4-32.心を縛る鎖の名は
なぜ老人が少女に自死を勧めるような真似をしたのか。その事自体の理由や意味、必要性などを教えてもらっても、なお未だに理解出来ない部分は残ってしまっていたのかもしれない。その行為を頭から否定出来ない事もあって、かえって難しそうな顔で黙りこんでしまった少年に、少女は小さく笑みを浮かべて見せていた。
「多分、心の拠り所を作るためだったんじゃないかな」
心の拠り所。その言葉に僅かに視線だけを向ける。
「いつでも死にたくなったら死ねるんだよ? 自分で、もうここで良いやって。もうここで終わにしようって思ったら、それを実現出来る『権利』を貰えたんだから。……それが、どれだけ幸せな事か……。多分、私が何言ってるのか、わかんないんだろうけど。でも、これって、すっごく重要な事なんだから」
ここから逃げたくなったら逃げられるのだから。……今の自分を苦しめている苦しみも何もない。多分、色んな物から解き放ってくれるのだろう場所へと続く道が、そこにはあるのだから。……もしかすると自分達にとっては唯一の救い足りえるかもしれないのだから。
そんな言葉を、少年は、ただ黙って聞いている事しか出来なかった。
「……でも、まだ駄目なの」
「……まだ?」
「うん。まだ、駄目。まだ、色々と準備が出来てなかったから」
それは自分をここから解き放つために必要になる準備の意味であったのかもしれない。
空を見上げながら少女は、そうポツリと口にしていた。
「私達みたいな、そう遠くない内に死ぬって分かってる人たちにとって重要なことって、その瞬間が訪れるまでに、どれだけ心残りを無くすことが出来るかってことなんだって」
それは言うなれば今の状態での心残りという物であり、もっと生きていたいという現世そのものへ対する心残りであったり、アレやらコレをやっておきたかったという心残りな事柄に対する心残りであったりもしたのだろう。それに、残していってしまう人たちに対する様々な感情による心残りでもあったりしたのだろう。それら全てを含んだ意味での心残り、すなわち『未練』と呼ぶべきものであり……。
「その時までにどれだけ未練を無くす事ができるか。それができたら、きっと最後の瞬間、私は微笑むことが出来るんだと思う。周りの人達に感謝の言葉だって口に出来るわ。それにパパとかお店の人たちにもお別れの言葉をちゃんと言えると思うの」
だから、私は『諦めなければならない』のだろう。自分を、この地上に縛り付ける様々な心残り、未練という名の鎖から解き放つためにも……。
「ソレが出来ないと、たぶん、最後の時に泣いちゃうんでしょうね……。嫌だ、怖い、死にたくないって……。百年の恋も冷めちゃうよーな、すっごく、みっともない顔で……。とっても情けない台詞を、散々にわめき散らしちゃうんだと思うわ」
そう、まるで他人事のように口にしながら。
「……そんな情けない終わり方だけはしたくないかなって……。そう思ったから」
だから、あと少しだけ。ほんのちょっとだけ勇気を振り絞ってみようって。もう、少しだけ頑張ってみる事にしたのだと。そう、少女は口にしていた。
「私、頑張ったんだよ?」
「……」
「そんな顔しないでよ。……私、これでも一生懸命なんだから」
サラサラと流れる水の音に気持よさげな表情を浮かべながらも、青白い顔に微笑みを浮かべる。その顔は薬の効果によるものなのか、ひどく穏やかで。そして幸福感にも包まれていて。……それが偽りの幸せであったとしても、それでも何処か救いになっているのは間違いがなさそうで。それが分かるだけに、何も言えなくなってしまっていたのかもしれない。
「最初はね。パパのお店を継ぐ事だったかな」
指折り、一つ。
