・『ゴブリン軍団VS変態貴族』が始まった!
ポゥエン村はやたら遠かった……。
馬車を3度乗り継ぎ、徒歩で山道を1時間近く歩いた先にその村はあった……。
「誰も仕事を請けたがらないわけですね……。ポゥエン村、遠すぎます……」
ポゥエン村は要塞化された村だった。
東西の崖を自然の防壁にして、南北に防壁と罠を張り巡らせた、タワーディフェンスゲームみたいに限界サバイバルな村だった。
「ようこそ、ポゥエン村へ!! ようこそ、冒険者様!!」
即ゴブリン討伐といきたかったが、依頼人である村長に話を通した。
「うめっ、山の水うめぇっ、ぷはぁぁーっっ!!」
登山で水筒が空になっていたのもある。
美味しかったし、後でこの辺りの水をたっぷり、戦技【液体:吸引】でかき集めて置こう。
「皆さん、すごいところで暮らしてらっしゃるのですね……?」
「はい、この辺りでは石灰岩や砂金が採れましてな。自給自足をしながら、細々と暮らしております」
「へぇ……そういう暮らしもあるんですね……」
「それよか、ターゲットのゴブリンはどこにいるんだ?」
「はい、冒険者様!! ゴブリンめは東の洞窟を根城にしております!!」
マップ名【ゴブリンの巣穴】。
何度か攻略したことがあるので迷うようなことはないだろう。
「敵の根城での戦いは危険かと存じますが、村のぴちぴちギャルを取りそろえてお待ちしておりますので、どうかっ、ひらにどうかっ!!」
「えっ、ぴちぴちギャル、ですか……!?」
「はいっ! 若い冒険者様、ぴちぴちギャルはお好きですかなぁ……? ゴブリンを倒して下されば、うちの村の若い衆に何をなさってもよいのですぞぉ……?」
この話には裏がある。
確かにこのクエストを成功させると村長は『村の若い』『ぴちぴちギャル』を集めて接待してくれる。
「俺はいいや。お前だけ接待受けてみたらどうだ、ニケ?」
「こ、困りますよそんなのっ!!」
「ははは、それが賢明かもなー」
しかそれが40代以上であるとは村長は一言も言っていない。
ここでぴちぴちギャルという単語につられると、ピチピチの布をまとった41歳から上のオバちゃんの接待を受けることになるのである。
……まあ、そういうのが好きな人もいるから。
「じゃ、俺ら行くから!」
「おおっ、もう行かれますか! 冒険者様っ、冒険者様のご出陣っっ!! 武運をお祈りしておりますぞーっ!!」
村長は必死だった。不自然なほどに俺たちを持ち上げた。
ここで冒険者に逃げられたら村はもうおしまいだと、そう村長は思い詰めているようだった。
「はぁ、心が痛みますね……」
「え、何が?」
「この村の人たちです……。どれだけゴブリンに苦しめられていたら、あんな必死な姿になるのでしょう……」
「さあな」
村を出て東にあるというゴブリンの巣穴に向かった。
日中のゴブリンは穴にこもったまま姿を現さないそうだ。
それからすぐに巣穴に着いた。
巣穴の前には動物や人間の骸骨が飾られていて、生で見るとさすがに不気味で背筋がゾクリときた。
「ひ……っ?!」
「大丈夫、俺たちの敵じゃない」
「が、がんばります……!」
「明かりの魔法を頼む。出来ればピカリャーッと照らしてくれ」
「は、はいっ、ピカピカにしますっ!」
不衛生でおぞましい岩穴を下ってゆくと、すぐに標的のゴブリンを発見した。
「マ、ブシ……ッ、テ、テキ――」
「ほいさっさっっ!!」
「ゲギャァッッ?!!」
ゴブリンは厄介な攻撃が多いが、HPはそこまで高くない。
第1ゴブリンはダーツに頭を射抜かれて消滅した。
「ゴブリンが、1発……! やっぱりリチャード様って強い……!」
「ここで待ち伏せしよう。じきに巣穴中のゴブリンが襲いかかってくるはずだ」
ここは敵のホームランドだ。深入りすると背中を襲われる。
「テキッ、テキッ、テキッ!!」
「ニケ、アレを倒してみせろ!」
「はい、はいっ!! とうっ!!」
ニケはマイダーツを投げた。
「イデェッ?! ヨクモ、ヤッタナ、キレイナ、ガキ!!」
3本中2本命中。効果はゴブリンを怒らせただけだった。
「う、うおぉぉぉっっ!! きゅ、きゅぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅぽっっ、きゅぽぉぉーっっ!!」
続いてニケは腰のショートソードを使ってゴブリンソードを弾くと、トイレのスッポンに持ち替えてゴブリンの顔面を蹂躙した。
「ギエェッ、ヤ、ヤメロッッ、ナンカ、キモチ、悪……ッッ、ギャッ、止メロォォーッッ!!」
「リチャード様みたいに上手くいかないけどっ、でも繰り返せば、いつかはっ!!」
ニケはゴブリンの攻撃をかわしながら、粘り強く攻めた。
≪HP86%→85%≫
しかしトイレのアレでゴブリンに致命的なダメージを与えるのは無理がある。
