百十一話 空飛ぶ船!
「大した防御力だな……!」
超高圧を誇る水の壁。
あらゆる魔法を弾いてしまうそれに、俺は思わず唇をかんだ。
あれを突破するには、なかなかに骨が折れそうだ。
こりゃ、大魔法をぶっ放すしかないな。
足場が不安定なので、少し不安はあるが……。
「デカイの行きますから、ちょっと攻撃を防いでもらえますか!」
「了解」
「承知した、任せておけ!」
次々と返事をするテスラさんたち。
すると俺たちの変化を察したのか、海の主の動きが変わった。
巨大な口が閉じられ、頬が風船よろしく膨らんだ。
これは、まさか……!
俺が目を見開いた瞬間、巨大な水塊が飛び出す。
「危ないですわ!!」
「ちィッ!」
船に当たる寸前に、ツバキさんたちの迎撃が間に合った。
散り散りになった水塊が、雨となって降り注ぐ。
重圧。
粉々にされてなお、水は強烈な勢いを保っていた。
弾丸のようなそれに、わずかながらに腰が曲がる。
こりゃ、そのまま直撃したら船ごと木っ端みじんだな!
額にジワリと汗がにじむ。
「ラース、すまないが手が回りそうにない!」
「これ、当たったらシャレになりませんわ!」
「了解です! 俺も、全力であれを防ぎます!」
そう言っているうちに、第二波が来た。
次々と飛来する水の塊を、拳で撃ち落としていく。
重い!
水というよりは、岩でも殴っているかのようだ。
「くッ! なんて威力だ!」
「グアアアッ!!」
ダメ押しとばかりに、水弾を打つ海の主。
防ぎきれなかった弾が周囲に落ち、海が大きく波打った。
波が甲板をさらい、押し流されそうになる。
まずいな、このままじゃじり貧だ!
どうにかしなくては……!
「はははははッ! 水がある限り、この我は無敵だ!」
「ちッ! 場所が悪すぎる……!」
「陸だったら、こんな奴ただの魚なのに……!」
「そんなこと、言っても仕方がない」
シェイルさんが漏らした愚痴を、テスラさんが斬って捨てる。
気持ちはわかるが、そんなこと言ったところで海が陸になるわけでもないしな。
俺の魔法でも、さすがにこれだけの量の水をどうにかするのは厳しいだろう。
……いや、ちょっと待てよ。
「そうだ、もしかしたら何とかなるかもしれません!」
「何をする気だ?」
「今伝えますから、こっちへ!」
ツバキさんの身体を引き寄せると、敵に気づかれないようにそっと耳打ちをした。
たちまち彼女の顔が驚きに歪む。
「なるほどな、いいアイデアかもしれん」
「出来そうですか?」
「一瞬なら何とかな。だが、長くは持たん」
「それで十分です。あの壁さえなければ、あんなのただの魚ですよ」
わざわざ大きな声で言って、海の主を挑発する。
すると即座に水弾が飛んできた。
どうやら海の主は、かなり頭に血が上りやすいようだ。
俺は水弾を拳で弾きながら、甲板の上を右へ左へ。
魔力を高めるツバキさんを守るべく、敵の攻撃を引き付ける。
「はあッ!!」
「行きますわよ!」
「吹っ飛びなさい!!」
俺の行動を察して、テスラさんたちも援護に回った。
次々と炸裂する魔法。
爆炎が闇を貫き、水弾が次々と砕ける。
「ええい、ならば!」
「なッ!!」
海が天に昇った。
何本もの水柱が、竜巻よろしく渦を形成しながら立ち上がる。
やがて幾重にも交差したそれらは、巨大な水弾を作り上げた。
その大きさときたら、俺たちが乗っている船ほどもある。
海の主め、こちらを一気に叩き潰すつもりか!
「どうだ、防ぎようがあるまい!!」
「ど、どうするのよ!?」
「絶体絶命」
圧倒的な破壊力を秘めた、あまりにも巨大な水弾。
それを見上げたテスラさんたちは、たまらず顔をひきつらせた。
これだけの大きさ、さすがの俺たちでも破壊のしようがない。
「ツバキさん、まだですか!」
「すまん、もう少しなんだが……!」
悔しげな顔をして、言葉を途切れさせるツバキさん。
やはりまだ、魔力の増幅は十分でないらしい。
ええい、困ったな……!
「仕方ないわ! 逃げましょ!」
「船を置いてですの!?」
「それしかないわ!」
「待ってください! この船には、俺たち以外も乗ってるんですよ!」
「そんなこと言ったって、船ごと逃げられるわけじゃないわ!!」
声を荒げるシェイルさん。
彼女とて、こんなことを言うのはつらいのだろう。
その目には、うっすらと涙が浮いているようにさえ見えた。
「だったら、船ごと逃げればいいんですよ!」
「は?」
「シェイルさん、船を魔法で強化してください! 他のみなさんは、何かにしっかりつかまって!」
「あんた、まさか!?」
「早く、もう時間がないんです!」
勢いに押され、うなずくシェイルさん。
彼女たちはすぐさま、俺の指示に従って動き始めた。
それを阻止するかのように、海の主の攻撃が始まる。
巨大な水弾が、隕石よろしく落ち始めた。
その圧倒的な大きさゆえか、ゆっくりゆっくりとした動きは逆に恐怖を駆り立てる。
「ラース、手すり作った。つかまって!」
「ありがとうございます!」
いつの間にか甲板の一部を鉄に変質させ、手すりを作成していたテスラさん。
その手際の良さに感謝しつつ、俺はがっしりと鉄の棒を握りしめた。
よし、これで行けるぞ!
迫りくる水塊を睨みつけながら、俺はすぐさま魔法を発動させる。
「爆炎よ、天地を焦がし闇を照らせ! エクスプロード!!」
水弾が落ちてくる寸前。
船の前方で、巨大な火柱が上がった。
遅れて広がる衝撃、爆音。
船体がにわかに浮き上がり、海面を離れた。
強烈な重圧。
宙に放り出されそうになりながらも、どうにかこうにか踏ん張る。
そして――。
「あたた……!」
「何とか助かりましたね……」
甲板に皆がいることを確認すると、ほっと胸を撫で下ろす。
船の方も、どうにかこうにか持ちこたえてくれたようだ。
シェイルさんによる船体の強化が、うまく行ったらしい。
「おのれ……! まさか船ごと爆発で吹き飛ばすとはな!」
こちらを睨みながら、海の主が叫ぶ。
その顔は怒り心頭と言った様子で、金色の眼が血走っていた。
声も震え、完全に平静を欠いている。
やるなら今しかないな。
「ツバキさん!」
「任せろ!」
グッと親指を上げるツバキさん。
彼女は腰の刀を抜くと、即座に正眼の構えを取った。
そして――。
「氷天華・零!!」
迸る冷気の渦。
たちまち、海は白銀の世界へと姿を変えた――!




