・サハギンとゴブリンとオークとおじさんを乱獲した!
「では魔力の供給を始めますねっ、がんばって下さいっ!!」
魔力の供給が始まった。
装置から不快な響きの高周波音が響き渡り、せせらぎが心地よい渓流の不協和音となった。
「リチャードさんっ、きましたよっ!」
「な、なんだぁありゃぁっ?!」
川の中から一斉に『ザバァッ』とモンスターが現れた。
それは魚の身体に人間の足が生えた変態寄りの人魚だった。
「固有種のソコラン・サハギンです! さあっ、ご自慢のトイレのアレでやっつけて下さい!」
「ひぃっ、今まで出会ったモンスターの中で一番こええええーっっ?!!」
足が太くて綺麗な、サハギンと呼ぶにはサハギンの冒涜でしかない何かたちが、痛みに目を血走らせて突進してきた。
無意識に俺はヘビーダーツをガンベルトから抜き、無意識にそれを投げつけていた。
「アアンッッ♪♪」
サハギンはヘビーダーツが命中すると甘い声を上げて消滅し、【サハギンの鱗】と【魔石】に変わった。
「ちなみにサハギンは雄しかいません!!」
「いらん情報ありがとう!!」
肉薄される前に3体をダーツでしとめ、サハギンの尾攻撃をダーツボードシールドで防いだ。
「ヒィィィッ、くるなぁぁっ、ポキュポキュポキュポキュゥゥッッ!!」
「アンッ、アンッ、アンッ、アンッ、アアアンッッ♪」
サハギンは5発突くと魔力を失い消滅した。
まるで悪い夢を見ていたかのような気分だ……。
「リチャードさんっ、西からホブゴブリンを含むゴブリン軍団です!!」
「ゴブリン!? ゴブリンは別に怖くないっ、おっしゃーっ、必殺技を喰らえーっ!!」
先日に手に入れた新たな戦技を試すには良い舞台だった。
俺は怒り狂うゴブリン軍団――約50体ほどにトイレのスッポンを向けて、叫ぶ必要は別段ないが叫んだ!
「ラバーカップゥゥゥッッ、スプラッシャァァァーッッ!!」
これが【戦技:液体放出】の神髄だ。
【戦技:液体吸収】を使って吸い込んだ渓流の水を、ゴブリンの群れへと放出した。
「 ギャァァァーッッッ!! 」
ゴブリンたちは口々に断末魔を上げて、水流カッターのような高圧で放出された水にバラバラになった。
≪トイレのスッポン:82→83≫
「つ、強くね……?」
「すごいすごいっ、リチャードさん大魔法使いみたいですっ!」
「へへへ、おだてんなよ、ピリリカさん」
「あっ、南方からオーク軍団が約30! これは、相当に、怒っていますよっ!!」
サハギンもゴブリンも、苦しそうに腰や下腹部を抱えながら襲ってきた。オーガたちもそうだ。彼らの目には激痛の涙が浮かんでいた。
「えっげつねぇ……っ」
「早くやっつけて下さいっ! 私がやられちゃいますっ!」
「おう、ならば今一度っ! ラバーカップゥゥゥ……スプラッシャァァァーッッ!!」
高水圧のチート水流カッターにオークもバラバラになった。
≪トイレのスッポン:83→84≫
だけどなぜだろう。罪悪感が胸を締め付ける。
彼らはただ、結石がもたらす尿路の痛みを止めたかっただけだったというのに……。
「リチャードさんっ、西より新手ですっ! あれは……っ、ええっと、よく見えませんっ! とにかくやっちゃって下さい!!」
「おうっ! ラバーカップゥゥ……って、あれ?」
ところが西から突っ込んできた集団は、どう見ても人間の姿をしていた。
「そ、その装置を……っ、その装置をっ、止めろぉぉぉーっっ!!!!」
「早くやっつけて下さいっ、リチャードさんっ!」
「いやピリリカさん、あれ人間だって」
「……あらっ?」
「止めろっ、お願いだ止めてくれぇぇっっ、アアアアアーッッ?!!」
彼らは目前までやってくると、激痛に転倒して転げ回った。目の悪いピリリカさんは目をショボショボさせて、魔力の供給を続けている。
「あ、本当、大変っ! 一度出力を上げて沈静化させますねっ!」
「……え?」
「えいっっ!!」
「 ウギャァァァァァァァーーッッ!!!! 」
