第40話 馬鹿野郎
「トビさん!!」
ソフィアは血まみれのトビに近づく。
「トビさん! しっかり!」
トビはその場に座り込むも、ソフィアを安心させるために笑顔を見せる。
「大丈夫、平気」
「全然大丈夫じゃないです!」
「あー、もううっさいわね」
割れた後頭部を治癒しながら、イヴンが歩いてくる。
「おちおち、寝てもいられないわ」
「イヴン! だ、大丈夫なの!?」
「大丈夫なわけあるかぁ!! 河が見えたわよあの世に繋がる河が!」
ソフィアは申し訳なさそうに顔を背ける。それを見かねたイヴンは、フンと鼻息を鳴らし、ソフィアの頭にそっと右手を乗せる。
「よく耐えたわね。アンタのおかげで奴を逃がさずに済んだわ」
仲間がいくら傷つけられてもソフィアは出ていかず、ジッと物陰で耐えた。仲間を見捨てているような罪悪感に苛まれていたはずだ。それでも耐え続けた。
ソフィアは仲間想いのの性格だ。仲間が痛めつけられるのは自分が痛めつけられるより遥かに辛いことだった。
そんなソフィアの心情を見抜き、イヴンは慰めた。ソフィアはイヴンの善意は感じているものの、ソフィアも素直ではないのでイヴンの右手をパチン! と手で払いのけた。
「ある程度処置が終わったらじっちゃんの援護に行くわよ」
「いや、それはやめておいた方がいい」
「はぁ? どうしてよ?」
「あっちのクリシュはここにいたクリシュより50倍近く強いんだ。僕らなんて一瞬で殺されちゃうよ。足手まといになる。ここで待とう。メイビスさんが負けたら諦めて逃げるしかない」
「私もトビさんに賛成です。私たちが人質に取られたりするのが最悪の展開かと」
「でも見たくない? 超一流同士の戦い」
「我慢しなよ」
「う~……」
三人は村でメイビスの帰りを待つことにした。
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メイビスvsクリシュ。
勝負はついていた。
戦いの場は山から近くの樹海の湖まで移動し、その湖の傍にある木に、もたれかかるようにしてクリシュは座っていた。
クリシュは心臓を銀の槍で刺されており、絶命まであと少しというところだった。メイビスはクリシュを憐れむように見下ろしている。
「因果応報は完全無欠か。アンタの言う通りだな」
「クリシュ……最後に聞かせろ。なぜヴァンパイアになった?」
「……何回聞くんだよそれ。言いたくねぇって言ってんだろ……でも、まぁいいか。どうせもう死ぬし」
クリシュは空を見上げ、
「アンタの技を、継承したかったんだよ」
メイビスは目を見開く。
「アンタが言ったんだぜ、因果応報は命に執着があっちゃ使えないってな。俺は人一倍死が怖かったから……俺は人間である限り、死の恐怖を振り払えなかった。死ぬまでずっと、死の恐怖を消せなかっただろう。だからヴァンパイアになった。死の恐怖を振り払うために……アンタの技、究極の因果応報を使うために……」
「馬鹿野郎が……」
メイビスは拳を握りしめる。その拳を向けたい相手はクリシュではなく、自分だった。
「でも結局、ヴァンパイアになっても因果応報は使えなかった。なんでだろうな……この体になってからずっと、心が落ち着かねぇんだ……」
メイビスは目を細める。
「因果応報を使うための条件は、死への恐怖を無くすことだけじゃない」
今度はクリシュが目を見開く。
「自分の身を賭してでも、守りたいモノが無きゃ……因果応報は使えない。守るモノがあるから、極限状態で集中力が増すんだ。お前はヴァンパイアになって、守りたいモノ全部投げ出したから因果応報を使えなくなった」
「はっ、なんだよそれ」
クリシュは両目から、涙を流す。
「なんでもっと早く教えてくれなかったんだよ……先生」
「馬鹿野郎。俺もいま、気づいたんだよ」
クリシュは体を塵にして、消え去った。
黒い塵が空をのぼっていく。メイビスは空に舞う塵を、ジッと見続けた。
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