表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第一部 Main stage

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/1184

Chapter2-5 サウェードとクロミス(3)

総合評価2000pt達成しました。ありがとうございます!

 城下町南西部にある噴水広場にて、オレは噴水の傍に腰かけていた。街一番の大通りと合流する場所なだけあって、多くの人々が行き交っている。


 そんな人混みをボーっと眺めて何をしているかといえば、デートの待ち合わせだった。


 昨日、オレはシオンとデートの約束を取りつけた。それならば本格的に執り行おうと考え、こうして外での待ち合わせを計画したわけだ。立案者はカロンである。


 ちなみに、お互いに姿を【偽装】する手はずになっている。オレは髪と瞳の色を茶にし、体格を大人のものへ変更した。シオンは顔立ちのみの調整と聞いている。


 さてはて。我が最愛の妹が、気合を入れてシオンの仕度を手伝っているらしいけど、一体どうなることやら。


 頭を空っぽにして待ちぼうけすること幾分か。広場にどよめきが広まった。「うわ、すっごい美人」やら「女神だ」やら「きれい……」みたいなセリフが聞こえてくるので、おそらくシオンが到着したんだろう。カロンの監修は上手くいったようだった。


 期待を胸に、人垣を割って歩いてくる彼女を待つ。そうして、とうとうシオンが目前に姿を現した。


「ほーぅ」


 思わず声が漏れる。


 民衆の評価は正しかった。確かに、オシャレをしたシオンは美しかった。


 普段はシニョンにまとめている髪型は、編み込みで結わえたポニーテールに変えていた。髪の結び方を変えただけなのに、少し華やかな印象を受ける。


 次に注目すべき点は服装だろうか。アイボリーのワンピースに淡いパステルグリーンのパンツ、白いシャツワンピースを組み合わせている。全体的に優しいテイストで仕上がっており、泉の(ほとり)に立つ女神を彷彿とさせた。


 【偽装】で地味めの顔立ちに変更しているものの、渾身のオシャレの前には膝を屈している。周囲の注目が集まるのも無理はなかった。


 居心地悪そうに歩いていたシオンは、オレの姿を認めるとパタパタと小走りで近寄ってくる。オレの方も彼女へと歩み寄った。


「お、お待たせして申しわけございません。思ったより仕度に手間取ってしまって」


「気にしないでいいよ。これだけキレイなシオンをお目にかかれたのなら、待った甲斐があったさ」


 慌てた様子で謝罪を口にするシオンに対し、オレはキザったらしいセリフを吐く。


 普段のオレなら絶対に言わないだろう甘ったるい言葉だが、デートと銘打っている以上は妥協しない。褒める時は、とことん褒める。


 少しわざとらしかったかなとも思ったけど、そんな心配は無用みたいだった。シオンは顔を真っ赤に染め、恥ずかしげにギュッとワンピースの裾を握り締めている。


 えぇ、何、この可愛い生物。


 いつものクールな面持ちは何処へ消えたのか。今のシオンは、可愛さ全振りのヒロインに変貌していた。シスコンからメイドスキーへ鞍替えしてしまいそうになるほどの衝撃である。危ない危ない。


「それじゃあ、行こうか」


「はい」


 気を取り直して声をかけると、シオンははにかみ(・・・・)ながら頷いた。


 オレたちは連れ添って街中へと歩み出す。








 まず向かったのは、最寄りの商店街だ。城下町一番の大通りに沿って展開しているため、規模も種類も豊富。地元で生活しているオレたちでも、十二分に楽しめる場所だろう。


 先の噴水広場よりも人通りが多い。この中を歩き進むのは体力が必要そうだ。オレたちは鍛えているので問題ないけど、今日のシオンはオシャレをしている。ヒールこそ履いていないものの、揉み合いになるのは避けたいと思われた。だから――


「ぜ、ゼクスさま!?」


 シオンの肩を抱き寄せ、オレが防波堤になるように歩く。【偽装】はあくまで見た目を装っているだけなので、身長が足りずにやや不格好――腕を抱く感じ――になってしまうが、人波から彼女を守る程度なら心配いらない。シオンの頭から湯気が立ち上っているけど、大事の前の小事というやつだ。