相手が最弱のグリーンスライムであるならまだしも、ゴブリンのライフはその4倍近くあったはずだ。
「ギャッッ?! ピ、ピリ……」
「リチャード様!」
ちょうど巣穴の下層からゴブリンが大挙してくるのを見ると、俺はヘビーダーツをゴブリンの足に投げて小ダメージと麻痺の状態異常を与えた。
「お前はお前の可能性を信じて、そいつをキュッポンキュッポンしまくれっ!!」
「は、はいっ、貴方みたいになりたいっ!! 僕、がんばります!!」
「俺は巣穴の根絶に入る!!」
「…………え?」
「乱獲乱獲乱獲乱獲乱獲ぅぅんっっ!!」
群がるゴブリンの群れに俺はトイレのスッポンを構え、まるでレイピアのように乱れ突きにした。
ゴブリンソード。短弓。毒の爪。全てダーツボードシールドでたやすく防ぎ、盾をすり抜けた物も全てノーダメで押さえ込んだ。
「ヒ、ヒゲッッ?!!」
「ヤ、ヤメデ……ッ、イ、イヤァァッッ!!」
「ナンダコイツッ、ナンダコイツッ!? ギャァッッ?!!」
≪トイレのスッポン:75→76≫
≪トイレのスッポン:76→77≫
≪トイレのスッポン:77→78≫
ゴブリンも稼ぎモンスターとしてはイマイチだが、このゴブリンの巣穴はちょっとしたボーナスステージだった。
MPの低いゴブリンの精神を破壊するのは意外とたやすく、個体によっては1撃で精神崩壊してくれた。
「ど、どうして……っ、どうしてリチャード様はそんなに速く成長出来るんですか!?」
「スキルを封印したからだっ!!」
「えっ!?」
「スキルを封印すると、その分だけ他のスキルの成長が加速される! 俺は剣や魔法の経験、貴族時代の経験のほぼ全てを差し出した!」
「そうすれば、強くなれるんですか……?」
「封印した分だけはな!」
≪トイレのスッポン:7→8≫
見るとニケのトイレのスッポンスキルは現在8。
あと2上げれば、強力な特殊効果を得ることが出来る。
人がスキルを30まで上げるまで10年かかると言われている世界で、彼はこの短期間にスキルを急成長させていた。
「スキルを封印すれば、いいんですよね……?」
「そうだ。普通しないけど」
「ぼ、僕は……僕は……っ、王家のお荷物なんかじゃない……っ。僕も、僕だってっ、リチャード様みたいに【トイレのスッポン】を極めてみせるっっ!! 封印封印封印封印封印封印っっ!!」
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【戦闘スキル】
剣術 : 16
封印→: 0
弓術 : 15
封印→: 0
トイレのスッポン
: 8
盾術 : 10
攻撃 : 9
防御 : 6
回避術 : 16
自然回復: 8
光魔法 : 41
129/1000
→ 98/1000
【生活スキル】
礼儀作法: 87
帝王学 :108
封印→: 0
弁論術 : 42
封印→: 0
教養 : 90
封印→: 0
ダンス : 40
封印→: 0
お絵描き: 85
封印失敗
チ○ニー:135
それを封印するなんてとんでもない!
307/1000
→172/1000
――――――――――――――――――――
ニケは決意した。
なんか封印出来なかったスキルがあったみたいだけど、そこはおいといて、彼は貴族として生きる道を自ら断った。すると――
≪トイレのスッポン:8→9≫
≪トイレのスッポン:9→10≫
「あっっ!?」
早速効果が現れた。彼のスキルは急成長した。
≪トイレのスッポン:10到達!
特殊効果:物理ダメージ×3MPダメージを得た!≫
その特殊効果こそがトイレのスッポンスキルの神髄。
ニケは俺と同じステージにようやく立った。
「ゲ、ゲヒッ、ギヒッ、ヤ、ヤメデ……ギャァァァァッッ!!」
ゴブリンは執拗な攻撃によりMPを枯渇させられ、精神を崩壊させた。
「ようこそ、俺と同じステージへ。そこまで決断したのならしょうがない、これからも面倒を見てやる!」
「す、すごい……。あ、援護しますっ、もう足手まといにはなりません!」
「ああ、フォローを頼む!」
俺たちはゴブリンたちを圧倒した。物理ダメージの3倍の精神ダメージが入る武器で、次々とゴブリンを戦闘不能にしていった。
現状はニケのトイレのスッポンに毒付与効果はないので、壊れたゴブリンに後からダーツでズドンッとする必要があったが。
≪トイレのスッポン:78→79≫
≪トイレのスッポン:79→80≫
≪トイレのスッポン:80→81≫
≪トイレのスッポン:10→11≫
まあともかく、俺たちラバーカップ剣術の使い手は待ち伏せを止め、ゴブリンの巣穴の奥に分け入った。
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明日より1日1話更新。連載開始より1ヶ月でいったんの完結のスケジュールで投稿してゆきます。




