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30/50

・『ゴブリン軍団VS変態貴族』が始まった!

 ポゥエン村はやたら遠かった……。

 馬車を3度乗り継ぎ、徒歩で山道を1時間近く歩いた先にその村はあった……。


「誰も仕事を請けたがらないわけですね……。ポゥエン村、遠すぎます……」


 ポゥエン村は要塞化された村だった。

 東西の崖を自然の防壁にして、南北に防壁と罠を張り巡らせた、タワーディフェンスゲームみたいに限界サバイバルな村だった。


「ようこそ、ポゥエン村へ!! ようこそ、冒険者様!!」


 即ゴブリン討伐といきたかったが、依頼人である村長に話を通した。


「うめっ、山の水うめぇっ、ぷはぁぁーっっ!!」


 登山で水筒が空になっていたのもある。

 美味しかったし、後でこの辺りの水をたっぷり、戦技【液体:吸引】でかき集めて置こう。


「皆さん、すごいところで暮らしてらっしゃるのですね……?」


「はい、この辺りでは石灰岩や砂金が採れましてな。自給自足をしながら、細々と暮らしております」


「へぇ……そういう暮らしもあるんですね……」


「それよか、ターゲットのゴブリンはどこにいるんだ?」


「はい、冒険者様!! ゴブリンめは東の洞窟を根城にしております!!」


 マップ名【ゴブリンの巣穴】。

 何度か攻略したことがあるので迷うようなことはないだろう。


「敵の根城での戦いは危険かと存じますが、村のぴちぴちギャルを取りそろえてお待ちしておりますので、どうかっ、ひらにどうかっ!!」


「えっ、ぴちぴちギャル、ですか……!?」


「はいっ! 若い冒険者様、ぴちぴちギャルはお好きですかなぁ……? ゴブリンを倒して下されば、うちの村の若い衆に何をなさってもよいのですぞぉ……?」


 この話には裏がある。

 確かにこのクエストを成功させると村長は『村の若い』『ぴちぴちギャル』を集めて接待してくれる。


「俺はいいや。お前だけ接待受けてみたらどうだ、ニケ?」


「こ、困りますよそんなのっ!!」


「ははは、それが賢明かもなー」


 しかそれが40代以上であるとは村長は一言も言っていない。

 ここでぴちぴちギャルという単語につられると、ピチピチの布をまとった41歳から上のオバちゃんの接待を受けることになるのである。


 ……まあ、そういうのが好きな人もいるから。


「じゃ、俺ら行くから!」


「おおっ、もう行かれますか! 冒険者様っ、冒険者様のご出陣っっ!! 武運をお祈りしておりますぞーっ!!」


 村長は必死だった。不自然なほどに俺たちを持ち上げた。

 ここで冒険者に逃げられたら村はもうおしまいだと、そう村長は思い詰めているようだった。


「はぁ、心が痛みますね……」


「え、何が?」


「この村の人たちです……。どれだけゴブリンに苦しめられていたら、あんな必死な姿になるのでしょう……」


「さあな」


 村を出て東にあるというゴブリンの巣穴に向かった。

 日中のゴブリンは穴にこもったまま姿を現さないそうだ。


 それからすぐに巣穴に着いた。

 巣穴の前には動物や人間の骸骨が飾られていて、生で見るとさすがに不気味で背筋がゾクリときた。


「ひ……っ?!」


「大丈夫、俺たちの敵じゃない」


「が、がんばります……!」


「明かりの魔法を頼む。出来ればピカリャーッと照らしてくれ」


「は、はいっ、ピカピカにしますっ!」


 不衛生でおぞましい岩穴を下ってゆくと、すぐに標的のゴブリンを発見した。


「マ、ブシ……ッ、テ、テキ――」


「ほいさっさっっ!!」


「ゲギャァッッ?!!」


 ゴブリンは厄介な攻撃が多いが、HPはそこまで高くない。

 第1ゴブリンはダーツに頭を射抜かれて消滅した。


「ゴブリンが、1発……! やっぱりリチャード様って強い……!」


「ここで待ち伏せしよう。じきに巣穴中のゴブリンが襲いかかってくるはずだ」


 ここは敵のホームランドだ。深入りすると背中を襲われる。


「テキッ、テキッ、テキッ!!」


「ニケ、アレを倒してみせろ!」


「はい、はいっ!! とうっ!!」


 ニケはマイダーツを投げた。


「イデェッ?! ヨクモ、ヤッタナ、キレイナ、ガキ!!」


 3本中2本命中。効果はゴブリンを怒らせただけだった。


「う、うおぉぉぉっっ!! きゅ、きゅぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅぽっっ、きゅぽぉぉーっっ!!」


