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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第百十六話 秋津島

「見えて来たわ!」


 バレスカを出立してから、はやひと月。

 悠然と波を切るクイールホワイト号の前に、とうとう巨大な陸地が現れた。

 目的地である秋津島へと到着したのである。

 さすが快速船というべきか、最初に予定していたよりも二週間は早い。


「へえ、あれが秋津島か……結構ひなびた感じのところねぇ」

「このあたりは、都から少し離れたところだからな。都は王都にも負けないにぎやかさだぞ」

「そりゃ凄いですね。ちょっと見てみたいなあ」

「自然と見ることになるさ。上様がおられるのは都だからな」


 そう言っているうちに、船はいよいよ秋津島へと近づいて行った。

 異国情緒あふれる街並みが、次第にはっきりとしてくる。

 大陸ではあまり見られない木造の家々に、思わず辺りを目を見張った。

 するとここで、下船に向けて作業をしていた船員たちの動きがにわかに慌ただしくなった。


「まずいな。思ったより遠浅だ」

「こりゃ、この先は無理だぞ」


 船縁から身を乗り出しながら、困った顔をする船員たち。

 どうやら、座礁の危険があるためこれ以上船を進めることができないらしい。

 まだ岸まではだいぶ距離があるが……小舟で行くしかないようだ。


「しょうがありません。皆さん、荷物をまとめてください」

「わかった」

「やれやれ、仕方ないわねえ……」

「船の準備、手伝う」


 俺たちも加わって、荷物が小舟に載せられていく。

 そうしていると、街からこちらに向かって船が漕ぎ出してきた。

 その舳先には、羽織袴を着た身なりのいい男が立っている。

 彼はクイールホワイト号を見上げると、口に手を当てて叫ぶ。


「こちら、秋津島幕府の者である! そなたたち、いったい何者か!」

「バクフ?」

「雰囲気からして、役人っぽいわね」

「どれ、私が相手しよう」


 国の事情を知るツバキさんが、進んで交渉役を買って出た。

 船首から身を乗り出した彼女は、こほんっと大きな咳払いをする。


「我々は王国の魔導師だ! この国へは依頼をこなすために来た!」

「依頼の内容を明かしてくれ!」

「大型の魔物の討伐だ!」


 ツバキさんの答えに対して、役人はいささか訝しげな顔をした。

 ぼかした返答を疑問に思ったらしい。

 その様子を見たツバキさんは、すかさず次の手を打つ。


「この依頼は王国から与えられた特別なものだ。詳細は明かせない!」

「その話を信ずるに足りる証拠はあるか?」

「我々がSランク魔導師だとしても、信用できないか?」


 そう言うと、ツバキさんはくるりと反転して役人に背中を見せた。

 羽織っていた黒のマントが、風をはらんで広がる。

 Sランク魔導師の象徴ともいえるそれを見せつけられた役人は、驚いたように目を丸くした。

 そしてすぐさま、こちらに向かって深々と頭を下げる。


「これは失礼をいたした! だが、規則は規則だ。荷を改めさせてもらうぞ!」

「承知した。構わんな、船長?」


 ツバキさんの問いかけに、船長は黙ってうなずいた。

 彼はすぐさま役人が登ってこられるように縄梯子を下ろす。


「いやはや、かたじけない。では、作業に入らせてもらうぞ」


 甲板に昇ってきた役人は、すぐに船室へと入って荷を改め始めた。

 それなりに回数をこなしているのだろう。

 その手際はなかなかに良く、ものの三十分ほどで検査が終わった。


「うむ、特に禁制の品などを持ち込んではいないな。よし、入国を許可する!」

「ありがとう。しかし、ずいぶんと警戒が厳重なのだな。以前はこんなことなかったはずだが」


 眉を顰め、怪訝な顔をするツバキさん。

 すると役人は、軽く肩をすくめて言う。


「お上のご意向でな。国への出入りを厳しく取り締まれと命令が出ているのだ。何でも、わが国を脅かすものがくるとか来ないとか……」

「脅かすもの?」

「おっと、今のは忘れてくれ。余計なことを言ってしまった」


 役人は俺たちから視線を逸らすと、固く口をつぐんでしまった。

 よっぽど触れられたくない事情があるようだ。

 黒魔導師がらみの事案だろうか?

 俺たちはそっと視線を交錯させる。


「では、私は失礼する。そなたたちの無事と安全を祈っているぞ」


 そう言うと、役人は縄梯子を降りて去っていった。

 やれやれ、ひと段落着いたな。

 小舟が遠ざかり、役人の姿がすっかり見えなくなったところで、俺は胸を撫で下ろした。

 大丈夫だとわかってはいたが、少し緊張してしまった。


「やっといなくなったわね」

「ああ。気を取り直して、港へ行く準備をしよう」

「ええ。急ぐ」


 先ほどの役人から、何か不穏な気配を感じ取ったのだろう。

 テスラさんが、やや急かすような口調で言った。

 俺たちはそれに同意すると、すぐさま準備を再開する。


「よし、準備完了! 行きましょうか!」

「ああ!」


 こうして小舟に乗り込んだ俺たちは、船長たちに手を振りながら陸へと進みだした。

 石垣の積まれた岸壁が、次第に接近してくる。

 そのまま速度を緩めた小舟は、無事に港へと入ることが出来た。

 

「さあて、着いたぞ! ここが我が故郷、秋津島だ!」

「なかなかいいとこじゃない!」

「大陸では見ない建物が多い。興味深い」

「あの木、何だかすごいですね。葉が針みたいに尖ってますよ!」


 見慣れない風景を見て、興奮する俺たち。

 それにやれやれと肩をすくめたツバキさんは、たしなめるように言う。


「あまりキョロキョロするなよ。こんな時期だ、国に来ている他国人の数も少ないだろう。悪目立ちはしたくない」

「はーい、わかったわよ」

「よし、行くぞ。まずはうちの屋敷へ向かおう。ここからなら、日が暮れるまでには着けるはずだ」


 意気揚々と歩きだすツバキさん。

 彼女の後を追って、俺たちもまた進むのだった――。


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