・変なスキル育成計画 for 【落下耐性】 with 【採掘】した!
「まあっ、貴方はリチャード・グレンター様っ!」
「へ…………?」
「わたくしです、ルイン兄上の妹のレティシャです」
プチ気絶から目覚めると丘の上に黒塗りの馬車が着いていた。
それで馬車の主が会いたいというのでこちらから顔を出すと、そこには見知った顔があった。
ルインというのはプレイヤーとは別に存在するこの物語の主人公だ。
ルインはラストバトルで仲間と力を合わせて、魔剣タナトスとリチャード・グレンター公爵を討った。
「お元気そうで良かった……。ルインお兄様はずっと、自分が貴方を廃人にしてしまったのだと、気に病んでおりました……」
「姫様、その者は逆賊! 不用意にお近付きになられてはなりません!」
「何を言っているのです! リチャード様は魔剣に操られていただけと、チャールズ様が証明されたばかりではありませんか!」
「しかし姫様っ、この者が国にもたらした損害は莫大っ、関わり合いになるべきではありません!」
そろーり……そろーり……と、キツい雰囲気の小姓とレティシャ姫が口論している間にバックレようとした。
「あ、リチャード様っ、お待ち下さい!」
「いえ、お構いなく」
弟チャールズの立場もある。
俺は礼儀スキルを封印したことを少しだけ後悔した。
「覚えておいででしょうか? ルインお兄様は月に2度、貴方のお見舞いに行かれていました」
「え、ルイン王子が……?」
「ええ、貴方のご快復をとても喜んでおりました」
「そうですか。では彼に『リチャード・グレンターは自由人となった』とお伝え下さい」
一歩下がって典雅にお辞儀をしようとした。
「おっとっとっ?!」
「大丈夫ですか、リチャード様?」
だが【礼儀作法】スキルを封印した俺にはそんな気取った動きは出来なかった。
ギクシャクした動きで、創作ダンスみたいなひょうきんなポーズを取っていた。
「では我々はもう行きます」
「リチャード様、都にお帰りの際はどうぞ王宮にいらして下さい。兄共々、このたびの恩返しをさせていただきたく存じます……」
「はっ、ではチャールズを行かせましょう。私は国を滅ぼしかけた逆賊、貴方様が関わるべきではございましぇん」
これも【礼儀作法】スキルを封印した影響だろうか。
レティシェ姫は噛んだセリフに気付かないふりをしてくれた。
「いいえ、貴方は逆賊ではありません! 全てあの魔剣が悪いのです! お兄様がそう言っていたからそうなのですっ!」
「ありがとうございます、姫殿下。ではチャールズを行かせますので失礼……」
『アイーン』とかセリフが出てきそうなおかしなお辞儀をして、俺は王侯貴族の世界から逃げ出した。
姫君救出からの立身出世!
いかにもお約束のテンプレ展開だったけど、俺にはそういうの無理!
俺の中にいるリチャード自身だってもうお断りだって言っている気がする!
そういうわけで俺は出世フラグを蹴り飛ばし、主人公ルインへの感謝を胸に馬車に乗り込んだ。
「助かったぜ、兄ちゃん! おかげでドッカーに行ける!」
「本当に貴方、貴族様ですの……?」
「いや、俺は冒険者のリチャードだ。グレンター家なんて知んないね」
「お姫様とお近付きになるチャンスだってのに、もったいねぇなぁ……?」
馬車は王家の黒塗りの馬車の右手を横切り、丘の彼方に見えるドッカーの町へと進んで行った。
・
ドッカーの町の馬車駅に着くと、町の北部に広がる山を登った。
その先がドッカー鉱山。高い岩山に無数の坑道がのぞく、一攫千金を望む男たちのむさくるしいパラダイスだ。
「らっしゃいっ、アンタ新人だねっ!?」
「ああ、一攫千金を夢見てやってきた」
ドッカー鉱山で採掘を行うには、まずこのIカップの規格外おっぱいを持つ褐色肌のお姉様に話しかける。
ディスプレイ越しでもいい眺めだったものだけど、それを肉眼で眺めることができるなんて俺は幸せ者だった。
「あたしはヘルバ! 防具鍛冶ギルドの鍛冶師さ!」
「リチャードだ。定職にも就かずフラフラやってるやつだ。ここで採掘したい」
「いいけどうちの鉱山で掘りたいなら1日採掘権を買ってもらうよ。損したくなかったら今日は休んで、朝一できなよ!」
「親切にありがとう。けどケチケチする気はない、採掘権を売ってくれ。あと1番良いツルハシも欲しい」
ヘルバさんは胸の前で腕を組んで、リチャードと並び立つほどの身長からこちらをまっすぐに見つめてきた。
俺からすればお気に入りのサブキャラだ。
ここで強調されたIカップに目を奪われて信頼を失うわけにはいかない。
で、でっけぇぇぇ…………。
「どこ見てんだい、リチャード坊や?」
「悪い」
「いいさ、好きなだけ見ていきなよ。なんなら脱いでやろうかい?」
「じょ、冗談はよしてくれ……っ」
「アンタなかなかカワイイ顔してるからね。ああ、冗談はさておき、レンタル料は下級が750G、中級が1500G、上級が3000Gだよ」
「もちろん上級で頼む」
「あらまぁっ、お金持ちだねぇ、リチャード?」
1000G金貨を『チャキッ』とカードのように開いてヘルバさんに差し出すと、胸の谷間に押し込むよう誘導された。
「んふふふっ、かわいいじゃないか……♪」
「ア、アンタ、そういうキャラだったっけ……っ」
「アタシは面食いなんだ」
「知らなかった……」
「一番良いツルハシはこの【ヘルバのツルハシ】だよ。5000Gでどうだい?」
「よし買った!」
また懐に手を入れて『チャキィィッ』と1000G金貨を5枚開いてきらめかせた。
「ま、待って……っ、そういうの困る……っ、ちょっ、あっ、おおぅっっ?!!」
5枚の金貨はIの狭間に腕ごと飲み込まれた。
この谷間の奥、どうなってるんだろう……。
「カワイイ上に気持ちの良い男じゃないか! 気に入ったよっ、さあ行ってきなっ!!」
「あ、ああ……」
リチャード・グレンター。
コイツ、なんかやたらモテまくってないか……?
