・早死にしそうなスキルが目覚めた!
「これは、困りましたねー……」
カゴに収まりきらないほどの獲得物をニケと抱えて帰ってくると、換金ルームでピリヒカさんに難しい顔をされた。
「なんだ?」
「明日は【不定形の森の採集クエスト】を紹介出来そうもありません」
「なんで?」
「毎回毎回、集めすぎですよ……。在庫が消化されるまで、明日からは報酬はお支払い出来ません……」
ちょっとがんばりすぎてしまったようだ。
薬草1165個と、グリーンスライムの核を255個。まあ少し多かっただろうか。
「そうか、なら今日はそちらの言い値で買い取ってくれ。お互い持ちつ持たれつでいきしたいしな」
「助かります。ではしめて……2500Gでよろしいですか?」
「切りがよくていいなっ、その値で売った!」
1000G金貨2枚と、100G小金貨5枚を受け取った。気前のいい俺はもちろん、1000G金貨を1枚、弟子のニケにくれてやった。
「え……!? ぼ、僕は見てただけです……!」
「助けてくれただろ。ニケが来てくれなかったら死んでた」
「えっえっ、でも、受け取れませんよ、こんなにっ!」
「1000Gくらいまた稼げばいいし気にするな」
面倒なので金を押しつけて退散しようとした。
「ちょっとお待ちを、リチャードさん!」
「あ、なんだ?」
「実は、リチャードさんにオススメのクエストがあるのですが――」
「ごめん断る、俺はぬるいのがいい」
ここで仕事をするたびにこんなやり取りをしていた。
「そんなこと言わないで、クリムゾン・オーガの討伐を手伝って下さいませんか……?」
クリムゾン・オーガ。
オーガのくせに炎魔法を得意とするボスクラスモンスターだ。
ドロップは魅力的だが、そもそもボスクラスは育成効率が最悪だ。
この世界は『雑魚狩り is パワー』なのである。
「はぁ、気乗りしませんかぁ……。じゃあ、独りで行きます……」
「え、ええっ!?」
まさかの決断にニケも素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっと待て。いくらピリリカさんでもそれは無茶だろう。てか、受付の仕事は……?」
「明日はオフなんです。手伝ってくれる方がいると、楽に薬の材料が手に入って助かるのですが」
「薬? 薬ってなんだ?」
「クリムゾン・オーガの爪が、とある小児病の薬になるんです。手伝って下さいませんか……?」
「くぅ……断りにくいなぁ、その誘い……。しょうがない、手伝ってやるよ!」
「ぼ、僕は――」
「君は明日は公務でしょ」
「そ、その話はここでは止めて下さい……っ」
人には人の事情がある。
深く詮索はせずにその話はスルーした。
「んじゃ行くか、ニケ」
「え……どこへ……?」
「打ち上げに決まってんだろ。門限いつだ? 夕飯おごってやっから俺についてこい!」
「で、でも、外で勝手に食べると怒られ――」
「いいからこい!!」
「は、はい……っ、はい、リチャード様!!」
明日のことは明日詳しく聞くと断って、ニケの手を引っ張ってギルドを出た。
命の恩人に金だけ渡して別れるのもなんだかなー、だ。
「客連れてきたぜ、キャンディさん! これ、俺のダチで弟子!」
「わはーっ、かわいい男の子!」
「は、初めまして……」
「門限あるみたいでさー、早めに食わせてやりたいんだけどいいか?」
「おっけーっ、パパにお願いしてみる! 朝食もランチもやってるからー、気に入ったらまたきてねっ、美少年!」
ステータスによるとニケは女らしいけど、まあそこは言わない方が面白いからそっとしておこう。
俺はニケと軽く飲み食いして、それから門限のある彼女を大通りまで見送った。
「楽しかったです、リチャード様……! で、でもごめんなさいっ、急いで帰らないと……っ」
「おう、んじゃまたな!! 今度一緒に冒険しようぜ!!」
「はいっ、喜んでお供します!!」
ラスボスやってた俺にも初めての仲間が出来ました。
笑顔で手を振るニケに手を振って、門限の厳しい友達と別れた。
それから空鯨亭に戻ると、少し飲んでから部屋に落ち着いた。
「お待たせ、リチャード」
「……お? あ、そうか、そんな約束もしてたな」
「ちょっと、何を忘れてるんですかぁー!? こっちは恥ずかしいの我慢してきたのにっ」
「ただのマッサージだろ、キャンディさん」
そう言葉を返すと、キャンディさんは唇を指に当てて何かを考え始めた。
「ティリアよ……私の、本名……」
「知らなかった」
ゲームを何周もプレイした俺でも彼女の本名は知らなかった。
「当たり前でしょっ、誰にも教えてないしっ!」
「ならなんで俺に教えるんだ?」
「リチャードなら別いいかなって、思っただけよ……。ちょー脳天気だし……」
「はははっ、実際脳天気だ!」
普段のキャンディさんとはちょっと違ったティリアが新鮮だった。
彼女は宿娘にして、宿のアイドル。色々と事情がありそうだ。
「さっさと横になって! 言っとくけど、私のマッサージは高いから!」
「わかった。けど食事切り詰めて、金集めて、どうすんだ?」
「もちっ、新しいお店を建ててパパママから独立するのっ! でも、全然足りなくて……」
「そりゃな」
「こういうの、私も抵抗ある……。でも、相手がリチャードなら……ま、いいかなって……。世間を舐め腐ったバカだし……変態だし……」
「じゃ、前払いだ。これで何日分になる?」
今日の稼ぎから1000G金貨1枚、ティエラに爪弾いた。
「えっえっ、こ、こんなに……!?」
レベリングが進めばもっともっと稼げる。
後生大事に抱えるより、くれてやった方が楽しそうだ!
「サービスしてくれよな」
「い、言っておくけどっ、割り切りのお金の関係なんだから……勘違いしないでよね……?」
「ああ、その方が後腐れなくていいかもな。良い夢だと思う、応援するよ、キャンディさん」
「ぅ……。今は、ティリアって、呼んで……」
その晩、ティリアにマッサージしてもらった。
いや、マッサージにしては少し長いひとときとなったが、彼女は大きすぎるチップに酬いようと、精一杯がんばってくれた。
「明日さ、彼氏づらしたら殴るからね……」
「相手がティリアならともかく、あのキャンディさん相手にそれは俺もひかえたい」
「ふふ……ならいい。また明日もサービスしてあげる……このチップ、大きすぎるもん……」
ティリアはベットに横たわり、金色に輝く大きすぎるチップをランプの明かりに当てて、飽きもせずに何度もきらめかせていた。
≪女たらし:0→5≫
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【戦闘スキル】
トイレのスッポン
: 39
→ 48
ダーツ : 23
→ 29
【生活スキル】
採集 : 45
→ 57
女たらし: 0
→ 5
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