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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第百三十一話 ツバキの奥義

「ツバキさん……!」


 瞳を閉じて、深呼吸をするツバキさん。

 彼女の周囲からにわかに音が消えた。

 そして、それまで全身から微かに漏れ出ていた魔力が止まる。

 髪の毛から足の指に至るまで、全身のすべての細胞がコントロールされている証拠だ。

 これは、間違いなく冥霧山での修行の成果だな……!!

 ツバキさんはもともと洗練された剣術家だが、さらに一段、高みへと昇った感じがある。

 どうやら、彼女は彼女なりに奥義へと至りつつあるようだ。


「奥義……水鏡の域!」


 やがてゆっくりと大鬼に向かって歩き出すツバキさん。

 その動きは驚くほど無防備に見えた。

 さながら、すべての勝負を諦めて降伏にでも向かうかのようである。

 突然のことに俺たちは目を剥くが、次の瞬間――。


「避けたっ!?」

「なに、今の動き!?」


 それはさながら、風に舞う花弁のごとく。

 大鬼が放つ連続攻撃をツバキさんはすべて紙一重でかわしていく。

 その動きには一分の無駄もなく、攻撃がすり抜けてしまっているかのよう。

 しかも驚いたことに、彼女は眼を閉じたままだ。


「グオオオォッ!」

「ふ……」


 ツバキさんがいよいよ鬼の間近に迫った。

 鬼はここで落ちていた鎖を拾い上げると、あろうことか両手に握って振るい始める。

 まさかの二刀流……!?

 交差し、うなりを上げる二本の鉄鎖。

 勢いよく振るわれたその先端が、パァンと乾いた音を響かせる。

 その速さ、まさに目に見えないほど。

 縦横無尽に宙を割くそれを、果たして回避などできるものなのか?

 冷や汗を流す俺たちだが、ツバキさんの奥義も伊達ではなかった。


「すごい……!!」

「流石は奥義って言うだけあるわね……!」


 身体全体のバネを使って、しなやかに飛び跳ねるツバキさん。

 スルリスルスルと、面白いほどに鎖を回避していく。

 もはや、今のツバキさんに攻撃を当てられる存在などいないのかもしれない。

 その動きはさながら、一人だけ時の流れが違うかのようだ。


「はああぁっ!!」


 気迫の雄叫び。

 ツバキさんは一気に飛び上がると、そのまま大鬼の顔に斬りかかった。

 大鬼はとっさに腕で顔を庇うが、ツバキさんは強引に隙間から刀を差し入れる。


「グオオオアアアアッ!!」


 天を衝く悲鳴。

 それと同時に大鬼の右目から血飛沫が上がった。

 大鬼の巨体がにわかによろめき、その場に手をつく。

 ――今しかない!

 俺がそう思った瞬間、テスラさんとシェイルさんが動く。


「ひれ伏せ、無限鉄鎖ッ!」

「今度こそ!!」


 地面から巨大な岩の鎖が出現し、大鬼の身体を縛り上げた。

 かつて大悪魔フォルミードをも拘束した魔法の簡易版だ。

 そこへさらにシェイルさんが魔導書を千切り、ページを放つ。

 迸る冷気、巻き起こる氷嵐。

 鬼の身体の一部がたちまち凍り付き、より強固にその動きを押さえつける。


「ラース!!」

「ええ! 千剣乱舞ッ!!!!」


 魔力が高まり、溢れ出す。

 たちまち俺の目の前に無数の剣が出現した。

 黄金に輝くそれは、さながら流星のように大鬼の身体へと襲い掛かる。

 巻き起こる大破壊。

 魔力の塊である剣はいともたやすく鬼の外皮を貫き、無数の風穴を空けた。


「グアア…………」


 最後に力なく声を上げ、それきり動かなくなる大鬼。

 これで死んだのだろうか?

 近づいて様子を確認しようとしたところで、ツバキさんが俺たちの動きを制する。


「待て。鬼は死んだふりをするという、念のため首を斬っておこう」


 そういうと、彼女は大鬼の顔の前に近づいた。

 するとその瞬間、鬼の目がカッと見開かれ――。


「遅い!」

「グギャッ!!」


 両断。

 自らに喰らいつこうとした鬼の首を、ツバキさんは目にもとまらぬ速さで斬り捨てた。

 血飛沫を浴びたその後ろ姿には、何とも言えない凄みがある。

 これが……本当にツバキさんなのか?

 奥義を使う前と後では、まるで別人であるかのごとく雰囲気が違った。

 その刺すような気配は仲間である俺たちですら怖さを感じるほどだ。

 しかし次の瞬間――。


「うっ!」

「ツバキさん!」


 いきなり倒れてしまったツバキさんを、俺は慌てて抱き留めた。

 先ほどまでの雰囲気が嘘のように、顔が青く呼吸も弱々しい。

 どうやらあの奥義は相当に体力を消耗したようだ。


「すまん、少し無理をし過ぎたようだ」

「大丈夫ですか?」

「ああ。ただの疲れだから、横になっていれば良いが……」


 悔しげな顔でそう告げるツバキさん。

 俺は彼女を会場の端へと移動させると、ゆっくりとその場に寝かせた。

 この様子では、もう術比べに参加し続けるのは無理そうだな。

 俺は彼女の手を取ると、自分の胸にそっと沿える。


「あとは心配しないでください。俺が何とかします」

「任せた。しかし気を付けろ、奥義の負荷は半端ではない。もしお前も使うつもりなら……」

「平気です。それに、奥義は人によって効果が違うようですし」

「……気づいていたのか」

「ええ。一刀斎さんが奥義とは何かについて語らなかった時点で、何となく」


 冥霧山で修業を行った前後のこと。

 一刀斎さんは奥義の内容について、名前以外の具体的なことは何一つとして言わなかった。

 初めは、奥義の内容を自身で推測することも試練なのだろうと思っていたのだが……。

 途中で気づいたのである。

 あの暗闇の中で第六感に目覚めることによって得られる奥義は、人によって違うのではないかと。


「そこまで分かっているのであれば、十分だ」


 そういうと、眼を閉じて休み始めたツバキさん。

 ここで、避難していた役人が櫓を降りて会場に戻ってくる。

 彼は鬼の死骸へと近づくと、その様子を仔細に観察する。


「えー、鬼の死亡を確認しました! これにてこの課題は終了です!!」


 こうして俺たちは、ツバキさんが戦闘不能となりながらもどうにか課題を乗り越えるのだった。

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