顔なのか……?
やっぱ男って顔なのか……!?
イケメンってずるい!!
「鉱石はアタシのところに全部持ってきな。手取り足取り面倒見てやるよ」
「ありがとう、ヘルバさん」
「ヘルバでいいよ。さっ、がんばったらサービスしてやるから行ってきなっ!」
背中ではなく尻を叩かれ、指定のCー13上級鉱山へと入った。
「ううん、ゲーム画面よりなんか暗いな……。カンテラ1つ頼りに暗い坑道に独り……ま、これはこれで面白いか!」
レンタルのカンテラを腰に吊して不気味な坑道を進んだ。少しするとこれまで5万回は掘った採掘ポイントを発見した。
NPC【ヘルバ】が販売する【ヘルバのツルハシ】には【採掘スキル+10】補正の効果がある。
値段は5000Gとムチャクチャに高額ではあるが、その補正は採掘を極めれば極めるほどに恩恵が強く響いてくる。
そのツルハシを、七色に輝く宝石みたいな採掘ポイントに力いっぱい振り下ろした。
≪41%≫
≪採掘:0→3≫
≪0%≫
≪採掘:3→5≫
2回振り下ろすと採掘完了。
七色の採掘ポイントは真っ黒な鉄鉱石に変化した。
「ま、ボチボチか。次行ってみよう!」
駆け足で鉱山を進むと新しい採掘ポイントを見つけた。
「そいっ、そいっ!」
≪31%≫
≪採掘:5→6≫
≪0%≫
≪採掘:6→7≫
スキルレベルのアップにより採掘ダメージが上がっている。
人生2度目の採掘の結果はパンガスのところでよく使った【銅鉱石】だった。
「ええいっ、今一度っ!」
近場に採掘ポイントが集中していたので、掘って掘って掘りまくった。
え、なんで同じ見た目の採掘ポイントから【鉄鉱石】と【銅鉱石】みたいな別々の鉱石が出てくるかって?
≪29%≫
≪0%≫
≪採掘:7→8≫
は、何言ってるの?
ゲーム世界の採掘ってそういうもんでしょ?
成功判定と失敗判定があって、レアとクズに分かれるのがゲーム世界の採掘システムのお約束です!
はい説明終わり!
≪27%≫
≪0%≫
≪採掘:8→9≫
≪25%≫
≪0%≫
採掘の判定は【鉄鉱石】【錫鉱石】【ミスリル鉱石】だった。ミスリルの判定は上級鉱山でも5%ほどだったので結構ついている。
「おっ、ショートカットポイント発見」
鉱山の分岐を右手に曲がると、坑道は鉱山の外へと繋がった。
ただし地上までの距離は4メートルほどある。
だいたい2階のベランダから飛び降りるくらいの高さだ。
「アイキャンフラーーイッッ!! イデェェッッ?!!」
≪落下耐性:0→3≫
着地成功。鉱石を持っていたのもあって、足にヒビが入らんばかりのダメージを受けた……。
だが心配無用、俺にはこれがある!
イーグルのマークが目印の健康ドリンク!
トロピカルポーションッ! ぐびっ!
≪HP81%→HP100%≫
≪スタミナ72%→スタミナ92%≫
トロピカルポーションはHP20%・スタミナ20%を回復させる薬だ。高いけど全てはこのネタスキルのためだ。
「てか美味っ、甘っ、こんなん飲みまくったら糖尿病になっちゃうっ!」
ノンカロリーって聞いたけどホントかよ。
ともかく鉱石を持ってヘルバさんのところに戻った。
誓っておっぱいに釣られてなんていません。
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