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32/50

・到底許せないので泣いたり笑ったり出来ないようにした!

 翌朝、おばちゃんたちの黄色い声援を浴びながら村を出た。

 おばちゃんたちはまるで乙女のように甲高い声で、女たらしのリチャードをまるで韓流アイドルのコンサートのように見送ってくれた。


「お疲れさまでした」


「なんか、すげぇ、疲れた……」


 537個のゴブリンストーンと、麻袋の中で鳴る金貨の山。これを抱えて下山し、馬車に落ち着くのもなかなか大変だった。


 俺たちは3度馬車を乗り継ぎ、片道5時間弱の旅を乗り越えた。

 都に戻れたのは昼過ぎのことで、ピリリカさんにお宝を自慢するのが残された楽しみだった。


「お帰りなさい、リチャードさんっ、ニケくん! あら……?」


「ただいま帰りました。……リチャード様は昨晩、村のおばちゃんたちにずっと囲まれて、すごくモテていたので、お疲れみたいです」


「え、いなかったんですか、ぴちぴちギャル?」


「若い人はゴブリンが恐ろしくて、みんな出ていってしまったそうです」


 無言でゴブリンストーンの山と、村長からの手紙をカウンターに乗せた。


「ふふ……っ、いい気味ですっ♪」


「そりゃないぞ、ピリリカさん……」


「ザマァですよ、ザマァ。ふふふっ、モテてよかったですねー!」


 ピリリカさんは手紙に目を通し、ゴブリンストーンを査定して報酬を支払ってくれた。


「お約束の4000Gと、特別報酬の6000Gです」


「え……!?」


「と、特別報酬、ですかっ!?」


 ピリリカさんは4枚の1000G金貨を引っ込めて、1枚の白金大貨を見せた。

 それ1枚で10000G価値がある物だ。


「はいーっ、ゴブリンキングの討伐には国から6000Gの恩賞が保証されています。すごいですよ、リチャードさんっ! 貴方は1地域を救ってしまったのです!」


「そんな法律、あったか?」


「最近設立されたのです。さあどうぞ!」


「だったら1000G金貨で受け取りたい。ニケは無償という約束だったが、あれは嘘だ」


「リ、リチャード様っ!? で、でも、僕、何もしてない……」


「それは素敵! では、リチャードさんに5000G、ニケくんに5000G、どうぞお納め下さい」


 カウンターに置かれた5枚の金貨を受け取り、ニケの手を取って強引に金を受け取らせた。


「ぼ、僕、お金なんて……っ」


「いいから取っとけ。お前は俺の弟子だろ?」


「う、うん、そうだけど、でも……こ、困ります……」


「それと、ゴブリンストーンの査定なのですが、1つあたり2Gの買い上げになります」


「安いな」


「あまり人気がありませんから……」


 追加で1074Gを受け取って冒険者ギルドを出た。


「屋敷まで送るよ」


「い、いえっ、大丈夫です!」


「いいから送らせろ」


「は、はい……ありがとうございます……。もうちょっと一緒にいられて、本当は嬉しいです、師匠っ!」


 ニケを屋敷に送った。

 王家の住まいではなく他家の屋敷に預けられているのは、詮索しない方がいい理由があるのだろう。


 ちなみにゴブリンの巣で手に入れた7500Gも強引に山分けにさせた。


「明日からも鍛錬をがんばります! リチャード様、僕……すごく楽しかったです……!」


 王家の姫君を屋敷まで送り届けると、実家には寄らずに貴族街を離れ、少し寂れている街の路地裏に入った。


「リチャード・グレンターだな?」


 たちまちに4人の男たちに囲まれた。


「おう、やっぱ狙いは俺なのな。無関係の人間に危害を加えなかったところは、褒めてやってもいいぜ」


「我らは暗殺ギルド・レイクカスケードの者。依頼人がお前の死に10000Gを支払った」


「え、俺の命やっす……」


「今頃はお前の弟も襲撃を受けている頃だ」


「ははは、マジで?」


 軽く受け答えすると、暗殺者たちは見るからに戸惑った。


「依頼人からの伝言だ『兄弟仲良く、魔剣タナトスの真実と共に消えろ』」


 暗殺者は伝言を伝え終えると、口から針を吹いた。

 確かこれは麻痺と毒の両方の効果がある毒針だ。


 それがたった今、ガードを行った俺の手の甲に突き刺さっていた。

 暗殺ギルドの暗殺者。ゲームだと1名1名が強敵だ。

 攻撃力が高く、麻痺と毒攻撃をしかけてくるためソロだとかなり厳しい。


「く……っ」


 俺は暗殺者の足下で膝を突いた。


「哀れな、魔剣に力を奪われもう戦うことも出来ぬか。だが嘆くことはない。リチャード・グレンター、お前の命は暗殺ギルドの糧となり、多くの弱者を救うのだ。お命、頂戴……」


