Sword of Týr 戦神の剣
「裏の連中、踏み込み始めたぞ」小型無線機に耳を当てていた団員のアンリが囁いた。
「なら、こっちもそろそろ動くか」
食べていた変異獣の骨付き肉を後ろに放り投げ、雷鳴党の古株であるキースは腰かけていた階段から立ち上がった。
「無線機は、持っていくか?」
「持っていくが、仕舞っておけ。建物の中じゃ役には立たんだろうが、置いていけば手癖の悪い奴が悪戯しないとも限らない」
頷いたアンリが、携帯用小型無線機を布に包んでから背嚢に丁寧に仕舞い込むのを横目に、キースは階下へと歩き出した。
電子機器全般に言えることだが、修理する部品も技術も失われてつつある崩壊世界の東海岸では、トランシーバーでさえそれなりに高価な玩具であり、雷鳴党としては間違っても破損する訳にいかなかった。 仮にアンリが死亡した場合でも、無線機だけは無事に回収しなければならなかった。
通信相手の『書記』も、裏門を見渡せる位置から別動隊の突入を見届けて報告してきただけで、ホテル・ユニヴァースに同行するわけでもない。建物の中で通信しても役には立たないだろうが、万が一の際には、応援や救難信号を送ることも出来る。来るかどうかは別として。
それとも、貴重な無線機を救うために踏み込んでくるかな。
古参党員のアンリよりも、ちっぽけなトランシーバーの方が大事。それは最近の雷鳴党の傾向を現わしていた。金の為なら、仲間を見殺しにしてもいい。となる日も近いのではないか。
苦々しくキースは腹の中で毒づいた。既に、廃墟探索や怪物の狩猟を主たる活動としている古参団員と愚連隊めいた新参団員たちとの間では、方針を巡って対立が生まれつつあった。
キース率いる雷鳴党の本隊が陣取っているのは『ホテル・ユニヴァース』正門と対面に位置する廃ビルの一つであった。荒れ果てた一階のフロアに降りてみれば、集められた二十名ほどの徒党が石炭の燃え盛る火鉢を囲んでいた。
賞金を得たらなにに使うか、どんな風に今回の狩りの得物を追い詰めてやるか。弛緩した空気の中、興奮しながら思い思いに好き勝手な言葉を垂れ流している。
武具や銃器の手入れを行っている者は古参を除けば殆どおらず、用意したホテルの見取り図を見ている奴もいないのに気付いて、キースは唖然とした。こいつらは廃墟に乗り込むのに折角の地図を見ようともしていないのか。簡素で不確かな地図だが、生還したハンターの情報が書き込まれているギルド謹製の正規品だった。覚えないよりはましな筈だ。
舌打ちする前にため息が漏れた。咎めようとは思わなかった。命をどう使おうと、そいつの自由だからだ。辛うじて苦笑を浮かべる。
最近は、徒党に入ってくる奴と抜ける奴。そして死ぬ奴が多すぎて名前を覚える気にもなれなかった。
「雷鳴党を舐め腐る奴は許しておけねえ!雷鳴党は家族だ!そうだろ、みんな!」
一年ほど前に入ったモヒカン男が、甲高い叫び声を上げていた。
「キース兄貴!やってやりましょう!」
通りがかったキースに気づくと、モヒカンは古参幹部との仲を誇示するように愛想よく親しげに話しかけてきたが生憎、キースはモヒカンの名前も覚えていない。
雷鳴党の副頭であるバーンズが何処ぞで拾ってきた放浪者上がりのチンピラだったか。曖昧に頷き返してから、地図をのぞき込んでいる古参党員の一人ガーニーに話しかけた。
「どうだ?」
「よくない状況だ」
ガーニーは、舌打ちして吐き捨てた。深刻な響きだった。
はした金で釣ったハンターを幾つか少数の斥候に分けて、別々の地点へと送り込んだが、誰一人戻ってこない。
送り込んだエリアに変異獣やゾンビがいるなら、それはそれでよし。標的が潜んでいないことは分かる。
帝國人を見つけてくれるなら、それもそれで構わない。探す手間も省ける。
そんな思惑で送り込んだ威力偵察だったが、誰一人帰ってこないのは流石に予想外だった。
「……或いは、全員始末されたか。だとすれば、こいつは手強いぞ」
ホテル内の此方の動きをよく把握している訳だ、と、地図の上でとんとんと指を鳴らしている古参党員の言葉に、リボルバーライフルの具合を入念に確かめていた別の古参団員ボイドが深刻な表情を向けた。