ピリリカさんは怖い女性だった。
的確な判断力で武装した戦士たちを気絶させた。
中には白目をむいたり、泡を吹いているかわいそうなおじさんもいた。
「ひどくね……?」
「はい、心が痛みますね……。誰も薬の材料を集めてくれなかったからこうなったんです……。しいて言えば、これは医療に補助金を出さない国のせいなのですよっ!」
「ソウナンダー……俺、セージの話はよくわかんないからー……」
目を覚ました戦士は言った。
自分たちは特効薬である魔石を求めて狩りにきた、比較的軽傷の患者であると。
やがて彼らは目覚めて身を起こした。
「ありがとうっ、ありがとう若いのっ!!」
「薬っ、薬の材料をこんなに!」
「ああ、これでうちの村は救われる……」
おじさんたちは正気に戻った。
おじさんたちは魔石採集をする俺たちに感謝して、プレゼントした魔石を手に帰って行った。
「では、日暮れまでがんばりましょう! 少なくともこの5倍は集めたいですね!」
「お、おう……」
まだやるのか、これ。
「元気がないですよ、リチャードさんっ! さあっ、モンスターを集めますからじゃんじゃんやっつけて下さい!」
「モンスターに同情したのはこれが二度目だぜ……」
狩りはこれでもかと効率的に進んでいった。
モンスターたちは涙を浮かべて迫り、それを俺はダーツやスプラッシャーで容赦なく殲滅した。
育成成功率もふたを開けてみれば悪くもなかった。
≪トイレのスッポン:84→88≫
≪ダーツ:42→46≫
・
悪魔の乱獲が終わった。
集められた結石――ではなく魔石は都のいつもの医院で引き取られ、俺たちはボランティアの報酬2000Gを受け取った。
医院の先生はすぐに薬を調合し、苦しみあえぐ患者たちに処方した。
「おぉぉ……痛みが、痛みが引いてゆく……」
「ありがとうっ、ありがとう若いのっ!! アンタ神様だよぉっ!!」
「神よ……貴方のために祈らせて下され……」
「リチャード・グレンター様、貴方様のことは忘れません……ぁぁぁぁ……結石、バイバイ……」
それから俺はおじさんたちにおがまれた。内股で感謝された。
尿の通りがよくなったことで病院のトイレには行列ができ、彼らは健康的な排便に恍惚の表情を浮かべてトイレから戻ってきた。
医者は魔石の作用を反転させて、患者の中で結石を対消滅させる、とか説明してくれた。よーわからん。
「ほうれん草と、コーヒーには、くれぐれも気をつけなされ、若いの……」
「ミルクだ。ミルクコーヒーにするといい……」
「お、おう、ガチで気を付けます……」
健康についての貴重な情報と、まあまあのギャラを受け取れた俺は、まあまあ今日の仕事に満足だった。
「さてさてリチャードさん、明日はどうされるのですか? 明日はギルドにきて下さいますか?」
いいともー。
と乗りたいところだったけど、他に予定がある。
「明日は武器職人パンガスのところで修行する。んでその翌日は、大会で快勝するためにも、新しい武器を作ったり強化しようかと」
「そうですか、それは寂しいです……」
「また行くよ。また効率――いや、面白いクエストを用意しておいてくれたらな!」
「はいっ! リチャードさんと私の出世のために、私がんばります!」
俺も今日からはほうれん草をひかえよう。
そう想いを胸に空鯨亭へと帰り――
「あっ、リチャードとピリリカ! お帰りーっ、結石の特効薬、どうだったっ!?」
「バッチリです! こちら、リチャードさんからお父さんへと」
「え、俺……?」
「わぁぁぁーっ、マジ助かるーっ! ありがとうリチャードッ、パパにあげてくるっ!!」
空鯨亭の存続や売り上げにも貢献したという。
渓流も綺麗だったし、今日は良い日だった。
「ん……なんか、おしっこの出が、悪いような……」
みんな気を付けよう。尿路結石、未然に防げば怖くない。
その翌朝、俺はパンガスの武器工房に向かう前に、青い顔で医院に駆け込んだ……。




