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女子高生アイドルの恋愛事情 〜春山美咲の場合〜  作者: ゆゆこりん
本編

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第45話 お天気の神さま


 始業式の今日は一段と気温が低く、さらに雪の予報まで出ていて、都心は交通機関の麻痺にご注意をとのことだった。

 外に出たときに浴びた風は頰を刺すように冷たくて、思わず身を縮こまらせた。


 受験生は朝の課外授業があるから、この時間帯に登校しているのはお姉ちゃんと同じ三年生。 追い込みの時期だからか、歩きながら単語帳をめくる姿がちらほら。


 昇降口でお姉ちゃんと別れ、一年生の教室が並ぶ廊下を歩いてきたけど、誰にも会わなかった。 二週間ぶりに入った教室は暗く、そして寒く、まるで冷蔵庫の中みたい。


 あまりに寒いし一人でいるには心細いから、食堂のそばにある自販機まであったかい飲み物を調達に行くことにした。


 暖かいペットボトルのミルクティーを手に教室へ戻ろうとすると、ある部屋から手招きがあった。

 その部屋を覗くと、中には校長先生がいたのだけど、それよりも部屋の暖かさに吸い寄せられてしまった。


「あけましておめでとうございます」

「やぁ、おめでとう。 活躍してるねぇ」

「ありがとうございます。 勉強もちゃんと頑張ってますよ」

「私も一緒に高尾山登りたいよ」

「お金取りますよ? なんて」

「ひゃー参った参った」


 しばし暖かい部屋を堪能していたら、窓の外ではずいぶんと下級生の登校が増えていた。 そろそろ教室に戻っても誰かしらいる頃合いだろう。


「それでは失礼します」

「今年も頑張ってね。 応援してるよ」

「ありがとうございます。 では」


 南国の暖かさに慣れてしまった体は、廊下に出た途端厳しい冬の寒さを実感した。 教室にはもうエアコンが入っているだろうから、はやいとこ避難しないとまた風邪をひいちゃう。


 教室にたどり着くと、校長室ほどではないものの、温かみのある空気が出迎えてくれた。 委員長の倉田さんやあと数人が登校してきていたけど、まだ少数派。

 その少数派の一人、友紀があたしの姿に気づいてこちらへやってきた。 なんだかウキウキした雰囲気だから、何かいいことでもあったのかな。


「美咲〜あけおめー」

「おめでと。 どうしたの、新年からご機嫌じゃない? 」

「ふふっ。 まあね」

「何よ、もったいぶっちゃって」


 その時だった。 ガラっと教室のドアが開いたかと思えば、「あけましてさぶさぶ」などと呟きながらあたしの隣の席へと腰掛けた。 自然と目が合う。

 

「おはよ、美咲」

「大地、おはよう」

「あけおめー」

「お、矢口、あけましておめでとさん」

「あんた達、まだ名前呼び続けてんの? それに新年の挨拶じゃないし」


 しまったそうだった。 名前呼びはクリスマス前の言い訳だったっけ。 友紀ってばよく覚えてるなぁ。

 新年はまぁ初詣で会ってるしね。 ……って初詣とか言ったら二人で行ったのかと思われちゃう?


 えっと、どしたらいいんだろう? と、とにかく初詣で会ったことだ。


「は、初詣に行ったときに会ったから――」


 あと何だっけ。 そうだ名前。 うまい言い訳が思いつかないー!!


「名前はなんとなく癖になっちゃって。 ……ね? 」


 大地に振ってみたものの、こんな振りで解決するわけがない。 もう馴染みすぎて言い訳考えてなかった。


「やっぱあんた達も付き合ってたのか。 実はさ、私も山田と付き合うことになってさー」


 えっ? そうなの!? そうか、それでウキウキだったのね!