「別棟に送り込んだ隊が誰も戻ってこない。これだけ時間が経つと、手間取っているだけとも思えないな」
「少し普通じゃないぜ。思ったよりもずっと厄介な連中だな」
「或いは、こっちの知らない仲間がいるか。ホテルが想定以上の化け物の巣ってこともあり得るな」
「撤退すべきだ、キース」
口々に述べる古参団員の考えはいずれも慎重な、悪く言えば臆病に聞こえる意見だったが、物心ついた頃から危険な廃墟を漁り、時に変異獣を殺して生き延びてきた者たちの言葉は、威勢だけはいい新参の連中よりもずっと重みがあった。
正直言えば、キースも『ホテル・ユニヴァース』なんて危険な廃墟に、足手まといを連れて乗り込むのは気が進まない。雷鳴党がハンターの徒党から【町】の愚連隊へと変化した時期以降に参入してきた連中の大半は、暴力沙汰や銃撃戦の経験はあっても、大規模な廃墟探索の経験を殆んど持っていない。
ろくに廃墟を探索した経験もない癖、下手に自信を持った素人なんてのは、いない方がましなのだ。
『好きに使ってくれ』と【町】で別れ際に押し付けてきたバーンズの言葉を思い出して、キースは苦虫を噛み潰したような渋面を浮かべた。
廃墟探索にはセオリーがある。出入口を確保し、安全に観測できるポイントを割り出してから、塗り絵をするように建物内を一室一室。慎重に進んでいくのが、廃墟での動き方の鉄則で、それを知らない素人との行動なんてのは例え、マシンガンの名人だったとしても御免であった。
棲息している怪物によっても、戦術はがらりと色を変える。
ゾンビの時は、気づかれず、音を立てないことを優先する。特に数が多いかもしれない廃墟では、細心の注意を払う必要があった。兎に角、視界を確保し、死角からは距離を保つ。
部屋をのぞき込むときは、人間相手のように壁に背をつけたりせず、扉から距離を保つし、廊下を向かってくるゾンビを銃で狙う時は、曲がり角に身を屈めて遮蔽など取っても意味などないので、此方も廊下のど真ん中に立って頭を狙う。退路を確実に確保しながら、少数であれば後退しながら白兵で戦うのもセオリーだった。少しの傷も負わないよう連携して着実に仕留めることが要求される。
素早いタイプの変異獣などでは、戦いやすい場所に退けるよう頭に叩き込んでおく。奇襲を警戒して互いにカバーできる位置を維持することを優先する。索敵においては、敵いっこないとある程度を切り捨てる場合もある。武装した略奪者が相手となれば、素早さが何よりもものをいう。最初の奇襲で混乱から立ち直る前に、どれだけ打撃を与えられるかが鍵となる。
いずれにしても狭い通路と見通しの悪い階段、そして閉じた空間の連なりで構成された遺跡での立ち回りは、町中での抗争や荒野での狩りとはまったく異なる立ち回りを要求されるのだ。
雷鳴党に入る前のバーンズは賞金稼ぎだった。数日に渡って曠野を追跡したこともあれば、街中での待ち伏せで賞金首を仕留めたことのある男で、確かに腕は立つのだろうが、廃墟の探索に同行したことは一度もない。廃墟で何が必要とされるか、知っていれば、数だけ多い素人を押し付けて来る筈もない。
隠密で動いている時に、お喋りして怪物を引き寄せるかも知れない。引き返すべき一線で欲をかいて勝手に奥に踏み込むかもしれない。人手が必要な時に逃げ出すかもしれない。想定外の動きをされれば、反応したゾンビや怪物が妙な動きを引き起こすこともある。退路を遮断されたり、最悪、『波』(ウェーブ)を起こされてはたまらない。だから、素人は、何人いても足手まといにしかならない。チームにはチームの色があるのだ。
が、幹部であるキースは苦渋の表情を浮かべながら、古参団員たちに手を振った。
「いや、乗り込む。全員でな」
キースの言葉に、古参団員たちはいかにも懐疑的な顔を向けた。
「……全員でか?見張りを残さんと、門から逃げられないか?」
「地下鉄やら、デパート探索とは違う。これだけでかいとな。見張り残しても、あまり意味はない。
敷地が兎に角、広い。地下にも他所にも出入り口はある。出ようと思えばどっからでも抜けられるからな」
「なら、新参は全員、見張りに割り振るべきだろ」
「そもそも『ホテル・ユニヴァース』に潜ってのがな。そもそも、相手と揉めたのは副頭のバーンズだ。なぜ、野郎の尻拭いを俺たちがする必要があるんだ?」
