第42話 犬猿の仲
トビたちが朝目覚めた時には、すでにメイビスはいなくなっていた。
イヴンは「いつも気づいたらいないんだから!」と怒っていた。
トビたち一行は村長に挨拶し、山を下り始める。
「ここを越えたらスピカ王国だね」
「地大陸最大の王国。私も来るのは初めてです」
「アルバ王国とかいうクソ国に比べたら遥かにマシよ。ご飯は美味しいし、設備は綺麗だし、貴族が幅を利かせてない」
「いろんな種族のカワイ子ちゃんがよりどりみどりやで~」
山を下った後はまた樹海に入る。
樹海の道中は魔物との戦いの連続だった。トビとイヴンが前衛、ソフィアは後衛で風魔法を駆使する。
「あのさぁ、アンタの風で私の肌が傷ついたんだけど! 下手くそ!」
「あなたが勝手に当たりに来たんじゃないですか……!」
「魔法使える癖に役に立たないわね」
魔物を倒す度、イヴンとソフィアは喧嘩していた。
「仲良くしてよ……」
「なんで毎度喧嘩するんやろなぁ~」
「昨日は仲良く踊ってたのにね」
トビは「う~ん」と唸る。
(ソフィアからイヴンへは特別拒否感もないんだろうけど、イヴンがなんか、ソフィアに対して強い対抗心を抱いてる感じなんだよなぁ~)
トビには思い当たる節があった。
(耐性を持たずに生まれたイヴンと、種族耐性と天性耐性の二つの耐性に恵まれたソフィア。イヴンがソフィアを意識しちゃうのも仕方がないのかもな)
とはいえ、このまま摩擦が続くのもまずい。
トビは空気を変えようと、草原に出たところで足を止めた。
「一度休憩しようか」
「そうね。アホエルフのせいで疲れたし」
「それはこっちのセリフです!」
イヴンとソフィアは離れて座る。
トビは「やれやれ」とため息をつき、イヴンより話の通じるソフィアに話しかけた。
「ソフィア。ちょっと話があるんだけど」
「言いたいことはわかってます。イヴンさんのことですよね」
トビが何も言わずとも、ソフィアはトビが何を言いたいのかわかっていた。
「パーティを組んだ以上、仲良くするべきなのはわかってます。でも……ヒューマンの女性と友達になったことがなくて、正直距離感がわかりません。まさかヒューマンの女性があそこまで傲慢だとは……」
「種族は関係ないよ。あんなに我儘なのは彼女だけ」
トビは一つ、あることに気づく。
(そっか。ソフィアはソフィアでまだヒューマンへの不信感を持っているのか。あれだけのことがあったから仕方ない。特にああいう自己主張の強いタイプは苦手なんだろうなぁ……この二人、とことん相性悪いな)
トビは肩に乗っているヨタマルに話しかける。
「ねぇヨタマル。イヴンの好きなモノとかわかる?」
「おにいちゃんのことは大好きやで」
「おにいちゃんって、勇者様のことか……」
「とんでもないブラコンや」
「他には?」
「努力も好きや。気づいたら修行しとる」
「……他には?」
「後はあれやな、美味しいモノが好きやで」
「美味しいモノか」
「あ、それなら……!」
ソフィアは手をパチンと合わせる。
「私が絶品料理を作ります! それで一気に仲を深めましょう!」
「絶品料理って、まさか……」
トビの背筋を悪い予感が走る。
「昆虫料理じゃないよね?」
「昆虫料理ですよ?」
「……ねぇヨタマル。一応聞くけど、イヴンって昆虫料理は好きそう?」
「絶対無理やと思う」
「ソフィア。昆虫料理以外はいける?」
「いけますけど……昆虫料理に比べたらレベル落ちますよ?」
「大丈夫! じゃ、昆虫料理以外でお願い!」
「わかりました」
ソフィアが料理に取り掛かる。すると、ソフィアの様子を不思議がったイヴンがトビに近づいてきた。
「なにやってんの?」
「料理だよ。ソフィアは料理が得意なんだ」
「へぇ~。いいじゃん。エルフの料理って興味あるわ」
(お、好感触だ。良かった)
「じゃあ食事の前に、腹空かせましょうよ」
イヴンはトビの肩に乗っていたヨタマルの首を掴みあげる。
「結局じっちゃんには逃げられちゃったから、仕方ないからアンタに教えてもらうわ」
「僕に? なにを?」
「因果応報よ。第一段階までしか使えなくても、覚えておいて損はないでしょ」
ヨタマルが変化し、『痛』と書かれた盾になる。
「ヨタマルの言う通り、努力が好きだね」
「はぁ? 私は努力なんてしないわよ。天才だからね。これはただの遊び!」
「はいはい。いいよ。付き合うよ」
トビは籠手を構える。
「始めようか」
「いっくわよ~!」
トビの籠手とイヴンの盾が衝突する。
【読者の皆様へ】
今日18時より『神竜に丸呑みされたオッサン、生きるために竜肉食べてたらリザードマンになってた』が始まります。
神竜に丸呑みされ、生きるために神竜の大腸(?)の肉を貪っていたら体がリザードマンになっていたオッサンの話です。主人公最強系です。ぜひご覧くださいませ!




