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・憧れのリチャード様の助けに入った!

SIDE:新人冒険者


 僕の名前はニケ・プーマー。職業:冒険者、性別:女だけど男、年齢19歳。最近、気になる人が出来た。


 それはほんの少し前、その日もギルドの悪い人にお金を巻き上げられてすごく悲しい気持ちで家に帰ろうとした日没のことだった。


「禍根が残っては面倒だ。お前たちには、全員引きこもりになってもらう」


 あの日、僕は見た。僕より新人のリチャード・グレンターが、あの人たちをやっつけるところを!


「た、助けてくれっ、助けてっ、変態におそわれているぅぅ!!」


 最初は加勢しようかと迷った。

 リチャード・グレンターはトイレのアレと、ダーツしか持っていなかった。

 でもその人はあまりにも強すぎた。


「嫌だっ嫌だっ、あんな不名誉な武器でやられるのは嫌だぁぁぁーっっ!! ンギュゥッッ?!!」


 彼は冗談みたいな武器で、次々と悪いやつらをやっつけて、悪い人間の心を粉々に砕いていった。


「さて、ナイフぺろぺろマン先輩」


「あ、ああ……ああああ…………」


 ペロリンガーもターントも、先輩だからと言って僕からたくさんのお金を巻き上げた。

 そんな僕から見ると、リチャード・グレンターは憧れてしまうほどにカッコイイヒーローだった。


「これ、正当防衛ですよね?」


 トイレのアレで戦うからとか、そんなの関係ない!


「わかってくれてよかった。えっと、次は壊しますから、その心」


 僕もトイレのアレで戦いたいと思った。クールなダーツを極めたいと思った。


 だから僕はリチャード――リチャード様がギルドに帰ってくるのを見ると、いてもたってもいられず後を追いかけた!


「本当はダメなんですけど、まあいいでしょう、私もリチャードさんが気になりますから」


「じゃ、じゃあ……!」


「様子を見てきてくれますか、ニケちゃん?」


「ぼ、僕は男ですっ!」


「ふふ……ターントさんとペロリンガーさんを壊したのはあの人だったのね。情報助かったわ、やっぱりあの人が私の出世の鍵よ!」


 そして僕は【不定形の森】で見た。

 憧れのリチャード様のとてつもなさを!

 リチャード様は新しいダーツでグリーンスライム5体を一瞬でやっつけてしまった!


「つ、強い……っ」


 それだけじゃなかった。

 物凄い数のグリーンスライムの群れの攻撃を、全部ダーツボードで防いでいた!


「カッコイイ……ッ、カッコイイ……ッ、カッコイイッ、わぁぁっ、リチャード様……ッ!!」


 流れるような銀髪。

 誰にでもほがらかな甘いマスク。

 男らしいくてしなやかな肢体。

 脳髄が痺れるような低い声。


 カッコイイあの方が装備すると、トイレのアレだってカッコイイ聖剣みたいに見えた!


 僕も強くなりたい。リチャード様みたいに強くなりたい。

 性別は女だけど、僕は男たちよりも強くなりたい!


 そんな僕の前で、リチャード様は真の力をさらけ出した。

 リチャード様はトイレのアレの先からビームを出して、巨大なスライムごと山を吹っ飛ばした!!


「強い、強すぎる……っ、僕も今みたいなビームを出したいっ!! あっ、リチャード様……!?」


 リチャード様はうずくまり、倒れてしまった。

 しばらく様子を見ても立ち上がらない。

 心配になって僕は隠れるのを止めてリチャード様に駆け寄った。


「あ、あの、リチャード様……? あ、あの……。ふぁぁぁ……カッコイイ……ッ」


 うつぶせが苦しそうだったので仰向けにして差し上げると、リチャード様の無防備な寝顔に心臓が止まりそうになった。

 こういうのを一目惚れというのだろうか。

 強い。カッコイイ。すごくやさしそう……。


「あ……っ」


 リチャード様のお姿に夢中になっていると、グリーンスライムがこちらににじり寄ってきていた。

 僕は剣に手をかけて、それから止めて、リチャード様のトイレのアレを取った。


「ぷ、ぷりゅ!?」


「ぼ、僕だってっ、僕だってトイレのアレで戦えるんだっ! あっ、リチャード様のダーツ! 食らえーっ!!」


 銀色のすごく重いダーツをグリーンスライムに投げた。リチャード様がするように1撃で倒せなかったけど、不思議なことが起きた。


「ぷ、ぷりゅ、ぷりゅぴりりりり……」


「麻痺、している……? あ、チャンスだっ、う、うおぉぉぉーっっ!!」


 リチャード様がそうしたようにトイレのアレを構えて、グリーンスライムを『ちゅぽんっ』とした!


「おらおらおらおらおらおらっ、おらぁぁーっっ!!」


 弱い! この武器、すごく弱い!

 でもこれを極めたリチャード様はすごく強かった!


 僕もリチャード様みたいになりたい!

 当てても当ててもHPの減らないスライムを何度も突いた!


 数え切れないほど突くと、やっとスライムは崩れて核になってくれた。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ、すごく、この武器……弱い……っ!」


 息を乱してそう独り言を言うと、笑い声が背中から響いた。

 リチャード様が気がついて、僕の戦いを見て明るく笑っていた。


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