・【女たらし】が極まって[社会のゴミ]になった!
「おおっ、坊ちゃまっ!!」
「おっす、ロッコさん、チャールズいるー?」
「隣の方は――おおっ、貴方は宿のキャンディ殿! もしや、坊ちゃまの恋人なのでございますかなっ!?」
ティリアの様子をうかがってみると、彼女は恥ずかしそうにうつむいた。
「余計な質問をいたしましたな。チャールズ様なら寝室でお休みになっておられます」
執事長ロッコはこう見えて遊び人だ。
すぐに微妙な関係を察してくれて、チャールズの寝室に俺たちを通してくれた。
「あ、兄さんっ! あれ、そちらの方はっ!?」
「グレンター公爵様、わたくしは宿屋・空鯨亭の娘、ティリアと申します」
説明を迷っていると、猫かぶり上手のティリアが猫をかぶった。
「あ、これはご丁寧に。僕はチャールズ・グレンター。若輩者ながら兄に代わり、公爵を務めさせていただいています」
「チャールズ様のお噂は存じ上げております。しがない宿娘の身でございますが、リチャード様のことはわたくしにお任せ下さい」
「はいっ、兄さんに彼女が出来るなんて僕も嬉しいです!!」
「彼女だなんて、そんな……」
ティリアは嬉しそうに恥じらい、こちらをうかがった。
さすがは生まれながらの宿娘、大したコミュニケーション能力だった。
「チャールズ、身体の方はどうだ?」
「はい、もう大丈夫です。先日襲撃を受けましたが、兄さんがダビデをお貸し下さったおかげで、あっさりと返り討ちにすることが出来ました!」
「ダビデ……? ああ、あのダイヤモンドミニスライムの名前か。今どこにいる?」
「僕のポケットです! 見て下さいっ、かわいいでしょう!?」
チャールズは無邪気な少年に戻ってパジャマのポケットを開いて見せた。すると猫をかぶっていたティリアも興奮に声を上げた。
「な、何この子っ、かわいい……っっ!!」
「ティリアさんもそう思いますかっ!?」
「うんっ、ちょーっかわいいっ! …………ぁ」
せっかく上手な社交辞令を述べて猫をかぶったのに、ティリアは素の自分を見せてしまった。
「かわいいだけじゃないんです。ダビデは一個師団を相手に出来るほどに強いんですよ」
それは言い過ぎだろう。
「そ、そんなにですの……?」
「はい。それとティリアさん、僕には兄さんにするのと同じ言葉で話して下さい。兄さんと同じが嬉しいのです」
それを公爵様に言われても困るところだ。
しかしティリアは若く、気持ちのいい女だ。
「じゃ、今日からチャルくんで! あたしのことはリアでいいよ!」
「乗るのかよっ!?」
ティリアはちゃっかり愛称でチャールズを呼んで、彼女の魅力である晴れやかな笑顔を浮かべた。
「はい、よろしくお願いします、リアさん!」
「んじゃ、チェスしようぜ。ダビデ、マスターの命令だ、起きてティリアの相手をしろ!」
命じると好感度:99のダイヤモンドなスライムが弟のポケットから跳ね上がった。
「わはぁーっっ、かわいいっっ!! 外堀埋めるつもりできたけどっ、もうどうでもいいっっ!!」
「そこぶっちゃけちまうのなー」
チャールズとチェス板を囲んだ。
1ゲームだけではチャールズは納得せず、結局4ゲーム目にもつれ込んだ。
ティリアはそろそろ帰って宿の手伝いがしたいようだ。それを察したのは俺ではなく、超性格のいい理想の弟のチャールズだった。
チャールズとロッコさんに見送られて屋敷を出て、宿への帰路についた。
「今日はホントありがと、楽しかった……」
「ああ、たまにはゆっくりするのもいいもんだな」
「これ、大事にする……一生大事にするね……!」
「服ってのはなかなかそうもいかないもんだぜ。どうしてもいつかはボロボロに――ぁ……?」
ふわりと甘い匂いが鼻孔に広がり、世話になっている宿の娘の唇が俺の頬に押し付けられた。
「一緒に戻るわけいかないしっ、先帰るねっ、バイバイッ!」
レベリングばかりしている育成バカだけど、休養を取ったら宿屋街で一番かわいい女の子といい感じになりました。
≪女たらし:53→56≫
元気に駆けてゆくティリアを見送り、なんかがらにもなくソワソワしながら、俺は防壁の外にある闘技場まで寄り道をした。
予選の取り組み表が発表されていた。Jグループの看板にリチャード・グレンター(元ラスボス・トイレのスッポン・♂)とあった。
「おい見ろよ、Jグループに変なやつがいるぜ!」
「トイレのスッポン……? ど、どういうことだ……!?」
「スッポンといったらアレだろ。便器に使うあの『スッポン』ってするやつだろ?」
「はぁっ、本気でそれで戦うのかっ!? 正気じゃない!」
「ラスボス……なんの職業なんだ?」
「ヤクザか?」
「お前たち知らないのか? リチャード・グレンターといえば、冒険者ギルド1のド変態だ」
「なぜ変態が討議大会に!?」
「なんでもトイレのスッポンを国軍を制式武器にする野望があるらしい」
「 バカだろ、ソイツッッ!? 」
大会は予選・インターバル・本戦の3日間で行われる。
これに勝ち抜ければ、トイレのスッポンを片手に訓練を行う愉快な軍隊が生まれる。
想像するだけでも最高だ!
