・皆の激励を受けながら決勝の大舞台に上がった!
決勝戦を目前にするとたくさんの人たちが応援に駆け付けてくれた。
「坊ちゃま! オズワルド様の無念をどうかお晴らし下さい!」
意外に遊び人な執事のロッコさんだとか。
「坊ちゃまっ、ファイトです!!」
「チャールズ様のお幸せのにためにも、どうかお願いします坊ちゃま!!」
実家のメイドのナンタラ・カンタラさんと、ウンタラ・スータラさんだとか。
「我々は冒険者ギルド【ピリリカさんのメガネを守る会】の者だ。メガネが清楚かわいいピリリカさんの姿を世に知らしめるためにも、優勝してくれ、同志リチャードよ!!」
都の冒険者ギルドを二分する大派閥のリーダーだとか。
「リチャードッ、優勝してもしなくてもいいから今夜は奢ってくれよな!! 酒入れる腹で待ってるからな!!」
宿屋・空鯨亭の常連たちだとか。
「うさうさ♪」
「ちゅーちゅー♪」
「にゃおわーん♪」
ウサギだとかネズミだとか猫だとか犬だとか。
「お久しぶりです、お義兄様……。サルビア・ブラウンウォーターです……。あのっ、どうか勝って下さい……。わたくし、チャールズ様と、もう一度幸せだった頃に戻りたいのです……」
弟の4つも年下のかわいい彼女だとか。
「リチャード様っ、新流派創設の暁には僕にサポートさせて下さい! だって僕は、貴方の一番弟子なのですから!」
王家の特別席から着飾ったドレス姿で抜け出してきたニケ・プーマーだとか。
実に様々な人たちが激励にきてくれた。
それら一通りの応対を終えると、俺は【冒険者の服】+25に【ヒュージグリーンスライムの核】と【ゴブリンキングストーン】を重ねた。
これから防具のカスタムスロットにモンスター素材をセットする。
「あのさ、リチャード……」
ところが今度はティリアのやつが邪魔をしてきた。
「ん、なんだ?」
「服着てやり取りしなよっ!? みんなどん引きしてたじゃんっっ!!」
カスタムスロットへのセットには一度装備を脱ぐ必要がある。
よって以上の来客者はあの日返ってきた絹のパンツ1枚で応対した。
「あいつらの間が悪いんだ」
「違うからっ!! こんなところで突然脱ぎ出すリチャードがおかしいのっっ!!」
「脱いだだけで文句を言われるなんて、世知辛い世の中だ」
ともかく【冒険者の服】+25にレア素材を重ねて叩いてカスタムスロットにセットした。
すると俺の冒険者の服は名称が少し変わり【<規格外の蛮王の>冒険者の服】となった。
すぐにヘルバさんに50Gを払って【アイテム鑑定】をしてもらった。
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【<規格外の蛮王の>冒険者の服】
基本性能
物理防御
125
(基礎50×強化250%)
魔法防御
90
(基礎36×強化250%)
速度補正
12.5%
(基礎5%×強化250%)
カスタムスロット効果
【ヒュージグリーンスライム】
HP×200% 吹き飛ばし耐性50%
【ゴブリンキングストーン】
物理攻撃×25% 速度補正+50%
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完璧だ。すぐにその最強の防具を『ジャキィィンッ』と身に着けた。
ちなみに未強化のフルプレートアーマーの物理防御力が98。俺の服は全身鎧よりもずっと強い!
「デタラメなもん作りやがって……」
「まったくさ、防具鍛冶の立場がないよ」
「服着てくれるならもうなんだっていいよ……」
「リチャードさんっ、この機会にスライムいじめは卒業しましょう! 最強の貴方のためにきっついクエストを用意しておきますから!」
ちなみになぜ今さらになってスキルスロットへのセットを始めたかというと、カスタムスロットは一度セットすると外せないからだ。
レアモンスターの素材を使ってでも、俺の中に眠るもう一人のリチャード・グレンターはラスターをぶちのめしたいと願った。
「リチャード様、決勝戦が始まりますのでどうぞ控え室へ」
時間がきたようだ。
俺は貴賓席の出口に立ち、今日まで支えてくれた仲間に振り返った。
「がんばってきなっ、負けたら容赦しないよっ!! パンガスと一緒にその頭かち割ってやるからねっ!」
「ダハハハッ、金槌研いで待ってるからよ、さっさとぶっ倒してこいっ!!」
「私も皆さんと精一杯応援するっ!! がんばって、リチャード様……っ!!」
「リチャードさん、私たちは貴方のたゆまぬ努力の証人です。貴方を導いた一介のギルド職員として、勝利を願っています」
「父の無念を晴らして下さい!! リチャード・グレンターに、勝利を!!」
「今夜さ、みんなで楽しいお祝いにするためにもさ、勝ってきてよ……。復讐とかじゃなくてさ、リチャードらしくかるーく勝ってきて!!」
前世の記憶の覚醒により遊び半分で始めた第二の人生。ここにきて振り返ってみれば、たくさんの人々との出会いがあった。
人生はやり直せる。
奪われた物は取り返せる。
これから俺はグレンター家に仇なす敵を討つ。
「おうっ、ぶっ倒してくる!! そんで今夜は派手なお祝いにしようぜっっ!!」
貴賓席を出て、夕日の射し込む廊下を進んだ。
石造りの硬い床は歩くだけで音が響いて、決勝戦出場者のために人々が道を開いてくれた。
「がんばれよ」
「期待してるぜ」
「今年の大会は最高だ! アンタのおかげでなっ!」
「勝て、リチャード!」
「ああ、そっちの方が面白くなりそうだ! とにかく勝て!」
たくさんの人が控え室に続く廊下に立ち、口々に叫んだ。
がんばれ。楽しかった。勝て。勝て。勝て。勝て。
「 勝てっ!! 勝てっ!! 勝てっ!! 勝てっ!! 」
「 勝てっ、リチャード・グレンターッッ!! 」
腕を上げ、貴族とはほど遠い豪快な笑顔を浮かべて、俺は彼らの期待に応えた。
この試合が終われば楽しい祭りが終わる。だからこそ彼らは有終の美を飾れる最高の試合を求めている。
「ああっ、勝つぜっ!! このトイレのスッポンでなぁっっ!!」
控え室に入り、ウォーミングアップをして時間を潰した。
それから少しすると吹奏楽隊による派手なファンファーレが奏でられ、舞台に続くヒッポグリフの門が開いた。
地響きとなって響き渡る大歓声に背筋が震えた。
人々は貴族に成り上がった新参者ラスターよりも、おかしな行動ばかり取るお祭り男リチャードの姿を待っている。
観客はかつて都に災厄を引き起こした男の名を呼び、その勝利を願った。
俺は薄暗い控え室から、夕日と大歓声の射し込む舞台へと出て、グレンター家の宿敵ラスター・エッジと向かい合った。




