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・極まった【落下耐性】の正しい使い方をしたら騒ぎになった!

 それから2日間、鉱石を掘って掘って掘りまくった。

 貴族時代の経験ほぼ全て(720スキルレベル)をかなぐり捨てて莫大なブーストを得たのもあり、俺の生活系スキルは戦闘系スキルのさらに2倍も伸びが良かった。


 そこに育成に最適なドッカー上級鉱山と、ヘルバのツルハシが加われば、俺の【採掘】スキルと【落下耐性】スキルの成長は止まるとこを知らなかった。


 というのもここの上級鉱山は通路が山頂に向けて伸びる構造になっている。

 システム上は毎回ランダムでマップが生成されるインスタントダンジョンとなっていて、鉱山内部は【旅の扉】の先にある世界によく似ている。


 だから無限に鉱石が復活する。

 進んだ分だけ標高が上がり、それが【落下耐性】スキルの育成を両立させる。


 とまあそういうわけで、【旅の扉】の世界に[出入り口]と[ゴール]があるように、この上級鉱山にも一応の[ゴール]が存在していた。


「清々しい気分だ……」


 滞在3日目の夕刻、俺はドッカー山の頂上部にある竜の牙のような巨岩[ドラゴニウス・パイデ]に登り、赤く燃え上がる西の彼方を見下ろしていた。


 高い。恐ろしくここは高い。

 鉱山の終点には大型の昇降機が設置されており、通常プレイでは回収した鉱石をここから平地に運べるユーザーフレンドリーな構造になっている。


「おーい、ビームの兄ちゃんっ、兄ちゃんの荷物、下に運んどいたぜー!!」


「おう、ありがとう、おっさん!」


 それで偶然にも馬車で同席したおっさんがここで昇降機の技術担当として働いていた。


「んなところにいると怪我すっぞ! 降りてこい、おっさんと一緒に連れションでもして帰ろうぜ」


 そのおっさんが荷物を下に運んでくれた。

 そうなるとそろそろ山頂の観光も潮時だ。


「いや悪いけど俺、こっから飛び降りて帰るからおかまいなく」


「ハハハハッ、バカ言ってんじゃねぇよ、ビームの兄ちゃん!」


「いや、俺、バカだし」


 地上まで約400メートル。俺はこの辺りで一番高いところから、アイキャンフライした。


「に、兄ちゃぁぁぁーーーっっ?!!!」


 遠くなってゆくおっさんの絶叫を頭上に、俺は断崖絶壁の出っ張ったところに着地した。そして次の着地点へと俺は再び大地を蹴って落っこちる。


「な、なんだアレは……っっ?!!」


「ひ、人っ!? 人なの!?」


「みんな見ろっっ、何かが壁を飛び降りてくるぞぉぉっっ?!!」


 落下耐性スキルの検証と育成をかねてちょっと遊ぶつもりが、なんかお騒がせなことになってしまった。

 崖下の労働者たちは山頂から飛び降りてくる変態を指さし、俺がアイキャンフライするたびに猿のような悲鳴を上げた。


「ショージキ、これっ、ンギモヂィィッッ!!」


 50メートルくらいの落下くらいならば、この通りのノーダメだ。

 しかしここから先は中継地点になりそうな場所がない。


 地上まであと100メートル。ここからは未知の領域だった。


「に、人間だ……っ、アイツ、まさか、あそこからここまで飛び降りてくる気なのか!?」


「無茶よっ!? いや止めてっ、見てる方が怖いっ!!」


「おい止めろお前っっ、バ、バカなことはよせっ、アアアアッッ?!!」


 しかし幸い、ここから先は山肌に滑れるだけのわずかな角度が付いている。


「これぞ日本の伝統芸能ッ!! 一ノ谷ダァァァァーイブッッ!!」


 観衆の注目を一身に浴びながら、俺は高さ100メートルの高さから地上へと『ズシャァァァーッッ』と滑り、最後は見事着地してのけた。


≪落下耐性:66→67≫


「おっす、俺リチャード! 上から運んだ鉱石を受け取りたいんだけど!」


 労働者たちは絶句するばかりでなんのリアクションもなかった。



「 な……な……んななああああああーっっ?!!! 」



 人々は腰を抜かした。

 怪物でも見るような目でこちらに恐怖した。

 彼らは何を言っても本来の業務に戻ってはくれなかった。


「ビームの兄ちゃんっっ、あんまうちの連中脅かさねぇでくれねぇかなぁっ!!?」


「おお、おっさん!」


「みんなっ、この兄ちゃんはリチャード・グレンター!! グレンター公爵家の若様さぁ!!」


「おっさん……話こじれんだろ、その情報」