通常プレイから著しく逸脱した最高のプレイだ!
予選へのやる気を胸に空鯨亭に俺は帰った。すると――
「リチャードッ、遅いじゃないかい!!」
「あれ、ヘルバさん?」
防具職人のヘルバさんが一杯やりながら俺を待っていた。
「約束通り応援にきたよ!! アンタが優勝すれば、うちの防具工房も名前が上がるってもんさっ!! あたしのためにしっかり宣伝してくんなよ!!」
「おう、任せてくれ!」
「アハハハハッ、なんだいその格好!! アンタには似合わないよっ、さっさと着替えてきなっ!!」
「そんなに爆笑しなくてもいいだろ……」
部屋で【冒険者の服】に着替えて一階に降りた。するとヘルバさんが大きな円卓席に移動していた。
「リチャード様ッ、僕、応援にきました!」
その隣に我が弟子、ボーイッシュなニケ・プーマーがいた。
「リチャードさんはやはりおモテになられますね」
メガネで小柄なギルドの受付嬢ピリリカさんもいた。
「わかってたことだし別にいいけどさー。正直、ドン引きみたいなー……?」
さっきまではあんなにいい笑顔をしていたのに、今はムチャクチャ不機嫌な宿娘ティリアがいた。
「アンタ、鍛冶の才能も相当だけどさ、女を狂わせる才能もちょっとしたもんさね」
「ただの変態なのにねー」
「でもリチャード様はすごいんですっ! すごい変態の方なんですっ! 僕、尊敬してますから!」
「ふふふ、リチャードさん……。大会が終わったら、いっぱいボランティアして下さいねー……?」
大小の圧を放つ女性たちに俺は囲まれた。
リチャード・グレンターはモテる。それも尋常ではないくらいに、毒電波でも出てるのではないかと疑いたくなるほどに、この男はモテる。
顔か?
金払いか?
強さか?
結局男ってそこなのか?
「あ、ちょっと部屋に忘れ物したっぽいからいったん帰るわ」
俺はただ通常プレイから逸脱した変なプレイがしたいだけだというのに、なぜ俺みたいな変態がモテてしまうのだ……。
いやぶっちゃけ男の趣味悪過ぎだろ、お前ら!?
「座りな」
「いや、でも、ちょっとだけ用事が……」
「かわいいねぇ……あたしたちから逃げられるとでも思っているのかい?」
ヘルバさんに捕まって円卓席に座らされた。
「皆さーんっ、今日はリチャードさんの奢りだそうですよーっ!!」
「マジーッ!? なら許すっ、ジャンジャン飲んでってよーっ!」
「ぼ、僕……こういう賑やかなの、実は憧れていて……あえてご馳走になります!」
あれ、おかしいな……。
モテるってもっとラノベみたいに、幸せいっぱいなやつじゃなかったっけ……?
女の子たちが主人公を取り合ったり、気を引くために熱烈アピールをしたり、左右を囲まれたりするものじゃないのか……?
「ごめんねー、リチャードって強くなることしか考えてないバカだから」
「アッハッハッハッ、その様子だとアンタたちも散々リチャードのバカを見せられたみたいだねぇ!」
「バカとまでは言いませんけど……僕が知る限り、世界で一番の変わり者かもしれません……」
「だから言ったではないですか。リチャードさん!! こんな調子だと、いつか女の子に刺されますよっ、気を付けて下さいねっ!?」
「なんならここにいるみんなで今刺しちゃう?」
「いいねぇっ、よかったじゃないかい、リチャード!」
「勘弁してくれ……」
ちっとも甘くないハーレムナイトがふけていった。
≪女たらし:56→64≫
≪女たらし:60到達!
特殊効果:社会のゴミを得た!≫
≪特殊効果:社会のゴミ
異性に対して好感度+25のボーナス
浮気の不平を90%カットする ≫
いらない、こんなスキル俺の人生にいらない……。
俺は正真正銘の社会のゴミとなれる、大いなる力を得た……。




