表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/50

・男装女子を馬車でハイエースした!

 昨日より少し遅い朝、1階のレストランでいつものように朝食を頼んだ。


「おはよ、最近がんばるじゃん」


「はよっす、キャンディさん。次はでかい仕事を請けるとギルドの人と約束したんだ」


 するといつものように宿の看板娘が現れて、サンドイッチセット3人前を配膳してから向かいに腰掛けた。


「それ、ピリリカって人でしょ。リチャードのことちょー褒めてた」


「ピリリカさんが俺を? そりゃなんかくすぐったいな……」


 それから本名ティリアはさも当然と、山盛りのサンドイッチセットから卵サンドを抜いてかじった。


「ちっちゃい子たちのために薬集めたって聞いた。アンタってさ、そういうことするんだぁ~。なんか、ちょー意外……」


「ははは、俺が人助けなんてするわけないじゃん。ただの仕事だって」


「でもやったことはホントだし、私からも褒めたげる。リチャード、偉い偉い!」


 そう言いながら育ち盛りの乙女はハムチーズサンドにも手をかけた。


「遊び半分でやったことを褒め倒されると、なんか複雑な気分だ」


「ふふふっ、照れ隠しなんてしなくていいよ! リチャードはいいやつだよ、私が保証するっ!」


「だから褒め倒すのは止めてくれって……」


「そうそう、闘技大会まであと5日だね。私も応援に行くからっ、がんばってよね!!」


≪女たらし:30→31≫


 今日はやけに褒め言葉の多いティリアと朝食を楽しむと、彼女に見送られて空鯨亭を出た。


 それから宿屋のひしめく通りを離れ、表通りの冒険者ギルドを訪ねる。

 早朝を避けたこともあって冒険者ギルドの混雑は落ち着いていた。


「あ、いらっしゃいませっ、リチャードさん!」


「おっす、ピリリカさん!」


「待ってましたよっ! 約束、忘れてませんよねっ!?」


「おうっ、ピリリカさんのオススメのクエストを紹介してくれ!」


「はいっ、その言葉も待っていました! ではこちらをお願いします!」


――――――――――――――――――

【ゴブリンキラー】

 勤務先 :ポゥエン村

 標的・数:ゴブリン200体の討伐

 報酬  :4000G

 備考  :ぴちぴちギャル多し

――――――――――――――――――


「あれ……これって……」


「はい、以前ご紹介したクエストです。請けて下さる勇敢な方がいまだ見つかっておりません……」


「そりゃ悲惨」


「お願いできませんか……? 討伐して下さる方が見つからないと、ポゥエン村はいずれ……」


「ゴブリンか」


「はい、残忍な亜人族です。領主のラスター子爵は討伐に消極的で、被害が出るまで動いてくれそうもないと」


 なんだ、グレンター家の元領地というわけか。


「わかった、請ける! 数が多いならケーケンチ稼ぎになりそうだし、俺に任せろ!」


 トイレのスッポンを天に掲げてそう宣言すると、誰かが背中に駆け寄ってきた。


「あ、あのっ、リチャード様ッ!」


 それは新米冒険者のニケ・プーマーだった。

 マゼンダ色のショートカットを揺らして、背の高いリチャード・グレンターを横から見上げていた。


「よっ、ニケじゃないか!」


「ぼ、僕も連れていって下さい! 分け前はいりませんっ、隣でリチャード様の『トイレのアレ』を教わりたいんです!」


「いいぜ、ポゥエン村まで暇だしな、一緒に行こう!」


「え、そんなあっさりっっ!?」


 即OKを出すと頼み込んできた方が驚いた。

 ピリリカさんは静かにペンを滑らせ、ニケ・プーマーの名前を書類に刻んだ。


「あんまりニケくんに変なことを教えないで下さいね?」


「そんなことするわけないだろ」


「いえ、リチャードさんは頭からつま先まで全部変な人ですから」


 そう言ってピリリカさんはこちらに書簡を押し付けた。


「そちらは冒険者ギルドからの仲介を受けた、正規の冒険者であることを証明する書簡です。がんばって下さいね、ニケくん、リチャードさん!」


「おうっ、日帰りは無理だろうけど、明日には報告に戻るよ。行こうぜ、ニケ!」


「わっ?!」


 ニケの背中を押してギルドを出た。

 ニケはくすぐったがりのようだ。ちょっと背中を押しただけなのに身をよじった。


「馬車乗るぜー」


「は、はいっ! ぁ……っ!?」


 御者に金を払うと馬車にニケを引っ張り込んだ。

 ちょっと手を引いただけで女の子(男装)が赤くなるのだから、リチャード・グレンターってやつはずるかった。


「あの、ポゥエン村はどのくらい遠いのですか?」


「行ったことないからわからんけど、片道5時間はかたいだろうな」


「そ、そんなに……っ?」


「心配しなくても宿も飯も俺がおごってやる。ま、観光気分でゆるーくいこうぜー」


「と、泊まるんですか……!?」


「日帰りはさすがにたるいだろ。観光してる時間もなくなるし」


 馬車の客が増えてくると、窓際をニケに譲って間をつめた。


「せ、せまいですね……」


「始発駅だからな。ま、窮屈なのは今だけだ」


 間もなくして最後の乗客が乗り込み、馬車はギュウギュウの定員となった。


「ぅ、ぅぅ……」


「悪い、もうちょっと時間帯を考えた方がよかったな、こりゃ……」


「い、いえ……っ、別に……せまくてちょっと暑いですけど……僕、嫌じゃありません……」


≪女たらし:31→33≫


 暑いと言いながら手を繋いでくる矛盾したニケ・プーマーと、ポゥエン村への長旅を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