19 真の帝國貴族
早足に廊下を進んだ『カウボーイハット』は、すぐに隣の調理場で立ち尽くしている相棒を見つけた。
「なにがあった。なにしている」
小声で話しかけると、『小太り』は喘ぐような声で老人の亡骸を指した。
「……爺さん。爺さんが」
知人の無残な最期を目にして『小太り』は動揺しているようだった。
声が震えている。
爺さんの亡骸に視線を走らせた『カウボーイハット』は顔を歪めた。
「綺麗に肉がそぎ落とされて、骨には傷も殆どない……人喰いアメーバか」
「……人喰いアメーバ」
『小太り』の顔から血の気が引いた。
ティアマットを旅する放浪者たちから見ても、動きは鈍く、急所は丸出しと、開けた場所で遭遇すれば、大した脅威ではない人食いアメーバだが、しかし、逃げ場のない狭い場所で大群に襲われた場合、話は全く変わる。
人食いアメーバだけではない。ゾンビや巨大蟻など、数の暴力と本能だけで襲い掛かってくる怪物たちは、状況によっては銃器を駆使するバンデットやミュータントの集団以上の脅威となる。
そして今、逃げ場のない屋内で、人食いアメーバに襲われただろう家主の死体を前にしている。
「多分な」
しかし、落ち着いた態度で冷静に受け答えする『カウボーイハット』の立ち振る舞いが『小太り』にも些かの冷静さを回復させた。
「それにしても、どうしてこんな廃墟のど真ん中に人食いアメーバが……
連中、水場の近くでもなければ、出没しないんじゃなかったのか」
愚痴っぽく呟いていた『小太り』の傍らで『カウボーイハット』がハッと息をのんだ。
「おい!伏せろ」
窓から見えない位置に伏せると、そっと建物の周囲に視線を走らせて、恐怖に顔をこわばらせる。
アメーバが彷徨っていた。凄い数だ。
一見、色取り取りの風船が揺れているように見える。
「……なんてこったあ」呆然と呟いている『小太り』
「下手したら、百近くもいる。糞ッ。こんな骨董品じゃ到底、太刀打ちできんぞ」
身を伏せたまま毒づく『カウボーイハット』の傍らでは、『小太り』も絶望の呻きを洩らしていた。
二人の油断を責めるのは酷かも知れない。
怪物には縄張りがあって、普通、その外で大群と遭遇することは滅多にない。
辺り一帯に手に負えないほどの人食いアメーバが出現するなど、ここ数十年、過分にして聞いていなかった。
「……入ってくる時はいなかったよなあ」
か細いため息と共に『小太り』が天井を見上げた。
「……お前が騒いでいたからかもしれんぜ」と『カウボーイハット』
「どうするつもりだ?」
「どうするも、こうするも……」
苦い表情で深呼吸してから『カウボーイハット』は覚悟を決めたのか。
「逃げの一手しかないぜ。
音を立てるなよ。見つからないように、この場を離れるぞ」
言った途端、軋んだような音が調理場に鳴り響いた。
「おい、音を立てるな」
「俺じゃない」
振り返った二人の目に映ったものは、壁に張り付いていた爺さんの死体の粘液が剥離して、皿や金属製のナイフ、フォークが積みあがったシンクの方へ徐々に倒れこんでいく光景だった。
『カウボーイハット』も『小太り』も、ぽかんと口を開いている。
止めてくれ、爺さん。仲が良かった俺たちを地獄への道連れにするつもりか?
