Digression-Zex お家デート【100話記念】
100話達成記念の閑話です。
今日も今日とて仕事を頑張ろうと気合を入れていたところ、それは唐突に告げられた。
「仕事が……ない?」
「はい、ありません」
オレの秘書役を務めているシオンより、開口一番に言われた言葉は「本日付けの仕事がキャンセルになった」だった。
確か、商業関連の企画書のチェックの予定だったはずだが、キャンセルとは一体全体どういうことだろうか。
当然ながら詳細を問い質すと、シオンは流れるように答えた。
「企画担当者が締切日を勘違いしていたらしく、その影響で本日の仕事がなくなりました」
「各方面への影響は?」
「調整し、最小限に抑えております」
「それならいいが……」
あれ、調整したのに、オレの仕事がなくなったのか?
嫌な予感を覚えたオレは、念のために尋ねることにする。
「じゃあ、別の仕事を持ってきてくれ」
「ございません」
「……いや、『ございません』じゃないんだが」
「ございません」
RPGのNPCの如く、同じ文言を繰り返すシオン。
この時点で悟った。ミス云々は分からないけど、オレの仕事がないのは仕組まれたものだと。
オレは頭を抱えたい衝動に駆られるのを耐え、再び問う。
「急に休めと言われても困るんだが」
「そういえば、本日はカロラインさまもお休みでしたね」
「おい、完全に狙ってスケジュール組んだだろう。やるにしても、もっと隠せよ!」
とうとう我慢ならず、ツッコミを入れてしまった。シオンのあまりの隠す気のなさに、頭が痛くなる。
そんなオレの反応を受け、シオンは呆れた風に言う。
「そも、ゼクスさまは働きすぎです。あなたさまは労働環境の改善に力を注いでおられますが、トップが率先して働いていては、誰もお休みいただけませんよ?」
「ぐぅ」
至極真っ当な正論に、返す言葉もない。
シオンの言う通り、上司のオレが働きづめでは部下たちも休みにくいだろう。してやられた感じはあるけど、ここは彼女の思惑に乗るのが吉か。
「分かったよ。今日は休む」
「はい。こちらは私どもに任せて、ゆっくりお休みになってください」
満面の笑みを浮かべるシオンに対し、オレは静かに溜息を吐いた。
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シオンの助言に従い、本日は手の空いているカロンとすごすことにした。それを彼女へ伝えたところ、
「一日、お兄さまを独り占めできるのですね!」
と大変喜んでくれた。兄冥利尽きる反応に、とても感激である。
「何をしようか?」
普段ならお茶会を開くけど、今は午前中。さすがに間が持たない気がする。
オレに希望はなかったため、カロンに問うた。
すると、彼女は笑顔で返す。
「お家デートしましょう」
「お家デート?」
予想していなかった回答だったので、思わずオウム返しにしてしまった。
オレとしては、一緒に街へ出掛けるくらいを想定していたんだが。
「そんなのでいいのか? 今日はフリーだから、外に出かけるのもアリだぞ」
理解した上での答えだとは思うけど、念のために問い直した。
とはいえ、やはり要らぬ心配だったらしい。カロンは笑顔のまま言う。
「お兄さまとのお買い物なども捨てがたいですが、本日は二人っきりでゆっくり過ごしたい気分なのです。……ダメでしょうか?」
「よし、お家デートをしよう!」
上目遣いの『ダメでしょうか?』を食らって平然としていられる兄はいない。断言する。
少しの準備を挟み、オレたちはカロンの私室を訪れていた。
準備といっても、たいそうなモノは用意していない。大きめのソファを一つ、お茶、摘まめる程度の食べ物くらいである。今日はお茶を飲みながら、のんびりするんだ。
「しかし、ソファ一つで良かったのか?」
割とゆとりのあるソファだが、二人で座るには些か手狭のように思える。まぁ、カロンがあえて指定した代物だから、何か考えがあるんだろうけども。
オレが首を傾いでいると、カロンはブンブンと首を縦に振った。
「はい、これで良いのです。いえ、これが良いのです!」
何やら興奮気味だけど、いったい彼女はどんな思惑を抱いているのやら。誰かに変な入れ知恵をされていないことを願いたい。
「さあさあ、お兄さま。お先にお座りください」
「あ、嗚呼」
食い気味に促され、やや気後れしつつも素直に従う。柔らかいソファの右端に腰を下ろした。
すると、カロンは「ちがいます!」と頭を横に振る。
「そのような端ではなく、中央にドカンとお座りになってください!」
「いや、それだとカロンが座れなく――」
「お願いします、お兄さま」
「――分かった」
妹のお願いを断れる兄がいるだろうか、いやいない。
オレはカロンの願いを聞き入れ、ソファの中央を陣取った。前述したようにゆとりは大きくないため、現状ではカロンの座るスペースは存在しない。
何をしたいんだろうか?
彼女の思考が読めず困惑していると、ついにカロンは行動を起こした。
具体的に言うと、オレの膝の上に座ったのである。しかも、こちらに寄りかかってくるオマケつき。
「えっ、カロン!?」
驚愕の声が漏れる。貴族令嬢として教育を受けているカロンが、ここまで大胆なマネをするとは思わなかったんだ。
まだまだ子どもなので、オレたち二人の身長差はあまりない。必然、カロンの後頭部――ひいては顔がすぐ傍にあった。やや癖のある金髪と宝石の如き紅い瞳、非常に整った顔が目と鼻の先に存在する。
いくら相手が妹とはいえ、この距離感はさすがに照れる。頬に熱が集まるのを感じた。見れば、実行した張本人であるカロンも顔が真っ赤である。恥ずかしがるのなら止めれば良いのに。
ここまで実行するほど好かれていることに喜ぶべきか、後先考えていなかった妹の猪突猛進さに嘆くべきか。まぁ、自他共に認めるシスコンの答えなんて決まり切っていた。
小さく頬笑みながら、目前にある金糸を梳く。
「お兄さま?」
やや驚いた様子でこちらに振り向くカロン。
そんな彼女の耳元に口を寄せ、オレは優しく囁いた。
「この体勢だとカップや食べ物が手に取れないんだ。カロンに任せていいかな?」
「は、はははははい! 何でも申しつけてください!!」
おお、効果てきめんだ。頭から湯気でも出るのではないかと思えるくらい、カロンは真っ赤っかになっている。
最初こそ大胆な行動にビックリさせられたけど、まだまだ初々しい彼女でいてくれたみたいだ。可愛らしい反応に、思わず笑みがこぼれる。
とはいえ、テンパりながらも、カロンが膝から降りることはなかった。その後の会話で訊き出してみたところ、以前より願望はあったらしい。
言ってくれれば……と考えなくもないが、いくらブラコンでも年頃の女の子。言いだしづらい部分もあるんだろう。今回は、シオンを筆頭とした部下たちが後押ししたようだけども。
結局、この日のほとんどをカロンと密着して過ごした。お茶をしながらの雑談や昔は何度もやった読み聞かせなど、久々の兄妹水入らずを堪能するのだった。
たまには、こういう休日もアリかもしれないな。
本日13:00に本編続きを投稿します。