「ハハハハッ、普通に俺と降りてくりゃこんなことにはなってねぇよ! 悪ぃなみんなっ、この兄ちゃんちょいと人騒がせなお人なんだ!」


 おっさんのおかげで労働者たちが少し落ち着いた。

 地上に運んでもらった鉱石は、トロッコによる搬送サービスでヘルバさんのところに送ってもらった。


 鉱石128個となると自分だけで運ぶのは不可能だった。


「おかえり、リチャード。あっちが騒がしいけど、なんかあったのかい?」


「いや別に。それよりヘルバさんっ、鉱石を買ってくれ!!」


「手ぶらじゃないかい」


「搬送サービスを頼んだ。そろそろ着くんじゃないかな」


「そうかい、なら着くまでお姉さんの膝の上で休んでいきな」


「あ、こりゃどうも。ふぅ……っ」


 ベンチで休憩していたヘルバさんの膝の上にドッカリと腰掛けて今日の疲れを癒した。


「うぉぁっっ?! ど、どこ触ってるんだよっ、ヘルバさんっ!?」


 すぐに飛び上がることになったが。


「アッハッハッハッ、まったく変な坊やだねぇ! おや、アンタのトロッコって、ひょっとしてアレかい?」


「おお、やっと着いたか! あれだっ!」


 トロッコ4台がヘルバの防具工房前に到着した。


「金鉱石11、ミスリル鉱石12、オリハルコン鉱石3、ルビー鉱石2、ダイヤモンド鉱石1、後は全部鉄鉱石だ!」


「ア、アンタ……なんてやつだい……。1回の上級鉱山での採掘で、これだけの成果を上げるなんて……伝説の鉱山夫王ヨサークに匹敵するよっ!!」


「この中から金鉱石と鉄鉱石を買ってくれ!」


「ああ、他は全部あたしへのプレゼントわけだてね!」


「いや全部自分で使うっての!」


「毎日うちの家でサービスしてやってるじゃないか。オリハルコン3つくらい貢いでくれてもいいんじゃないかい?」


「この前も貢いだだろっ!」


「そんな昔のことは忘れちまったよ。ねぇ、リチャード……今夜、サービスしてやるからさ……アンタの全部ちょうだいよ……?」


「エロい言い方すんなよっ!!」


 お気に入りのサブキャラクター・ヘルバにこんなことを言われたら気持ちが揺らぐ。

 それにこの前も言われたが、オリハルコンを加工するには、超高レベルの生産系スキルが必要だ。


「じゃあ、交換条件だ……」


「本当かいっ!? それを貰えるならアンタの尻だって舐めていいよっ!!」


「軽々しくんなもん舐めんなよっ!?」


「ふふふっ、アンタいい男だからねぇ……♪」


「俺をヘルバさんの弟子にしてくれ。明日から2日、ここで働いて【防具制作】スキルを上げたい」


「リチャードッッ!!」


「ウブフゥッッ?!!」


 イケメンは褐色肌のお姉さんのIカップに顔面を押し込まれた。

 日没時のIカップは汗ばんでペッタリしていてさらにしょっぱかった。


「あたしがなんでも教えてやるよ。盾の作り方から鎧、彼女の悦ばせ方まで全部ね」


「そりゃ助かる……」


「アンタには、女を狂わせる才能があるのかもしれないねぇ……!」


「そっちのスキルは伸ばしたくないんだけどな」


≪女たらし:19→21≫


 そういったわけで明日から俺は防具鍛冶職人見習いだ。

 どんぶり勘定で1000G金貨を11枚受け取った俺は、その日もヘルバさんのお宅のご厄介になった。


 ヘルバさんは[売却価格5000G×3]の貢ぎ物にすこぶる機嫌がよく、頼めば本当になんでもかんでもしてくれた。


「アンタみたいな男、あたし初めてだよ……」


「よく言われる。今まで会ったことのないタイプだって」


「あ、尻舐めてなかったね。さ、尻だしな」


「やだよっ?!!!」


「恥ずかしがってんじゃないよ。さ、出しな?」


「ご、ごめんなさいっ、そういう趣味はないんですっ、勘弁して下さい姐さん……っっ」


「……出しな」


「ヒ、ヒィィッッ?!」


 ヘルバさんの家は料理が上手な肉食獣の檻だった。


――――――――――――――――――――

【成長】

 ≪採掘:29→58≫

 ≪落下耐性:29→67≫

 ≪女たらし:19→21≫

【新たな特性】

 採掘:50達成

  補正:所持重量+50%

 落下耐性:50達成

  補正:跳躍力×2

――――――――――――――――――――


 リチャードは【女たらし】スキルの封印を試みた!


《ブッブーー!!》


 しかし【女たらし】スキルは封印出来なかった!


 なぜだ……なぜなんだ……。


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