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17/50

・ドッカー鉱山に行くついでにビーム撃った!

 朝、日の出前に起き出すとベットのティリアを起こしてしまった。


「嘘っ、アンタがこんな時間に起きるとかどんな奇跡!? 今日は金属スライムの雨が降るんじゃないの!?」


「あ、悪い、起こしちゃったか」


「いいよ別に、私も朝の仕込みがあるし。はぁ……てかまたここで寝ちゃったんだ、私……」


 ティリアは昨日もマッサージにきてくれた。

 マッサージが終わると彼女は親や生活の不満を語り出して、それに付き合っていたらお互いなんか寝てしまっていた。


 誓って手を出していません。


「てかどこ行くのっ!?」


「ドッカー鉱山」


「えっと……え? なんで冒険者のリチャードが鉱山に行くの?」


「請けたいクエストが今ギルドにないんだ。だからしばらくドッカー鉱山で【落下耐性】と【採掘】スキルを上げてくる」


 【採掘】スキルは採掘用のキャラクターを作るくらいの鉄板スキルだ。

 より強力な武器防具を身に着けるには必須と断言出来る。


「えっと……【落下耐性】って、何……?」


 これから仕事に入る気なのか、ティリアは身支度を整えながらそう聞いてきた。


「簡単に言うと、高いところから落ちても平気になるスキルだ」


「あのさ、それって冒険者やってるリチャードに、必要なスキルなの……?」


「ああ、そこまで重要じゃないな」


「ならなんでそんなスキル上げるしっ!?」


「はははっ、そんな決まってる! 変なスキルを育てるのが楽しいからだ!!」


「いや一番変なのはリチャード本人だよっ!!」


 ティリアと夜明け前の暗い廊下を歩き、階段を下って1階のレストランにやってきた。


「ちょい待ち、何も食べないで行くつもり? しょうがないしなんか作ってあげるっ」


「いいのか?」


「うん、一緒に食べよ、リチャード」


 パンとハムの切れ端と青菜を使ったサンドイッチをティリアと食べた。

 料金を払おうとすると『まかない料理でお金は取れない』とティリアは言って、食べ終わると宿の軒先まで見送ってくれた。


「いってらっしゃい、リチャード! 私もがんばるからっ、アンタもがんばりなさいねっ!」


「おうっ、張り合いが出る! また5、6日後になっ!」


 店に出れば源氏名を名乗って営業スマイルと丁寧語で接客をするティリアに、明るいため口で明るく見送られるのも悪くないものだった。



 ・



 出発前、冒険者ギルドの隣にある大型店舗【アイテム屋】に駆け込んで【トロピカルポーション】をたらふく買った。


 それは黄色とオレンジ色が水と油のように遊離しているポーションで、ゲームテキストによるとマンゴーとグレープフルーツの味がするとかなんとか。

 ぜひ飲んでみたいと、かねがね思っていた。


 買い物が済むと始発の大型馬車に乗り込み、都からドッカーの町へと出発した。

 その旅は特に語るようなこともない、のんびりとした3時間弱の旅になるはずだった。


「ちょっと起きて下さい、冒険者さんっ! 貴方、冒険者さんですよねっ!?」


「んぁ……? え、もう着いたのか……?」


「寝ぼけてないでシャキッとして下さい! ま、魔物がっ、魔物の群れが丘の下に……っ!」


 御者に助けを求められて馬車を降りた。

 それから森を出て丘の下を見下ろすと、黒塗りの立派な大型馬車が赤、青、緑、紫、黄色のスライムの大群に囲まれていた。


「このままでは運行出来ませんっ、す、助太刀に行かれてはどうでしょう……!」


 その数がまた素晴らしい。でかいの小さいの全部ひっくるめてスライムが200体はいるように見えた。


「おう、いいぜ、スライムは大好物だ!」


「えっ、冒険者さん……!?」


 ヘビーダーツをベルトから抜き、オーバースローで振りかぶった。

 距離にして約150メートルほどがあったが、こちらには絶対命中+50%の補正がある。


「お、おおおおおーーっっ!!」


 ヘビーダーツは高低差による重力も味方に付けて、一番大きなグリーンスライムに命中した。


 無論、グリーンスライム(大)は爆散した!


