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・トイレのスッポンで予選を突破した!

「ま、待て……っ、ち、近付くなっ! お、お前っ、こいつらに何をしたんだぁっ!?」


「何って、精神にダメージを与えて戦えなくしただけだけど?」


「そんなバカな力があるかっ!! ひっっ、なんだその身のこなしはぁぁーっ!?」


 弓使いの狙撃を最小限の動きでひらりとかわした。

 ダーツボードでタンッと受け止めた。

 たかがそれくらいのことで驚かれても困った。


「知らないのか? ラスボスってのはレベルをいっぱい上げないと、ダメージすら与えられないものなんだぜ」


「や、やめでっ、降参――ギュポォォッッ?!!」


「あ、ごめ、ついうっかり……」


 見ると残る対戦相手は弓が3名、槍が2名だけになっていた。


「く、くるな……っ、降参するからこっちにくるなっ!!」


「なんて恐ろしい変態なんだ……」


「俺も降参だ! そいつらみたいになりたくねぇ……っ!!」


「め、目ぇ会わせないでいただけますか!?」


「怖いよぉっ、マミィーッッ!!」


 彼らは武器を捨て、恐ろしい変態から少しでも距離を取ろうと円形闘技場の端まで逃げていってしまった。


「なんということニャァッッ!! こんな展開は前代未聞ですニャッッ!! リチャード・グレンター選手っ、群がる相手の心を次々と打ち砕き、たった今Jグループの勝者となったぁーーっっ!!」


 チャッティ・キャットが目の前に駆け寄ってきた。彼女はニッコリと微笑んで、それから元気よく勝者の腕を上げさせた。


「勝者ッッ、リチャード・グレンターッッ!! この選手はやはりフツウじゃなーーーいっっ!!」


 そう彼女が宣言して賞金の1000G金貨を勝者に渡すと、あっけに取られていた観客たちが興奮の大歓声を上げた。


「うぉぉぉぉーっっ、なんかよくわからんけどアイツすげぇーっっ!?」


「心を砕く攻撃……!? よ、よくわかりませんけどすごい変態の方ですわ!!」


「強いっ!! とにかく強い!!」


「リチャード・グレンターッ、なんて残念なイケメンなの!?」


 なんだかんだすっげー盛り上がった。

 観客の人たちが俺を見る目が変えるのが気持ちよかった。


「ではリチャード選手ッ、会場の皆さんに何か一言っっ!!」


「……え?」


「拡声魔法で声を広げますので……。さあどうぞっ、リチャード選手!!」


 どうぞと言われても特に言うことはなかった。

 まあけど、ここであえて言うならば……。


「俺の名はリチャード・グレンター!! このトイレのスッポンを我が国の制式武器とするべくこの大会に参加した!! 俺の信じる最強武器っ、トイレのスッポンの力を本戦でもお見せしよう!!」


 これが俺の最強武器だと、トイレのスッポンを天にかざして俺は闘技場の舞台を立ち去った。



 ・



 控え室から出ると応援にきてくれていたみんなが迎えてくれていた。

 いや誓って女の子ばかりじゃないぜ。

 チャールズとパンガスのおっさんも、勝って帰ってきた俺をテンション上げて迎えてくれた。


「ティリア、頼みがあんだけど」


 金貨を渡すだけでティリアは察してくれた。


「へへー、いい使い方じゃん! みんなーっ、リチャードが今日は奢ってくれるってーっ!!」


「粋なことするじゃねぇか!!」


「あっはっはっ、旦那にはしたくない金遣いの荒さだけど、男としては100点満点さ!!」


「い、いいのでしょうか……」


「金離れがよすぎて、リチャードさんって時々怖くなりますよねー……」


 ピリリカさんとニケは少し困惑していた。


「せっかくの賞金なんだし、楽しいことに使った方が楽しいだろ?」


「それはまあ、そうなんですけどねー……」


 闘技場を出て空鯨亭に帰ると、その後は予選突破のお祝いパーティだ。

 なんだかんだピリリカさんもニケもドンチャン騒ぎを楽しんでくれた。


「ちょっとだけ、リチャード様の女たらしに感謝しています……。僕、こういうこと出来る友達、これまでいなかったんです……」


「そうさね、おかげであたしらは出会えた。バカとスケベは使いようさね」


「うんうんっ、今度リチャードなんてハブってどっかいこーよっ!!」


「リチャード、お前には俺がいるっ! 男は男同士っ、風呂にでもまた行こうぜ!」


「いやぁ、おっさんのそれは風呂っつーより、カラスの行水ってやつだと思うけどなぁ……」


 そんなこんなで夕方頃から空鯨亭で騒いで日が暮れる頃になると、チャッティ・キャットさんあらため役所のお姉さんシシリアがやってきた。


「リチャード様、本戦出場おめでとうございます。本戦の対戦表が決まりましたのでこちらをどうぞ」


「あ、これはどうも。よかったらキャットさんも一緒にどう?」


「いいんですか……?」


「だってそうした方が楽しいじゃん! おーいみんなーっ、実況のニャーニャー言う人がきてくれたぞーっ!!」


「そ、それは言わないで下さぃぃーっ!!」


 でかい円卓席を囲んで、みんなで対戦表を流し読みした。


「兄さん……っ!」


「ん、なんだ?」


「アイツが……っ」


「アイツ? ドイツ?」


 チャールズが隣に回り込んできて、対戦表の左端を指さした。


「ラスター・エッジ子爵……。え、アイツ出んの?」


「きっと僕たちのすることを邪魔しようとしているんだと思います! 兄さんの優勝を妨害するつもりなんですよっ!」


 元教師ラスターはグレンター家を陥れた張本人である疑いがある。

 加えてちょうど先日、チャールズも俺も『かつての仲間』から暗殺者を差し向けられていた。


 事故を装って政敵を片付けるならば、闘技大会はおあつらえ向きだ。


「やっつけて下さい、兄さん……」


「いいぜ、言われなくとも決勝でぶち当たる」


「はいっ、必ず勝ってグレンター家の名誉を回復して下さい! 兄さんなら出来ます!」


 ラスターの真意はわからない。

 だが弟を狙ったのがもしラスターなら、かつての仲間だろうと見逃してやる道理もない。


 その時は必ずこのトイレのスッポンで、泣いたり笑ったり出来ない壊れた心にしてやらなくてはならなかった。


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