「そうなの!? 友紀良かったね」

「へっへーん。 ありがと美咲〜」


 友紀はずっと言い続けてたから、想いが叶って本当によかった。 なんだか、自分のことのように嬉しい。


「あけおめー」

「おめでとさん。 あとカノジョから報告受けたぞ。 そっちもおめでとう」

「友紀お前もう話したのかよ」

「だってー。 美咲には早く知らせたかったんだもん」


 話している最中にやってきた山田くんと友紀の、遠慮のないやりとりがとても幸せそうで羨ましかった。



 

 冷蔵庫みたいな体育館で始業式。 そのあと教室でホームルームが終わったとき、スマホがブルっと震えた。 スマホも寒くて震えてる、なんてことはなく、お姉ちゃんからのメッセだった。


『電車止まっちゃったね』

『そうなの!? どうするの? 』

『お母さん連絡して迎えに来てもらえないか聞いてもらえる? 私はもう一コマ課外あるから、案外ちょうどいいかも? 』

『わかった。 聞いてみるね。 また連絡するよ』


 窓の外を見ると白い綿のような雪が次々と空から落ちてくる。 予報では夕方だったけど、早まってしまったみたい。 まったく気まぐれな天気の神さまに恨み節をぶつけたくなる。


 スマホで運行状況を見てみると、雪で分岐器が故障したとのこと。 都心でこんなに降ることは滅多にないから、仕方ないのかな。


 お母さんにメッセをしてみたらちょうど家に帰ったところらしく、お姉ちゃんの課外が終わるのに合わせて迎えに来てくれることになった。 仕事は先方も帰れなくなることを危惧して中止することになったそう。


 お姉ちゃんにもお母さんのお迎えの件を伝えて、暖かい教室でしばしの待機時間。

 週末のイベント予定を確認していたら、カラカラと教室のドアが開いた。


「あ、大地、もう部活終わりなの? 」

「あれ、美咲まだいたのか。 この雪だし譜面だけ配られて終わりになった」

「そうだよね。 思ったより酷いみたい。 電車も止まっちゃったし」

「美咲はどうすんの? 」

「お母さんが車で迎えに来てくれることになったの。 そうだ、大地も一緒にどう? 」

「マジ!? どうしようか途方に暮れてたんだよ」

「お姉ちゃんの課外講習がもうすぐ終わるから、そしたら一緒に乗りなよ。 もう少し待っててくれる? 」

「待つ、待つ、全然待つ」


 思いがけない時間をくれたお天気の神さまに感謝。 さっきまで文句言ってました、ごめんなさい。


 大地は定期演奏会で使う譜面を整理するってことで、あたしの机まで使って何枚も楽譜を並べていた。


 コピーした楽譜は、ルーズリーフに貼ってバインダーに綴じるとのこと。 確かにコピーしたままだとめくった時にバラバラになっちゃうもんね。


「これはなんの記号? 」

「それはセーニョ。 後ろの方にある記号から戻ってくるときの場所」

「へぇ。 これは? ぐらんどいおそ? 」

「グランディオーソだな。 壮大とか厳かとかそんな感じ」

「色々あるんだねぇ。 覚えてる大地もすごい」

「まぁな。その辺はよく出てくるし」

「そうなんだ。 あたしが見る楽譜なんて、コードは書いてあるけど、こういう音楽記号出てこないもん」

「ん? 楽譜なんか読むんだ」

「え? あ、いや、まぁ……ピアノとか? 」


 ああしまった! 今日は口が災いを呼ぶ日だ。

 ピアノ弾けません! アキラさんにもらった楽譜のイメージでつい出ちゃった。


 そこに思いがけない救世主が現れた。 助かった……。


「美咲、お待たせ。 ……あら、お邪魔だったかしら? 」


 現れたのはお姉ちゃんだった。 余計な言葉も添えて。


「ちょっとお姉ちゃん! 大地も電車止まって困ってるから、一緒に乗ってもらおうと思って」

「そうね、確かに。 はーあ、こんな日くらい課外やめにしてくれればいいのに」

「お疲れ様です、先輩。 受験ですもんね」

「あー、菊野君。 全くよ、肩凝っちゃって。 美咲、お母さんまだ? 」


 スマホを見たらちょうどメッセを受信したところで、ブルっとスマホが震えた。


「んっと、いま着いたって」

「よし、行こっ」


 到着の連絡を合図に、三人連れ立って教室をでた。 雪はまだ静かに降り続いていた。


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