そんな不合理な考えが『小太り』の脳裏に浮かんでいた。
駆け寄って阻止するには距離が離れすぎているな。
『カウボーイハット』は他人事のようにそんなことを考えていた。
まるで悪夢でも目にしたかのように目を瞠っている二人の目の前、笑顔を張り付けたまま倒れた爺さんの手に握っていた猟銃から、最後の一発が発射されて派手に積み上がっていた皿の山を砕いた。
駐車場の彼方此方で、海中で揺れる海草のように踊っていた色とりどりのアメーバたちが一斉に動きを止めていた。
二人とも身じろぎ一つしなかった。
沈黙の中の息遣いだけが酷く耳障りだった。
僅かな静寂の合間、どうか此の侭、人食いアメーバ共が此方に気づきませんようにと、二人はひたすら祈っていた。
腹が猛烈に痛い時、トイレで捧げるように真剣で必死な祈りだったが、残念ながら神には届かなかったようだ。
一番、近くにいた人喰いアメーバがふらふらと動き出した。
……気づいたのは、一匹だけか?それなら……
どちらかが喉をごくりと鳴らしつつ、淡い希望を抱いた次の瞬間、他の全ての人喰いアメーバも急に殺到してきた。
二体、三体と続くのではなく、視界にある限りの人喰いアメーバが、子供の全力疾走程度の速度で四方から押し寄せてくる。
体当たりの音と衝撃と共に建物の窓ガラスに張り付き、何匹かの固体はドアに体当たりして乱暴に押し開けると、内部へとなだれ込んできていた。
「お、お、お、襲ってきた」
腰が抜けている『小太り』の尻を『カウボーイハット』が蹴り飛ばした。
「立て!逃げるぞ!」
まだ数が少ないうちにと店内から飛び出した二人だが、入り口付近には数十体の人喰いアメーバが押し寄せてきていた。
「駄目だ、囲まれている!!」
『小太り』が悲鳴を上げた。
「も、戻れ!」
すぐに店内に飛び込んだ二人は、其の侭、廊下を走り続けた。
背後では、人食いアメーバが張り付いている食堂の窓ガラスが大きくたわんで、白い亀裂が稲妻のように走っていた。
「勝手口から出るぞ!」
『カウボーイハット』が怒鳴った。
「駐車場にはアメーバがいる!」
喘ぐように『小太り』が叫び返す。
「それでも勝手口しかない!」
「他に道は!そうだ!裏口に行こう!」
「だめだ!裏手には隠れる場所もない!」
脳味噌もない癖、抜け目がないのか。
勝手口の方にもアメーバが数体、回り込みつつあったが、判断はギリギリ間に合った。
間一髪で怪物どもの眼(?)の前を駆け抜けると、二人は駐車場スペースへと走りこんだ。
だが、其処にも怪物共は待ち受けていた。
「前から来たぞ!」
「横からもだ!」
真正面と横合いからも、十余の人喰いアメーバが押し寄せてくる。
何処から湧いて出た!?と湧いた疑問を口に出す暇もない『カウボーイハット』の目の前で、廃車の中から新たな人喰いアメーバが湧いて出てきた。
車の中で休んでいたのか?
衝撃を受けつつも、伸ばされてきた触手を避けた『カウボーイハット』。
ふん、と勢い込めて跳躍すると、車のボンネットの上を走り抜けた。左手に。
同じ真似をしたくとも出来ない『小太り』は、でかい荷物を背負ったまま、地面を這いずるように転がって、振るわれた触手をかいくぐった。右手に。
「お前!何やってるんだ!」
「そっちこそ、どうしてそっちに逃げるんだ!」
人喰いアメーバの群れを挟んで、位置を分断されていた。
その上、言い争っている暇はない。こういう場合の約束事は、予め話し合っておいた。
「町で合流!」
「生き延びろよ!」
互いにそれだけ叫んで踵を返した。
場所は、何時もの店。三日間待って現れなければ、言伝だけを頼んで旅に出る。
「糞ッ!どこに逃げても立ちはだかってきやがる!」
必死に走り回っている『小太り』だが、人喰いアメーバは、思わぬところから出現する上、
四方八方から際限なく押し寄せてくるように思えた。
『小太り』は多少の持久力はあるが、瞬発力には欠けている。
