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・エピローグ 誰かに『ありがとう』って言われた

 それからまた少しした晩、俺たちは空鯨亭の中央にある広い円卓席に集まった。


 宿娘ティリアは当然として、受付嬢ピリリカさんに副師範ニケ、モンスターギルドのモルティ、武器鍛冶パンガス、執事ロッコ、ルイン王子とその恋人のゾアナ・ブラウンウォーター侯爵令嬢が集まってくれた。


「あー、このたびは、うちのチャールズのために集まってくれてありがとうな!!」


「皆さん、妹のサルビアのために集まって下さり心より感謝する!」


 催しの主役は我が弟チャールズ・グレンターと、その元婚約者のサルビア・ブラウンウォーターだった。


「ってことでっっ、うちの色男とっ、4つ下の彼女の登場だぁっっ!!」


 空鯨亭には他にも沢山の冒険者や商人たちが集まっていた。

 そんな彼の拍手喝采を受けながら、2階の俺の部屋から本日の主役たちが並び合って降りてきた。


 チャールズとサルビアは歳こそ離れているがお似合いだった。

 チャールズは誠実で、サルビアはまだ若いが素直で歪みのない女性だった。


 それが円卓席の前までやってきて、緊張した面もちでチャールズが宣言した。


「皆さん、僕とサルビアは一度は運命に仲を引き裂かれることになりましたが……。このたび、ブラウンウォーター家のご当主に……っ!!」


 感無量に震えながら弟は涙を拭った。


「婚約を……もう一度、認めていたけきました……っっ!! 僕たちっ、もう一度っ、婚約しましたっっ!!」


「リチャード様とルイン様、ゾアナお姉様が動いて下さったおかげです……!!」


 二人がそう宣言すると、祝いの言葉と拍手喝采が夜の空鯨亭にこだました。

 それを見て酒場の常連客たちは言った。


「よかったなぁっ、リチャードの弟!!」


「おめでとう!!」


「こりゃ今夜はいい酒が飲めそうだ!!」


「よかったじゃないかよ、リチャード! で、奢ってくれんだろっ!?」


 自分のことのように嬉しそうに、彼らは弟の新たな門出を祝福してくれた。


「当然だろ、今夜は俺の奢りだっ、派手にいこうっ!」


 無論、最初から奢るつもりだった。

 ここはゲームの世界。金なんて使ってなんぼだ。


「おめでとっ、チャルくんっ、サルビアちゃんっ!!」


「おめでとう! ゴリアテのことで何かあったら、いつでも相談して下さいね!」


「おやおやー、リチャードさーん? 目がウルウルしてませんかぁー?」


「え、マジ? あ、ホントだ、なんか俺……あ、なんか、泣きそう……」


 チャールズとサルビアの幸せそうな姿を見ていたら、なぜかはわからないけど涙があふれてきた。

 そんな俺の左右にかつての仲間、ルインとゾアナが立って俺の肩に手を置いた。


「リチャードが泣くなんて珍しいね」


「当然だろう。操られていたとはいえ、大切な弟の幸せを台無しにしたのだ。よかったな、リチャード……」


 我が友ゾアナの言う通りだと思った。

 俺の中に眠るもう1人のリチャード・グレンターはさぞ無念だったろう。

 弟の幸せを壊してしまったことに、深い罪悪感を抱えていたはずだ。


「出奔された時はどうなるかと思いましたが、ワシは信じておりましたぞ、リチャード様」


「ダハハハッ、そういうのはお前らしくねぇぜ、リチャード!! さあ祝おうっ、祝おうじゃねぇかっ!!」


「そうですねっ! さあ、ルイン兄様とゾアナお姉様も乾杯を!」


 パンガスとニケが王子様と侯爵令嬢にビールジョッキを握らせると、乾杯の準備が整った。


「ほらリチャードッ、メソメソしてないでがんばれーっ!! ピーピー鳴いてるとこも新鮮だけどさー、そういうのアンタらしくないってっ!」


 俺たちはビールジョッキを掲げ、お酒の飲めない年頃の子は甘いオレンジジュースを掲げ、チャールズ侯爵とサルビア侯爵令嬢の婚約を祝福した。