「この病気って若いほどに進行が早いんだって。ママでさえ、あんなに早かったんだから、私なんかあっというまに死んじゃうんだろうな~って思ってね。だから、元気な内にパパの後継者になれそうな商才のある人を夫に迎えて、その人の子供とか作ったりとか、どう考えても無理なんだろ~な~ってね……」
だから、すっぱり諦めたのだと。
「不出来な娘でごめんなさいってね。こんなに良くしてもらったのに、最低限の努めも果たせないままに死んじゃうなんて、ほんとに情けないって。……泣きながら、パパに謝ったわ。でも、パパは許してくれた。泣きながら許してくれたし、笑いながら怒ってくれたの。あと、褒めてくれたわ。良く自分に頼ってくれたって。……良く、自分にお金を使わせてくれたって。……どうせパパはお金を稼ぐ事くらいしか取り柄がないんだから、どんなにお金がかかっても良いんだぞって。だから、どんなにお金を使ってもいいから、死ぬまで自分の側で笑っていてくれって。苦しんでる顔を見せないでくれ。好きなことだけをやって、少しでも幸せそうにしているところを見せてくれって。……それを約束したの」
頼むから……。パパに迷惑だからって、何もさせてくれないなんて、そんな悲しい真似をしないでくれ。そんなクランクの声なき声が聞こえてくるかのようだった。
「だから、私は自分に誓ったの。パパ達の前では絶対に笑っていようって。絶対に辛そうな顔をしちゃいけないんだって。……それが私の戦い。病気になんて負けない。いつか病気に殺されるのは仕方ないけど、それまでに病気のせいでパパ達の前で辛そうな顔なんて絶対に見せないって。そう、そのときに自分に誓ったの。それがパパ達に出来る唯一の恩返しだから」
私、頑張ってるんだから。さきほどの台詞が耳に蘇る。
「その次は、なんだったっけ。……確か、冒険者になりたいって夢だったかな」
二つ目の指が折られる。
「子供の頃から……。まあ、今でも子供なんだけど。でも、もっと小さな頃から、私って、ずっと冒険者になりかたったの。これって、前に話したよね?」
その夢、冒険者になりたいという夢を実現するためにクロスは奇跡を起こしてみせた。王都において知らぬ者が居ないというほどに有名な冒険者を。銀の剣聖とまで呼ばれていた伝説級の冒険者を少女のエスコート役として連れてきただけでなく、エスコート役として王都の誇る二大ダンジョンの体験ツアーを敢行してみせたのだ。
「こんな体じゃ冒険者なんてなれっこないやって。早々に諦める事ができたんだけど……」
そう口にしたときにジロッと視線を少年の方にねめつけて見せていた。
「出来っこない。所詮は単なる小娘の妄想、夢に過ぎないんだって。すっぱり諦めて、単なる憧れ程度にようやく抑えこめたと思ってたのに……。それなのに、あんなすっごい人連れてきちゃうんだもん。びっくりしちゃったわよ」
少女にとっては、あの出来事は夢だった。
病との戦いの日々の中で起きた奇跡であり、神様が与えてくれたのかもしれない最後のチャンスであり……。頑張っていた自分へのご褒美でもあったのかもしれないとまで思うようになっていた。それほどの出来事であったのだろう。
幼い頃から書物の中の冒険譚の数々に憧れ、自分がなぜ商家の一人娘として生まれてきたのかと立場を恨んだことすらもあった。それほどまでに憧れ、そんな世界で生きる自分の姿を夢見ていたのだ。そんな少女の憧れそのものが、そこにあったのだから。
「伝説の騎士様に連れられて、大迷宮とバベルに行けるだなんて。……今でも、あれが本当にあったことなのか信じられないんだから」
そう幸せそうに笑ってみせる少女は無意識のうちに左手首を触っていて。そこはあの日の締めくくりに起きたアクシデントで傷ついたはずの場所であり、そこには傷痕すら残されてはいなかった。あるいは傷の記憶だけが思い出として残されていたのだろうか。
「……多分、あの時。私は、夢から醒めちゃったんだろうなぁ……」
それは幸せな夢だった。