おまけに自慢の持久力も怪しくなってきた。
ずっと走り回って、膝ががくがくと笑っていた。やばい。もう、俺、限界。
もうちょっと普段から運動しておけばよかった。思った瞬間、案の定にこけた。
手近にいた人喰いアメーバが、するすると音もなく距離を詰めてくる。
喰われる。爺さんみたいに。洒落にならない恐怖に『小太り』は絶叫した。
「うわああああ!俺は美味しくないぞおお」
今わの際なのに、間抜けな言葉だ。
脳裏で何処か他人事のように考えながら半ば、諦めかけた『小太り』に覆いかぶさる寸前、人喰いアメーバを飛んできた鉄の棒が貫かれた。
蠕動していた半透明のアメーバは突然、静止し、其の侭、体液を撒き散らすと急激に萎びて地面へと崩れ落ちる。
「……槍?……槍が飛んできた?……な、なにが?」
訳も分からず当惑している『小太り』の背後。
20mほど先の路上から、見ず知らずの赤毛の女性が叫んでいた。
「そこの人!こっちだ!こっちに来い!急げ!」
慌てて立ち上がり、駆け出した『小太り』の傍らを駆け抜けた赤毛の女が、鉄の槍を引き抜くと、迫ってくる人食いアメーバの触手を切り裂いて牽制する。
「す、すまねえ。助かった」
礼を言う『小太り』に対して、鉄の槍を構えた赤毛の女が厳しい表情を浮かべた。
「礼を言うのはまだ早いですよ。連中、後ろから続々と新手が来ています」
「……ア、アーネイ!少し数が多すぎますぞ!」
赤毛の女性の傍ら。銀髪の女性が矢継ぎ早にスリングショットを発射していた。
先頭の数匹のアメーバが中核を貫かれるか、少なくとも痛手を受けたのだろう。地面に崩れ落ち、或いは奇声を上げて倒れ、或いは、足を止めて明白に怯んでいた。
たった一人。玩具みたいな道具を駆使して人喰いアメーバの大群を足止めしている冗談みたいな光景に『小太り』は口を半開きにしたまま目を瞠った。
「……信じられねえ」
「なにしている!立ち上がって走れ。早く!」
足止めしている銀髪の女の叫びに、苛立ちの響きが混じり始めた。
慌てて走り出した『小太り』と一緒に、赤毛と銀髪の二人組も走り出した。
「こっちです!」
目の前に立ちはだかった人食いアメーバを一刀で切り捨てた赤毛女は、廃車の列を駆け抜けると、古い大型トラックの荷台へと『小太り』を押し上げて避難させた。
後退しながら、器用にもスリングを命中させている銀髪の女性だったが、仲間なのだろう。赤毛の女がトラックの屋根から目を凝らして警告を発した。
「お嬢さま!巨大蟻です!三時方向!」
「数は!」と銀髪の女。
「最低3! 」
赤毛の報告を受けた銀髪の女は、周囲をざっと見回して迫りくる漆黒の甲冑の騎士たちの姿を確認し、音高く舌打ちした。
屋根から飛び降りると、赤毛の女は槍を肩に担ぎながら首を傾げた。
「……拙いですよ。囲まれつつあります」
「そもそも、見知らぬ人が襲われているのを見たアーネイさんが、考えなしに突っ込んだ為だと思うのですが……そこのところはどう思うよ?」
人命救助の止むを得ない状況だったとは言え、未知の敵戦力に対して、ろくな準備もなく、飛び込むのはいかがなものかと思うギーネであった。
「まあ、連中は鈍足です。
私たちの足なら、確実に逃げきれますが……」
気まずげな表情を浮かべた赤毛のアーネイが、ちらりとトラックの荷台で落ち着きなく警棒を握っている『小太り』の青年を一瞥した。
「参ったなあ……助けられるかしらん」
「いったん希望を与えておいて、ごめんなさい。見捨てますってするのは気が進まないですよ」と銀髪。
「ですよねー」と赤毛。
「見捨てないでくれえ!」
二人の会話を耳にした『小太り』がトラックの荷台の奥で喚いている。
「まあ、いいです。蟻の実力がどれほどのものか。
一度戦って確かめておきたかったのですから。
白銀の前髪をかき上げながら、ギーネはそう嘯いてみせる。
