第百二十二話 城中術比べ
「お前たち、良い情報を得たぞ!」
翌日の夕方。
修行を終えた俺たちが食事をしていると、家に帰ってきた一刀斎さんが開口一番に告げた。
何だろう、もしかして海帝獣様に関することかな?
すぐさま食事の手を止めると、一刀斎さんの方へと注目する。
「海帝獣様について、伝手をたどって調べてみたのじゃがな。どうやら、巌流神社と呼ばれる社に縁があるらしい」
「巌流神社ですか、聞いたことがないですね」
渋い顔をするツバキさん。
この国で生まれ育った彼女でも、馴染みのない場所らしい。
「うむ。話によると都から船で三日、海の墓場と呼ばれる岩場にぽつんと建つ社だそうだ。ただ、ここへたどり着くには専用の海図が必要だそうでな。それを代々に渡って将軍家が管理しておるらしい」
「なるほど。となるといよいよ、上様とお会いする必要があるわけですね」
「だけど、上様ってこの国で一番偉いんでしょ? 城に入るだけならともかく、謁見することなんてできるの?」
「実はな、それについても話があるのだ。これを見よ」
そう言うと、一刀斎さんは懐から紙を取り出して広げた。
白くて大きなそれは、大陸ではあまり見ない種類の紙だ。
そこへ黒々とした異国の文字で、何かが書かれている。
「ツバキ、読める?」
「ああ。城中術比べと書いてあるな。魔導師を城に集めて、技を競わせるようだ」
「面白そう」
「褒美のところを見よ。ここじゃ」
一刀斎さんは紙の右下、細かい文字が書かれている部分を指で示した。
そこに目を向けたツバキさんは、たちまち「ほう」と感嘆の息を漏らす。
「これは凄いな! 優勝者は上様直々に、望むものを褒美としてもらえるそうだ」
「おお! ということは、海図を賞品としてもらうことも……!」
「恐らくできるじゃろう。だからわしは、これをお主たちに見せたのだ」
「だけど、となると出てくるわよね。天空ってやつも」
上様に取り入っている謎の黒魔導師、天空。
このような行事が開かれるからには、奴も必ず姿を現すことだろう。
一刀斎さんにも匹敵すると言われるほどの実力者。
上様の手前、出場しないのは相当に不自然だ。
「むしろ、この催しは天空一派のためのものと見ても良いかもしれん。天空に危機感を抱いて居る者は着実に増えているからな。騒ぎが起こる前に、力の差を見せつけてやる気を失わせようという腹よ」
「示威行為と言うわけですか」
「うむ。この国で奴に一騎打ちを挑んで勝てるものなどほぼおらぬからな」
「悪趣味なことだ。だが、これはまたとない機会だな。私たちが天空を倒せば、海図は手に入るし上様の眼を覚まさせることもできる」
「でも、勝てるの?」
不安げな顔をしたテスラさん。
今の俺たちの実力で、果たして天空に勝てるのか。
そこだけが最大の懸念点である。
これにはツバキさんやシェイルさんも、ちょっとばかし顔を険しくする。
「そうね。相手がどんな魔法を使ってくるのかもよくわからないし……」
「なかなか厳しそうではあるな」
「でも、ラースの力をうまく使えば……」
「今のままでは絶対に勝てん」
一刀斎さんが、驚くほどきっぱりとした口調で言い切った。
そのあまりの断言ぶりに、俺たちはたまらず動揺する。
これまでだって、数々の強敵を倒してきたのだ。
どんな実力者が相手でも、そこまで一方的に負けるつもりとは思えなかった。
「……そんなに差があるんですか?」
「そうよ。私たちだって、Sランク魔導師よ?」
「あまり甘く見ないで」
「わしは事実を言っておるだけじゃ。お前たちは優れた才能を持っておるが、現時点では天空には及ばぬ。特にラースよ。お前は何物にも勝る力を持っておるが、それに振り回され過ぎじゃ」
それについては、先日も指摘を受けた部分である。
俺自身にもはっきりとした自覚がある。
この身に宿る膨大な魔力のうち、十全に扱えるのはまだ一割と言ったところだろうか。
「ラース、おぬしは今まで一人で対人戦に臨んだ経験はすくないのではないか?」
「言われてみれば……」
今までの戦いは、いずれも巨大な魔物ばかりを相手にしていた。
対人戦と言えば、エルフの国での決闘と魔導師殺したちを相手にしたときぐらいだろうか。
けれど、そのいずれも周りには仲間がいた。
一人で対人戦に臨んだ経験は、指摘されてみればないに等しい。
「大魔法ほど隙が大きい。おぬしの場合、攻撃が当たれば天空を倒すことも可能じゃろう。だが、その前に天空にやられてしまう」
「……残念ですけど、その通りですね」
「ラースの弱い部分だな」
「小回りが利くようにせねば、勝利はないだろう」
「じゃあ、どうするのよ? あきらめろってこと?」
「安心せい、わしがそのための奥義を授けてやろう。この術比べまで、まだ一週間ほどあるからの」
そう言うと、自信ありげに笑う一刀斎さん。
奥義……何だかすごそうだな……!
俺は緊張して息を呑んだ。
一方、奥義の中身を知っているのかツバキさんは酷く驚いた顔をする。
「奥義と言うと……まさか、水鏡の域を習得させるおつもりですか!?」
「うむ。それがなければ勝てぬであろう」
「しかしあれは、我が流派の奥義! 私でも習得できていないのですよ!」
「ならば、おぬしもついでに習得するがよい。頃合いであろう」
そう言うと、一刀斎さんはおもむろに障子を開け放った。
そして遥か彼方に聳える山脈を見やって言う。
「明日から冥霧山に登るぞ。おぬしたち、旅支度をしておけ」
一刀斎さんの言葉に、冷や汗を流すツバキさん。
どうやら、これまでよりもさらに過酷な修行が始まろうとしていた――!
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