・モンスターギルドでゲットだぜ! した!
この国ではモンスターギルドは冷遇されている。
ギルド本部も中心部での運営が許されていない。
モンスターギルドは都会とはほど遠いのどかな郊外で、だいぶ老朽化した木造施設に居を構えていた。
建物の奥はモンスター牧場になっており、厩舎や放牧されるモンスターを見ることが出来る。
「おじゃましまーす!!」
正面玄関から中に入ると、受付も待合室も閑古鳥の無人の空間だった。
だいぶ間をおいて、奥から『はーい』と女の子の声が上がって、職員の方が応対にやってきた。
「モンスターギルドへようこそ! ええっと……集金の方かな……? すみません、今月はもう少し待ってくれると……」
「いやいやいやっ!? 俺のどこが集金のおじさんに見えるんだよっ!?」
「え、じゃあ、ええと……。騒音の苦情にきた、お役所の人……?」
「新人だよっ、新人っ! テイムスキルを教わりにきたんだよっ!」
勢い任せに入会料1000Gをカウンターに置いた。職員は黄金の輝きに飛び上がり、驚きに続いて喜びの笑顔を浮かべた。
「と、当ギルドに加入して下さるのですかっ!?」
「ああ、元々はその予定なんてなかったんだが、突然入り用になってな」
「ようこそっ、モンスターギルドへ! あたしは受付兼、厩舎職員のモルティ! ふわぁぁぁっ、3ヶ月ぶりの加入者だぁぁーっ!!」
ここではテイム魔法を覚えられる。
魔法系ではあるが、魔力の影響のほぼないスキルなので、【魔力:F】の俺でも大した問題にはならない。
「俺はリチャード・グレンターだ。冒険者をしたり職人をしたり鉱山夫をしたり、まあ自由に生きている」
「そう! あ、これお釣りの500G!」
「釣りはいらない」
「えっ、くれるのっ!?」
「あげる! 前払いの迷惑料だと思ってくれ!」
「迷惑、料……?」
「それよりテイムスキルを覚えたい。レクチャーしてくれないか?」
そう依頼すると、職員モルティのチュートリアルモードのスイッチが入った。
「はい、ではこちらへどうぞ、お客様!」
モルティさんは階段を下り、その先にある【旅の扉】の前に案内してくれた。
「これは【旅の扉】です! この先で貴方の、貴方だけの相棒が待っています!」
「はい」
旅の扉をくぐり、テイムスキルの修得を行うチュートリアルマップに移動した。
その先は広い草原で、非アクティブモンスターが徘徊するご都合主義ワールドだった。
ちなみにテイムスキルだが、これは決して弱くない。
だが何かと中途半端なスキルでもある。
ゲームシステム上でも自分を鍛えて殴った方が早いし、面倒もないし、テイムモンスターも他ユーザーから買えば事足りる悲しき存在だ。
「こちらに膝を突いて下さい! これから貴方にテイムスキルを授けます!」
「膝を突く……?」
こんなテキストあったかなと思いながらも言われた通りにした。
「絶対に、顔を上げないでね……?」
「お、おう……?」
いやこんなテキストはなかったと思い顔を上げた。
「あ…………」
「ふぁ…………!?」
額に接吻をしてスキルを授ける儀式だったのだろうか。
しかし行為は失敗し、唇でそれを受け止めることになった。
≪モンスターテイム:0→17≫
彼女は顔を真っ赤にして飛び退き、それから異常成長を伝えるポップアップを目撃した。
「えっえっえっ、ふぇぇ~っっ?!!」
「悪い、事故だ。いやその、本当にごめん……」
モルティさんは唇を両手で抱えて涙を浮かべていた。
「お、お父さん以外は、初めてだったのに……」
お父さんもお父さんだな、それ。
え、君んち大丈夫?
「本当にごめん。……ところで、チュートリアルの続きをいいかな?」
この世界の人々はゲームシステムがロードされると、やはり決まった言葉と行動を取るようになっているらしい。
動揺しているはずのモルティさんはチュートリアルキャラに戻った。
「はい、これで貴方にテイムスキルが目覚めました。では次にモンスターをテイムしてみましょう。大丈夫、このマップのモンスターは貴方を襲いません」
「えー、本当ー、ちょっと怖いなー、よーし、がんばるぞー」
チュートリアルに付き合って辺りを見回した。
用途を考えると狼系のモンスターがいいだろうか。
育てやすい3つの候補から1つを選ぶゲームもいいが、選択肢に自由があるこの仕様も悪くなかった。
「ん……? あんなモンスター、いたっけ……?」
「どうなさいましたか? もう一度、私の話を聞きますか?」
「いいえ。……それよりあそこのキラキラ光るやつ、モルティさんは知っている?」
そう問いかけると、モルティさんの目元に再び涙が浮かんできた。
「ぅぅぅぅ~~……っっ!!」
それから5メートルほども距離を取られた。
「あの、あそこのモンスター……」
「テイムすればわかるよっ!! エッチエッチ変態エッチッッ!!」
「変態なのは認めるが俺はエッチじゃないっ!!」
俺は予定を変え、好奇心を優先することにした。
テイムすればわかる。確かにその通りだった。
「なんだろう、コイツ。俺のやってたバージョンにはいなかったけど……あ!?」
そのキラキラとアメジストのように光るモンスターは俺が近付くと逃げ出した。
しかしこちらはラスボスボディ+オリハルコンの腕輪で20%のステ補正がかかった存在だ。
「ピィィッッ?! ・Σ・」
「知らなかったのか? ラスボスからは逃げられないのだ」
そのスライムはアメジストのように輝く小型のスライムだった。大きめの大福みたいな塊が元気に跳ね上がって驚いた。
「君に決めたぁぁーっっ!! 発動:モンスターテイムッ!!」
左目を強調するポーズを取ると、そこから男が出しちゃいけないハートが飛び出て、アメジストミニスライムにぶち当たった。
「ぷりゅりゅりゅぅぅっ!!」
それから『ジャキーンッ』とか効果音が響いて、モンスターテイムが成功判定で決まった。
このマップでは特別で、テイム成功率が100%となっているので当然である。
ちなみにRTA勢の中にはこれを利用して、通常では捕獲困難なモンスターを仲間にする者もいるという。
これを行うには非正規の出口からマップを出る必要があり――以下略。
「よろしくな、アメジストスラ――ゲホォォッッ?!!」
しかしその刹那!
アメジストミニスライムの体当たりがマスターのミゾオチに鋭く突き刺さった!
「だ、大丈夫……っ!?」
「な、なぜ……」
「ぶりゅぅぅぅ…… ><#」
「あっ、【友好度:-99】……! いきなり嫌われてる!」
「……あ、なんだ、そういうことか」
モンスターには種族ごとにプレイヤーに対する好感度が存在する。
その系統のモンスターを倒すと好感度が下がり、対立する系統のモンスターの好感度が上がる。
つまりスライムをいじめまくっていた俺は、スライム族にクソ嫌われていたのである!