親しくなった同年代の友達と一緒に冒険者の装備品とか見て回り、そこで一生縁がないと思っていた品々を見たり触ったりした上で買物とかして……。そうやって準備を整えたら、ダメ元の気持ちで二人で必死にクランクを口説き落としにかかって。どうにか厳しい条件付きではあったにせよダンジョンに潜るツアーへの参加許可を貰って。
そこから何がどう転んだのか分からなかったが、何故か自分達の前には伝説の剣士が居て。王都の二大ダンジョンに踏み込み、そこで色々なものを見て回ったし、憧れの向こう側の姿も見せてもらったりした。……それは、まるで物語の中を歩いているかのような時間だった。
「……私、あの時ね。どれだけ自分の体が駄目になってるのか、それを思い知らされたの」
疲労困憊の果てに無様に転倒して。結果として左手首に無数のガラス片がめり込んでしまっていた。それを少女は無表情なままに見つめていた。溢れ落ちる命の雫。赤い色は命の象徴でもあったのかもしれない。それがボタボタと音を立てて地面に流れ落ちていた。
──あの時、何も感じなかった。
怪我をした箇所の痛みはなかった。胸の奥から感じるはずの激しい痛みすら感じられなくなっている状態なのだから、それはむしろ当たり前だったのかもしれない。そう心のなかにストンと何かが落ちてきて。そして、納得もしていた。ああ、これが今の私の体なんだ、と。そして、友達に抱きしめられて。視界の隅で、何をされているのかも見えていた。
左の手首の傷口に小ぶりなナイフが差し込まれて、そこを情け容赦なくグリグリとえぐって、奥の方にめりこんでしまっていたガラス片をえぐり出していた。
「……あの時ね。エルリックさんは私が気絶してくれていたから処置が楽だったって言ってたけど、ほんとは違うの。私は、自分の体が痛みを感じられなくなっているって事を思い知らされて、その事が怖くて怖くて仕方なくなって……。そのせいで気絶しちゃったんだと思う」
勿論、すっごく疲れてたのが一番の原因だったんだけど、と。そう付け足した少女の顔には自嘲の笑みが浮かんでいて。目の前にかざした手を、じっと見つめながら。
「体の感覚がね。だんだんと薄くなっていくって感じ、分かる? ……もう、この手は何を触っても、それを感じないの。……当たり前よね。ナイフで傷口えぐられるような真似されても何も感じないんだもん。痛覚のなくなった体に、触覚なんて残ってるはずがないんだから」
それまでずっと、これが普通なんだって思ってた。そうポツリと口にする。
「指先とかで物を触ったりする時にね。なんか妙な違和感があったりしてさ。それが段々と強くなっていくの。段々と感覚が鈍くなっていって……。今の自分にとっては、これは普通の感覚なんだって思ってたけど……。でも、段々と暑さとか寒さとか風とかの空気の流れを肌で感じられなくなっていくと、流石にね……。まあ、そんな時でも、これは自分にとっては普通なんだって。そう、必死になって『これは異常じゃない』って必死に思い込もうとしていたんだって……。あの時、それを思い知らされた気分だったんだけど」
口元の自嘲の笑みが深くなる。
「何を触っても何も感じないの。怪我をしても痛みも感じない……。多分、熱湯とか火に触っても何も感じないのかも。……自分が立ってるのか座ってるのかすらも分からないんだもん。……風が吹いてるのかどうかも分からないし。それにね……」
ポツリと。
「こんな体で、味なんか、分かる訳ないじゃない……。貴方と屋台の食べ物を買い食いした時あったじゃない? あの時だって、何の味もしてなかったんだから。自分の口から湯気が出てるなって思ったから、ほくほくのつくりたてなんだなって分かっただけ。……桃のシロップ漬けが好きなのだって、あれなら飲み込みやすいって理由なだけ……。こんな舌の腐った女が、お菓子職人とか……。なれっこないじゃない……」