不満げな古参党員の視線に、額に皺を浮かべながら、キースは説明しようとする。
「……バーンズが言うには」
「グレンはなにを考えているんだ?キース」
不信の念も露わにガーニーが雷鳴党頭目の考えを尋ねてきた。
不愉快げな表情を浮かべてキースは沈黙した。その問いかけは、誰よりもキース自身がグレンに対して抱いている疑問だったからだ。
顎を撫でながらガーニーをじっと見つめたキースは、しばしの沈思の後、口を開いた。
「……奴が言うには、どうしても必要なんだと」
雷鳴党と黒影党が決着をつけるべき時期が近づいてきている中、背後で有象無象のチンピラたちに蠢動されても面倒だった。それが『ホテル・ユニヴァース』に雷鳴党が大人数を送り付けてきた理由で、手練との評判を持つギーネとアーネイは、雷鳴党としても無視できなかった。早々に片を付けておく必要がある。
キースの説明にしばし沈黙してから、誰かがぽつりと呟いた。
「……気は進まないが、やむを得ないか」
『ホテル・ユニヴァース』に巣食う最も凶暴なミュータントでさえ恐れて近寄らない地下駐車場の最奥部。廃車が積み上げられた薄暗いその空間で、アーネイ・フェリクスは鋼鉄の廃材とコンクリートと変異獣の骨で築かれた異形の祭壇の前に跪いていた。
祭壇には、蝋燭が揺れ、血で装飾された幾つものミュータントの骨や爪、牙、そして頭蓋骨が捧げられている。
帝國騎士の前に勇気と強さを示し、アーネイが敵と認めたホテルの怪物たちの亡骸であった。
アーネイの捧げた首級は、ハンターの戦利品として飾るのとは少し意味合いが異なる。また、帝國と幾度となく凄惨な抗争を繰り返したアルム自由市民同盟の兵士などが、先住民や異人種の頭蓋骨でサッカーしたり、玩具や土産に持ち帰るのとも異なっている。戦いの神テュールに祈りを捧げる戦士としてのアーネイ・フェリクスは、強き敵に対して敬意と尊敬を抱いて、祭壇に捧げているのである。そして、平和な世界の価値観では、猟奇殺人者の類と見なされかねない、倒した敵の御首級を神々へ捧げる行為は、アーネイ・フェリクスの信仰にとっては、神聖な祭儀であった。
とは言っても、敵からすれば殺されるのに違いはないかも知れないが、アーネイ自身、少なくともアルム自由市民同盟のような―――進んだ共和主義者である我々は、これを世界に広げる義務があるので、他の国が抵抗するのは、許しがたい悪だと信じ込んでいるようなブロックヘッド連中と不毛な殺し合いをするよりは、例え、自らの首や心臓が戦利品になるとしても、互いに戦士として認め合い、その上で容赦なく命を狙ってくる宗教国家や君主制国家の戦士と戦う方が好ましく感じられたのだ。
余談ではあるが、アーネイ・フェリクスはまだ21歳。しっかりしているようでまだ若く内心、殺されるとしても、強い戦士がいいな♡などと如何にもテュール信仰の夢見がちな乙女っぽい夢想も実のところ、ちょっとだけ抱いている。勿論、だれにも内心は秘めているが。
次点で、機械のように冷静で効率的なプロフェッショナルが希望だが、ティアマットの廃墟には舐め腐ったアマチュアや間抜け、狂信者の方が、プロの兵士や戦士よりも遭遇の機会が多いという現実くらいは弁えている。無論、アーネイは自分がただの雑魚に返り討ちにされることもあり得ると承知している。常に死の恐怖が付きまとうからこそ、死ぬ時は強敵と戦って殺されるのがいいと思うのだ。
いかに理由をつけても、戦争の本質は殺し合いであり、上等も下等もない。死者は全てを喪失する。
だから、アーネイは自分がどんな死に方をしても構わないと納得している。敵の首を容赦なく刎ねるし、例えば、食人種族や死体を再生利用する種族に敗れた時、ディナーに供されたり、なぶられる覚悟もしているつもりだった。
あくまで覚悟しているつもりだけで、死ぬ直前にはぎゃあぎゃあ泣き喚くかもしれないが、死んだ友人や同僚たちの騎士は、体を半分吹っ飛ばされようが、炎や毒ガスに神経を焼かれようが、寄生体に乗っ取られかけようが、一人残らず死ぬまで冷静に戦い抜いたので、自分も大丈夫だろうとは踏んでいる。多分、メイビー、チェスト。
