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4/50

・トイレのスッポンでスライムをいじめた!

 【不定形の森】はこのゲームでは定番の狩り場になっている。

 このクエストではなんでもいいので薬草を50個を採集すればクリアとなる。


 しかし重要なのはこのクエストに付随するサブターゲットの方だ。

 このクエストではグリーンスライムの核を10個集めると、30Gの追加報酬がもらえる。


 ここで重要なのはギャラではなく、確定でグリーンスライムに出会えるという点だ。

 グリーンスライムはゲーム最弱のモンスターで、スキル上げにバッチ最適な獲物だった。


≪採集:0→1≫


 野鳥の声が行き交う、若草がエメラルドグリーンに輝く美しい森で、光り輝く薬草を1本採集してみると、それだけで採集スキルが上がった。


「ははっ、もう上がったっ、キモチイイーッッ!!」


 通常プレイでは採集を10回行わないと上がらないスキルだ。

 それが1回の採集で上がった。


 これは先日やった【スキル封印】が関係している。

 スキル封印を行うと、失ったスキルの累計経験値を上限に、スキル経験値の取得に特大ブーストがかかるのだ。


「おっと群生地発見! あ、ポンポンポンっと!!」


 立て続けにハーブを11本引っこ抜くと、目の前で表示が浮かび上がった。


≪採集:1→2≫

 ≪採集:2→3≫

≪採集:3→4≫

  ≪採集:4→5≫

    ≪採集:5→6≫

 ≪採集:6→7≫


「ていうか、自発的に自分から光って採集されたがるとか、こいつらどんだけユーザーフレンドリーな植物だよ?」


 とかやっていると第一グリーンスライムを発見。

 30リットルほどのメロンゼリーに顔が付いたようなやつが草むらから飛び出してきた!


「待っていたぞ、ケーケンチ!!」


 体当たり攻撃をダーツシールドで受け止めて、素早く距離を取るスライムに手持ちのダーツ5本全てを投げた。


 ≪ダーツ:2→3≫

≪ダーツ:3→4≫

   ≪ダーツ:4→5≫


「すっげっ、ガンガン上がってンギモヂイイッッ!!」


 しかしさすが遊技用高級ダーツ。これだけ投げたのにダメージはささやか。

 グリーンスライムの頭上に≪100%≫とあったものが≪84%≫となっただけだった。


「だが俺にはこの【公爵家の聖なるトイレのスッポン】がある!! 勝負だ、最弱モンスターッ!! ポキュポキュポキュポキュゥゥッッ!!」


 スライムは公爵家の聖なるトイレのスッポンにずっぽんずっぽんされた。

 1ずっぽんあたり、1%のダメージが入るようだ。


 わかっちゃいたけどクソ弱い!

 クソ弱武器でクソ雑魚モンスターとせめぎ合う喜びに、俺は通常プレイでは味わえない新鮮な体験に喜びを覚えた!


 ≪トイレのスッポン:1→2≫

≪トイレのスッポン:2→3≫

    ≪トイレのスッポン:3→4≫

  ≪トイレのスッポン:4→5≫ 

      ≪トイレのスッポン:5→6≫

 ≪トイレのスッポン:6→7≫

   ≪トイレのスッポン:7→8≫

    ≪トイレのスッポン:8→9≫

  ≪トイレのスッポン:9→10≫


「はぁはぁはぁ……や、やったか……!?」


 スキルの成長によりじわじわと上がるダメージ比率。こういうのも大好きだ。


 約50回ほど、ひたすらポキュポキュとさたスライムはついに≪0%≫を迎えて【グリーンスライムの核】へと変化した。


「弱っ、弱っ、これマジで弱ぇぇーっっ、アハハハハッ!!」


 とやっていると目の前に【通知】が現れた。


≪トイレのスッポン:10到達!

 特殊効果:物理ダメージ×3MPダメージを得た!≫


 この仕様は知っている。

 要するに『キュポッ』とすると、精神に3倍のダメージが入るということだ。


「ぷるるるるるっっ!!」


「自分から実験台になりにきたかっ! さっきまでの俺とは違うぞっ、覚悟しろスライム!!」


 ダーツシールドで体当たりを防ぎ、トイレのスッポンでグリーンスライムをポキュッポキュッポキュッと3回突いた。


 すると再び、通常プレイでは味わえない新鮮な体験をすることになった。


「ぷ、ぷりゅりゅりゅりゅ……(TT)」


 スライムが泣き顔をするなんて知らなかった。3倍の精神ダメージを受けたスライムは逃げ出した!


