート)密着(みっちゃく)したまま思い切り詠唱した。


「魔力…ガ…ッ!ヤメロッ!!」


 それは……これまで何度も使用してきた魔力範囲内で聴いた相手の感覚を強制的に閉じさせる子守唄(眠らせる魔法)

 ────感覚を眠らされた状態では、魔力を操ること等は出来ない。



『ズボッ…』

 フィルビーが生み出した絶好(ぜっこう)機会(チャンス)に、ウォルフは自身の身体に刺さった槍を(つか)んで思い切りに引き抜き……振り被っていた。


 大剣や双剣……武器を全て失った今、それで決着を付けるつもりなのだろうが、それは不可能だ。

 鎧に覆われている今の黒い魔物(ザヴォート)致命傷(ちめいしょう)を与えるには、鎧の隙間(すきま)───頭部を槍で貫くしかないだろうが、ウォルフの魔力が切れかけて飛べない今……その巨体に向かって投擲(とうてき)するしかない。


 しかしただでさえこれまでの戦闘で疲弊(ひへい)した身体……その上で腹から無理矢理に槍を引き抜いた瀕死(ひんし)の状態の今、漆黒の槍を投げ飛ばすにも力が足りず目標(ザヴォート)には届かないだろう──── ()()()()()()


「うおおおおおおおおおおおオオオッッッ!!!」


 しかし、重量の方向(ベクトル)を変える……()()()()()()()()()()()()()()()()その魔法があれば、高所から投げ落とすように勢いを付けることが出来る筈だ。


『ブォンッ!!』

 血を吐きながら最後の魔力と決死(けっし)の覚悟を込めて放たれたであろう漆黒の槍は、動けず魔法も出す事が出来ない黒い魔物(ザヴォート)に向かって一直線に飛んで行き……


『ドシュッ!!』


 ───頭部の鎧の隙間……その奥底(おくそこ)に光る黒い魔物(ザヴォート)瞳孔(どうこう)を勢いよく貫いた。

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