表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/142

第八十八話 白鳥の活躍

「所詮、この程度か」


 夜明け前。

 ラースたちが眠りについて数時間が過ぎた頃、男は自らを拘束していた岩を破壊することに成功した。

 手に隠し持っていたコインの端で、チビチビと岩を削り取ってしまったのだ。

 彼はそのまま体についていた埃を払うと、自身の目の前で羽を休めている白鳥を見やる。

 深い闇の中にあって、なお光り輝くような姿は見事というよりほかはなかった。

 見たことのない種であったが、さぞかし優れた力を持つ霊鳥だろう。

 それと視線を合わせた男は、刺激しないように距離を保ちつつ糸を取り出す。


「どれ……」


 大地を蹴り、飛び出す。

 男は神速で白鳥の元へとたどり着くと、手早くその首を絞めた。

 そして意識を奪い取ったことを確認すると、袋を取り出して身体を詰め込む。

 その間、わずかに数秒。

 白鳥に悲鳴すら上げさせない、実にスムーズな犯行であった。


「よし。あいつらは……寝ているな。この鳥に任せていたか」


 ラースたちの居るテントを見やると、男はほくそ笑んだ。

 既に灯りは消されていて、およそ起きている気配はない。

 さらに注意深く近づいてみると、かすかにだが寝息が聞こえた。

 

「馬鹿め、油断しおって。いや、待てよ」


 テントに向かおうとした男は、先ほどの苦い経験を思い出して動きを止めた。

 寝静まっているラースたちを始末することは一見して容易だ。

 しかし、用心深い魔導師たちが罠を仕掛けていないはずがない。

 もしもう一度捕まってしまえば、今度こそ逃げられないだろう。


「仕方ない、一度撤退しよう。土産は出来たしな」


 肩にかけた袋を見やると、男は満足げにうなずいた。

 魔導師たちを仕留められなかったのは痛いが、この霊鳥は大きな成果だろう。

 依頼主の黒魔導師たちも、実験材料が手に入ったと喜ぶに違いない。


「じゃあな、魔導師ども」


 そそくさと走り出す男。

 その姿は瞬く間に闇へと消え、見えなくなってしまった――。


 ――〇●〇――


「見事な手際だな。いい切り口だ」


 翌朝。

 破壊された岩の十字架を見て、ツバキさんがつぶやく。

 十字の端、ちょうど男の手を固定していた部分が綺麗に削り落とされていた。

 これをたった一晩でやってのけるとは、なかなかの職人技である。


「本当にラースの言ったとおりになるとはね。難しいかと思ってたけど」

「そのために、テスラさんに頼んで少し細工をしてもらいましたから」

「端の強度、落としてある」


 そう言うと、テスラさんは懐からナイフを取り出した。

 その刃を岩の端に当てると、たちまち一片を削り落としてしまう。

 見た目の変化はほとんどないが、端だけ明らかに強度が落とされていた。


「なるほど、さすがだわ」

「上手いものだな。これなら、奴も気づかなかっただろう」


 ツバキさんはわずかに歯をのぞかせると、いたずらっぽく笑った。

 そう、暗殺者の脱走は俺たちが自ら仕組んだことだったのである。

 そのために、わざわざテントの中で寝たフリまでしたのだ。


「しかし、よく思いついたな。敵をわざとアジトに帰すなんて」

「いやいや。これも、クルルの協力があってこそですし」

「そうねえ。なかなか忠義な鳥だわ」


 腕組みをしたシェイルさんが、何ともしみじみとした口調で語る。

 それに合わせて、ツバキさんとテスラさんもまたうんうんとうなずいた。

 昨日の夜。

 みんなを集めた俺は、自分が男にさらわれて敵のアジトに侵入すると提案した。

 するとここで、すっかり存在を忘れられていたクルルがキューキューと割って入ってきたのだ。

 彼――クルルは雄である――曰く、自分が潜入して戻ってくると。

 

「クルル、戻ってくるか心配」

「大丈夫だと思いますよ。自信満々に、必ず帰ってくるって言ってましたから」

「クルルの言葉、そんなにわかる?」

「何となくですけど」


 そう言うと、たちまちテスラさんたちの表情が驚きに満ちた。

 彼女たちは目をぱちくりとさせながら、少し呆れたような顔をして言う。


「本当か? 勝手に思い込んでいるだけじゃないのか?」

「ちょっと疑わしいわねー」

「マジですって。あのキューキューって鳴き声を聞いてると、頭の中に言葉が響いてくるんです。ちょっとぼんやりした感じではありますけど……」

「クルルはテレパシーが使える、のかも」


 テスラさんが、額に手を押し当てながら言う。

 確かに、その可能性はあるな。

 クルルの親の空帝獣は、テレパシーを使って人と流暢に会話をすることが出来た。

 その能力が多少引き継がれていたとしても、全く不思議ではない。


「だとしても、何でラースにだけ声が聞こえるのかしら? 不思議じゃない?」

「飼い主だから?」

「それなら私たちにだって、聞こえてもいいはずだぞ。クルルの世話なら私の方がしているくらいだ」


 ツバキさんが、少しムッとした顔をする。

 そう言えば、クルルのことを何かとかわいがってたからなあ。

 しょっちゅうお菓子を食べさせていたし。

 クルルの飼い主として名を上げるならば、俺よりもツバキさんだろう。


「もしかすると、魔力の質とかに関係あるのかもね。ラースはそういうとこも特別だし」

「そうですか? 量はすごく多いみたいですけど……」

「質も特徴があるぞ。ラースほど純度の高い魔力は、あちこち旅した私でも見たことがない」

「金色に輝く魔力は、古来より特別と言われる。言わなかった?」

「いや、聞いた覚えはないです」


 へえ、そうだったのか……。

 今まで知らなかった事実に、俺は感嘆した。

 するとテスラさんは、俺の不勉強をたしなめるように目を細める。


「本にはよく出てくる。もう少し勉強する」

「すいません、最近何かと忙しくて」

「魔導師たるもの、勉強大事」


 自らもその言葉をかみしめるように、何度もうなずくテスラさん。

 それに続いて、シェイルさんが少し笑いながら言う。


「でも、ラースってほんとに何者なのかしらね? 魔導師の適性は、血縁にあんまり左右されないって言われてるけど……誰かすごい先祖でもいたんじゃないの?」

「別にそんなことは。うちは先祖代々、田舎の農民ですよ」

「ふむ……。ちなみにご両親は?」

「ただの村人です」

「まあ、そうよね。ラースって、なんか農民って感じがあるし」


 あっさりと、前言を翻したシェイルさん。

 農民って感じって……地味ってことか?

 まあ、主役になるようなタイプの人間ではないと自覚はあるけどさ。

 一応リーダーだし、もうちょっと言い方というものが――。


「む! 何かくるぞ!」


 不意に空を指さすツバキさん。

 その指の先を見やれば、何かがこちらへと向かってくる。

 霧に混じってしまってわかりにくが、鳥だ。

 小さな鳥が、こちらに向かってぐんぐんと近づいてきている。


「あれ、クルルですよ!!」

「キューキューー!!」


 俺たちが手を振るのに合わせて、クルルが嬉しそうに鳴く。

 これでようやく、敵のアジトを特定できそうだ――!


忘れられていた感のあるクルルが、久々の登場です!

次回からはいよいよ敵の本拠地に潜入、ご期待ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