ひどく寂しそうな。そんな声と供に、三本目の指が折り曲げられる。そして、その手は次第に握り拳になっていって、小さな肩が震えていた。
「……悔しかった。どうしようもなく……。悔しかった。……私から、夢とか希望とか未来とか……。そんな色んな物を奪っていく病気が……。私の体が壊れていく原因が何なのか、それが分かってるのに。それなのに、こんな物に頼らなくちゃいけない。そんな自分の体が、心底恨めしかった」
しかし、魔薬なしでは痛みをこらえることすら出来ないのも今の自分だった。
「……私に残されたのは、壊されて狂いきった体だけだった。私には、夢を見ることすら許してくれないのかって。ここまでして生きなくちゃいけないのかって。こんなになってまで生きていなくちゃいけないのかって……。いつも悩んでた。こんな風に、嫌な現実を毎日のように思い知らされたり、見せつけられなくちゃいけないのかって。……悔しくて、悔しくて。毎日、泣いてた。……毎日、毎日……。一人になると、涙が、止まらなかった」
そんな自分に病魔は容赦なく襲いかかってきた。
「……痛みがね……。薬を飲み過ぎて、もう何も感じられなくなってるはずなのに。それなのに、何故か、分かるの。……自分でも不思議なんだけどね。時々、発作みたいに胸の痛みが蘇るの。……あれが来る度に、自分が病気なんだってことを嫌でも思い知らされる」
その激痛は、まるで病気のことを忘れるなというかのようにして不定期に。そして不意に襲い掛かってきていた。それこそ、さきほどのようにして……。
「まあ、それも薬を飲めばすぐに治まるんだけど……」
だからこそ余計に思い知らされているのかもしれない。決して癒えることのない病を患っているということを。そして、そんな自分は決して魔薬を手放すことの出来ない体なのだということも……。
「そうやって、ね。だんだんと体の感覚がなくなっていくとね。ああ、これって自分が段々と死んでいってるんだなって、ね。なんだか、そういうのが感覚的に分っちゃうのかも知れない。……ほんとは違うのかもしれないけどね。でも、そう思っちゃうのよ」
ふるふると、首を横に振りながら。
「最初はあれだけ抵抗があった色んな物を諦めていく感覚ってやつが、なんだかス~ッとね。……自分の中で納得できちゃったっていうか。心の中にストンって落ちてきちゃって、それを納得できるようになったっていうか。……仕方ないよねって。そう、諦めがついちゃうっていうかね」
ハァとタメ息をついて。
「……こんなにガリガリにやせちゃったせいなのかな。ここんとこ、ずっと生理が止まったままだな~って……。ああ、子供はもう駄目なんだろうな~って感じでね。一つ一つ、ね。広げた掌の指の間からサラサラ~って砂が落ちていく感じ。……色んな物が、私の中から、無くなっていくの」
心の中の砂時計の砂がサラサラと落ちていくようにして。不思議な感覚とともに色んな物が磨り減っていって、色あせていって。未練という名の心残りが断ち切られていっていたのかもしれなかった。
「そんな風になっていくとね。段々とね……。他人が妬ましくなっていく物なのかもしれない。……そんなに元気な体があるのに、何がそんなに不満なのよって。……他人の善意すらもうっとうしくなってくるものなのかも」
たまたま一人でエドの医院に向かって居た時に唐突に襲いかかってきた激痛の発作によって、街中で胸の痛みに苛まれていた時もそうだったのだろう。
「その親切な治療師さんは、見ず知らずの私のことを必死に励ましてくれた。しっかりしろ、何処が痛いのかって。今楽にしてやるからなって。諦めるなよって。すっごく親身になってくれたし、どうにかしようって努力もしてくれたのよね」
目の前にかざされる掌。その手は白い光に包まれていて。あらゆるケガを癒してきたのだろう、熟練の技による奇跡の治療の力は、少女の体には何ら効果を発揮することはなかった。
