・ボスを倒したらガールフレンドがいっぱい出来た!
「報告ッ!! キングッ、変態ッ、変態ガ、来ルゥッッ!!」
「子らよ、お前たちの言葉は時々よくわからない。もう少し言葉の勉強をしなさい」
「変態ダッ、変態来ルッ、心、壊ス、変態ガ襲ッテ来タッ!!」
ゴブリンのドロップアイテムである【ゴブリンストーン】を拾うこと400ちょっと。そろそろ2人がかりでも持ち帰るのがきつくなってきた。
「来タァァァッッ?!!」
「おっす、ゴブリンキング! 心に深い傷を負わされたくなかったら、レアドロップよこせー!」
「ゴブリンキングッ!! ポゥエン村の人たちのためにっ、お前には滅びてもらうっ!!」
師弟――そう名乗ってももういいだろう。
プランジャー剣術を極めんとすると我ら師弟は、ゴブリンキングと残党どもにトイレのスッポンを突き付けた。
「それは人間のトイレ掃除の……な、なんなのだ、この変態たちは……!? こんなおかしな変態に、我が巣は壊滅させられようとしているのか……!?」
「リチャード様はゴブリンキングをやっつけて下さい! 僕は他のやつを無力化します!」
「おうっ、同じ使い手が隣にいると頼もしいもんだなぁっ!」
「光栄ですっ!! 覚悟っ!!」
ゴブリンキングはエンドコンテンツだ。
初攻略段階では倒せない、倒さなくてもなんの問題もない敵だ。
「巣の頂点、ゴブリンキングを甘くみないでもらおう、人間よ!! 喰らえ、音速斬!!」
説明しよう。
音速斬とは風属性・単体・遠距離攻撃属性の、まあいわゆる見えるソニックブーム攻撃である。
「リチャード様ッッ!?」
それをあえて俺はノーガードで受け止めて見せた。
「な、何……っ!?」
自分のHPを確認すると数値は≪99%≫。音速斬は冒険者の服+22とリチャードの防御力をかろうじて貫通した。
「今のが最強の技か?」
「バ、バカな……今一度っっ!! 音速斬!!」
迫り来るソニックブームを、今度を盾を追加して防いだ。
「ほう、こうなるのか」
リチャード・グレンター、こいつ、つっよ……!!
「お、音速斬!! 音速斬!! 音速斬っっ!! そ、そんな……バカなことが……!?」
「リチャード様……やっぱり、カッコイイ……」
「ではお返しといこう。ゴブリンキング、何か言い残すことはあるか?」
「お、音速斬が……完全に、入った、はずなのに……」
俺がゴブリンキングと遊んでいるうちに、ニケがキングの取り巻きを片付けてくれた。
「よく見ているんだぞ、ニケ」
「はいっ、リチャード様っ、リチャード様っ、リチャード様っ!!」
「これがラバーカップ剣術奥義――」
うろたえ後退するゴブリンキングにトイレのスッポンを向けて、俺は叫んだ。
「ラバーカップゥゥ…………ンビィィィィィィムッッ!!!!」
え、ここでこれ撃つ必要ある?
あるよ、あるに決まってるよ。
特撮ヒーローだって最後は必殺技で怪人とか怪獣やっつけるじゃん。
太さにむらのある黄土色のビームはゴブリンキングを飲み込み、消し飛ばし、奥の壁をぶっ壊して洞窟を粉塵まみれにした。
「リチャード様っ、こちらへ!」
「悪い、助かるぜ、ニケ……」
「い、いえっ! リチャード様のお力になれるなら、僕はそれだけで、嬉しいですから……」
やることやった俺たちは少し休み、落ちつついてからゴブリンキングのドロップを回収した。
ドロップは通常枠の、赤に黒が混じる宝石【ゴブリンキングストーン】だった。
「帰りましょうか」
「いや、なんか急に、奥に財宝があるような気がしてきたなぁ……?」
「財宝ですか? ゴブリンの財宝……おぞましい物がたくさんありそうで、おっかない気もします……」
主人公であるルイン王子をここを訪れていたら、ゴブリンの脅威に嘆く村人はいない。お宝がまだ残っている可能性は濃厚だ。
奥の壁を蹴破り、宝箱のある隠し部屋に入った。
「あっ、た、宝箱っ!! すごいっ、それも金色の宝箱が2つも!!」
「いっせのーでで、一緒に開けようぜ!」
「はいっ! いきますよっ、いっせーのー、でっ! わ、わああああっっ?!」
確かあっちの箱には大金が入っていたはずだ。横目で見ると、宝箱の中には100G金小貨や銀貨がザックザクだった。
そしてこっちにあるのがユニーク・アクセサリーのコンバートリング。ステータスの【力】と【魔力】を入れ替える効果を持っている。
ゲームでのプレイだと着脱が面倒で使わない装備だが、今のリチャードが使うなら意外とありだ。
「そっちの金、全部お前にやるから、この指輪俺にくれない?」
「いえ、僕は隣で勉強させていただいただけで十分です! 全部リチャード様がお取り下さい!」
「ま、それは帰ってから考えるか。全部回収して帰るぞ」
「はいっ、たぶんこれ、15000G入っています!」
「ははは、大儲けだな! たまには慈善事業もしてみるもんだ!」
ゴブリンの巣穴を壊滅させた冒険者たちは、抱えきれないほどのお宝を抱えて村へと帰った。
・
その晩、村の古い酒場宿に泊まった。
村の者は大喜び。彼らはまさかゴブリンキングを討ち取る者が現れる日が来るとは思わず、この突然の幸福に舞い上がっていた。
「アンタいい男ねぇ……♪ 旦那がいるけどっ、アンタならあたしいいわぁっ♪」
「勘弁してくれ……」
≪女たらし:33→34≫
リチャード・グレンターは女たらしである。それはスキルが証明している不動の事実である。
「おらのが若いべよ! 勇者様っ、村長さからサービスするよう仰せつかってんべ! さ、若いんだから遠慮なく……」
「ごめんなさい、勘弁して下さい、経産婦はちょっとぉぉ……っっ!?」
≪女たらし:34→35≫
しかしそのスキルは若い子にだけモテるとは一言も書かれていない。
リチャード・グレンターはおばちゃんにもやたらとモテた。
「ああ勇者様、勇者様のおかげで息子夫婦が戻ってきてくれるかもしれん……! なんて感謝したらいいか……っ!」
「た、助けてくれっ、ニケッッ!!」
「ごめんなさい、僕もこっちのお婆ちゃんで手一杯です」
≪女たらし:35→36≫
一番若いので41歳。わりと終わってる辺境の限界集落での酒場で、おばちゃんお婆ちゃんに囲まれる夜がふけていった。
≪女たらし:36→45≫
≪ガールフレンド数:??→17(おばちゃん含む)≫
≪全ステータス:(17名×3%=41%)の補正を得た≫