 続いてニケは腰のショートソードを使ってゴブリンソードを弾くと、トイレのスッポンに持ち替えてゴブリンの顔面を蹂躙した。


「ギエェッ、ヤ、ヤメロッッ、ナンカ、キモチ、悪……ッッ、ギャッ、止メロォォーッッ!!」


「リチャード様みたいに上手くいかないけどっ、でも繰り返せば、いつかはっ!!」


 ニケはゴブリンの攻撃をかわしながら、粘り強く攻めた。


≪HP86%→85%≫


 しかしトイレのアレでゴブリンに致命的なダメージを与えるのは無理がある。

 相手が最弱のグリーンスライムであるならまだしも、ゴブリンのライフはその4倍近くあったはずだ。


「ギャッッ?! ピ、ピリ……」


「リチャード様!」


 ちょうど巣穴の下層からゴブリンが大挙してくるのを見ると、俺はヘビーダーツをゴブリンの足に投げて小ダメージと麻痺の状態異常を与えた。


「お前はお前の可能性を信じて、そいつをキュッポンキュッポンしまくれっ!!」


「は、はいっ、貴方みたいになりたいっ!! 僕、がんばります!!」


「俺は巣穴の根絶に入る!!」


「…………え?」


「乱獲乱獲乱獲乱獲乱獲ぅぅんっっ!!」


 群がるゴブリンの群れに俺はトイレのスッポンを構え、まるでレイピアのように乱れ突きにした。

 ゴブリンソード。短弓。毒の爪。全てダーツボードシールドでたやすく防ぎ、盾をすり抜けた物も全てノーダメで押さえ込んだ。


「ヒ、ヒゲッッ?!!」


「ヤ、ヤメデ……ッ、イ、イヤァァッッ!!」


「ナンダコイツッ、ナンダコイツッ!? ギャァッッ?!!」


≪トイレのスッポン:75→76≫

  ≪トイレのスッポン:76→77≫

     ≪トイレのスッポン:77→78≫


 ゴブリンも稼ぎモンスターとしてはイマイチだが、このゴブリンの巣穴はちょっとしたボーナスステージだった。

 MPの低いゴブリンの精神を破壊するのは意外とたやすく、個体によっては1撃で精神崩壊してくれた。


「ど、どうして……っ、どうしてリチャード様はそんなに速く成長出来るんですか!?」


「スキルを封印したからだっ!!」


「えっ!?」


「スキルを封印すると、その分だけ他のスキルの成長が加速される! 俺は剣や魔法の経験、貴族時代の経験のほぼ全てを差し出した!」


「そうすれば、強くなれるんですか……?」


「封印した分だけはな!」


≪トイレのスッポン:7→8≫


 見るとニケのトイレのスッポンスキルは現在8。

 あと2上げれば、強力な特殊効果を得ることが出来る。


 人がスキルを30まで上げるまで10年かかると言われている世界で、彼はこの短期間にスキルを急成長させていた。


「スキルを封印すれば、いいんですよね……?」


「そうだ。普通しないけど」


「ぼ、僕は……僕は……っ、王家のお荷物なんかじゃない……っ。僕も、僕だってっ、リチャード様みたいに【トイレのスッポン】を極めてみせるっっ!! 封印封印封印封印封印封印っっ!!」


――――――――――――――――――――

【戦闘スキル】

 剣術  : 16

  封印→:  0

 弓術  : 15

  封印→:  0

 トイレのスッポン

     :  8

 盾術  : 10

 攻撃  :  9

 防御  :  6

 回避術 : 16

 自然回復:  8

 光魔法 : 41

  129/1000

 → 98/1000


【生活スキル】

 礼儀作法: 87

 帝王学 :108

  封印→:  0

 弁論術 : 42

  封印→:  0

 教養  : 90

  封印→:  0

 ダンス : 40

  封印→:  0

 お絵描き: 85

  封印失敗

 チ○ニー:135

  それを封印するなんてとんでもない!

  307/1000

 →172/1000

――――――――――――――――――――


 ニケは決意した。

 なんか封印出来なかったスキルがあったみたいだけど、そこはおいといて、彼は貴族として生きる道を自ら断った。すると――


≪トイレのスッポン:8→9≫

    ≪トイレのスッポン:9→10≫

「あっっ!?」

 

 早速効果が現れた。彼のスキルは急成長した。


≪トイレのスッポン:10到達!

 特殊効果:物理ダメージ×3MPダメージを得た!≫


 その特殊効果こそがトイレのスッポンスキルの神髄。

 ニケは俺と同じステージにようやく立った。


「ゲ、ゲヒッ、ギヒッ、ヤ、ヤメデ……ギャァァァァッッ!!」


 ゴブリンは執拗な攻撃によりMPを枯渇させられ、精神を崩壊させた。


「ようこそ、俺と同じステージへ。そこまで決断したのならしょうがない、これからも面倒を見てやる!」


「す、すごい……。あ、援護しますっ、もう足手まといにはなりません!」


「ああ、フォローを頼む!」


 俺たちはゴブリンたちを圧倒した。物理ダメージの3倍の精神ダメージが入る武器で、次々とゴブリンを戦闘不能にしていった。


 現状はニケのトイレのスッポンに毒付与効果はないので、壊れたゴブリンに後からダーツでズドンッとする必要があったが。


≪トイレのスッポン:78→79≫

     ≪トイレのスッポン:79→80≫

    ≪トイレのスッポン:80→81≫


≪トイレのスッポン:10→11≫


 まあともかく、俺たちラバーカップ剣術の使い手は待ち伏せを止め、ゴブリンの巣穴の奥に分け入った。

もしよろしければ、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】をいただけると嬉しいです。


明日より1日1話更新。連載開始より1ヶ月でいったんの完結のスケジュールで投稿してゆきます。


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