ろくな装備を持たない認定外(敢えて認定ハンターにならない者もいるし、なりたくてもなれずJ級、或いはジャンクと揶揄される者もいる)やH級、I級ハンターからは、巨大蟻はハンター殺しの怪物として激しく恐れられていた。
数に勝る巨大蟻の群れに遭遇した場合、下手をすればチームの壊滅も覚悟しなければならないほどの脅威であるが、一方でG級、或いはH級でも装備の整ったハンターにとっては、危険ながらも実入りの大きな獲物らしく、これを専門に狩っているチームもいるとのことで、自身の力量を試すには絶好の相手だとギーネは見做していた。
さらに言うなら、狩れたら一人前と言われる巨大蟻と戦ってみることで、それを狩れるG級以上の力量がどのくらいのものか測ってみたいとも思っている。
「お嬢さま……連中の甲冑。相当に固いとの話です」
険しい表情で忠告するアーネイに、ギーネは不敵な笑みを浮かべてみせた。
「ふん、うろたえる必要はありません。
ちょっとでっかくなっただけの蟻ではありませんか」
接近してくる巨大蟻に対して、ギーネ・アルテミスは怜悧な眼差しを投げかけた。
「身の程知らずの虫共め。
かつては地上の支配者であった人類に牙を剥くほどまでに、増長しましたか。
ですが、このギーネ・アルテミスがいる限り、けしてお前たちの思うようにはさせません」
ぎちぎちと威嚇の叫びを上げながら突進してくる全長およそ一メートル半の悪夢みたいな巨大蟻に向って、ギーネ・アルテミスはスリングの狙いを付けた。
「我が一撃で野望と共に塵と散れ!!くらえ!ギーネ・クラッシュ!」
狙い定めた帝國貴族から放たれたスリングショットは、ペチコンと情けない音を立てて、巨大蟻の硬い甲冑にあっさりと弾かれた。
固まっているギーネに迫る巨大蟻の鋭い顎。
「ひきゃああ!子供の頃に巣穴に水を流し込んだのごめんなさい
わさびで巣の入り口をふさいでみたのも謝ってさしあげますぞ!」
「お嬢さま!危ない!」
怪物と主君の間に素早く割り込んだアーネイが、槍の一撃で蟻の首を切り飛ばした。
体液をまき散らしながら体だけで不気味に痙攣する蟻の死骸を前に、尻餅をついていたギーネが立ち上がって、額の汗を拭った。
「……危機一髪でした。虫ども。思ったよりもやるようですね。
ですが、所詮は、蟻んこ……真の帝國貴族たる私の敵ではありませんでした」
「おい、真の帝國貴族。泣きべそかきながら空威張りしても滑稽なだけですよ?」
「ぐすっ……泣いてなんかいませんぞ」
危機一髪の主君を救ったアーネイだが、腕に走った鋭い痛みに顔を歪めた。
一瞬とは言え、パワーリミッターを解除した為、生体サイボーグ化していた腕の筋繊維が幾らか千切れたらしい。ぎしぎしと軋んだ不快な音を発していた。
「ぬぬぬ、しかし、これは拙いですね。
相性が悪い。手持ち(の装備)では、歯が立ちません」
十秒前にはたかが虫けらとほざいていたギーネは、あっさり前言を翻した。
「相変わらず、口ほどにもないです」
家臣に皮肉を言われて、動揺するギーネ。
「なっ、なっ、何を言うのですか?
これは、状況判断が的確で素早いというのですぞ?
けして、ヘタれた訳では御座いませんのだ!」
「……せめて、戦闘前に彼我の正確な戦力差を把握していてくれれば、いらぬ苦労をする羽目に陥ることもなかったのですがね」
槍を構え直しながら、アーネイが蟻達を睨みつける。
「……で、退きますか?」
「いいえ。戦います」ギーネが背中に背負っていたバットを取り出した。
「見れば精々二、三匹。バットで叩き殺してやりましょう」
言った瞬間、フラグが立ったのか。マンホールだった穴や地面の亀裂の影から、わらわらと蟻の群れが姿を現すのが三人の目に入った。
背後のトラックの荷台で『小太り』が悲鳴を上げる。
「だ、だ、だ、大丈夫ですぞ。ま、ま、ま、まだ慌てる必要は……」
てんぱってる様子のギーネの横で、アーネイは冷静さを保ったまま静かに告げた。
「お嬢さまこそ落ち着いてください」
「お、お、落ち着いていますぞ!