「待てっ、ケーケンチ!!」


「ぷりゅぅぅっっ?!(TT)」


「悪しきモンスターめっ、聖なるトイレのスッポンを喰らえっっ!!」


 精神ダメージによりスライムの戦意は鈍り、数えて24回ほどのズッポンズッポンでグリーンスライムは滅びた。


「経験値稼ぎでイジメをしている気分になったのは、久しぶりだ……。むっ、薬草の群生地発見!」


≪採集:7→8≫

   ≪採集:8→9≫


 採集、採集、採集、採集!!


  ≪トイレのスッポン:10→11≫

 ≪トイレのスッポン:11→12≫

≪トイレのスッポン:12→13≫

   ≪トイレのスッポン:13→14≫

 ≪トイレのスッポン:14→15≫


 グリーンスライム退治、グリーンスライム退治、グリーンスライム退治!!


 とやっているとまた来た!

 また目の前に【通知】が現れた!


≪トイレのスッポン:15到達!

 特殊効果:毒付与・小を得た!≫


「毒! これ乱獲にもってこいじゃん!」


 次なるグリーンスライムを見つけると、ダーツで先制攻撃を仕掛けた。

 それからワンパな体当たり攻撃をダーツシールドで防ぎ、プランジャーで3度ポキュポキュする。


「ぷりゅりゅりゅりゅぅ……(TT)」


 巨大な青リンゴのようなスライムは、我が聖なるトイレのスッポンにより毒を付与されて顔が紫色に染まった。

 そして与えられた精神的ダメージにより、グリーンスライムは自動的に逃げ出す!!


「毒を与えつつ逃亡させる……いいじゃないか、これ!」


 通常のRPGでは逃げられたらその時点でロスだ。

 しかしこのゲームにベースレベルという概念はない。


 逃げ出したスライムは遠くでじわじわと紫色に染まり、俺が薬草採集に勤しんでいる間に消滅して核になった。


 ユーザーフレンドリーにもモンスターから現れた素材は光るようになっており、この世界においてはダックスフンドは居場所なしキャワイイだけの塊。


 かくしてちょっとグリーンスライムをツンツンすれば、じわじわと弱って換金アイテムに変化してくれる安定パターンが構築された。

 後は採集採集、ポキュポキュポキュ、あるのみだ。


「ヤバ、スライムイジメ、楽しい……」


 俺ってもしかして人としてサイテー?

 ガチ泣きして逃げてゆくグリーンスライムに、何度か良心の呵責を覚えるものの、やっぱり楽しくて止められなくて、俺は乱獲と採集を重ねていった。



 ・



 そういえば俺徹夜だったわ。

 乱獲の果てに危険地帯で昼寝までしちゃった俺は夕刻に起き出すと、奥にある旅の扉から冒険者ギルドの地下へと帰った。


 すぐそこの部屋は金庫室になっており、そこで集めた素材の換金を受けることが出来る。


「ピリリカさん、帰ったぜ!」


「お帰りなさい」


 ピリリカさんは相当に目が悪いのだろうか。

 メガネを『クイックイッ』としながら、人の顔を下からのぞき込んだ。


「これ、いくらくらいになる?」


「Fランクのクエストですから、残念ながら大した額には――ん……んん……?」


 ピリリカさんはメガネを外し、また付け直して、山となって積み上がった薬草とスライムの核を距離5センチほどの距離からガン見した。


「あら……あらあら……? グリーンスライムの核が53個に……下級グレードの薬草が150本……?」


「いくらだ?」


「(53×3)+(150×2)=459Gです! 貴方に絡んでいたターントさんの10倍の稼ぎですねー♪」


 ピリリカさんは両手を合わせて機嫌の良い笑顔をした。


 それからハーブと核を奥に押し込むと、前振りもなく男の腕に抱き付いて来た。

 抱き付きつつ、459Gのギャラを握らせてくれた。


「ピリリカさん、ちょっと刺激が強いんだけど……」


「あの口だけのターントさんの10倍も働いて下さるなんて、ギルドとしてもとても助かります。もちろん! 明日も来て下さいますよね……?」


「お、おう……? そりゃレベリングに来るけど……?」


「絶対来て下さいね、私たちも仕事がグッと楽になりますから。キツい仕事、沢山用意しておきます」


「いや、次も【不定形の森での薬草採集クエスト】がいいんだけど?」


 育ってはきたがトイレのスッポンもダーツもまだまだクソ弱い。

 この武器で強い敵を狩ってもスキル育成の効率が最悪になるだけ。

 よってキツい仕事なんてお断りだ。


「何を言ってるの! これだけ高いステータスとスキルを持つ貴方が強敵と戦わないで誰が戦うんですか!」


「他のやつ」


 次も【不定形の森での薬草採集クエスト】を受けると宣言して、俺はほくほく顔で地上に上がりギルドを出た。


――――――――――――――

【戦闘スキル】

 トイレのスッポン

     :  1

     → 24

 ダーツ :  1

     →  9

【生活スキル】

 採集  :  0

     → 24

――――――――――――――

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