 傍から見たらバカップルに映るだろう状態で、商店街を散策していく。ある程度したらシオンも慣れたようで、普通に楽しむ余裕が生まれていた。


「あ……」


 露店の立ち並ぶ一画を通り過ぎようとしていたところ、不意にシオンが声を漏らした。思いがけぬモノを発見した、というような声音だった。


 ありきたりな展開だけど、何となくの察しはつく。興味のそそられるアクセサリーか何かを、露店の商品の中に見つけたのかもしれない。


 オレは【先読み】を応用して、彼女の“好感”の向く先を見極める。どうやら、予想は当たっていたみたいだ。


「あの露店に寄ってみよう」


「えっ、はい」


 早速、シオンを伴って通り過ぎかけた露店へ足を向ける。手作りのアクセサリーを販売している店のようで、素人のオレでも腕の良さが理解できる品々が並んでいた。指輪やピアス、ブレスレット、ネックレスなどなど、質だけではなく種類も豊富である。


「いらっしゃい。カノジョへのプレゼントかい?」


「か、かかかかのかのかの」


「そうだよ」


 売り子をしているオッチャンが、ニヤニヤと笑いながら話しかけてくる。


 シオンは壊れたレコードになってしまう一方、オレは軽く返事をした。


 彼女が再起動する前に、目当ての商品を見つけてしまうか。


 発動した魔法に沿って視線を動かす。はたして、シオンが気に入ったアクセサリーは如何(いか)に。


「――なるほどね」


 得心した。これならば、シオンが一目で注意を奪われるのも当然だろう。


 それはブローチだった。鳥の片翼を模した意匠。ところどころに銀のラインが引いてあり、翼の根元にあたる部分には、翡翠色の半円状の宝石が装填されていた。


 また、興味深いのはデザインだけではない。ブローチは二つで一対らしく、半円の宝石を組み合わせると、真円になる仕組みが施されていた。


 たぶん、比翼連理に(なぞら)えて製作したのかな?


 製作者のセンスの良さに感心しつつ、オレはブローチを指さす。


「オッチャン、このブローチのセットをちょうだい」


「おっと、お目が高いね。でも、懐は大丈夫かい? これ、本物の翡翠使ってるから、他の商品と違って割高だぞ?」


「高いって言っても、十万以上はしないだろう?」


「さすがに、そこまで高くはねぇな」


「じゃあ、問題ないよ」


「へぇ、結構お坊ちゃんなんだな、兄ちゃんは」


 そんなやり取りを交えながら、商品とお金を交換した。


 ブローチを受け取った辺りで、シオンはやっと復活する。


「ゼクスさま、それをお買いになったのですか?」


 自分の欲しがっていたモノを購入したためか、些か大きめの声を上げるシオン。


 オレはニッコリ頬笑んで、彼女の胸元に買ったばかりのブローチを刺した。陽の光を浴びた翡翠が、鮮やかな翠を輝かせる。


「プレゼントだ。二人でお揃いだし、今日の記念になる」


「えっ!? いえ、受け取れませんよ。あなたさまからの贈りものなど、私の身には余ります」


「そう(かしこ)まらないでくれ。今日はデートなんだから、素直に受け取ってくれた方が嬉しい」



「しかし……」


 シオンの語調が弱まる。気になっていた品だけに、断り切れない様子だった。


 であれば、話は早い。強引に、オレは話題を転換することにする。


「それじゃあ、次の店に行くぞ!」


「ぜ、ゼクスさま!?」


 シオンの腕を取り、オレは歩みを進める。彼女も、やや慌てながらも隣を歩き始めた。


 その後も贈りものを固辞するシオンだったが、オレがのらりくらりと取り合わないでいると、最終的には何も言わなくなった。勝利である。


 そうして、オレとシオンは、陽が暮れるまで目いっぱいデートを楽しむのだった。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
相手の精神状態や育ってきた環境とか想像しないでよう感想押し付けられる(笑)
随分な年の差のデートだな。15歳差くらいか?まぁエルフ相手に年の差なんて考えても無意味か。でも8歳児にキレイって言われて赤くなるとか大丈夫かこいつ? 変えた顔立ちですっごい美人と言われてるのはなんか…
珍しく甘いラブスト-リー★ シオンの見た目が月型のセイバーなので イメージcvが「モッフル卿」にしかwww 胸クソ展開の後にデート休憩回は 先行きの不安しか感じないけど・・・。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