アスガルドでの異界起源生命体との戦争は、かなり凄惨なもので、下手に死体の損壊が少ないと、意志を疑似再生されたまま、不死兵士として忠誠を誓った主君への刃にされることさえあり得る世界だった。反吐が出そうな未来予想だが、アスガルドで割拠している悪夢のような異種族との戦いの果てに、戦場で死体を鹵獲され、家族や盟友と戦う羽目に陥った帝國騎士も少なからずいる。だから、精々食われたり、寄生されて激痛の中でじりじり死ぬに死ねない程度のティアマットなら、それ程恐れる必要はないとも何とはなしに思っている。
騎士よ、我がために死ねと、君主たちが告げる。汝らの庇護者であり、統治者である我がために死ね。かつて汝らとその祖を庇護してきたように、これから未来永劫、我が血が続く限り、汝らの血を庇護しよう。だから、汝らの血と肉は我が物である。さあ、騎士たちよ。共に剣を持って戦え。
それが。その封建制の庇護と奉仕の契約が、共和主義者たちにはどうにも邪悪に思えるらしい。
帝國と小競り合いを繰り返すリガルテ人将兵と会話した時も、話が全く通じなかった。
捕虜収容所に務めた時、個人的な興味から捕虜たちと交流を持ったのだが、肝心なところでかみ合わない。
個人的には好感の持てる人間もいたし、頭の回転の速い者もいたのだが、とかくイデオロギーの話になると、判を押したように王は王というだけで邪悪である。民衆は解放されなければならぬ。の一点張りであった。
彼らの理屈だと、君主の命令で敵を殺すのは悪で、大統領や議会の命令で敵を殺すのは正しいらしい。
騎士や貴族の将校は勿論、平民出身の従士や兵士たちもリガルテ人の主張を理解できなかったようで結局、リガルテ人は狂っているという結論に落ち着いたのだが、平民出身の将校たちだけが帝國の階級及び身分の流動性や富の再配分率、貴族と庶民の労働時間や死傷率の数字の違いなどを上げて、余計なことをするなとリガルテ人将校たちを脅しつけていたのが印象深くもあった。
アルトリウス人貴族や平民たちが愚かという事はないが、彼らの常識では、貴族は権利が少ない割にやたらと義務が付随している。特に下級貴族や騎士は、戦争で死ぬのが仕事のような側面があって、労働時間や経済的な負担も馬鹿にならない。賞賛と名誉だけが辛うじて矜持を支えているアルトリウスの中小貴族や、貴族の庇護と多大なる自己犠牲に守られて暮らしている平民にとって、貴族に牙をむく平民という形は、想像の埒外にあったのだ。平民になりたい貴族、或いは貴族に出世しつつある平民だけが、イデオロギー面から自らの生きる世界を客観視した経験を持ち、共和思想に殆んど触れた事がないにも関わらず、リガルテ人たちのロジックを理解し、その欺瞞性に反論しえたのだろうとアーネイは考えている。
結局のところ、人は生まれ育った世界の常識に制約されるのだ。だが、経済での戦いがあるように、イデオロギーでの戦いも、あるのだろう。リガルテ人たちに反駁していた同僚たちは元気だろうか。イデオロギーの矛盾に気づいた知性の持ち主であれば、ひっくり返った世の中で案外、上手くやってるかもしれない。
アーネイ自身は、裏切らないが、生きる為に新体制に恭順した人物がいてもそこまで罵る気にはなれない。
ギーネ・アルテミスは君主制を守る為に死ねと兵たちに命じるだろう。
傲慢で尊大で、だが、君主とはそれでいいのだ。尊き血筋のお方が卑屈になってはならない。死ねと命じる資格はある。そして累代の臣下はそれに従うのだ。
共和主義者のあの男は、理解できないと言っていたが、きっと自国の大統領を守る為なら同じことをするだろう。尊き血筋とは、権力であると同時に権威でもあり、象徴でもある。
数千年、国を守って流された夥しい血と涙と願いの結晶であり、人々の想いを託されているのだ。
伝統とはただの旧幣ではなく、善政や法、権威の担保や保証となりえる人々の心に宿った無形の信頼ともなりえるのだ。故にギーネ・アルテミスを。大事な幼馴染であると同時に、最後のアルテミスの血を守る為なら、アーネイ・フェリクスは何処までも付き合って、いつでも命を投げ出しても構わなかった。
だけど、さて?もし、ギーネがアルテミスを捨てたいと言ったらどうしようか?
