・ガチムチな鍛冶屋でバイトして【武器制作】スキルを上げた!
さあ今日も元気に薬草採集しながらスライムイジメをがんばるぞー!
「え、ない?」
「はい、今日はあのクエストはありません」
そんな熱いやる気を胸に冒険者ギルドを訪れると、ピリリカさんのジト目が待っていた。
「リチャードさんが1人で普通の方の7~8倍も薬草を採集して下さったおかげで、医術ギルドから今朝方にストップがかかりまして」
「そ、そんなバカな……」
「グリーンスライムの核の方も現状十分ですので、今日は他のクエストを請けて下さいますか?」
ピリリカさんはそう断ると、新しいバインダーを取り出して俺の前で開いた。
「心配ございません、貴方のために最高のクエストをピックアップいたしました。さあ、この中から候補を選んで下さい」
―――――――――――――――――――――
【ゴブリンキラー】
勤務先 :ポゥエン村
標的・数:ゴブリン200体の討伐
報酬 :4000G
備考 :ぴちぴちギャル多し
【瘴気の洞窟でのケイオススポア採集】
勤務先 :旅の扉の先
瘴気の洞窟ダンジョン
標的・数:ケイオススポア40本
報酬 :800G
備考 :たいまつ必須
【後始末】
勤務先 :ハルカ・カナータ廃教会
標的・数:ゾンビ400体
報酬 :6000G
備考 :ゾンビの所持品は貴方の物です
―――――――――――――――――――――
「どうでしょうかっ、リチャードさんの実力ならばゾンビもゴブリンも楽勝ですしっ、1人でやっつければ報酬も総取りですよっ!」
「悪い、全く気乗りしない!」
「そんなっ! 貴方のがんばりで辺境の人たちが救われるんですよ!?」
「でも遠いんでしょ? なんかかったるいからパス」
バインダーを返却して背中を向けた。
「ちょっ、どこ行くんですかっ、リチャードさんっ!?」
「他にやりたいことあるし、しばらく他のところで働いてくる」
「働くってどこでっ!? 待って下さいっ、貴方ががんばれば私の評価が上がるんですよっ!?」
「武器職人ギルド。しばらくバイト生活するわー」
このゲームを極めるにあたって生産スキルは必須の技能だ。
これが通常プレイなら生産特化のキャラクターを別に作って、そのキャラクターで最強武器や防具を作成し、エンチャントの付与を行うのだが残念、俺は1人しかいない。
「今月の業績アップのためにも行かせませんっ!!」
「いや行くし」
「あっ、こらっ、待ちなさい私の昇進のとっかかりっ!!」
ピリリカさんが出口をふさぐので窓から脱走完了OK。
俺はラスボス譲りの優れた身体能力で冒険者顔負けのスピードを持つピリリカさんをぶっちぎり、武器職人ギルドに駆け込んだ。
「すみませんっ、ここでバイトしたいんですけどーっ!!」
ゲームだとこの赤毛のガチムチなおっさん(親方)に声をかけるとバイトが出来る。
「おう、ずいぶんと重役出勤なバイト志望者が来たなぁ……いいぜ、手取り足取り教えてやるよ」
で、現実はというと、経験も聞かれずに即OKが出た。
未経験者お断りの文化がはびこっていたら、プレイヤーだって困るからね!
「まずはこの銅鉱石と石炭を溶鉱炉に入れる。そしてこのフイゴを踏むんだ、新入り!」
「OK! 体力なら自信がある!」
フイゴを踏んで踏んで溶鉱炉の熱を上げると、溶けだした銅が炉から流れ出してきた。
それをおっさんは坩堝に移し、ブロンズインゴッドの型へと流し込んだ。
「やることはわかったな? 今日のバイトは時間いっぱいまでブロンズインゴッドを作ってもらう!」
「ああっ、ミニゲームで何度もやったから慣れている! 作って作って作りまくってやるよ!」
現実の労働もこれくらい軽く入れたら、人手不足なんて発生しないだろうなー。
俺は坩堝から銅を型に流し込みつつ、溶鉱炉に銅鉱石を入れて、フイゴを踏みまくった。
≪武器制作:0→1≫
≪武器制作:1→2≫
≪武器制作:2→3≫
え、どうして銅鉱石と石炭から不純物なしの純銅が出てくるのかって?
いや俺も知らん。ゲームだとそうなるし、この世界でもそうなるってだけの話でしょ。
≪武器制作:3→4≫
≪武器制作:4→5≫
≪武器制作:5→6≫
≪武器制作:6→7≫
この世界では難しく考えたやつの負け!
薬草を採集すると薬草が2つに分裂する世界で、科学式とか分子構造のことを考えても意味ないじゃん!
≪武器制作:7→8≫
≪武器制作:8→9≫
≪武器制作:9→10≫
黙々と、黙々と、踏んで流して五円玉色に輝くインゴッドをピラミッドのように積み重ねていった。
研磨なしでピカピカに光るところとか、すっごくシンプルでいい世界だと思う!
≪武器制作:10到達!
特殊効果:制作速度+50%を得た!≫
作業効率1.5倍化キター!
ガンガン伸びてゆく武器制作スキルがンギモヂイイッッ!
≪武器制作:10→11≫
≪武器制作:11→12≫
≪武器制作:12→13≫
夢中で働いて働いて働きまくれば、いつの間にか辺りが暮れて西の空が赤・黄・青のトリコロールカラーに染まっていた。
「おうご苦労さんっ! こんな活きの良い新入りは久々だぜ!」
「いや楽しくてつい」
「悪ぃが日が暮れたら店じまいだ。夜中にトンテンカンってやると、行政がうるさくなぁっ!」
おっさんはブロンズインゴッドの数を数えると、パンツの中からギャラを出してくれた。
完成したブロンズインゴッドは103本。1本2Gで206Gのバイト代を貰えた。
「そういえば自己紹介をしてなかったな。俺はパンガス、武器職人ギルドの親方だ」
「リチャードだ。昨日までは冒険者ギルドでスライムをいじめていた」
「おうそうかっ、詳しい話を聞きたいねぇ! 飲みに行かねぇか、リチャード!」
「ああ、もちろん行く!!」
転生前は仕事が終わったら付き合いを断ってまっすぐ帰っていた。
しかし息苦しかった日本の生活とこの世界での生活は違う。
親の顔より見たキャラクター・パンガスとお喋りできるなら、喜んでどこにでもホイホイとついて行く所存だ。
「ダハハハハハッッ、お前バカだろぉーっっ!!」
「おう、よく言われる!!」
「それトイレのすっぽんだろぉ!? んでそっちは遊びの道具じゃねーかっ!」
「だが意外と強い」
パンガスのところで働いて、最強のトイレのスッポンとダーツを作るつもりだと語ると、この調子だ。
「まあお前さん、筋はすこぶるいい! うちに通えばいつか作れるようになるぜっ、最強のすっぽんをよっ!! ダハハハハッッ!!」
また明日も行くと約束してパンガスと別れた。
そしていつもの空鯨亭に戻って、部屋で眠った。




