表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/142

第百十五話 ツバキの家系

 港町バレスカを出港し、はや数週間。

 海流に乗ったクイール・ホワイト号は、順調に航海を続けていた。

 船長の話によれば、あと一週間ほどで目的地である東の海域につくらしい。

 海帝獣の住む海、果たしてどのような場所なのだろうか?

 俺は船縁から遥か水平線を眺めながら、思いを馳せる。


「んー、やっぱ海風は気持ちいいわねえ」


 俺がぼんやりとしていると、シェイルさんが船室から出てきた。

 彼女はそのまま俺の隣へと移動すると、グーッと大きく伸びをする。


「何だか眠そうですね、シェイルさん」

「まあね。船に乗ってからは平和そのものだし、あくびの一つもしたくなるわよ。持ってきた本も全部読みつくしちゃったしね」

「そうですね。船に乗ってからは、本当に順調ですよね」


 そう言うと、俺は改めて船の外を見やった。

 どこまでも続く凪いだ海と晴れ渡った空。

 異変が起きていることなど嘘のような穏やか過ぎる光景である。

 実際、出港してからは何のトラブルもなく、俺たちは暇を持て余し気味だった。


「この調子で、海帝獣の一件もあっさり片付くといいんだけどねえ」

「なかなかそうもいきませんよ。海の主の傷を見る限り、とんでもない強敵です」

「そうよねえ……」


 海の主の腹に刻まれた、巨大な傷跡。

 それを思い出したシェイルさんは、たまらずふうっと息をついた。

 あの強大な海の主にあれだけの傷をつけたのだ。

 断じて弱いわけがない。


「ところで、ツバキの居場所知らない? 魔法の練習相手をしてもらおうと思ったんだけど、見つからなくって」

「さあ……?」


 俺も昼食を食べて以降、ツバキさんの顔は見ていなかった。

 彼女が行く場所にも、特に心当たりはない。


「そう言えばツバキさん、最近様子が変ですよね。何かあったのかな……?」

「国に帰るからじゃない? 里帰りとか全然してなかったみたいだし」

「うーーん、そういう雰囲気でもなかったような」


 久々に国に帰るのならば、嬉しいのが普通である。

 でもここ最近のツバキさんは、それほど明るい様子ではなかった。

 むしろ、遠くを見ては物憂げな顔をしていたぐらいである。


「ま、国でいろいろあったんじゃない? 実は、親と喧嘩して家出同然に出て来たとかさ」

「あー、なるほど。それなら帰るとき憂鬱ですよね」

「……誰が親と喧嘩したって?」

「わッ!」


 いつの間にか、ツバキさんが俺たちの後ろに立っていた。

 俺とシェイルさんは、驚きのあまり揃って肩をビクッとさせる。

 どうやら、波の音に紛れて足音が聞こえなかったらしい。


「やれやれ。噂話は感心せんぞ?」

「あはは……別に大したことじゃないのよ。アンタが憂鬱そうにしてるから、何かあったのかなって」

「別に、憂鬱なわけではないぞ。少し思うところがあるだけでな」


 そう言うと、ツバキさんはゆっくりと前に進み出た。

 そして船縁に身を乗り出すと、頬杖を突きながらぽつぽつと語りだす。


「私の家は、秋津島でも有数の剣術道場でな。私が魔導師になったのも、もとはと言えば流派を継ぐための武者修行の一環だったのだ」

「そんなこと、前に言ってたわね」

「だが、私はまだまだ未熟者。理由があるとはいえ、一人前になる前に家へ帰るのは気が重い」

「未熟って……」


 冴えない顔をするツバキさんに、俺とシェイルさんは顔を見合わせた。

 仮にもSランク魔導師である彼女が未熟だとしたら、いったい誰が一人前なのか。

 するとツバキさんは、俺たちの言いたいことを察したのか軽く肩をすくめる。


「私は十分強い、と言いたいのだろう?」

「ええ」

「そうではないのだな、これが。私など父に比べればまだまだだ」

「そ、そんなに強いんですか?」

「ああ、それはもう。国でも最強と言われている」


 自慢げに語るツバキさんに、思わず息を呑む。

 ツバキさんよりも最強の剣士か……そりゃ、ぜひあって見たいな。

 これでも、魔導師になる前はずっと戦士をやっていた身だ。

 剣技の方にも人並み以上の興味はある。


「ぜひ一度、お会いしたいものですね」

「そうだな。父上と一戦交えるのは、ラースにとってもいい経験になるだろう」

「一戦って、そんなことしませんって!」

「そうか? 戦いを生業とする者同士がまみえれば、戦うのは自然の流れだと思うが」

「いやいや、どこのバトルマニアですか……」


 俺はたまらず苦笑すると、首を横に振った。

 するとツバキさんは、肩をすくめて残念そうな顔をする。


「ふむ、その気はないか。ラースと父上の戦い、面白いと思ったのだがな」

「面白いってアンタねえ……」

「まあ、いずれにせよ父上とは会わねばなるまい。あの方に会うためには、父上の取次が必要だろうからな」

「あの方? 誰のことです?」


 思わず聞き返してしまう。

 「あの方」なる人物に、全く思い当たる節がなかったからだ。

 シェイルさんの方も、予想外だったのかきょとんと眼を丸くしている。

 するとツバキさんは、髪をかき上げながら答える。


「我が秋津島の将軍様だ。あの方ならば、海帝獣の居場所も知っておられるだろう」

「将軍様って……確か、東の国で一番偉い人じゃありませんでした?」

「ああ、そうだ」

「それと会うって、そんなことできるわけ?」

「おそらく可能だ。父上は上様の剣術指南役だからな」

「ぶっ!?」


 予想外の返答に、たまらず噴き出してしまった。

 将軍様の剣術指南役って……それ、かなり偉いんじゃないか?

 王国で王に剣術を教えるのは、代々騎士団長の仕事だったはずだ。

 そう考えると……。


「ツバキ、アンタってもしかして貴族?」

「え? 言われてみれば……そうなのか?」


 シェイルさんの問いかけに、改めて考えこむツバキさん。

 そうしている間にも、船は快調に進むのであった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