今のところ、君臣としての関係と、友人としての関係は矛盾していない。が、君主としてと、友人としての関係が対立したらどちらを優先するのか。帝國の命と主君の命が対立したら?
少し考えてから、アーネイはあっさり結論を出した。それはそれで構わない、罰当たりであり、間違っていると理解していても、アーネイは常にギーネに味方してきた。なんだかんだ理屈を捏ねつつも、アーネイにとって優先するべきは、血統や伝統ではなく、騎士としての在り方ですらなくギーネの気持ちと幸福なのだ。だから、ギーネを守る為であれば、アーネイは騎士としての自分さえも裏切るかも知れない。
あっさりと結論を出したアーネイは、思索を打ち切り、テュールへの祈りを捧げる。
祖霊たちよ、これより起こる戦いを見届けたまえ。
我が勇気を示したならば、祝福し給え。
神々よ。我が闘争を嘉し給え。
例え死が訪れようとも、雄々しき戦いの末ならば、魂が涅槃ニルヴァーナへと至らんことを。
色々と混ざった突っ込みどころのある祈りではあるが、そのフリーダムさが許されるのが、多神教のいいところであった。アーネイは、さして熱心な神々の信奉者ではないが、彼女の一族が祈るので習慣として祈っている。
一方、アーネイの主君であるギーネ・アルテミスは、オーディンの最高神祇官を兼ねてる癖にこいつ、普段は全く祈らない。
沢山のお布施をポッケナイナイできそうな大規模な祭祀祭礼の時のみ出席して、衆目の手前、祈りを捧げる振りをするが後は精々、困った時や厳しい状況、敵に囲まれたり、お財布落とした時やトイレでお腹が痛い時だけで、そうした時だけは、神々に真剣に祈ったり、前非を悔いて悔い改める振りをして、神々を騙そうとするのだ。
祈りを捧げているアーネイの背後には、侵入してきたハンターたちの首が並んでいる。分散して正門から侵入してきた連中だが、どれもこれも取るに足らない弱敵ばかりで、お話にならなかった。
戦うどころか、アーネイと遭遇する前にゾンビだの、ラーカーやバイターと言った変異獣の餌となった奴までいる始末。神々へ捧げるには到底、物足りない。むしろ侮辱になってしまうのではなかろうか。
とは言え、恐るべき敵と戦うよりは、楽に勝てる方がいいのは、生存戦略としては間違いない。戦神の信徒として強敵との死闘を求める気持ち。ギーネの臣下として大切な主君を守りたい気持ち。戦いを恐れて、穏やかな生活を望む気持ち。主君の出世を叶えたい願いと平穏に生きてほしい望み。ギーネを失った時に自分がどうなるかという不安。
どれもが紛れもなくアーネイ・フェリクスの真情であって、二律背反する様々な想いや思考の矛盾を抱えながら、折り合いをつけて生きていくのが人間なのだろうと赤毛の帝國騎士はなんとなく思っている。
アーネイの鋭い耳に多人数の足音が反響して響いてきた。本棟のフロントに雷鳴党が踏み込んできたのだろう。
「……遂に本隊か」
恐いような、昂るような気持ちを胸に手を当ててそっと静めてから、アーネイ・フェリクスが巨大な矛槍を手に音もたてずに立ち上がった。天井を見上げ、高揚した気持ちのままに微笑んだ。あまたの屍の中心に降りたったその姿は戦死者の魂を伴って戦の園ヴァルハラに赴く戦乙女のようであった。
神聖な祭儀(白目
神々への供物(白目
※この物語の登場人物は、現在の我々と異なる社会的文化的条件の中で生きているんやな
科学的蛮族は成立しうるか、真剣に考えたらこうなった。SFの醍醐味やね!
パラドのck2とかでヴァイキングプレイすると、捕虜や身内()の高貴な人物をお祭りで供物に出来るんやな、ひえぇ
面白いゲームなんで、欧州の歴史好きな人にはお勧めです。
蛮族と文明【ハワードのコナン】、辺境と都市【クロコダイルダンディーのような】などのギャップ物は、本人は真剣なのに、はた目から見ると頭おかしく見えるから面白いと思うんだぞ。




