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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第百二十三話 冥霧山

「ふぅ……だいぶ登ってきましたね」


 翌日。

 俺たち四人は一刀斎さんに連れられて、山登りをしていた。

 木々の間の細い獣道を、彼の小さな背中を追って走る。

 次第に道は険しくなり、斜面からごつごつとした岩が突き出すようになっていった。

 身体強化をしなければ、登り続けるのが少しきついぐらいだ。


「なかなか遠い。まだ?」

「そうよ。もう半日ぐらい歩きっぱなしじゃない」


 額に浮いた汗を拭きながら、それぞれに不満をこぼすテスラさんたち。

 特にシェイルさんは、顔をほんのりと上気させて息を切らしている。

 日頃は肉体の鍛錬よりも、研究に時間を費やしているのが響いているようだ。

 その訴えを聞いたツバキさんは足を止めると、手で庇を作りながら遥か彼方の峰々を見上げる。


「修練場があるのはもっと上のはずだ。この調子だと、夕方までにつけるかどうかだな」

「夕方……。ねえテスラ、いつもみたいにあんたのゴーレムで私たちを運べない?」

「了解。ちょっと待って――」

「それはいかん!」


 テスラさんが魔法を発動しようとしたところで、一刀斎さんが声を上げて止めた。

 彼は慌てて俺たちの近くへ戻ってくると、やれやれとたしなめるような口調で言う。


「修練場まで向かうこの道のりも修行のうちじゃ。魔法に頼るなどとんでもない!」

「でも……」

「余計なことを考えるでない、急ぐぞ」

「あー、もうわかりました!」


 文句を言いながらも、一刀斎さんに続いて走り出すシェイルさんたち。

 そうして登山を続けるうちに、急に天候が悪くなってきた。

 どこからともなく黒雲が沸き上がり、稲妻が天に逆巻く。

 やがて降り始めた雨は、やがて横から地面を叩きつけるようになる。


「急に天気が悪くなってきましたね……!」

「まだまだ序の口だぞ。標高が上がるにつれて天候が悪くなるからな」

「それを乗り越えることも含めて、修行じゃのぅ!」


 雨風をもろともせずに突き進む一刀斎さん。

 これがあとどのくらい続くのかは知らないが、なかなか過酷だな……。

 俺はまだ余裕があるが、シェイルさんはかなり苦しそうだ。

 

「シェイルさん、俺がおんぶしますよ!」

「え?」

「ほら! よいしょっ!!」


 シェイルさんに近づくと、俺はすぐにその体を抱きかかえた。

 細くて華奢な身体は、羽のよう……とまではいかなくとも軽い。

 少なくとも、戦士だった頃に運ばされていたパーティ全員分の荷物よりはよほどマシだ。

 

「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの?」

「もちろん! しっかりつかまっててください!」

「わっ!」


 俺が歩き出すと、驚いたシェイルさんはガシっと強く抱き着いてきた。

 女の子独特の身体の柔らかさに少し顔を赤くしながらも、俺は濡れた斜面を登る。

 すると、それを見ていたテスラさんがなぜか恨めしそうな顔をしてこちらを見る。


「私もおんぶしてほしかった」

「はい?」

「何でもない」


 雨音ではっきりと聞き取れなかった俺が聞き返すと、テスラさんはプイッと横を向いてしまった。

 うーむ、何か機嫌を損ねるようなこと言ってしまっただろうか……?

 俺が小首を傾げていると、ツバキさんが仕切りなおすように言う。


「まあ、とにかく行くぞ。父上に置いていかれてしまう」

「そうですね、急がないと」

「うむ。…………私はあとでゆっくりしてもらおう」


 何事か呟くものの、さっさと歩き始めるツバキさん。

 俺もすぐに彼女の後に続いて、次第に勢いを増す雨風の中を歩く。

 吹き抜ける風が渦を巻き、ごうごうと不気味な音を立て始めた。

 雨粒も見る見るうちに大きくなり、飛沫で視界が効かないほどになってくる。

 黒雲によって陽光が遮られていることもあり、周囲に広がるのは闇ばかりだ。


 おまけに斜面も勾配を増し、もはやちょっとした崖のようだ。

 足だけでなく、手も使わないとバランスを保っていられない。

 身体強化をしていても、身体を支えている地面自体が崩れてしまいそうな不安感がある。

 

「ぐっ……これはなかなか……!」

「これが冥霧山と言われるゆえんだ。気をつけろ、足を踏み外したら死ぬぞ」

「はいっ!」

「こっちじゃ! 急げ!」


 叫ぶ一刀斎さん。

 その声に従い、闇の中を進んでいく。

 やがてごうごうと唸る雨音に耳が慣れ過ぎて、逆に音が消えてしまったかのような錯覚を抱いた。

 冥霧山とは、まったくよく言ったものだ。

 本当に、冥府の底にでも迷い込んだような気がしてくる。


「ラース、しっかりして!」

「気を確かに持て、雰囲気にのまれるな!」

「落ち着いて」


 ともに歩く皆も、不穏なものを感じ取ったのだろう。

 互いに声を掛け合いながら、ここが最後の山場だと踏ん張る。

 こうして歩き続けること数十分。

 雨で体が冷えていよいよつらくなってきたところで、雲が割れた。

 陽光がさながら天へと昇る梯子のように差し込む。


「うわ……すごい! 綺麗な場所!」

「ここが冥霧山の頂上か。私も実際に来たのは初めてだが……」

「別世界」

「ですね。まさか、あの嵐を抜けるとこんな場所になってるとは」


 たどり着いた山の頂上は、黄色い高山植物が青空に映える見事な景色が広がっていた。

 連なる峰々が、さながら雲海に浮かぶ孤島のように見える。

 テスラさんがぽつりと別世界と言ったが、まさしくその通り。

 天界とでも称するのがふさわしいような場所だ。


「ふむ、誰も脱落はせんかったの。よしよし」


 一足先にたどり着いていた一刀斎さんが、満足げにうなずく。

 そしておもむろに、背後に聳える高い塔のような建物を見た。

 全五層からなるそれは、朱塗りの柱と白い壁の対比が美しい。


「あそこが我が一族が誇る修練場じゃ。ついてまいれ!」

「……はい!」


 塔から発せられる清浄な気配と独特の存在感。

 それに気おされつつも、俺たちは一刀斎さんに続いて修練場の中へと足を踏み入れるのだった。


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