私の頭脳は常にドライアイスのように冷静ですのだ!」
「蟻もアメーバも、全速で走っている人間よりはずっと足が遅い。
なにより、包囲が完成したわけでも在りません。
手薄な方角に突破すれば、背後の彼を連れていても充分に逃げ切れます」
バットを構えながらのアーネイの声に含まれた力強さが、主君にも伝染したのか。
ギーネも目に見えて冷静さを取り戻した。
「そ、そうですよね。さっさと逃げ……げふん!転進しますぞ」
言った瞬間、タイミングが悪かったのか。
なぜか、出口の方にある亀裂からも多数の蟻共が這い出してきた。
「ひあああ! もう駄目だあああ!本国に帰りたいよう!」
「落ち着いてください」
「さっきまで影も形もなかったのに!
B級ホラー映画の怪物ではあるまいし、どこから出現したのだ!」
ぎちぎちと牙を鳴らしながら、接近してくる手近な蟻。
「ち、近寄るなあ!」
パニックを起こしたギーネがやけくそでバットで殴りつけると、蟻は怯んだようによたよたと足踏みしつつ後退した。
強烈な打撃に蟻の頭部はがくんと横に振れ、それより細い脚部には千切れてはじけ飛んだ部分もあった。
「……あれ?もしかして全然大したことない?」
首を傾げつつも、情け容赦なく一気に追撃をかけた。
「とりゃ!とりゃ!止めだ!」
「きしあああ!ぴぎぃ!」
幼少時からの訓練と遺伝子調整によって、素晴らしい身体能力を維持しているギーネ・アルテミスが、遠慮なしにその怪力でバットを叩きつけると巨大蟻たちはあっさりと沈んでいった。
より装甲が分厚く、巨体の兵隊蟻であれば、こうまで容易く倒せはしなかっただろう。
所詮は、巨大蟻でも一番弱い働き蟻であった。
単独なら、銃器や鈍器で武装した一般人が辛うじて対抗できる程度の、変異生物としては弱い部類の怪物。アスリート以上の反射神経と瞬発力、常人離れした膂力を誇るギーネの鋭い打撃を持ってすれば、元より苦戦するような相手ではなかった。
「討ち取ったりー!」
攻撃が通じると見るや否や、突如、元気を取り戻した亡命貴族。
割れた外骨格から体液を垂れ流して絶命している蟻たちの骸の山に足を掛け、騎士が愛剣を誇るように頭上にバットを掲げて意気揚々と勝ち誇っている。
「ようし。私の危機を救ったこのバットをスナフキンと名付け、末代までの家宝とするのだ」
「……ジャンク屋で二束三文で買ったバットを……まあ、好きになさってください」
「ふっふっふ。所詮は、蟻んこ。帝國東部でも七番目くらいの剣士であるこのギーネ・アルテミスの敵ではなかったようです」
微妙に凄いのか凄くないのか、他人にはよく分からない力量を誇りつつ、バットで倒せたという事実に、ギーネ・アルテミスは普段の自信に満ちた態度を取り戻したようだ。
「ところで、アーネイ。この偉大な勝利は、記録に残す価値があると思うのだ!」
屍の山の上から、くるっと振り向いて家臣に記念撮影を要求する亡命貴族。
「ええ。ばっちり録画していますよ、お嬢さまが涙目になった一部始終含めてね」
普段から、怪物との戦闘記録を担当しているアーネイが、手元の携帯端末を操作しつつ、ギーネと蟻たちとの戦闘場面の動画に名前を付けて保存し終えた。
蟻と初めて本格的に戦った戦闘記録であるし、後で映像を分析し直すことでハンター稼業に有益な情報を得られることもあるかも知れない。
「見ましたか?アーネイ。私の格好いいところ!惚れ直しましてもいいんですよ?」
寸前まで追い詰められた醜態を晒して見っともなく泣き喚いていた主君のドヤ顔をまじまじと眺めてから、アーネイは地面にペッと唾を吐き捨てた。
頼もしい仲間も加わり、意気軒昂するギーネ一行。
しかし、蟻の勢いは凄まじく、ギーネはついに仲間を失ってしまう。
一体、どのバットが犠牲者となってしまうのかー。
次回!スナフキン散る!
※内容は予告なしに変更されることがあります




