・○○ニー極めてる弟子が出来た!
SIDE:変態元貴族
目覚めると知らない子が俺のトイレのスッポンで戦っていた。腰に自分の剣があるのに、まるで俺のまねをするかのようにグリーンスライムをずっぽんずっぽんしていた。
「おらおらおらおらおらおらっ、おらぁぁーっっ!!」
男の子にしては声が高い。
男の子にしてはかわいい顔をしている。
マゼンダ色の髪をショートカットにした彼は小綺麗な身なりをしていて、いかにもお金持ちの息子といった風体だった。
男の子……いや、女の子……どっちだろう。
服装は絹を使った染色されたもので、どこかの富豪か、あるいは貴族の息子にも見える。
その子は一生懸命、俺のトイレのスッポンなんかでスライムを突きまくり、100回近く突いたところでようやく敵をやっつけた。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、すごく、この武器……弱い……っ!」
弱い。そうか、弱いか。俺もそう思う。
「ハハハハッッ!!」
「ぇ…………!?」
「まあ確かに弱い!!」
「リ、リチャード様……!? ご、ごめんなさい失礼いたしました……っっ!!」
「いや弱いのはホントだし。それより助けてもらっちゃったみたいだな、サンキューッ!」
やっぱり女の子かな……?
感謝するとその子は顔を真っ赤にしてモジモジと恥じらった。
「ご、ごめんなさい……勝手に、貴方の攻略中のエリアに入って……」
「でもおかげで助かった! ……けど、なんで俺の名前知ってんだ?」
「そ、それは……っ」
彼女あるいは彼に寄って、リチャード・グレンターの高身長から顔を見下ろした。
彼女の顔がどんどん赤くなっている。
「僕……僕……っ」
「おう?」
「僕っ、ニケ・プーマーといいますっ!! 僕っ、リチャード様の大ファンなんですっっ!!」
「………………え?」
純朴そうな彼女が嘘を吐いているようには見えないが、ちょっと信じかねた。
だってそうだろう。トイレのスッポンを腰に吊し、ダーツボードを盾にして街を練り歩く変質者に、どこの誰が憧れる……?
「リチャード様、カッコイイです……」
「いや、自分で言うのもなんだけど、俺って……変質者サイドの人間だぜ……?」
「はい、僕も最初は変態かと思いました!」
「正直だな、おい!?」
「でも戦うリチャード様はカッコイイんです!!」
「その手に持ってるトイレの『きゅぽっ』とするやつで戦っても?」
「あっ、ごめんなさいっ、これお返ししますっ!! ぁ…………」
トイレのスッポンを受け取る際、手と手が触れた。
たったそれだけで恥じらう姿がかわいいけど、女の子、だよな……?
「もしかしてコレに興味あんの?」
「はいっ、ありますっ!」
「ま、まぢでぇ……?」
想定外だ。
街の者はトイレのスッポンを腰に吊す俺に奇異の目――どころか、変態を見る目しか送らないというのに、まさかこんな若い女の子に憧れの目を送られる日がくるなんて……。
女の子、だよな……?
「お忙しいのは存じていますが、出来れば、で、弟子に……リチャード様の弟子なりたいです……っ!!」
「お、俺と一緒に、コレを極めたいと……?」
「い、一緒……っ。はいっ、僕、リチャード様にトイレのアレを教わりたいです!!」
変な子だ。だが本気のようだ。
この身なりの良さで冒険者をやっているのも、何か理由があるのだろう。
もし貴族出身者ならば彼女は俺のお仲間だ。
「……ま、いいか。今度冒険に誘うからどこで暮らしているか、教えてくれるか?」
「やったぁぁーっっ!! 僕、貴族街で暮らしています! プーマー家を訪ねていただければ、使用人が言づてを聞きますので!」
「やっぱ貴族か。隠さないのな」
「リチャード・グレンター様、それは貴方もです!」
「俺は貴族止めたから。用があったら宿屋街の空鯨亭の人に言づてを頼むな」
「はいっ!」
まあたまにペアを組んでパワーレベリングするのも楽しいかな。
このゲームはマルチプレイ対応。
知らん人とフレンドになって、知らん新人を育てるのも楽しみ方の1つだ。
「じゃ、今日は俺の戦いを後ろで見ているがよいっ!」
レベリングを邪魔されたらかなわないし、今日はこう言っとこう。
「見学させてもらえるんですか!? ぜひお願いします!!」
「あ、そうだ。その代わりに」
「はい、何でも言って下さい、リチャード様!」
「ステータスとスキル、全部見せて」
「ぇ…………」
長い沈黙があった。
どちらも個人情報。いやプライベートな情報の塊だ。
人に見せるわけにはいかない都合の悪いスキルもあるだろう。
「全部見せてくれなきゃ弟子にしない」
「ぅ……ぁ……ぅ……っ……ぅぅぅ……」
ニケは涙を目元に浮かべた。
顔は羞恥に真っ赤で、裸になった方がまだマシみたいな恥じらいっぷりだった。
「どうする?」
「せ、責任……責任、取って、下さるなら……っ」
「おう取る取る、んじゃ見せて?」
ゲーマーの心が騒いだ。
NPC冒険者のステータスとスキルを見られるなんて、俺はついている。
「お、お父様にも、見せたこと、ないんですからね……?」
ご令嬢の気品をほんの少し垣間見せて、ニケはステータスとスキルをオープンした。
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【ニケ・プーマー】
職業:王族
力 :C 守 :B
技 :A 速 :S
魔 :B 魔守:B
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【戦闘スキル】
剣術 : 16
弓術 : 15
盾術 : 10
攻撃 : 8
防御 : 5
回避術 : 15
自然回復: 7
光魔法 : 40
116/1000
【生活スキル】
礼儀作法: 87
帝王学 :108
弁論術 : 42
教養 : 90
ダンス : 40
お絵描き: 85
チ○ニー:130
582/1000
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最後のスキルに二度見、三度見すると、恥じらいのあまりに彼女はスキルを閉じた。
ステータスとスキルは人には見せられない。
彼女はとんでもないスキルを修得――いや、ご開発めされていた。
「あー……責任って、そういう意味……?」
「もうお嫁にいけません……」
「いや、ごめん、こんな……え、130も……!?」
「うぅぅぅーっっ!! 言わないで下さいっっ!!」
王族という情報が軽く吹っ飛ぶほどの爆弾だった。
「ま、いいか。んじゃ俺のスキルとステータスも見せる。これでおあいこだ」
「えっ、えっ!?」
「ステータス&スキルオープンッッ!!」
だいぶ時間を取られたが、全てのスキルをさらけ出して、俺は再び薬草採集と乱獲に入った。
ニケが薬草とスライム探しを手伝ってくれるので、タイムロスをものともせず、その日の獲得はこれまでの記録を大更新するに至った。
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