「よし命中っ! 次行くぜっ!」


「そ、そのような武器で……お、おおっ、おおおおーっっ?!!」


 レッドスライム(大)が爆散した!

 イエロースライム(大)が爆散した!

 パープルスライム(大)が爆散した!

 ブルースライム(巨大)が爆散した!

 ヘビーダーツの残数は(0/5)となった!


≪ダーツ:32→33≫


「うおおおっ、兄ちゃんすげぇなぁっ!?」


 いつの間にやら同乗者たちがギャラリーとなって、俺のすることを見届けていた。


「一時はどうなるかと思いましたが、無事ドッカーの町に行けそうですな」


「リチャードさんでしたっけっ、貴方はダーツの達人ですのねっ!」


「お、お客様方っ、危険ですので馬車にお戻り下さいっ!」


 でかいのが潰れて、下で戦う鎧騎士たちにゆとりが出たように見える。


 ところがそこにブラックウーズと呼ばれる黒くて巨大で危険な魔物が現れた。

 それは半透明の黒いスライムで、人間に寄生するタイプの超やべーやつだ。


 そのスライムは人間をゾンビのように変えて己の骨格にして、その巨体をもって暴れ回るAクラスのボスモンスターだった。


「ほ、本日の運行は休止っ、休止ですっ! あ、あんなのに勝てるわけがありませんよぉっ!?」


「ど、どうするよ、兄ちゃん!?」


「確かに逃げた方がいいかもしれませんわ……っ、こ、怖いですの……」


 臆病風に吹かれる馬車の人たちを背中に俺は考えた。

 あれを近接で倒すには丘の下まで下りなければならない。


 距離にして150メートルの下り坂を歩いて下りるのは、それだけでもうすっごいかったるい……。


「御者さんたちに、頼みがあんだけど、いいかな?」


「ま、まさか、戦う気ですか……!? いくらなんでも無謀だ!」


「な、何をする気だ、兄ちゃん……?」


「あれ倒すからさ、後のフォローよろしく」


 腰のトイレのスッポンを抜き、照準を丘の下の巨大ブラックウーズ周辺に定めた。


「ラバーカップゥゥゥ…………」


「冒険者様っ!? な、なぜトイレのスッポンを――ヒェェェッッッ?!!」


 そして放った。このゲームを形作りし神々がもたらしし悪ふざけ、必殺【ラバーカップビーム】を。



「ンビィィィィムッッッッ!!!!」



 彼らは見ただろう。

 黄土色のぶっとい光が丘の上よりきらめき、Aクラスボスモンスターのブラックウーズごと周辺のスライムたちを消し飛ばす奇跡――いや、天災にも等しい何かを。


≪トイレのスッポン:54→55≫


「なっ、なっ、なっ、なんなんですのぉぉ貴方ぁぁぁーっっ?!!!」


「トイレのすっぽんからウンコみてぇなビームが出たぁぁぁっっ?!!」


「おおっ、魔物が逃げていきますよ!! よかったっ、これでドッカーまで運行できます!!」


 直径1メートルのビームは太さにむらがあり、ときどき細切れになったところもあったりして、まあアレに見えなくもなかった。


「んじゃ、後フォローよろしく。ぐは……っ」


「冒険者さんっ!?」


「ダハハハッ、運行だけにウンコーってな! やるじゃねぇか、兄ちゃんっ!!」


 戦局をビーム一発で逆転させた俺は、馬車の人たちに賞賛されながらプチ気絶していた。



――――――――――――――

【戦闘スキル】

 トイレのスッポン

     : 54

     → 55

 ダーツ : 32

     → 33

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