「……キョトンとしてたわね。なんで今ので治らないんだろうって。そんな不思議そうな顔してたわ。自分に治せないはずがないのにって顔を。不満そうな顔をしてたわ。……教えてあげるべきだったのかもね。貴方に治せるのはケガだけで、病気は治せないのよって。それに、病気の患部に新陳代謝を引き上げるような治療魔法かけるような馬鹿な真似をしたら、かえって病気が悪化する場合もあるのよって」
なぜ痛みが治まらないのか理解出来ないままに、なおも魔法をかけてこようとする治療師の手を跳ねのけながら。激痛に苛まれてまともに動いてくれない腕を必死に動かして、腰のポーチバックをあけて薬を飲もうと足掻いていた少女の耳に、その言葉は聞こえてきていた。
「……その人って、色んな意味で無知っていうか、世間知らずって奴だったのかもしれない。私のことを礼儀を知らん糞ガキだとか、どうせそうやって痛がってるのもフリだろうとかって。狂言か何かのつもりかって。……私に自分を治せなかったんだから責任とれとかって言いがかりでもかけてくるつもりかって。そういうゲスな輩かもしれんとかって。……好き勝手なことをほざいてたわ。……何を馬鹿なことを言ってるのよって。こっちがどれだけ今、大変な状態だったのか、アンタ、わかってないでしょって。……心底馬鹿らしくなったわ」
ようやく薬を飲むことが出来て立ち上がる事が出来た少女が最初にやったことは、そんな糞印な治療師を力いっぱいぶん殴る事だった。
「どっかの教会の偉い修士さんだったらしいんだけどね。そんなの知ったことかってね。……自分の勉強不足を棚に上げて何抜かしてんだ、この糞聖職者がって。思い切り蹴りまくってやったわ。……あの時は久しぶりにすっとしたわね」
そんな相手が「やっぱり芝居だったんじゃないか!」と抗議していたような気がするが聞く耳は持たなかった。「鉄貨一枚払わんからな!」というゲスな台詞に至っては、容赦なく顔面を踏み抜いてやったのだという。その汚らしい言葉を喋る事しか出来ない口なら閉じていろとばかりに。そう少女は歪んだ笑みと供に口にしていた。
「あれ以来、修士も治療師も大嫌いになった。……でも、ホントは違うのかもしれない」
本当は理不尽な怒りを感じてしまうからなのかもしれない。治療師の魔法をもってすれば、お腹に穴が空いたりしていても助かるというではないか。四肢の欠損すらも癒してみせる豪の者すらも居るし、司祭級の治療師にかかれば死すらも絶対の終わりではないのだとか……。
そんな死者の蘇生すらも可能する奇跡の力を持ちながら、なぜ病気を癒やす程度の事が出来ないのか。そんなの、理不尽ではないか。なぜ、そんなすごい力が自分の病気には通じないのか。なぜ、治療魔法には病を癒やす物が存在しないのか。
そんな神様への恨み言しか湧いてこないからこそ聖職者を嫌うことしか出来なかったのかもしれない。
「そうやってね。色んな物を諦めていった私の世界は、どんどんどんどん……。色を失っていったわ。段々と彩りがなくなったっていうかさ。色そのものが抜け落ちていってね。風景も、人も、街も、物も。何もかもみぃ~んな……。みんな、灰色になっていったの。……多分、最後は全部が白くなって終わりなんだろうなって……。漠然とだけど、そう思ってた」
そんな時、目の前に一人の冒険者が現れた。
「そんな世界に相応しい人が来たんだなって、最初思ったわ。黒い髪に白い肌。……何の皮肉だろうってね。私のこと、コケにしに来たのって。馬鹿してるのかって思った。……でも、その人の目はね。すっごく綺麗な色をしていたの」
異形の瞳。獣の瞳。悪魔の瞳。
そんな金色の縦に割れた瞳をもった冒険者の名はクロスといった。
そして、気がついた時には、少女の色あせた世界は、再び色づき始めようとしていた。