 刃が哀れな被害者の喉を狙って突き出された。


「フギュゥッッ?!!」


「あ、悪い、今日から引きこもりになって」


 俺はその刃をすいっとかわして反撃のトイレのスッポンで暗殺者の顔面を『キュポッキュポッキュポッ』とした。


「き、貴様……っ!?」


「毒針が当たったはずなのに、なぜ!? うわっ!?」


 泣いたり笑ったり出来なくなった敵リーダーを、脅威の吸引力で振り回して暗殺者たちに投げ付けた。


「毒? なんのことだ? 普通に動けるけど、調薬しくじったんじゃないの?」


「かくなる上は力ずくで……っ、覚悟っ、リチャード・グレンターッ!!」


 暗殺者たちは素早かった。

 短剣が次々とひらめき、標的を急所を3連コンボで突こうとした。


「フギョッッ?!! ……な、なんだ、この力は、や、止めろっ、ンブフッッ?!!」


 だが残念、俺の方が速い。

 さらに通常の4倍の跳躍力を使って壁を蹴れば、背後に回り込むなんて簡単だ。


「これでっ、お前も、ニートだっっ!!」


「ア、アアアアアッッ?!!」


 トイレのアレで尻を吸ってやると、暗殺者は膝を突いて昼間の空を見上げてお星様を探す廃人さんとなった。


「これで勝ったと思うなっ! 必ずその首、我らがもらい受け――」


 残る暗殺者2名は、敗色を悟るなり尻尾巻いて鮮やかな逃亡をはかろうとした。


「いや逃がさんし」


 だがそれはヘビーダーツが許さない。


「ウガァァァッッ?!!」


 同時に2本投げされたヘビーダーツが彼らの背中に突き刺さり、前のめりに転倒させた。


「か、身体が……っ、ま、麻痺毒、だと……っ」


「バカな……我ら暗殺ギルドがこんな、やすやすと……ンブホッッ?!!」


 倒れたヒゲのある方の暗殺者の顔面をトイレのアレで吸った。


「ぁ、ぁぁ…………!? な、なんだ、なんだこの力は……。や、止めろっ、もう止めろぉっっ?!!」


「依頼人に関する話が聞きたいな」


「それは言え――ンゴホッッ?!!」


「はい、ラストチャンス。3……2……1……0」


「や、止め、止めてくれぇぇっ、ギャーーッッ!!」


 ヒゲの彼は結局最後まで吐かなかった。

 今はお空を見上げるのに忙しいようなので、残る1人に近寄る。


「ま、待ってくれ……っ、お願いだ待ってくれぇーっっ!!」


「そう言われてもな、こっちは弟を刺されてる側なんだ。弟を刺し、うちの御者に大怪我をさせたのは、お前らだろ?」


 彼は答えられなかった。

 もしも潔白なら即答で違うと答えただろう。

 ほぼ黒と断定出来たので、麻痺毒を食らった彼の頭の上でトイレのアレを構えた。


「うん、社会に戻すべきじゃないな。全員、引きこもりになってくれ」


「ま、待て! 我々に命じたのはお前のかつての仲間だ!!」


「は? それだけで逃がしてもらえるとか本気で思ってるの?」


「頼むっ、俺には妻と娘がいるんだっ!! ニ、ニートになどなりたくないっ!!」


「なら答えたらいい。具体的には、誰?」


「知らない!! 依頼人がそう言っていただけで、他に何も――ンギュッ、ンブッッ、ンモチュゥゥゥーッッ?!!」


 具体的な情報は得られなかったが、これにて暗殺者全員の引きこもり化が完了した。


「ふぅ、清々しい気分だ……」


 え、なんで、トドメを刺したかって?

 復讐を諦めるより、復讐した方がスッキリしていいに決まってるじゃん。


「それにしても、かつての仲間か。少し引っかかるが、まあいい」


 とにかく勝利した俺はその足で冒険者ギルドに戻った。


「おっすピリリカさんっ、なんか今から出来る面白いクエストあるっ!?」


「あっ、いらっしゃいませ、リチャードさんっ! はいっ、ありますよっ、さあどうぞカウンターへどうぞっ!」


――――――――――――――――――

【瘴気の洞窟でのケイオススポア採集】

 勤務先 :旅の扉の先

      瘴気の洞窟ダンジョン

 標的・数:ケイオススポア40本

 報酬  :800G

 備考  :たいまつ必須

――――――――――――――――――


 これも以前紹介されたやつだ。

 ケイオススポアも医薬品。薬の高騰にみんなが困っていると彼女が言うので、しょうがないし遊び半分で付き合った。


≪採集:76→77≫

≪トイレのスッポン:81→82≫

≪ダーツ:41→42≫

≪女たらし:45→46≫


 ま、こういう日があってもいいと思う。


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