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・決勝戦 因縁の相手との決着を求めた!

「よう、ラスター、ぶっ壊される覚悟は決まったか?」


 俺の腰には【公爵家の聖なるトイレのスッポン】と、師匠に悪魔の武器と言わしめた【如意きゅぽん】がある。

 殺さずに復讐を果たす道具としてはどちらも至高の一振りだった。


「聞いているのか、クソ教師?」


 ところがラスターの様子がどこかおかしい。

 彼はこれだけの舞台だというのに落ち着き払っていた。

 いや、それが突然ハッと気付いたように目を大きく広げ、辺りを見回した。


「もう決勝戦か……」


 まるで他人事のような言い方でラスターはそうつぶやいた。


「リチャード・グレンター、貴方にはここで消えてもらいましょうか」


「それはこっちのセリフだ。二度と弟に手を出せないようにしてやる」


 ラスターとの距離を詰め、そう宣言した。

 復讐とかは置いといて、チャールズに暗殺者を差し向けた件だけは許せない。


「貴方のお父上を謀るのは簡単でした」


「なんだと……?」


「元より孤独と闇を抱えた方だ。魔剣タナトスを握らせるだけで、彼はたやすくタナトスに魅入られてくれた」


 俺のかつての仲間は、驚喜の笑みを浮かべてそう言った。


「ええ、貴方の剣をタナトスにすり替えたのも私ですよ。貴方たちにオズワルド公爵を討たれたときは冷や冷やとしましたが、貴方たちはうかつにも私を仲間と信じた」


 物語中盤、リチャードはルイン王子ら仲間と共に父親を討った。

 事件の黒幕が彼、ラスター・エッジであるとも知らずに、仲間に迎えてしまった。


「全て、お前がやったのか……?」


「さてどうでしょう。これから処刑される貴方が知ったところで、何も変わらないかと思いますが」


 ラスターは距離を取り、青く輝く魔法剣を腰から抜いた。


「両選手の気力も因縁も十分といったところでっ、さあ運命の決勝戦がこれから始まるニャァッ!!」


 やはりラスターはこの場でリチャード・グレンターを殺すつもりのようだ。

 殺意と狂気にあふれた形相で、彼は剣をこちらに向けた。


「ヒッポグリフの門っ、愛され変態貴族っ、リチャード・グレンターッッ!! ユニコーンの門っ、救国の英雄が一人っ、ラスター・エッジ子爵!!」


 そんなシリアスな舞台の上で、俺はトイレのスッポンを父の仇に向ける。


 つい先ほどまで胸の中で『父上っ、貴方の無念はこのリチャードが必ず晴らします!!』と熱く燃え上がっていた復讐心も、この愉快な武器を敵に向けるとなんか薄れてくる。


 ティリアだって言ってた。『復讐とかじゃなくてさ、リチャードらしく勝ってきて』と。


「なんですか、その顔は……」


「え、何って何? これってお祭りだろ、お祭りの舞台で笑わないでいられるかよ、はははっ!!」


 勝てばお祝いだ。

 空鯨亭に集まりきらないほどの客がやってくる。

 その全員に奢ってやっても別にいいだろう。


 だって、その方が、楽しいに決まっているからだ!!


「リチャード・グレンター、気でも狂いましたか……?」


「何言ってんだっ、俺は元から狂ってるっ!!」


 そこにド派手なファンファーレが奏でられ、決勝の舞台が整った。

 さあ、実況のチャッティ・キャットが宣言すれば、これより試合開始だ。


「皆様準備はよろしいですね!! これよりっ、討議大会決勝を執り行いますニャァァッッ!! リチャード・グレンターVSラスター・エッジ!! さあっ――」


 宿敵を睨み、その時を待った。


「試合開始ニャァァァーーッッ!!!」


 試合開始が宣言されるなり、ラスターも俺も対戦相手へと深く踏み込んだ。


「リチャード・グレンターッッ!!!」


「クソ教師ラスターッッ!!」


 試合開始早々、両者はぶつかり合った。

 片やトイレのスッポン。片や冷気をまとった魔法剣。俺たちは始まるなり全力でぶつかり合い、早期決着を求めた。


「目障りだ、私の前から消えろっっ!!」


「はははっ、俺も貴族階級を妬むそのつらが気に入らなかったぜっ!!」


 激しい撃ち合いに発展した。

 ラスターは魔法剣士を自称している男で、剣を振るいながら死角から氷の魔法を放ってきた。


 【<規格外の蛮王の>冒険者の服】がなければ死んでいたかもしれないアイスボルトを何発も食らった。

 はっきり言ってしまうと今のところ劣勢だ。

 俺は技量に秀でるラスターに苦戦させられた。


「フフフ……どんなに強くなろうとも、リチャード、貴方は私には勝てないのだよ」


 余裕でラスターを倒して優勝出来ると、俺はたかをくくっていた。


「両選手っ、速いっ、速過ぎるニャァッ!! かつてこれほどまでにハイレベルな大会があったでしょうか!?」


 それがどうしたことだ、ラスターの動きは尋常でなかった。

 まさかのリチャード・グレンターの苦戦。目にも止まらぬ高速の戦いに、観客たちの歓声も静かなものだった。


「どうなってんだ……?」


「フフフ……何がでしょうか?」


「お前、ラスターだよな……?」


 このゲームのプレイヤーとして言う。

 ラスターはこんなに強いキャラクターではなかった。

 最強はルイン。次点は途中退場ながらリチャード。スキルとステータス上はそう決まっていた。


「不思議ですか?」


「不思議だ……お前、どうなっている……? うぉっ!? あ、危ねぇっ!?」


「いいでしょう。死にゆく愚か者のために、種を明かしてあげましょう。この国王陛下から授かったこちらの魔法剣ですが――」


 ラスターは攻撃を止め、俺の目の前で剣を静かに撫でた。

 撫でられたところから剣は真実の姿へと変化してゆき、信じられないことにその剣は――


「なっ、なんだそりゃぁぁーっっ?!!」


 【魔剣タナトス】の姿を取った。


「これから死にゆく貴方だからこそお見せしたのですよ……」


 横目で実況のキャットさんをうかがうも、彼女はそれが魔剣には見えていないようだ。


「私こそがタナトスの真のマスターです。貴方のように意識の全てを喰らわれることなく共存する、真の所有者が私なのですよ」


 つまり、コイツはこのゲームのラスボス以上の力を持っている。

 リチャード・グレンターも、その父オズワルド・グレンターも、敗北するために仕立てられた操り人形だった。



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