「俺の弟と、俺の戦友の妹の婚約を祝って!!」


「私の妹と、私の戦友の弟の婚約を祝って!!」


「二人の幸せを祈って!!」


 ゾアナの言葉にルインが続き、そして皆でハッピーになる魔法の言葉を唱えた。



「 乾杯!!!! 」



 チャールズとサルビアは慣れた感じで熱いキスを交わし、それが祝いの席をさらに盛り上げた。

 笑い声が空鯨亭にこだまして、それからヤンヤヤンヤと騒いでいるうちに夜がふけていった。


 そんな中、落ち着いてきた騒ぎの中で誰かがこうつぶやいた。



『ありがとう……』



 誰の言葉かはわからなかった。

 誰かが俺に向けて『ありがとう』と感謝の言葉を伝えてそれっきり聞こえなくなった。


「ところでリチャードさん、明日のご予定は?」


「ああ、明日は冒険者ギルドでレベリングをする予定だけど?」


「本当ですかーっ!? きっついの用意して待っていますねっ!!」


「いや、出来ればアレがいいんだけど? 【不定形の杜森での薬草採集】クエストはまだ復活していないの?」


「国内最強の男になっておいて何言ってるんですかーっ!?」


「最強が最弱を狩って何が悪い」


「悪いですよっ! リチャードさんのがんばりがみんなの幸せになるんですっ、さあがんばりましょうっ!!」


「……ま、いいか。弟の婚約で今日は気分がいいっ、明日はどんなクエストでもいいから持ってこいっ!!」


 俺はリチャード・グレンター。貴族だった頃の魂を胸に宿す、エンディングを迎えたこの物語の主役のうち1人だ。

 たまにでかい仕事や慈善事業、新人の育成もする。だが三度の飯より大好きなのはレベリングと、スライムイジメだ。


「リチャード、後でマッサージしてあげるからさ、先に寝ないでよ……?」


「お、おう……」


「チャルくんとサルビアちゃんが熱々で、なんかあてられちゃった……。お金とかいらないから、一緒に寝よ……?」


「いいぜ、ドーンとこいっ!!」


「リーーチャードォーさぁぁーん!?」


「ずるい……わ、私も……っ、私もリチャードさんをテイムしたいっ!」


「ぼ、僕だって副師範として貢献しているのに……っ!!」


「ありゃりゃ、邪魔が入っちゃったー……。じゃ、私仕事に戻るからがんばってね、リチャードッ!!」


 リチャード・グレンターはいつか女に刺されて死ぬだろう。

 封印を拒む女たらしスキルはこの晩――


≪女たらし:89→102≫


≪女たらし:100に到達!

 特性:『ナンジャゴリャァァッッ!?』を覚えた≫

≪効果:ハーレム間の軋轢99%カット

    恋人×10%の能力値補正

    女性に刺される確率+500%≫


 もはや取り返しの付かない危険な領域に到達していた。出会い頭に刺されて自分の赤い血に『ナンジャゴリャァァッッ!?』となる日もそう遠くない。


 それでも俺はこれからも、何にも縛られないネタ装備道を突き進む。なぜならばそこに、まだ見ぬ変なスキルの可能性があるからだ。


 俺はこの先もそこまた先も、最弱モンスターグリーンスライムを追いかけ回して生きるだろう。


≪開発コード:ラバーカップ貴族

             → 終わり≫


本作をここまでお読み下さりありがとうございます。

本作はここで完結です。

コメディとして上手く作れた物だけに、あまり伸びなくて難しいなと思いながらも次に行きます。


明日から新作を始めます。

ストックの中からどれを投稿するのかまだ決めていませんが、どれかを始めます。


何かがヒットするまで走るよ。何かがヒットしたらその作品の連載を30万、50万字と続けていけたらいいなと考えています。


次のお話もどうか応援して下さい。

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